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#20 ダンジョン防衛戦 黒い悪夢

本日3話目です。

まだの方はご注意ください。

「あの冒険者たちかなり強いな」

「どうしよう! どんどんやられてるよ」


 残った4人組の冒険者は、かなりの手練れのようだ。

 隠し通路の存在にも気がついたようで、奇襲もうまくいっていない。

 さすがに上級のアントは一撃で倒せないようだが、状況はよくないだろう。

 このまま戦力をぶつけ続けても意味はないとなると……


「仕方ないな、シュバルツを出そう」

「おお! ついにシュバルツちゃんの出番だね!」


 シュバルツにネームドモンスターたちを率いて移動させる。どうやって誘導しようかと思ったが、どうやら冒険者たちのいる場所がわかっているようだ。迷う様子もなく、真っ直ぐに冒険者のもとへと進んでいく。

 あとは、冒険者とうまく会えるように、時間稼ぎが必要だな。


 隠し通路の奥に隠れているアントたちと、兵士を倒し終わり手が空いているアントたちを動かす。

 アントフライが音で場所を知らせられるといいのだが……そんな隙はなさそうだ。見つかったそばから音を出す間もなく倒されている。


 冒険者たちが移動しているので、アントたち全てを誘導するのも難しいだろうか……いや、シュバルツに命令を出してから、冒険者たちを包囲するようにアントたちが移動しているようだ。ジェネラルアントの能力だろうか?


 冒険者たちの方は問題がなさそうだ。ついでに、外にいる兵士たちの対策もしておくとしよう、こっちは時間がかかりそうだがまあ何とかなるだろう。


「さて、シュバルツ、頼んだぞ……」

「シュバルツちゃんがんばって!」


 シュバルツたちは、このダンジョンの最大戦力だ。

 どれだけの強さを誇っているのかは未だわからない……比較しようにも他のアントよりも戦闘力が突出しすぎているのだ。

 あの冒険者たちなら、シュバルツの力を計るのにちょうどいいだろう……


 ◆


 俺たち『緋色の牙』は、新しく発見されたダンジョン、『黒軍の大穴』に来ていた。


 元はアストガルドで冒険者をやっていたが、ダンジョンを踏破した途端、あちこちから戦争のためにうちに来て欲しいというオファーが鳴りやまなかったのだ。


 いい加減面倒になり、アレーナ共和国を抜けて別のダンジョンにでも挑もうか、と思っていた時だった。

 途中で立ち寄った街である噂を聞いたのだ。


『Bランクパーティーが壊滅しかけるほどのダンジョンが現れたらしい』


 最初はただの噂かと思ったが、実際にボロボロになって帰還するパーティーを見たやつがいるらしい。

 同時期にここらじゃ見かけないモンスターも現れたと聞く。これは間違いないだろう。


 ダンジョンについての噂を集めていた時に、領主の使いに声をかけられ、今回の計画を持ちかけられたのだ。


 いきなり街を建設する、と聞いたときにはさすがに断ろうかと思ったが、よくよく話を聞いてみると案外悪くはなかった。むしろ成功する可能性は十分あると思えた。


 迷宮都市の建設に貢献したとなればかなりの名声になる。前人未到のやり方となればなおさらだ。俺たち『緋色の牙』の名もさらに有名になるだろう。うまくいけばSランクになるのも夢ではないかもしれない。


 そう思って、今回の計画に乗ったのだったが――


 ◆


「上級のアントがいるなんて情報にはなかったぞ」

「ふむ、どうやら運悪くモンスターが強くなる時期に当たったようですな。『ヒール』!」


 そういって回復魔法を使ったのは神官のゴルバドだ。……正直本当に神官なのかと疑問に思う体格なのだが、回復魔法の腕は悪くはない。


「強くなる時期だって早すぎねえか? で、どうするよレオン。報告しに引き返すか?」


 こちらに提案するのはジノー、斥候で珍しい鑑定魔法持ちだ。


「いえ、我々は問題ないですが、上級のジャイアントアントは最低でもCランクです。兵士の方々には手に余る相手でしょう。少しでもジャイアントアントを倒した方がいいのではないかと」


