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#22 ダンジョン防衛戦 決着

本日5話目です。

まだの方はご注意ください。

「ぢぐじょう、ぢぐじょう」

「ジノー殿……」


 大部屋に背を向け走り続ける。ちくしょう、なんだってあんな化け物がいるんだ!

 なんだって……なんだってレオンが死ななきゃらなないんだ!


 戻ろうとする足を押さえつけ、必死に前に進む。

 目の前が涙でにじんで見えにくい。今すぐにでも戻ってレオンを助けに行きたい。だけどそれじゃダメなんだ。レオンの決意を無駄にするのだけは絶対にダメなんだ。


「ジノー殿……そんなに急いではこの先持ちませんぞ」

「くそっ! わかってるよ! わかってるんだ……」


 途中何度かジャイアントアントと遭遇するが、ごく少数だ。おそらくこの辺りにいたジャイアントアントは、みなあのジェネラルアントのところへと向かったのだろう。

 簡単なCランクのダンジョンだと思っていたのに、まさかあんな化け物がいるとは。


 思えばその予兆はあった。土の壁で隠された通路。報告よりもはるかに強いモンスター。

 パーティーの斥候役? 聞いてあきれるぜ、あれだけの脅威に気が付けなかったなんてよ……


 あふれ出る涙をぬぐいながらひた走る。

 前方にジャイアントアントの気配だ、それも結構な数がいる。


「止まってくれ」

「ぬ、ジャイアントアントですかな?」

「ああ、結構な数がいる。この先はまずい、回り道だ」


 数の多い群れは回り道で回避しながら進む。

 前方に分かれ道だ、こっちは確か左に……ダメだジャイアントアントがいる。右もダメだなあっちは別の方向に続いてたはずだ。


「こっちは無理だ。戻るぞ……」

「仕方ありませんな」


 来た道を引き返す。くそっ、急いでるっていうのになんて複雑なダンジョンなんだ!


 回り道したあたりまで戻ったところで、前方からもジャイアントアントがやってくる。まずい、囲まれた。

 ジャイアントアントはこちらに気が付いたようで、どんどん向かってくる……どうする、どうする!


「ちくしょう! 囲まれやがった!」

「落ち着いてくださいジノー殿。確かさっきの分かれ道を左でしたな?」

「ああ、だがそんなこと聞いてどうするんだ!」

「囲まれてしまったものは仕方がありません。何とか突破するしかないでしょう。あいつらが来る前に戻りましょう!」

「そうだな、もしかしたら移動してるかもしれないし、戻るとしよう」


 分かれ道まで戻る。どうやら左のジャイアントアントは移動したようだ。


「よし! 左のジャイアントアントはいなくなってる! 今のうちに行くぞ!」


 その時、ダリオが声を上げた。


「ゴルバド、降ろしててくれないか」

「ダリオ殿! 目が覚めたのですな!」


 ダリオが目を覚ましたようだ。レオンがいないことに気が付いてあたりを見回すと。何かを悟ったように笑った。


「ああ、ついさっきね。目が覚めたら巨漢のおっさんに背負われてるとかどういう悪夢だろうね。……レオンは……そうか、レオンは残ったのか」

「あ、ああ……でもすぐに追いつくさ!」

「ああ……そうだね。話は変わるが、後ろからジャイアントアントが迫ってるんだろう? 僕が足止めする。君たちは先に行くんだ」

「ダリオ殿!? 傷が治っているとはいえ応急処置です! その足じゃ歩くこともできませんぞ! それに杖もありません! 杖のない魔術師など戦えないではありませんか!」

「そうだね、僕のことは僕が一番わかってるさ。その僕が大丈夫だって言ってるんだ、戦えるさ。それに杖の代わりならある。僕はこう見えても用心深くてね……こういう時のための用意はしてあるのさ」


