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#12 予兆

今回は別キャラ視点のみです。

 ダンたちが騒いでいたころ、ソナナ村から西におよそ200kmほど離れたリーアの街ではある噂が広がっていた。

 ――ソナナの村の北の草原で、見慣れないモンスターが発見されたらしい。

 その噂は、静かに、だが、だんだんと街中へと広まっていった。



 リーアの街冒険者ギルド、ギルドマスター室。そこではこの街のギルドマスターである初老の男性が、報告を受けていた。


「……そうか、ゴゾーたちはまだ戻らないか」

「はい、ソナナの村方面に向かったことは間違いありませんが、その後は不明です」

「そうか――」


 ゴゾーたちがこの街を出発してすでに10日近くが過ぎている。いくら調査が長引いているとしてもさすがに遅すぎるだろう。


 深くため息をつくと、煙草を取り出し、口に咥えようとする……しかし、正面で報告していた秘書に素早く取り上げられてしまった。


「もうお年なんですから、タバコはやめてくださいと言ったじゃありませんか。この前も隠れてタバコを吸っていたと、受付の子が言ってましたよ?」

「ちっ、余計なことを……老い先短い年寄りの楽しみを奪うもんじゃねえよ」

「……ギルドマスター?」

「おお、こわいこわい、そんなんだからその年になっても結婚できな――冗談だから、その眼はやめろ。ゴホン、依頼をすっぽかして逃げた訳じゃないとなると――やられちまったか」

「ええ、おそらくその通りかと」


 事の始まりはソナナの村から見慣れないモンスターを発見した、との報告があったことからだ。他の村からも報告が相次ぎ、寄せられた情報から推測するに、そのモンスターはジャイアントアントの可能性が高かった。


 ジャイアントアントはこのあたりには生息しないモンスターだ。そいつが現れたとなると、自然発生したのか、それともどこかから流れてきたか、もしくは――


「残念だがゴゾーたちのことは仕方あるまい、『蒼翼の剣』のアルベールを呼んでくれ」

「『蒼翼の剣』ですか? Bランクパーティーに任せるほどの件とは思えませんが」

「ゴゾーたちは素行が悪かったからDランクのままだったが、腕自体はCランク相当だった。あいつらがやられたとなるとそのへんのCランクじゃ少し手に余るだろうな」

「……かしこまりました、さっそく手配させていただきます」


 秘書は礼をすると足早に部屋を出ていく。遠ざかっていく足音を聞きながら、椅子に深くもたれかかる。


「やれやれ、まさかゴゾーがやられるとはな。何もなければいいんだが」


 そうつぶやいたが、そうそううまくは行かないだろう。

 ジャイアントアントは確かにこのあたりでは見無いモンスターではあるが、そこまで強いというわけでもない。

 ゴゾーたちが下手を打ったのか、それとも手に負えないような強力なモンスターが現れたのか――なんにせよ、ゴゾーがやられるほどのなにかがあったということは間違いない。


 ゴゾーたちのことは残念だったが、冒険者をやっていればよくあることだ。あいつらは運がなかったと諦めるしかないだろう。

 そんなことを考えていると、扉がノックされる。


「ギルドマスター、アルベールをお連れしました」

「そうか、入れ」


 秘書に連れられ、アルベールが入ってくる。


「よう、早かったな、まあそこに座れ」

「失礼します、ええ、ちょうど依頼の報告をしていたところだったので。それでギルドマスター、俺たちのパーティーに用事があると聞きましたが?」


 アルベールがソファーに座ると、秘書がお茶を並べる。なんでも最近交易を始めた島国から入ってきたお茶で、緑茶というそうだ。不思議な風味のするお茶を啜ると、口を開いた。


「ああ、もう噂で聞いているかもしれんが、ソナナの村の近くの草原でジャイアントアントらしきモンスターが確認された」

「ジャイアントアントですか? そう言えばギルドでも噂になってましたね。なんでもこのあたりじゃ見かけないモンスターだとか」

「そうだ、そこでお前たちにはジャイアントアントの発生源の調査を行ってもらいたい」

「それは構いませんが、わざわざ俺たちに依頼するのには何か訳があるのでしょうか?」

「実はすでにゴゾーたちに調査を依頼してたんだが……連絡が取れなくなった。ソナナの村に向かったことは間違いないらしい。余裕があればそれも調査してくれると助かる」


 ゴゾーたちが行方不明になったことを聞くと、一瞬アルベールは驚いたような顔になったが、すぐに真剣な顔に戻った。


「ゴゾーがですか? ……なるほど、わかりました。一度メンバーと相談してみます」

「ああ、よろしく頼む。もう依頼書は受付に回してあるからな受けるならそっちに回ってくれ。お前たちに言うまでもないだろうが、行くなら注意を怠るなよ。油断した奴から死んでいくからな」

「ええ、もちろんです。それでは失礼します」

「おう。頼むぞアル」


 アルベールが退出していく。あいつらならたとえAランクのモンスターと遭遇しても逃げ切ることくらいはできるだろう。アルベールたち『蒼翼の剣』はこの街を拠点とする唯一のBランクパーティーだ、もしアルベールたちまでもがやられてしまうようなら、うちの手には負えない。


