#91 蟻VSキノコ ②
お久しぶりです!
長らく更新が滞っていてごめんなさい……
とりあえず書籍化作業なども一段落したので、一時的に更新を再開です。
切りのいいところまでは、毎日or隔日ペースくらいで更新予定です。
というわけで、まずは八章のあらすじからどうぞ。
八章のあらすじ
アントたちの活躍により、呪われた英雄ガーランドを倒すことに成功したダンたち。
しかし、古参のサブマスターであるアーマイゼと、新しくサブマスターになったフェアリーマッシュは衝突を繰り返し、その関係は徐々に悪化していた。
彼女たちの間に致命的な亀裂が入ることを危惧したダンの提案により、先の戦いのストレスの発散を兼ねた勝負を行うことになった。
勝負を通じてお互いの理解を深めてほしいと考えるダンの思惑とは裏腹に、アーマイゼたちは来るべき決戦に向けて闘志を燃やすのだった。
『それではダン様、これで失礼させていただきます』
『おお、偉大なる神よ。必ずやあなたに勝利を捧げることを約束いたしますぞ!』
アーマイゼとフェアリーマッシュとの念話が切れたのを確認して、こっそりとため息をつく。
面倒なことになったが、タイミングが良かったとも言える。ダンジョンに侵入者たちがやってこないうちに、彼女たちの仲を取り持つことができればいいのだが。
とりあえず、妖精の里にいるフィーネとフロレーテを呼んで、勝負の内容とルールを決めてしまうとしよう。
「――というわけで、フィーネたちの知恵を貸してくれ」
「ふふーん! アタシに任せてよ!」
「わかりました、微力ですがお手伝いさせていただきます」
やってきたフィーネたちに事情を説明すると、快く頷いてくれた。
彼女たちも、アントたちとフェアリーマッシュの関係を何とかしたいと考えていたようだ。
「それじゃあ、まずはどんな勝負にするかだな」
「はいはーい! アタシにいいアイディアがあるよ! まずはお菓子作り対決に――」
「却下だ」
「ぶー!」
さっそく、意気揚々とフィーネが提案したが、とりあえず却下しておく。
フィーネから不満の声が上がるが、さすがに許可する訳にはいかない。
「そうですね。とりあえずは、ダンジョンの運営に関連するものでしょうか?」
「そうだな……あまり関係ないもので勝敗を競っても、アーマイゼたちは納得しないだろうからな」
「そうそう! アタシが伝えたかったのはそういうことなんだよ!」
うんうんと頷くフィーネだが、彼女がアントレディアたちからお手製のお菓子を貰っていることは既に知っている。
先ほど読んでいた報告書にも、フィーネと仲間の妖精たちが、工房のアントレディアにお菓子を貰っていたことがしっかりと記されていた。
フィーネの真意は置いておくとして、アーマイゼたちが競っているのは、ダンジョン内でどちらが役に立つかというものだ。
最低限の条件として、何かしらダンジョンに関わる要素である必要があるだろう。
となれば、選択する種目はある程度限られてくる。
「じゃあ、まずはこれとこれだね!」
「そうだな。アーマイゼたちが有利だが、仕方ないか」
フィーネたちと相談しながら、とりあえず二つの種目を決定する。
どちらもアント側が有利なものなのだが、このダンジョンの運営に必要不可欠な要素を含んでしまっている。
この二つなしで対決したところで、どちらも納得することはないだろう。
「そうですね。あとは――なんてどうでしょうか?」
「ふむ? 確かに分からなくもないが……できれば避けたいんだが――」
二つの種目が決定したところで、フロレーテがとある案を出した。
ダンジョンの運営に直接関係するとは言えないが、アーマイゼたちに全く関係しないというわけでもない。
案としては理解できなくもないのだが、内容的にはできれば避けたいものだった。
「ふふっ、でもきっと、これで全部解決しますよ?」
「うーん?」
そう言って微笑むフロレーテを見て、フィーネが首をひねる。
「……よし、それじゃあフロレーテの案も採用するとしよう」
フロレーテに何が見えているのかは分からないが、かなり自信があることだけは間違いないようだ。
それならば、彼女の案を採用してしまってもいいだろう。
少し、いや、かなり気が進まないのだが、本当にこれで解決するならば安いものだ。
その後もいくつかの案が出たが、特にこれというものもなく、最初に選んだ三つの勝負で競うことに決定した。
勝負ごとのルールもすぐに決まったので、さっそくアーマイゼたちに念話を送り、その内容を伝えておく。
両者とも、勝負の内容に異論はないようで、彼女たちはすぐに準備に取り掛かり始めたようだ。
最初に決まった二つの種目に関しては、不利であろうフェアリーマッシュたちが難色を示すかと思っていたのだが、自信に満ちた様子で心配する必要はないとの言葉が返ってきた。
どうやら彼らにも勝算があるようだ。
そして、特に何か異常が起こることもなく、準備期間として設けた一週間はあっという間に過ぎ去った。
◆
「それでは、これよりジャイアントアントとフェアリーマッシュによる対決を行う」
「審判はアタシとダンと女王様だよ!」
「皆さん、今日はよろしくお願いしますね。怪我の無いように、お互い頑張ってください」
「ダン! 早く! 早く始めようよ!」
テーブルの上に座り込んだフィーネは大量のお菓子を並べ、待ちきれないといった様子でモニターを眺めていた。
勝負はダンジョンの各所で行われる予定のため、審判役の俺たちは、コアルームからの観戦である。
アーマイゼとフェアリーマッシュの代表は、5階層にある大部屋でにらみ合っている。
「フォルミーカ、本当に参加しなくていいのか?」
『うーん、別に勝っても負けてもあんまり意味はないし……それに、ご主人も本当に勝ち負けを競わせたいわけでもないでしょ?』
