#23 ダンジョン防衛戦 エピローグ
本日6話目です。
エピローグなのでちょっと短めです。
この後はモンスター紹介と用語の解説と閑話ですね。
最後の冒険者に、シュバルツが止めを刺す。これで、ダンジョン内の侵入者は全滅した。
残りは外の拠点にいる兵士たちだが、それももうすぐ終わるだろう。
「終わったな……」
「うん……」
冒険者との戦いは熾烈を極めていた。
強力な力を持つシュバルツたちネームドモンスターに一歩も引かずに奮戦していた。
アントたちは薙ぎ払われ、吹き飛び、燃やされながらも戦い、勝利した。
勝利したのは喜ばしいことだ。だが、コアルームの中は静かだ。
フィーネも冒険者の戦いざまに何か感じ入ることがあったのだろう。
いつもは賑やかなのに、今は口数が少ない。
最初に倒された剣士は、仲間を逃がしてシュバルツたちの前に立ちふさがった。
おそらく死ぬのはわかっていただろう。それをわかったうえで仲間に全てを託して立ちふさがったのだ。
最後に見せた一撃は、思わず見とれてしまうほどのものであった。
次に倒された魔法使いと神官風の男もそうだ。
斥候らしき男が逃げる時間を稼ぐために、迫りくるアントたちの群れの前に残っていた。
魔法が途切れてからも、神官風の男がひたすらハンマーを振り続け、後続のアントは全滅した。
最後に追ってきたシュバルツによって止めを刺されていたがかなりの奮戦だっただろう。
斥候の男は、ひたすら走り続け、ダンジョンの出口一歩手前というところまでたどり着いていた。
あの土の壁は、アースアントに即席で作らせたものだ。侵入者を逃がさないためにはかなり役立つことがわかった。これからも使う機会はあるだろうな。
諦めずに土の壁を壊そうとしていたようだが、残念ながら壊すことは叶わず止めを刺された。
シュバルツも攻撃など食らわずに済むだろうに、すべての冒険者から一撃ずつ攻撃を受けていたのも印象的だった。彼女も何かしら思うところがあったのではないだろうか。
「あいつら強かったな……」
「うん……」
まあなんにせよ勝ったのだ。切り替えて次の侵入者の様子を見るとしよう。
残りの兵士は40人ほど、バリアの中で待機している。
中の様子がおかしいことに気が付いたのか、慌ただしくなっているがもう遅い。
現在1階層では拠点のあるバリアの真下を掘って崩落を起こそうとしている。
あのまま入り口からアントたちが姿を現せば、誰かしら逃げてしまう可能性がある。
そこで拠点ごと1階層の中に引きずり込んでしまおうというわけだ。
ダンジョン内に引きずり込んでしまえば、1人も逃すことはなく倒し切れるだろう。
作戦はうまくいったようで、1階層の天井は崩落。そのまま兵士たちは拠点ごと1階層に落下した。
あとは周りを囲んだジャイアントアントたちが何とかするだろう。あとで埋め戻しておかないとな。
残りの兵士も倒し終えたようだ。これでダンジョン内の侵入者は1人残らず全滅した。
リベンジマッチとしてはほぼ完ぺきといえる出来だろう。待ち伏せと崩落の有用性もわかった。
「ポイントは……全部で25万もはいってるぞ! これでダンジョンを強化できるな!」
「うん……うん! そうだね! じゃあさっそく角砂糖が欲しい!」
「まずはそれなのか……そうだな、角砂糖どころかハチミツでも飴玉でもいいぞ!」
「わーい!」
DPはかなりの量が増えた、シュバルツの怪我もしばらくすれば治るだろう。
ダンジョン内に入ってきた侵入者も無事全滅させた。被害も全体から見たら軽微なものだ。
ダンジョンの防衛戦は大勝利だろう。フィーネとお祝いすることにする。
その後ハチミツを舐めたフィーネが頭の上に乗り、髪がべたべたになるという大惨事はあったが、コアルームではその日1日楽しげな声が響いていた。
◆
リーアの街の領主の館では、領主が蒼白な顔で報告を聞いていた。
「い、今何といいましたか? 兵士たちが全滅したと?」
「その通りです。ダンジョンへ送った兵士200名、冒険者26名は誰一人として帰ってきていません」
「ばかな……そんなばかな……そんなことがあり得るはずが……そ、そうです。Aランクパーティーの『緋色の牙』はどうなったのですか!」
「『緋色の牙』もダンジョンに向かって以来戻ってきていないようです。冒険者ギルドにも問い合わせましたが、そちらにも戻っていないようですね」
「そんな……」
その後、リーアの街周辺では兵士の数が減ったことで治安が悪化した。
冒険者ギルドから警備の人員が派遣され、事なきを得たが、領主への信頼は失墜し、領主の任を解かれることになる。元領主のその後の消息は分かっていない。
新領主は迷宮都市建設計画を白紙に戻し、従来通り周囲の村を拠点として発展させていく形をとることになった。
なお、住民の混乱を防ぐため、兵士と冒険者たちの死亡理由は明かされていない。
魔王の軍から街を守った、強大なモンスターが現れた、反乱を計画していたので鎮圧された、などの様々な噂は飛び交っていたが、真実が語られることはなかった。
◆
一方冒険者ギルドでは、報告を聞いたギルドマスターの深い溜息が聞こえていた。
「……犠牲が出るとは思っていたが……まさか全滅とは」
「Aランクパーティーの『緋色の牙』も誰一人として帰ってきていないようですね」
「……そうか。もはやこの件はうちの街では手におえまい。ギルド本部に連絡して人員を送ってもらうとしよう」
「かしこまりました。……それにしても、何があったんでしょうね」
「さあな……事故が起こったのか、強力なモンスターが出てきたのか……なんにせよ急いで準備を整えなければな。もし仮に高ランクのモンスターがいるとなるとまずい」
「そうですね……では失礼します」
やれやれ、しばらくは忙しいだろうな……
生存者がいないので、何があったか知る者はいない。
危険だ、とは思っていたが、まさかここまでとは……嫌な予感は正解だったようだ。当たっても嬉しくもないが……
ギルドも冒険者を26人も失っている。人手不足は免れないだろう。兵士が大量に減ったため、ギルドに回ってくる依頼も増えそうだ。
「さて……お仕事しますか」
ガルツは今後に不安を感じつつも、仕事にとりかかった。