 こっちはダリオ、高威力の火属性と土属性の魔法の使い手だ。

 ジノーのいうことも一理あるが、すでに突入した兵士たちが心配だ。ダリオの案を採用するとしよう。


「今回はダリオの案を採用しよう。このまま周囲のジャイアントアントを倒して回る。兵士たちを見つけたら、回収して一度ダンジョンから出るぞ」


 作戦を確認したのち、周囲を探し回りながらダンジョンの中を進んでいく。


「おい、また隠し通路があるぞ」

「またですか、それにしてもよくわかりますね……僕にはただの土の壁にしか見えませんが」

「へへへ、こういうのは得意だからよ……ほれ、やっぱり壁が崩れるぜ」


 ジノーがまた隠し通路を発見したようだ。うまく偽装されていて、ほとんど見分けがつかない。

 通路の奥にはジャイアントアントが待ち構えていた。おそらく気が付かずに通ると、挟み撃ちをされる羽目になるのだろう。兵士たちはこれに気が付けただろうか……


「しかし妙ですな。ジャイアントアントにここまでの知能があるとは思えませぬ。ゴブリンやオークなら分からなくもないのですが……」

「おかしいっていっても実際にこうして通路が隠されてるんだ。それはどう説明するんだ?」

「ふむ、そう言われると何とも……まあ何にせよ妙です。注意すべきでしょうな」


 確かに引っかかる、ジャイアントアントたちの編成も特性を意識した編成になっている気がする。

 しかし、何が原因なのかはわからないのだ。気を付けて進む以外にないだろう。


「確かにそうだ。だがあれこれ考えていても手掛かりがないから無駄だろう」

「そうだね、こうして話している間にも兵士たちはやられているかもしれないよ」


 ……先ほど、どこからか悲鳴が聞こえていた。おそらく悲鳴の主はやられたのだろう。

 兵士たちの装備と実力では、上級のジャイアントアントと戦うには不十分だ。


 残念ではあるが、今から助けにいこうにもどこにいるかもわからないのだ。諦めるしかないだろう。


「よし、先を急ごう。うまくいけば生き残りの兵士とも合流できるかもしれないしな」

「そうだね、まあこの分だと全滅しているかもしれないけど」

「へへへ、さすがに冗談きついぜ」

「そうですな、兵士がやられる前に何とか拾っていきたいものですな」


 隠し通路の中にいたジャイアントアントを殲滅し先を急ぐ。生き残りが見つかればいいのだが。


 通路の中に激しい戦闘があったと思われる跡を見つける。悲鳴が聞こえた方向からしても、おそらくここで兵士たちはジャイアントアントに襲われたのだろう。周囲に人影はなさそうだ、ダンジョンで死んだ者は死体が吸収されてしまうために残らない。全滅してしまったのだろうか……


 悲鳴はあれからももう一度響き、他の兵士たちもやられているのが分かる。

 歯がゆい思いを感じながらも、先に進むとまたもや悲鳴が聞こえた。


「これで3回目、いずれも別方向からですな」

「つまり、一緒に入ってきた兵士はまず間違いなく全滅したってことだな。レオン、どうするよ」

「……仕方ない、兵士たちの生存は絶望的だろう。一度ダンジョンの外に出るとしよう。作戦はおそらく失敗だろうな」


 一度ダンジョンの外へと出ることにする。しばらく進んでいたがなんだか妙だ。だんだんとジャイアントアントたちの数が増えている気がする。それだけでなくまるで囲まれているかのような動きだ。