「まあ、確かにそうなんだが――」
『それに、私は別にフェアリーマッシュたちが嫌いなわけでもないからね。同じダンジョンの仲間同士、仲良くやるのが一番だよ』
どうやらフォルミーカは、すでにこちらの考えを理解しているようである。
彼女はアーマイゼに勝負を任せ、勝負の行方を観戦するつもりのようだ。
ただ面倒なことを避けて、ゆっくりとサボりたいだけな気もするのだが、まあいいだろう。
「さて、基本的なルールの確認だ。各勝負の勝敗は、審判役の多数決によって決定する。相手への妨害行為は禁止。特に異論はないな?」
『もちろんです! 必ずや、私たちがダン様にとって一番であることを証明してみせましょう!』
『下等なアリごときが面白いことを言うではないか! 降参するならば今のうちだぞ?』
『それはこちらのセリフです! この勝負で私たちがあなたごときに負けることなどあり得ません!』
さっそく、アーマイゼとフェアリーマッシュが言い争いを始めてしまった。
彼女たちがこれ以上ヒートアップする前に、さっさと勝負を始めてしまうことにしよう。
「そこまでだ。それではさっそく最初の勝負と行こう。フィーネ、説明を頼む」
「任せて! えーっと、まずはダンジョン作成の勝負だよ! 制限時間は6時間で、その間にキューブ一つ分の領域を作ること!」
「ダンジョン運営の基本中の基本ですね。これなしでは何もできないでしょう」
フィーネがメモを読み上げ、勝負の内容を説明する。
最初は、ダンジョン作成の能力を競ってもらう。
このダンジョンの基本方針は今も変わっていない。ダンジョンの拡張に必要なDPを節約し、その分を戦力の強化に充てるというものである。
これなしでは、このダンジョンが今も存在していたかは怪しいところだろう。
『私たちの得意分野ですね。もはやこの勝負、貰ったも同然でしょう』
『やれやれ、もう吾輩たちに勝ったつもりでいるのか?』
『当然です! 満足に穴を掘ることすらできない貴方たちに負ける要素など、万に一つもありません!』
『それはどうかな? 出でよ! 忠実なる我がしもべたちよ!』
フェアリーマッシュがそう叫ぶと地面が盛り上がり、茶色い何かが現れる。
現れたのは――ダンジョンの隣に住むキングモールのヴルフレッドと、その子供であるベビーモールたちだった。
『貴方たち! まさか裏切ったのですか!?』
『フハハハハハハ! これが人望の差というものよ!』
『そんな、いったいどうして……』
アーマイゼの視線を避けるように、気まずそうに顔をそらすヴルフレッド。
高笑いを上げるフェアリーマッシュにつき従うかのように、ベビーモールたちがその周囲を取り囲む。
一見すると、フェアリーマッシュが彼らを手懐けているようにも見えるが、どこか様子がおかしい。
フェアリーマッシュを見つめるベビーモールたちの目、それはまるで――
『フハ、フハハハハハハハ!』
「「「チー!」」」
『や、やめろ! 吾輩をかじるんじゃない! キノコならさっきやったばかり――ぬおおおぉ!?』
そう、フェアリーマッシュを見つめるベビーモールたちの目は、獲物を前にした捕食者のものだった。
体のあちこちに噛みつかれたフェアリーマッシュが慌てて胞子を振りまき、周囲にカラフルなキノコを生やすと、ベビーモールたちは我先にとキノコへ飛びつく。
食欲旺盛な小さな捕食者から逃れたフェアリーマッシュは、よたよたとその場から脱出するとヴルフレッドの影に隠れる。
『フ、フハ、フハハ……さすがは我がしもべ……お、恐るべき獰猛さよ……ぐふぅ……』
どうやら、フェアリーマッシュが彼らを味方につけたのは、その人望によるものではなかったようだ。
一心不乱にキノコを食べるベビーモールたちの様子を見るに、あのキノコはかなり美味しいのだろう。
おそらく、フェアリーマッシュがベビーモールたちを食料で懐柔し、子供たちにねだられてしまったヴルフレッドがフェアリーマッシュに味方した――といったところだろう。
その場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなったフェアリーマッシュを、ヴルフレッドがどこか呆れたような眼差しで見つめていた。
「ダン、あれって反則じゃないの?」
「ふむ。確かにそう言われると厳しいところがあるな」
フィーネがジャイアントモールたちを指さしながら、そう指摘する。
確かに、彼らは普段フェアリーマッシュたちに協力するモンスターであるどころか、ダンジョンに所属するモンスターではない。反則と言われても、仕方がないようにも思える。
しかし、ジャイアントモールたちがダンジョンの作成を手伝ってくれているのも、また事実である。
そもそも、最終的にお互いに仲良くなることが、この勝負の目的なのだ。
ジャイアントモールたちとフェアリーマッシュが協力するという状況に、わざわざ水を差す必要もあるまい。
「いや、セーフということにしておこうか。今回は勝負させることが目的だしな」
「そうですね。ルールで禁止と決められていたわけでもありません」
「じゃあセーフで!」
「よし、ちょうどフェアリーマッシュも復活したみたいだな」
こちらの意見がまとまったところで、ちょうどフェアリーマッシュが復活したようだ。
これ以上グダグダな状況になる前に、さっさと勝負を始めてしまうとしよう。
お互いの人員が所定の位置についたのを確認し、合図を出す。
「よし、それでは――始め!」
『勝つのは私たちです! 皆の者、行きなさい!』
『おお、神よ。吾輩たちの活躍をご覧くだされ! 行くのだしもべたちよ!』
そして、ジャイアントアントとフェアリーマッシュ、そしてジャイアントモールを交えた、最初の勝負が始まった。