 そう言ってダリオは懐から赤い宝石を出した。


「これには火の魔力が込めてある。効率は少し悪いが、何発かなら魔法を撃てるさ」

「何馬鹿なこと言ってるんだ! そんなことしなくてもここを抜ければもう少しだろ!」

「君こそ馬鹿じゃないのか。さっき囲まれかけたんだろう? ここから先はほとんど一本道だったはずだ。もしさっきのやつらが残ってたら、後ろから来るやつらに挟み撃ちにされてしまう。後ろのやつらを片付ければ、やり過ごすくらいの時間は稼げるはずさ」


 ダリオは弱弱しく笑うと、真剣な顔で言った。


「さあゴルバド、降ろしてくれ。もうすぐ奴らが来る……」

「ダリオ殿、そんなふらふらの体でどう戦おうというのですかな?」

「だからさっき言っただろう……もとはといえば、僕がやられたから負けたんだ。僕にも責任くらい取らせてくれ」

「……わかりました。しかし怪我人に戦いを任せたとあっては神官の恥。私もご一緒しますぞ」

「はあ? ゴルバドまで何言ってるんだよ!」

「ゴルバド……君が神官らしいことをしてたのなんて見たことがないよ」


 ゴルバドは大きく笑うと続ける。


「はっはっは、こんな状態のダリオ殿だけじゃ不安でしてな。レオン殿の思いも無駄にするわけにはいきませぬ。こちらの方が確実でしょう! ……ジノー殿後は頼みましたぞ」


 ゴルバドはダリオを壁にもたれかからせると、ハンマーを振るう。


「ほれ、この通り。私はぴんぴんしてますからな! ジャイアントアントの100や200倒して見せましょう!」

「……ゴルバド、君も馬鹿みたいだね」

「はっはっは、お互い馬鹿ということですな!」


 ダリオとゴルバトが笑う。どいつもこいつも馬鹿なことばっかりしやがって!


「勝手に納得してるんじゃねえよ! なんでお前ら揃いも揃って馬鹿ばっかりなんだ!」

「ふむ、何か勘違いをしているようですな。私はまだまだ死ぬ気はありませぬぞ!」

「そうだよジノー。僕たちが死ぬなんていつ決まったんだい」

「でも、でもよ……!」

「我々を死なせたくないならさっさと行って助けを呼んできてください。ここまでくれば前の方には上級のアントはいないでしょう。残った兵士でも十分助けにこれますぞ」

「そういうことだ、さあ行くんだジノー!」


 ちくしょうが! ダリオとゴルバドに背を向け走り出す。


「待ってろよ! すぐに迎えに来てやるからな!」

「ああ、早く行きたまえ。うるさい君がいると集中できないからね」


 ダリオのやつ言いたい放題言いやがって! 後で覚えてろよ!

 ここを抜ければあとはほとんど一本道だ!


 ◆


「行きましたな」

「そうだね、無事に出られるといいが……」

「まあ我々はここで足止めするだけですな」

「ああ、ゴルバド。付き合わせて悪いね……」

「はっはっは、何を水臭い。我々は仲間ではありませんか! 仲間の不始末くらい面倒を見ますぞ!」

「なんだか君が頼もしく見えるよ。まるで神官のようだね」

「そうでしょうとも! 何せ神官ですからな! 生きて帰れたら酒でも奢りましょう。このまえいい酒場を見つけたのですよ。店員が何とも言えないくらいかわいいのです!」

「前言撤回だ、やっぱり君は神官じゃないよ。……どうやら来たようだね『フレイムランス』!」


 次々と迫るジャイアントアントが通路を完全に覆うほどの炎の槍に焼き尽くされる。

 何度か炎の槍はダンジョン内を照らすが、魔力が切れ打ち止めとなる。


「ゲホッ……魔力が切れたみたいだ。回復するまで任せたよ」

「お任せください! 行きますぞ、ぬうん!」


 ダリオと場所を入れ替わり、ゴルバドのハンマーが振るわれる。

 ハンマーが振るわれる音はいつまでも続くように思えたが、いつしか消え、ダンジョンには静寂が戻った。


 ◆


 後ろを振り返ることもなくひたすらダンジョンを進む。

 残ったのは俺一人、何としても外にたどり着かねばならない。


 ここを抜ければあと少しだ!あと少しでダンジョンの外だ!