「ジャイアントアントの動きが怪しいな。まるでこちらを囲むかのような動き方だ。もしかしたらあれがいるかもしれんぞ」

「ジェネラルアントですか……そんなものまでもういるとは」

「本当にできたばかりのダンジョンなのですかな?見つかっていなかっただけでは?」

「いや、それはないだろうぜ。なんせここは草原のど真ん中だ。近くにもいくつか村がある。そんなに長い期間の間ずっと気が付かれないなんてありえないだろうぜ」


 そして、大部屋の先にはジャイアントアントたちの群れが整然と並んで待ち構えていた。


「いたぞ! ジェネラルアントだ! 気を付けろ!」


 前方に並ぶジャイアントアントの中でも特に大きいモンスター……ジェネラルアントだ。しかも取り巻きは上級のアントばかり。これは少しばかり骨が折れるかもしれない。だが倒せないわけではない。


「たとえジェネラルアントでもすぐに倒せば問題ない!増援が来る前に倒すぞ!」

「待ってくださいアレン殿! なんだか様子がおかしいですぞ!」


 ゴルバドに言われて足を止める。いったい何がおかしいのか。

 ジェネラルアントは強大な存在感を持って、悠然と待ち構えている。

 ――いや、確かにおかしい。ジェネラルアントはあそこまで威圧感のあるモンスターだっただろうか。


「ジノー! 鑑定だ! ジェネラルアントを鑑定してくれ……ジノー?どうした?」


 ジノーにジェネラルアントを鑑定をするように言う。

 彼の持つ魔導具なら相手の大まかな強さや情報が分かるはずだ。――だが、どうしたのか返事がない。

 振り返ると、ジノーは真っ青な顔をして呆然としている。再度問いかけると震える声でつぶやいた。


「おい! どうしたジノー! 大丈夫か!」

「ネ、ネームドモンスターだ……」

「ネームドモンスター? あのジェネラルアントがか?」


 ジノーに確認を取るが、違うようで首を横に振る。


「じゃあ何がネームドモンスターなんだ!」

「ぜ、全部だ……」

「は? 全部だと?」

「あ、ああ、ジェネラルアントだけじゃねえ、取り巻きも全部ネームドモンスターだ……あ、挙句の果てにジェネラルアントはボスモンスターだ!」

「なんだって? 冗談だろう? ……いや、冗談ではないようだね」

「ボスモンスターですと? なんでボスモンスターがこんな場所にいるのですかな」


 ジノーの震える声に、全員が騒然となる。

 当たり前だ、ネームドモンスターなんて古いダンジョンでもそうそういるものじゃない。それがおよそ30匹、さらにジェネラルアントはボスモンスターだ。馬鹿げている。

 そもそもボスモンスターがこんな浅い階層にいることなんてありえない。普通はダンジョンの深部にいるはずだ。なんだってこんなところにいるというのだ。

 あの土壁も、ジャイアントアントの編成もこのジェネラルアントによるものだろうか。ジェネラルアントはそこそこ知能の高いモンスターだ。ボスモンスターにまでなっているなら否定はできないが……


「さすがにあれの相手は無理だ! 逃げるぞ!」

「賛成だ! あんなのとやりあいたくはないね!」


 パーティーに声をかけ、踵を返す。他のメンバーもそれに続こうとする。

 しかしその時、ジェネラルアントが咆哮した。


「ギイイイイイィィッ!!!」


 ジェネラルアントの咆哮によって、ビリビリと空気が震える。あまりの迫力に縮み上がりそうになる。

 なんだってこんな化け物がいるんだ。この迫力はもしかするとAランククラスかもしれない。

 さらに、その咆哮にに応えるように大部屋につながる通路のあちこちから、鳴き声とともに足音が聞こえだす。


 ここから逃げようにも、退路は断たれている。

 ジェネラルアントから逃げながら、後方のジャイアントアントを倒すのは現実的ではない。

 誰かが残って足止めをするならその限りでもないが、残ったものは確実に生きて帰れないだろう。それはどうしようもなくなった時の最後の手段だ。


「……どうやら、逃がすつもりはないようですな」

「まったく、何でこんなことに……」

「へ、へへ、腹をくくるしかなさそうだな……」

「仕方がない……みんな死ぬなよ!」


 こうして、俺たちはジェネラルアントに向かって走りだした。

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