#14 Bランクパーティー 後編
本日2話目ですのでご注意ください。
「あわわわわ!どうしようダン!あの人たち強いよ!」
一緒にダンジョン内の様子を見ていたフィーネがあわあわとしながら言う。
新たにやってきた侵入者たちは、前回の3人組とは比べ物にならないくらい強い。ジャイアントアントたちを簡単になぎ倒し、ダンジョンを進んでいく。
「くっ……侵入者がいる階層にはモンスターを送れないのか」
慌ててシュバルツたちを1階層へ送ろうとするが、侵入者がいる階層にはモンスターを送ることができなくなっているようだった。……まあそれも仕方ない、それができてしまったら、侵入者の目の前にいきなり大量のモンスターをけしかけるなんてこともできてしまう。
シュバルツたちを急いで1階層へ向かわせるか……いや、あの様子を見る限り、焼け石に水にしかならなさそうだ。そもそもうまく冒険者たちと鉢合わせできるかも怪しいところだ。
複雑なダンジョン内を移動する冒険者へと誘導するのはかなり厳しいだろう。
となると選択肢は消耗戦になってしまうのだが……仕方ない、かなりの犠牲が出るがあの手で行こう。
「ふええ! ダン! どうするの!?」
「落ち着けフィーネ、とりあえずアントフライを使って1階層にいるアントたちを向かわせよう」
テイマーアントたちに指示を出すと、アントフライが侵入者を探すため、ダンジョン内を慌ただしく飛び回る。
これでアントフライが侵入者を発見すれば、大きな音を立てて場所を知らせることができる。
1匹1匹の戦闘力が足りないなら、数で押すしかないだろう。
そして、アントフライが冒険者たちを発見し、なんとかアントたちに居場所を知らせることに成功した。
「これでよし、後は頼むぞ……」
「みんなーがんばれー!」
フィーネとともに固唾をのんで、戦闘の行く末を見守る。これでうまく消耗させて、退却していくといいのだが。
◆
ダンジョン内に大きな音が響く。すぐさまシーナが残りのアントフライを撃ち落とすが、すでに遅いだろう。通路の奥から、ジャイアントアントたちが向かってくるのが見える。
アントフライが仲間を呼ぶのを許してしまったということは、じきにジャイアントアントの大軍がここに押し寄せてくることになるだろう。
「おい、アル! どうするよ!」
珍しくバルボが焦った声を出す。ここで大軍と戦うのはまずいかもしれない。前後を挟まれた状態で、酸が降り注いでしまえば大変なことになる。せめて通路から出てある程度の場所を確保できる部屋までたどり着かなければ。
「ここで大軍を迎え撃つのはまずい! いったん下がってさっきの部屋まで戻るぞ!」
みんなに指示を飛ばして、さきほど通過した大部屋まで後退する。ここなら動きを阻害されずに戦うことができそうだ。
部屋にたどり着くとすぐさま、ティータが支援魔法を使う。
「『ホーリーブレス』、『サンクチュアリ』!」
バフをかけなおし、持続回復効果のあるフィールドが広がる。あとはジャイアントアントを倒し続けるだけだ。大声を上げ、みんなに気合を入れなおす。……そして黒い津波が押し寄せてきた。
「行くぞバルボ! シーナ、ティータ援護は任せた!」
「おうよ! みんなまとめてぶっ飛ばしてやらあ!」
「わかってるわ! やられたら承知しないわよ!」
「お2人とも、気を付けてください」
バルボと2手に分かれそれぞれの通路の前に陣取り、ひたすらジャイアントアントを倒していく。
迫りくる大顎や、酸を避け、魔法を織り交ぜながら、ジャイアントアントたちを倒していく。しかし、さすがに数が多い、何度か攻撃を受けてしまう。
「どりゃあああ!」
「『ウィンドシュート』」
「『ヒール』、『ヒール』!」
バルボの斧がジャイアントアントをまとめて粉砕し、シーナが魔法と矢で援護をする。攻撃を受けるとすぐさまティータが回復魔法で治療を行う。
ジャイアントアントたちは、仲間の死骸を踏み越え、時に邪魔な死骸を押しのけ、次々と襲い掛かってくる。
迫りくるジャイアントアントたちを倒していると、後ろからシーナの声が響く。
