#16 ボスモンスター
場面が変わる部分の間に◆を挟んでみました。
ちょっとだけ見やすくなったと思います。
名前持ちのアントたちの進化が完了した。
それぞれより大きく、より強い個体へと進化している。
「おお! 進化したぞ!」
「すごい! なんだかみんな強そうだよ!」
ウォーリアーアントは大顎に加え、刺々しく鈍く輝く重厚そうな甲殻を纏ったナイトアントに、シールドアントはさらに大きく、分厚くなった盾形の頭を持つガーディアンアントに進化した。
ガンナーアントは2種類の系統へと別れ、細長い腹部を持つスナイプアントと巨大な腹部を持つカノンアントへと進化している。スナイプアントが狙撃タイプ、カノンアントが砲撃タイプのようだ。
そして、キラーアントはさらに鋭い顎へと変化した、アサシンアントへと進化したようだ。
アントたちは次々と進化していき、シュバルツ以外の名前持ちのアントたちは無事進化が終わったようだ。
どのアントも、戦闘力が大きく上昇している。これは期待が持てるだろう。
「シュバルツは――まだ保有魔力がカンストしてないのか」
「シュバルツちゃんは元々の保有魔力量が高かったからね!」
シュバルツの保有魔力の上限は他のアントたちの4倍の4000である。毎日供給されていた分ではまだカンストできていなかったようだ。残り少ないDPを使いシュバルツに対しても魔力付与を行う。そしてシュバルツの保有魔力がカンストし、進化を開始する。
「おおー! シュバルツちゃんもおっきくなったね!」
「ジェネラルアントか、戦闘力も高いな」
シュバルツは、ジェネラルアントというモンスターへと進化した。大きさは……体長5mくらいか、マザーアントと並ぶ大きさのアントである。クイーンアントの巨体を見た後では、少々迫力に欠けてしまうが……
ジェネラルというくらいなのだから、コマンダーアントであった頃よりもさらに多くのアリを指揮できるのであろう。名前付きのアントたちを付ければ、かなりの戦力として期待できそうだ。
甲殻も重鎧のような見た目になり、まさにジェネラルの名にふさわしい貫禄を持っているだろう。
「シュバルツたち以外も、進化できるようになっているみたいだな」
名前を付けていないアントたちも、更なる進化が可能になったためか、アントマゴットを食べて魔力を増やしている。しばらくすれば、他のアントも進化するだろう。
うまくダンジョンの質の問題を解決することができ、さらに数に関しても大幅に強化することができた。これなら、もう少し強い相手でも十分に戦えるであろう。
「これなら何とかなりそうだね!」
「ああ、だけどもっと強い相手もいるかもしれない。油断はしないようにしよう」
「おー!」
今回の侵入者との戦いはいくつもの課題があった、ダンジョンの強化が十分でなかったこと、ダンジョンの仕様を十分に確認していなかったこと、焦って単純な力押しを選んでしまったこと。細かい点を挙げればもっとあるかもしれない。
もっと早く4階層を追加できていた場合、強化された戦力で十分倒し切ることもできた……いや、あの様子だと、もっと深いところにおびき寄せてから戦えば以前の戦力でも倒し切れたかもしれない。
油断が死につながるのは何も相手だけではない。もし相手の数がもっと多かったら、もし相手がもっと強かったら、こちらは間違いなくやられていただろう。生き残れたのは運が良かっただけだ。
完璧だと思っていても、1人では何か見落としがあるかもしれない、しかし俺にはフィーネがいる。
まあ……ちょっと頼りなくはあるが、1人だけで考えるよりは2人の方がいいだろう。
「これからもよろしくな、フィーネ」
「ふえ? うん! よろしくねダン!」
決意を新たに、ダンジョンの強化へと取り掛かっていった。
◆
「ダン! アリさんがいっぱいだよ!」
「ああ、かなりの数になったな!」
マザーアントがクイーンアントへと進化してから、一か月ほど経った。
ダンジョン内のアントは爆発的な勢いで増えている。卵や幼虫も加えれば、すでに1万を超え、ダンジョン内を忙しなく行きかっている。
クイーンアントが産んだ卵からは、ウォーリアーアントなどの中級のアントも誕生するようだ。今までシュバルツ以降現れることのなかったコマンダーアントも何匹か産まれた。コマンダーアントたちは中級、上級のアントたちを率いて1階層を闊歩している。
さらに、クイーンアントの卵からは、新しい種類のアントも2種類生まれている。
まず、丸く膨らんだ腹部を持つボムアント。かなり特殊なアントで、体内に大量の酸をため込み、強い衝撃を与えることで、腹部に多数開いている穴のような器官から、酸を周囲にまき散らすのだ。
酸をまき散らした後は、素早く戦線から離脱していく。再度酸をため込むには時間がかかるようだが、一撃の威力は計り知れないだろう。
そして、もう1種はアースアント。なんとこのアント、土属性の魔法が使えるのである。
使える魔法は土の壁を作るものと、地面から石の礫を飛ばすものの2種類だけであるが、新しく進化したカノンアント、スナイプアントとともに、ダンジョンの遠距離戦力を担っている。
「ダンジョンの中も随分変わったな」
