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#95 蟻VSキノコ ⑥

はい、更新するする詐欺犯です。

お、おゆるし、お許しをー!

「それでは、最後の勝負を始めます」


 ジャイアントアントとフェアリーマッシュの最後の勝負。その内容を、フロレーテが読み上げていく。


「ダンジョンマスターとその配下にとって、お互いを信頼し合い、協力することは必須です。これなしでは、ダンジョンの運営はままならないでしょう」


 確かに、フロレーテの言うように、ダンジョンマスターと配下との信頼関係は重要である。


 ダンジョンマスターの持つ力は、ダンジョン内ではほぼ絶対のものだ。

 ダンジョンに所属するモンスターは、ダンジョンマスターの命令に背くことはできない。

 そのため、命令機能を使えばどんなモンスターであろうとも、強制的に服従させることができる。

 同じように、ダンジョンの環境を操作されてしまえば、ほぼ確実に全滅するであろうフェアリーマッシュも、こちらに逆らうことはできないはずだ。


 しかし、強制的な命令に嫌々従うのと、彼ら自身が自主的に協力してくれるのでは天と地ほどの差がある。

 無理やり従えてしまえば、命令以上の働きは見込めない。

 さらに、単純な命令ならば、抜け道なんてものはいくらでも考えられる。

 そして、複雑な命令をするにしても、広大なダンジョン全てに目を光らせ続け、状況にあった命令を出し続けることなど絶対に不可能だ。

 信頼できる仲間がいなければ、いつかダンジョンの運営は行き詰まることになる。


「友情、愛情、崇拝、信仰、そのほかどのようなものでも構いません。順番に、ダン様への想いを語ってください」


 ゆえに、ダンジョンマスターとその配下の信頼関係というのは、ダンジョンの製作や防衛に関しても重要な位置を占めるのは間違いない。

 次の勝負では、その信頼関係を築くにあたって、アーマイゼたちやフェアリーマッシュたちが、俺のことをどのように考えているのかを聞くようだ。


「ただし――」


 フロレーテは、そこで言葉を切ると、アーマイゼたちやフェアリーマッシュへと、順に視線を巡らせる。


「万が一、その内容に嘘や偽りがあれば、その時点で敗北とします。決して、そのようなことがないように。よろしいですか?」


 小さな体から、妖精の女王としての威厳をにじませた彼女は、ゆっくりと、強調するかのようにそう告げる。


『もちろんです! ダン様への気持ちに、嘘や偽りなどあるはずがありません!』

『然り。我らの信仰に、ただの一点の曇りすらないことをここに誓おうではないか!』


 アーマイゼとフェアリーマッシュの宣言を聴いたフロレーテは、満足そうに頷き、用意されたテーブルの上へと降り立った。


「それでは、さっそく勝負を始めましょう。ますは、フェアリーマッシュさんたちの方からどうぞ」

『よかろう。では、我らが作りし教典を語ろうではないか』


 フェアリーマッシュはぶるぶると体を震わせたあと、まるで背筋を伸ばすかのように、まっすぐに立ち、厳かな声音で語り始めた。


『――はじめに、神は天と地を作られた』


 ……このキノコは、一体何を言っているのだろうか?