「アル! 上よ!」
声が聞こえると同時に、バックステップで後ろへと下がる。すると上からキラーアントが降ってきた。危ないところだった……しかし、後ろに下がってしまったため通路との間に距離が開く。
その隙に大量のジャイアントアントたちがなだれ込んでくる。このままではまずい。するとシーナの声が聞こえた。
「アル! 何とか時間を稼いで! 魔法でまとめて吹き飛ばすわ!」
「わかった! 『フレイムランス』!」
残りの魔力で使うことができる、最大の魔法をアントたちの群れにぶつける。これで魔法は打ち止めだ。
さらにジャイアントアントたちを攻撃し、注意をこちらへとひきつける。
周囲を囲まれたせいで今までよりも激しい攻撃にさらされていく。このままでは長くは持たない……
そろそろ限界を迎えようかという時、魔法の完成を知らせる声が聞こえた。
「準備できたわ、下がって! 『ウィンドストーム』!」
後ろへ下がると同時に、時間をかけて魔力を込められた強力な魔法の竜巻が吹き荒れる。
風の刃を含んだ竜巻は部屋に入り込んでいたアントたちをまとめて切り刻み、バラバラに解体していく。
そのまま竜巻は、通路の方へと進んでいき後続のアントたちをも巻き込んで掻き消えた。
「シーナ助かった! はああっ!」
再び、通路の前へと陣取り、津波のように押し寄せるジャイアントアントを倒し続けていく……すでにどれだけの時間が経ったのだろうか。もうどれだけのジャイアントアントを倒したのかわからない。
「ごめんアル! 矢が無くなったわ! 魔力もあと少ししかない!」
「『ホーリーブレス』! こちらもあと何回か回復したら魔力が切れてしまいそうです……」
「くそっ、バルボ! そっちはどうだ!」
「はあっはあっ……へっ、誰に聞いてるんだ! 俺はまだまだ余裕だぜ!」
バルボの威勢のいい声が聞こえるが、やはり疲労がたまっているようだ。
このままではまずいかもしれない。焦りが膨らんでいく中、ひたすらジャイアントアントを倒していく。
「アル! ジャイアントアントの数が減ってきてるわ!」
シーナの声を聞き、通路にいる後続のジャイアントアントたちを見る……確かに最初のころよりも数が減ってきているようだ。ジャイアントアントたちも残りの数が少なくなってきているのかもしれない。
「みんなあと少しだ! もう少しだけ頑張るんだ!」
「おうよ! こんなアリどもに食われてたまるかよ!」
「あたりまえよ! 『ウィンドカッター』!」
「『ヒール』! 皆さん頑張ってください!」
残った力を振り絞り、剣を振るっていく。ここが踏ん張り時だ。
そしてついに、ジャイアントアントの軍勢が途切れた。最後のアントを倒し、地面に倒れこむ。
「やっと終わったか……疲れた……な……」
「へ、へへ、アルだらしねえなあ! 俺はまだまだ元気だぜがっはっは! ……ゲホゲホッ」
「何がまだまだ元気よ、汗だくで足も震えてるじゃないの」
「皆さんお疲れ様でした」
見れば全員、満身創痍である、魔法が切れた後シーナは腰にさしていたナイフを抜き、ティータもメイスを打ち漏らしたソルジャーアントの頭に振り下ろして応戦していた。
あたりにはおびただしい数のジャイアントアントの死骸が転がっている。数百匹は倒したのではないだろうか? 途中何度もアントフライに仲間を呼ばれてしまったが、なんにせよ生き残ることができてよかった。
「ふうー……しばらく休憩したら、ダンジョンから脱出しよう」
「そうね、もうヘトヘトよ……」
「もう少しすれば何回かはヒールが使えそうです」
「ちくしょう、俺の自慢の斧がダメになっちまった」
何度かアリの酸を切り払ったり盾で防いだせいで、俺の剣と盾もバルボの斧もぼろぼろになってしまった。装備も傷だらけになっている。改めて見ると、よく生き残れたものだ。
しばらく休憩をして、ある程度体力が回復したところで、出発する。早くここから出ないとまずいだろう。
せっかく倒した死骸を放置していくのはもったいないが、ここでもたもたしていると新手が現れるかもしれない。
