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閑話 黒騎士と呪い

ちょっと寄り道して、ダンジョン内に入ってからの黒騎士のお話です。

次回からは、またダンジョン側のお話に戻ります。


地の文100%&ちょっと短めなのでご注意を!

 土で作られた巨大な迷路の中を、鎧の軋むような音を響かせながら騎士は進む。その体に纏わりつくのは、闇を切りだしたような黒い泥だ。黒い泥――寄り集まり、形を作り、騎士を蝕む呪いが蠢く。

 騎士に憑りつきその肉と精神に根を張り巡らせた呪いは騎士の精神を追い詰め、その力を啜り取る。

 徐々に肥大化していく呪いはその影響力を強め、依代である騎士を支配しようと痛み、苦しみ、憎しみ、悲しみ――寄り集まった呪いの原因となったありとあらゆる苦痛を与え続ける。

 その全てを、常人ではありえないほどの精神力で強引に押さえつけ、己の体の主導権を渡すまいと騎士は抵抗を続ける。


 騎士の名はガーランド、かつて英雄の座へと至り、復讐によって身を滅ぼした過去の英雄である。だが、呪いに蝕まれた彼は、自らの名前すら覚えていなかった。たった一つだけ騎士が覚えていたのは、人々を脅威から守るという約束だけだ。

 いつ、誰と交わしたかすらわからない約束だが、それだけが騎士の精神を支えていた。永い眠りから目覚めた彼は、その約束だけを支えに世界を巡り、このダンジョンへと辿り着いた。


 最初に戦ったのは、町へと向かう魔物の群れだった。

 目覚めたばかりで、混乱していた騎士だったが、約束を守らんとたった一人で魔物の群れへと相対し、その全てを切り倒した。

 住処を追われ、飢えに支配されていた魔物たちから生まれた呪いは、ただ一人その場にいた騎士へと集まる。普段ならその場で霧散するはずの呪いたちは、既にその体を蝕んでいた呪いと合わさり騎士の体へと纏わりついた。

 哀しげに吠える竜を、恐怖に支配された盗賊たちを――戦いを続ければ続ける程、騎士を蝕む呪いはその力を増し、その精神を消耗させていく。

 普通の生物ならばたちどころに死に至るような膨大な呪いをその身に宿しながらも、かつてその名を馳せ不死身の力を手にした騎士は死ぬことすらできなかった。


『黒軍の大穴』にやって来た時、呪いに耐え続ける騎士の精神は既に限界を迎えていた。その意識はまるで夢の中のようにぼんやりと、周囲の認識もおぼろげなものとなっていた。

 かつて鍛え上げたその技も、混濁した意識では満足に使うこともできず、英雄としての強大な力も、呪いに蝕まれ体では万全に発揮することなどできそうにもない。それでもなお、何かに突き動かされるように騎士は歩き続ける。


 土の迷路を進む騎士の前に現れたのは、鎧を纏いその手に武器を取った影。ダンジョンマスターの支配の元で、ダンジョンを守る蟻のモンスターたち。

 騎士はぼんやりと彼女たちの視線を感じながらも、その歩みを止めることは無い。彼の眼には、正面で武器を構えるモンスターが、人間の兵士であるかのように見えていた。

 どこか怯えたような感情を見せるその兵士たちを見て、騎士に纏わりつく呪いが歓喜の声を上げる。早く奴らを襲え――そう喚き散らす呪いを押さえつける騎士へと、兵士たちから矢が放たれた。

 射かけられた矢の次に、騎士の体を燃え盛る灼熱の炎が包み込む。しかし、その程度では不死身とまで言われた騎士を倒すことなどできない。

 自らの体を焼く炎の熱を感じながら、騎士はなぜ自分が攻撃されているのかと疑問を覚えていた。

 ぼんやりとした意識の中、その理由を考える騎士。締め付けられるような胸の痛みと共に、何かを思い出しそうになった騎士だったが、その何かは騎士の体に纏わりつく呪いの上げる怨嗟の声にかき消される。


 やめてくれ――そう兵士たちに声をかける騎士だが、その声は兵士たちには届いていないようであった。燃え上がる炎を、飛来する岩を防ぎながら、騎士は兵士を止めて事情を聞きだそうと近づく。

 兵士の元へと近づく騎士だが、その胸元へと鋭い突きが放たれる。さらにそれに続くように、次々と振るわれる武器。もう一度兵士へと声をかける騎士だったが、やはりその声は届かない。