 思わずそう言いそうになってしまったが、フェアリーマッシュにふざけたような様子は見られない。


『――次に、神は蟻を創造し、地へと放たれた。また、妖精を救われ、これを楽園に迎え入れた』


 なおもフェアリーマッシュの言葉は続く。

 フロレーテが何も言わないということは、フェアリーマッシュたちがこの神話もどきを、本心から語っているのは間違いないのだろう。

 なんだか頭が痛くなってきた気がするが、気のせいだろうか――


『――神は我々に英知を与えられた』


 しかし、彼らの語る内容は、一部おかしな部分もあるが、完全に間違っているわけではない。

 ダンジョンを作ったのも、アントたちを召喚したのも、妖精たちを救ったのも事実である。

 フェアリーマッシュたちが生まれたのは偶然ではあるが、ダンジョンの機能によって知恵を獲得したのも間違いない。


『――神は驕りし我らに罰を与え、正しく導いた』


 これも、間違ってはいない。

 正しく導いたのかはさておき、ダンジョンの一角を占拠していたフェアリーマッシュたちを、こちらが懲らしめたのは事実である。


 フェアリーマッシュによって朗々と語られる、神話もどき。

 それはいつしか、今までの出来事から、何やら予言めいたものへと変わり始めた。


『――神とその僕たちは、四の使徒を打ち倒し、我らに平穏を与えた』


 予言めいたことを語り続けるフェアリーマッシュ。

 ガリガリと気力を削り取られ、ややげんなりとしてしまったが、聞き流すわけにもいかずその言葉に耳を傾け続ける。


『――神は大いなる獣を退け、世界に永遠の繁栄を与えられた』


 最後にそう締めくくり、ようやくフェアリーマッシュの神話もどきの朗読が終わったようだ。

 どこか満足気にうなずくフェアリーマッシュ。それに対して、フィーネやフロレーテは、どこか困惑した様子である。


『これが我らが教典である! 吾輩はこれを、外の世界に広める所存である!』


 最後の最後に、フェアリーマッシュはとんでもない爆弾を投下した。

 先ほどのトンデモ神話もどきが、ダンジョンの外で大々的に伝わるなど、悪夢以外に他ならない。

 思わず頭を抱えてしまったこちらを見て、何を勘違いしたのか、フェアリーマッシュは得意げに宣言する。


『おお、神よ! 心配することなどありませんぞ! 吾輩の力を使えば、世界のいたるところで神のすばらしさを広めることができるでしょう!』


 フェアリーマッシュには、菌糸を通じて情報を伝達する恐るべき能力がある。もしも、万が一彼らが外に出てしまえば、その布教活動を止めることはほぼ不可能だろう。

 広大な世界の隅々にまで菌糸を巡らせ、至る所に現れては道行く人々の前で教典なるものを読み上げる、怪しげなキノコたちの姿が脳裏に浮かぶようだ。


 このままではマズイと、フェアリーマッシュに気付かれぬよう、フロレーテへとそっと目くばせをする。

 その視線に気が付いた彼女は、こちらへと頷き返すと、ふわりと飛び上がった。


「こ、こほん。それでは、これにてフェアリーマッシュ側は終了。続いて、ジャイアントアント側へと移ります」

『ぬぬっ!? 吾輩はまだ語り足りな――』

「アーマイゼさん。準備はよろしいですか?」

『もちろんです。いつでも始めてください』


 まだ足りないとフェアリーマッシュが叫ぶが、それを何食わぬ顔で聞き流したフロレーテは、アーマイゼの元へと顔を向ける。


 このままフェアリーマッシュを自由にしてしまえば、それこそ延々と語り続けてしまいそうだ。

 彼らの恐ろしい計画に関しては、この勝負が終わったあとでゆっくりと対抗策を練るとしよう。


 さて、フェアリーマッシュの語るであろう内容は、おおよその予想がついていたが、ジャイアントアント側――アーマイゼたちが何をするのかは予想できなかった。

 彼女たちが俺のことをどう思っているのかを、こうしてじっくり聞く機会というのは久しぶりのような気がする。

 果たして、彼女たちはどのような言葉を聞かせてくれるのだろうか。


「それでは、次はジャイアントアント側です。アーマイゼさん、始めてください」

『分かりました――それでは、アレを持ってきなさい』


 アーマイゼが、近くに控えていたアントレディアへと指示を送る。

 アレとは何だろうか? 急ぎ足で消えるアントレディアを見送り、そんなことを考えていると、ダンジョンへと消えたアントレディアが戻ってきた。

 彼女は、他の仲間と協力して巨大な何かを運んできたようだ。


 大事そうに、ゆっくりと運ばれる、ミスリルや色付きの魔石による精巧な細工で装飾された、箱のようなそれ。いや、箱ではない。

 煌びやかなカバーで包まれたそれは――巨大ではあるが、本のように見える。