何匹かのジャイアントアントから、高く売れそうな部分を手早くはぎ取るとダンジョンの出口に向けて出発する。
来た道を戻る途中何度かジャイアントアントと遭遇することになったが、何とかダンジョンを脱出することができた。
そのまま草原を抜け、やっとのことでソナナ村へとたどり着く。ここまでくればもう安全だろう。
「やっと村に着いたな……」
「早く帰って休みたいわ……」
「そうですね、今回は本当にもう駄目かと思いました」
「まったく、武器はダメになるし割に合わない依頼だったぜ……」
「そうだな、剥ぎ取った素材だけじゃ全然足りないし、ギルドには報酬を弾んでもらわないとな」
そんなことを言いながら、村長に貸してもらった空家へと向かう。
食事をとった後、疲れのあまり泥のように眠る。そして、次の日の昼過ぎになってやっと起き出した俺たちは、リーアの街へと帰ったのだった。
「そうか、やはりダンジョンだったか……」
「ええ、今回はさすがに死ぬかと思いましたよ、あれだけの大軍に襲われるとは」
「それは災難だったな、なんにせよ無事に帰ってきて何よりだ。よくやってくれた、報酬は弾んでおく。期待しておいてくれ」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
依頼の報告が終わり、アルベールが出ていった後、ギルドマスターがため息を吐く。
「はあ……やはりダンジョンだったか……これからを考えると、めんどくせえなあ」
領主への報告やギルド本部への連絡に、ダンジョン周辺の安全の維持。その他もろもろとやることは山済みである。急いで仕事に取り掛からねばならないだろう。
「さて、あいつにグチグチ言われないようにしっかりお仕事しますかね……」
煙草を取り出し、火を付ける。煙草の煙をくゆらせながら、書類とにらめっこを開始する。やれやれ、これから忙しくなりそうだ。
この後、大量の書類を抱えてきた秘書に煙草が見つかり、怒られることになるのだがそれはまた別の話である。
ギルドに備え付けられている、酒場へと戻ると、すでに仲間たちが酒盛りを始めていた。アルベールに気が付いたバルボが、ジョッキを上げて豪快に笑う。
「おっ! やっと来たかアル! 悪いがもう始めてるぜ!」
「おいおいバルボ、ちょっとくらい待っててくれてもいいじゃないか」
「私は止めたんだけどね。で、アル、どうだったの?」
「ああ、報酬は追加で弾んでくれるらしい」
「まあ当然よね、もう一回やれと言われてもごめんだわ」
「そうですね……今回は運が良かったですね」
「がっはっは!生きて帰ってこれたんだ! 今は酒を楽しもうぜ!」
「そうだな、じゃあ乾杯と行こうか! ダンジョンからの生還と依頼の成功に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
仲間と乾杯して、なみなみと注がれた酒を飲み干していく……危険な目にはあったが、こうして全員無事に帰ってくることができた。今はそれを喜ぶとしよう。
「おう! アル! なんでも東の森でワイバーンを見たやつがいるらしいぜ! 次の依頼はワイバーンにしようぜ!」
「もうバルボ、ついこの間死にかけたばっかりじゃないの、今度はもっと軽めの依頼にしましょ」
「大丈夫だって! 次もなんとかなるさ!」
「バルボさん、まずは体を休めないと。疲れがたまっているはずですよ」
「そうだな、まあ何を狩るにしてもまずはゆっくり休むとしようか。装備も直さないといけないし」
「げぇー! じゃあ装備が直ったらワイバーン狩りってことで! よっしゃ! アル、飲み比べと行こうぜ!」
「冗談はよせバルボ、お前と飲み比べなんてしたら体がいくつあっても足りないぞ」
「ふふふ、みなさん楽しそうで何よりです」
バルボが笑い、シーナがそれに反応し、ティータがほほ笑む。
仲間たちとの楽しい酒盛りは続いていく。今回の依頼で、俺たちはまだまだ弱いことがわかった。
もっと強くならなければいけないな――願わくは次もみんなで無事に帰れるように。
そんなことを思いながら、ジョッキの中の酒を飲み干した。