 最近になって、世界各地でダンジョンが見つかっていると聞く。すでにモンスターがあふれ出して、大きな被害を受けた地域もあるようだ。アレーナ共和国もその例外ではない。

 今回発見されたジャイアントアントも、ダンジョンから発生した可能性は捨てきれない。いや、むしろ、ダンジョンである可能性が高いだろう。

 最近は帝国では突然無くなり始めた鉱石などの地下資源をめぐって内戦が続き、聖国は災いが訪れるとの神託を受けて勇者を召喚したと聞く。さらに今回のダンジョンの大量発生ときた……何かの予兆でなければいいのだが……


「やれやれ、俺がギルドマスターになってから厄介事が絶えないな。心労で禿げちまいそうだ」

「大丈夫ですよ、もうすでに手遅れですから」

「バカヤロウ! まだ禿げてねえよ! ……大丈夫だよな?」

「さて、どうでしょうか。それとヤロウではありません」


 秘書の辛辣な言葉を聞きながら、冷めてしまったお茶を啜る。やれやれ、年々口が悪くなっているな……昔はもっとかわいらしかったというのに。

 昔の仲間の娘だったこの秘書は、小さい頃からよくかわいがっていたのだが、今では力関係が逆転してしまった……


「本当に、何も起きなければいいんだがな」

「ええ、本当にそうですね」



 ギルドマスターの部屋を出て、酒場に待たせている仲間たちのもとへと向かう。


「よお、待たせたな」

「おう! おっさんが呼んでたらしいが何の用事だったんだ?」


 こいつはバルボ、パーティーのムードメーカーであり、身の丈ほどの大斧を豪快に振り回して戦ううちの頼れる前衛だ。


「おかえり、アル。それとバルボ、おっさんじゃなくてギルドマスターでしょ」


 バルボを窘めるのはシーナ、思わず見とれてしまうような美貌のエルフで、弓の名手でもある。パーティーでは魔法攻撃&斥候担当をしている。


「おかえりなさい、アルベールさん。それで、ギルドマスターさんはどのような用事だったのでしょうか?」


 こちらに問いかけてくるのがティータ、非常に優秀な回復魔法使いで、うちのパーティーの生命線でもある。

 そしてこの俺、リーダーを務める魔法剣士のアルベールを含めた4人がBランクパーティー『蒼翼の剣』のメンバーだ。自分で言うのもなんだが、この街ではおそらく一番強いパーティーだろう。


 空いている席に座ると、みんなにギルドマスターと話したことを説明する。


「ソナナの村の近くでジャイアントアントが出たのはみんな聞いているだろ? それの発生源を調べてほしいそうだ」

「発生源の調査? 私たちみたいなBランクパーティーに回ってくるような依頼じゃなさそうだけど?」

「そうですね、討伐というならわからなくもないですが」

「すでにゴゾーたちに依頼したそうだが、どうやら依頼に出たっきり行方不明になってしまったらしい」

「ゴゾーだろ? 依頼すっぽかしてどこかぶらついてるんじゃねえか?」

「いや、ソナナの村方面へ向かったのは間違いないそうだ。たぶんそこで何かあったんだろう。余裕があれば、ゴゾーたちの行方も探して欲しいそうだ」

「おいおい! ゴゾーがやられちまったのかよ! あいつは馬鹿だけどそこそこ強かったはずだぞ!」

「なるほど……そうなると私達が行くしかなさそうですね」

「そうだな。さてみんなどうする? 俺としては受けてもいいとは思うが……今回のジャイアントアントの原因はもしかしたらダンジョンかもしれない。もしダンジョンだとすると、俺達でも危険がないとは言い切れない」


 みんなに問いかける。そう、今回はどれくらい危険な依頼になるかは未知数だ、もしかしたらBランク以上の難易度になる可能性もありえなくはない。もし反対するものがいるようなら、依頼を受けなくてもいいだろう。


「ガハハ! 任せとけ! ジャイアントアントくらいこの俺が片っ端からぶっ倒してやるぜ!」

「この前もそんなこと言ってピンチになったのはどこの誰だったかしら?アル、私は問題ないわよ」

「私も問題ありません。モンスターの脅威から村の方たちを救って差し上げたいです」


 どうやらみんな依頼を受けることに賛成のようだ。この依頼を受けることに決定する。


「よし、じゃあこの依頼を受けることにしよう。今日は依頼が終わったばかりでみんな疲れてるはずだ。明日1日は休んで出発は2日後……明後日の朝にしよう。それまでに各自準備を整えておいてくれ」

「おう! 任せとけ」

「わかったわ」

「わかりました」


 受付に向かい、依頼を受けることを伝える。今回の依頼はどんな危険があるか分からない。十分注意して当たらなければならないだろう。

 ギルドの資料室へと向かい、ジャイアントアントの情報を確認しておく。これで準備はいいだろう。


 そして2日後、十分に休息を取り準備を整えた俺たちは。ソナナの村方面へと旅立った。

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[気になる点] コミカライズから読み始めましたが、村と街の間の距離が200kmって遠すぎなきが…
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