爆発的な勢いで増えていくアントたちの活躍により、ダンジョンはより大きくより深く拡張されている。階層も5階層と6階層を追加した。
まず、1階層~4階層までは完全に防衛用の階層へと変更した。
複雑に絡み合った通路に、多数の小、中サイズの部屋と大量のアントが戦闘できるほどの大部屋が点在し、さながら迷路のような状態になっている。
各大部屋には、戦闘用のアントたちが群れを成しており、通路には中級のアントたちが闊歩し、アントフライたちが飛び交い、侵入者を探している。もし侵入者が見つかれば、周囲から千を超えるアントが押し寄せてくるわけだ。
シュバルツには、ネームドモンスター化している上級アントたちを率いて、ダンジョン内を闊歩させている。普通のアントではかなわない相手に対してぶつける予定だ。
ダンジョン内をアントたちに追い回され、ある程度疲弊したところをシュバルツが率いるネームドモンスターの上級アントの群れが襲うというわけだ。
5階層はアントたちの居住区およびアントマゴットの生産拠点となっている。
多数存在する部屋の中には、アントたちのエサになるアントマゴットが育てられており、ダンジョンの戦力強化を支えている。ここで強化されたアントたちが、上の階層へと移動しダンジョンを防衛するわけだ。
6階層はクイーンアントのいる巨大な部屋と、卵を保管する部屋、幼虫を育成する部屋などが並んでいる。
ダンジョン内の大多数のワーカーアントたちはここで女王や卵、幼虫の世話をしており、残りのワーカーアントたちは各階層に散らばり、ダンジョンの拡張、通路や大部屋の維持のために働いている。
クイーンアントのいる部屋の周囲には、階層を増やしたことで新たに増やされたネームドモンスター化した上級アントたちが待機している。いわゆる親衛隊といったところか。
もし、この階層まで侵入者が来てしまった場合は、居住区に待機しているアントと、親衛隊のアントを超え、ネームドモンスターとなったことですさまじい耐久を誇るクイーンアントを倒さなければならない。
まあここまで侵入者が来てしまった時点で、ダンジョンはぼろぼろになっていそうだが、用心を重ねるべきだろう。ダンジョンコアさえ無事ならば、最悪でもやり直すことはできる。
「そしてこれだ……」
5階層を追加した時にボスモンスター設定機能が追加された。
階層が5の倍数になるごとに、ネームドモンスターの中から1体ボスモンスターを設定することができるのだ。現時点でのこのダンジョンの切り札といえるだろう。
必要なDPは、ボスモンスターに設定するモンスターの保有魔力の10倍と非常に高い。
しかしその効果は絶大で、基礎戦闘力と保有魔力の上限の倍化、さらにダンジョン内にいる限り持続的に体力が回復するのだ。たいていのダメージなら、1日もたてば全快してしまうえげつない効果である。
戦闘力もネームドモンスターになった時に上昇する分も考えると4倍、さらに保有魔力がカンストした場合なら保有魔力による戦闘力の上昇分と合わせて、元の戦闘力の8倍である。まさしくボスモンスターにふさわしい性能になるだろう。
最初は、アーマイゼをボスモンスターにしようと思ったのだが、400万ポイントという途方もないポイントが必要だったので断念した。
アーマイゼの代わりにシュバルツをボスモンスターにすることになった。それでも40万ポイントも消費することになったが……
シュバルツはダンジョンの中では最古参の1匹だ。ダンジョン防衛の要として頑張ってもらいたい。
「ダン! いっぱい人が来たみたいだよ!」
「よし! リベンジの時間だ!」
「おー!」
侵入者が来たようだ、もっと早く来ると思っていたのだが遅かったな。
どうやら今度は数が多いようだが、こちらもこの前のダンジョンとは一味違う。
さあ、新しくなったダンジョンの力を試させてもらうとしようか!
この後は、人間サイドのお話を1話挟んでから、ダンジョンでの戦いになります。
ダンジョンでの戦いが終わったら、用語とモンスターの解説と少しだけ閑話的なものを書く予定です。
アントたちのステータスは以下の通りです。
ナイトアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/3000
状態:健康
ガーディアンアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/3000
状態:健康
スナイプアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/3000
状態:健康
カノンアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/3000
状態:健康
アサシンアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/3000
状態:健康
ボムアント
名前:-
基礎戦闘力:200
保有魔力:0/2000
状態:健康
アースアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/3000
状態:健康
ジェネラルアント
名前:-
基礎戦闘力:2000
保有魔力:0/20000
状態:健康