 やむなく応戦する騎士の耳に、兵士たちのリーダーの声が届く。聞きなれないその言葉と共に撤退していく兵士たち。その後ろ姿を見送った騎士は、どこか違和感を感じつつも土の迷路を再び歩き始める。


 騎士が兵士を見送ってからしばらく――その体に纏わりつく呪いが暴れ始めた。極上の獲物を前にしておきながら、それを口にする機会を奪われた呪いは、騎士の体の主導権を奪い取ろうと蠢く。

 自らの精神を追い詰めようとする呪いを引きはがそうともがく騎士だが、その程度で呪いが剥がれることは無い。呪いは徐々にその精神を削り、その意識を奥底へと追いやっていく。

 そしてついに――長い間蝕まれ続け、疲弊していた騎士の精神が封じ込められ、呪いがその主導権を奪い取った。


 騎士の体を奪い取った呪いは、すぐに獲物を探して歩きまわる。そしてついに――ダンジョン内を探索する冒険者の一団と遭遇した。

 多様な感情と強靭な精神力を持つ極上の獲物を見つけ、舌なめずりをした呪いは騎士の体を動かして冒険者たちの元へと迫る。そして、まず一人――頭を掴んだ冒険者の元に我先にと呪いが押し寄せ、その命を奪い取った。

 呪いが抜け殻となった冒険者の死体を放り捨てると、その仲間たちが呪いに向けて攻撃を始める。だが、その程度の攻撃では、騎士の体を依代とする呪いを止めることなどできない。二人目、三人目、最後に神官の女を物言わぬ屍に変えると、呪いは自らの糧となる新しい獲物を探して彷徨い始める。


 さらにダンジョン内を探索していた、もう一つの冒険者たちのパーティーの命を食い尽くしたところで、押し込められていた騎士の精神が獲物に夢中になっていた呪いの隙を突いて、その体を奪い返した。

 極上の獲物を手に入れて歓喜していた呪いは不満げに蠢いたが、既に幾らかの命を食らった後ということもあり、無理に騎士を押しのけてまでもその体を奪い取ろうとはしなかった。

 呪いはまたもや騎士に纏わりつくと、その精神にありとあらゆる苦痛を与え始める。


 主導権を取り返した騎士の視界に入ったのは、真っ黒に染まった死体。

 呪いが体の支配権を奪っていた時の出来事は、騎士の記憶には残されてはいない。騎士が理解できたのは、気が付いたとき、近くに死体が転がっていたことだけだ。

 何故、そこに死体があるのかは分からないが、そのまま地面に放っておくわけにもいかない。そう判断した騎士は、耳障りな笑い声を響かせる呪いを不快に感じながらも、手頃な場所に死体を埋葬した。

 死者に祈りを捧げ、歩みを進める騎士の前に、またもやあの兵士たちが現れる。騎士に向けて攻撃を繰り返す兵士たち――その理由が理解できないまま、騎士はゆっくりとその後をついていく。


 兵士たちの後を追いかけ、辿り着いた先でぶつけられた何か。そこからまき散らされる液体を浴びた呪いが泡立ち、苦しみの声を上げながらのたうち回る。

 呪いが剥がれ落ち、その力と影響力を弱めるにつれ、呪いに蝕まれていた騎士の意識が徐々にはっきりとしたものへと戻っていく。

 騎士は周囲の状況を認識できるようになると同時に、自分の周囲を囲んでいたものは兵士ではなくただのモンスターだったことに気が付く。


 未だにその体を蝕む呪いの全てが消えたわけではない。騎士の奥深くにまで根を張り巡らせた呪いは、そう簡単に消えるものでもない。

 ここはいったいどこなのか、自分はここで何をしていたのか、そして足元でのたうち回る黒い泥は――いくつもの疑問が騎士の頭を駆け巡るが、それに答えるものもどこにもいない。


 自分の置かれた状況の整理が追い付かないままに、飛来する何かを騎士は視界に捕らえた。

 まずは相手を追い払ってから考える。そう判断した騎士は、大地を蹴り加速した――

という訳で黒騎士側のお話でした。

彼の過去については、閑話で出てくるかも……しれません。


それともう一つ!

昨日の深夜ですが、ついにレビューがもらえました! 連載開始からおよそ四ヶ月、初めてのレビューですね!

この場を借りてもう一度お礼を言わせてもらいます。本当にありがとうございます!

これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします!

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