 急速に、胸の内でいやな予感が膨らみ始めていく。いや、まさか、そんなはずが――


『ご覧くださいダン様! これこそがダン様の偉業を記した伝記です! もちろん、この私が直接筆を執り書き記しました!』


 嫌な予感が、当たってしまった。

 アーマイゼの隣に立つフォルミーカへと視線を送るが、彼女は諦めたように首を振るだけだった。

 どうやら、彼女ではアーマイゼの行動を止めることはできなかったらしい。

 そういえば、作った紙の一部が欲しいという話を、アーマイゼから聞いた覚えがある。

 文字の練習でもするのだろうと、快く許可を出していたのだが、どうやらこれを作るためだったようだ。


 フェアリーマッシュに続き、ジャイアントアント側の代表であるアーマイゼまでこうなのだ。どうしたものかと頭が痛くなる。

 妖精たちはどうだろうか、アーマイゼやフェアリーマッシュたちのように、怪しげなものを作っていたりしないだろうか。


『なお、私がクイーンアントへ進化する前の出来事は、フィーネ様に協力していただき、書き記しました』


 その言葉に、フィーネの方へと顔を向ける。だが、フィーネはサッと顔を明後日の方向へと背け、こちらと目を合わせようとしなかった。


『また、妖精の里内での出来事は、フロレーテ様に情報を提供していただきました』


 続けてフロレーテの方へと振り返ったが、フィーネと同じく彼女もこちらから視線を逸らす。


 もはや、味方はいないのだろうか。

 ため息を飲み込み、天井を見上げるが、時間が止まるわけでも、現実が変わるわけでもなかった。


『それではさっそく読み上げると致しましょう。まず、ダン様は――』


 そうこうしている間に、アーマイゼによる伝記の朗読が始まった。


 ダンジョンの始まり。

 以前、フィーネに語ったはずの、たった一人でダンジョンを作り始めたところから、物語はゆっくりと進み始める。

 その内容は、一応は伝記というだけあって、ほとんどは事実に則したもののようなのだが、ところどころ――いや、その大半が美化されている。


 伝記の中の俺は、捕らわれたフィーネを救うために悪漢たちを倒したり、ダンジョンで善戦をした4人の冒険者の健闘を称え、彼らを見逃したりしたようだ。

 さらには、類い稀なる知略で炎の化身である巨竜を打ち倒したり、堕ちた英雄に同情し、救いを与えたりしたらしい。


 フィーネの存在に気が付いたのは、あの三人組を倒した後だし、ダンジョンを半壊させた冒険者が退却したのも、こちらが見逃したというよりは、相手が撤退して命拾いしたというのが正しい。

 炎竜王に勝てたのも、シュバルツの機転があってのものだった。俺の知略のおかげということは、口が裂けても言えない。

 そして、ガーランドを倒したのも、救いを与えるというよりは危険だから排除しただけだ。

 そもそも、彼はまだダンジョンの下層に封印されているわけで、あれは救いとは程遠いのではないだろうか?


 アーマイゼの語る伝記は美化されすぎていて、もはや誰のことだかわからない存在が出来上がっていた。


『伝記は、今のところここまでです。これ以後も私の手により続きを書く所存です。また、この伝記を量産して――』


 彼女の話によると、この伝記をアントレディアたちの教科書代わりに使う予定らしい。

 新参のアントレディアたちに文字の学習をさせるとともに、今までのダンジョンの歴史を教え、さらにその内容で書き取りを行うことで、例の伝記が量産される。

 まさしく一石三鳥だと、アーマイゼはどこか誇らしげであった。


 フェアリーマッシュの布教活動とともに、新たな悩みが生まれてしまった。

 まあ、おかしな伝記くらいならば百歩譲っていいだろう。アーマイゼ個人の趣味の範疇であれば、何を書こうがとやかく言うつもりはない。

 しかし、その美化されすぎた伝記が、ダンジョン中に広まるというなら話は別だ。何とか広まってしまう前に阻止しておきたい。


 急いで策を考えたいところだが、アーマイゼによる伝記の朗読が終わり、結果発表の時間が迫っていた。

 今回は、フィーネたちは参加せず、俺一人によって勝敗が決められることになっている。

 確かに内容は予想の斜め上ではあったが、そこに込められた両者の想いは本物だ。

 さて、この勝負。どう決着をつけるべきだろうか――

というわけで、久しぶりの更新でした!

こ、これで執行猶予に……なりませんか、そうですか……


さて、更新と同時に、活動報告も更新しております。

明日に迫った書籍の情報と、キャラクターラフを載せているのでそちらもどうぞ!

11/19日の方の活動報告にも、主要キャラのラフが載っていますよ!

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