 たまにジャイアントアントの集団がいるが数が多いのはやりすごし、少ないのは勢いに任せて駆け抜ける。

 ようやくここまで来た、あとはここを曲がれば……


「あ、ああ……嘘だろ……」


 道を曲がった途端目に入ったのは、そびえたつ土の壁だった。


 道を間違えたはずはない。よく見れば土の質感が周りの壁とは違う。

 つまり何かがここを塞いだというわけだ……


 ここが通れないとなると、かなり遠くまで戻らなくてはならない……そんな余力は残されていない。


「ちくしょう! 壊れろ! 壊れろよ!」


 ナイフを取り出し、土の壁を崩していく。ちくしょう、どこまで掘っても土の壁しかない。

 力任せにナイフを振るっていると、戦いで痛んでいた刃が根元から折れてダメになってしまった。こんなときに……


「くそう、くそう……」


 使い物にならなくなったナイフを捨て、素手で土を掘る。固い土を掘るたびに爪が削れ、指も血まみれになる。

 それでもひたすら掘るが、土の壁は崩れない。


「ちくしょう……」


 無限に続くかに思える土の壁に心が折れかける。

 思わず地面にへたり込むと、こちらへ足音が近づいてくるのが聞こえる。


「は、ははは……」


 やってきたのはあのジェネラルアントだった。前足は一本なくなり、顔の甲殻に何かに殴られて割れた跡と焦げついた跡が残っている。


「まだだ、まだ終わっちゃいねえ」


 折れたナイフの刃を拾うと握りしめる。手のひらが切れて血がにじみ出るが気にしない。


「うおおおお!」


 雄たけびをあげ、ジェネラルアントへと走る。

 そのまま跳躍し、目に向けてナイフの刃を振り下ろす。


 ナイフは寸分たがわず目に刺さり、傷口から体液が噴き出す。

 ジェネラルアントが顔を振ると、吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


「ガハッ」


 背中に走る衝撃に息が詰まる。

 それでも起き上がろうと顔を上に向けると、そこにはジェネラルアントが立っていた。


「ちくしょう……みんなすまねえ……」


 ジェネラルアントの足が振り下ろされる。

 そして、Aランクパーティー『緋色の牙』は全滅した。


 ◆


「誰も戻ってこないな……」

「隊長、連絡が途絶えてすでに6時間です。ご決断を」


 副隊長が決断を迫る。致し方あるまい、作戦は失敗だ。おそらく誰も生きてはいまい……


 簡単な任務のはずだったが、何が起こったのだろうか。……いや、まずは領主様に事の顛末を報告せねばなるまい。我々ではどうすることもできないだろう……


「仕方ないな、総員退却準備! これより作戦を破棄し、帰還する!」


 隊員たちがざわめく……仕方あるまい。このような結果になるなどだれが予想できただろうか。


 私も退却の準備をしようと、腰を上げたところだった。不意に地面が大きく揺れる。


「なっ、なんだ!?」


 地面の揺れはだんだん大きくなり、立っていられなくなる。

 そしていきなり地面が崩れ、しばしの浮遊感の後、地面へと落ちる。


「な、何が起こったというのだ……」


 土煙であたりが見えない。立ち上がろうとするが足に激痛が走る。どうやら骨が折れたようだ……


 時期に煙が晴れ、あたりを確認できるようになる。

 そこで目にしたのは、あたりを埋め尽くさんばかりのジャイアントアントの群れだった。


「な、なんだこれは! どうなっている!」


 上を見あげると、崩落した跡が見える。どうやら地上から1階層に落とされたらしい。


「そんなばかな……いったいどうやって……」


 私が最後に見たものは、こちらに向かってゆっくりと迫る、悪夢のような姿のジャイアントアントだった。

とりあえずダンジョンの防衛戦は決着です!

最終回っぽい流れでしたけど最終回じゃないですからね!

あとは主人公サイドとリーアの街サイドのお話をちょっとという感じでしょうか。

そのあとは気分を変えるためにいくつか閑話を書いて新しいお話ですかね…

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