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#77 妖精と休日 前編

 さっそくダンジョンの状態のチェックを済ませていく。

 ダンジョンの階層数は全19階層、そろそろ20階層へと到達しそうだ。

 ここ最近DPの消費が激しいが、必要としていた資料も十分な数を集め終わり、装備の開発もようやく一段落がついた。

 装備の開発に関してはこれからも多少のコストを消費することにはなるが、何事もなければ今後は貯蓄に回す余裕も出てくるだろう。


 階層内をざっと見てみるが、改良した植物が異常にその勢力を広げていたりということもない。

 品種改良によって知能を獲得したフェアリーマッシュによる事件が解決してから、まだ一ヶ月半程度しか経過していない。同じように品種改良によって作られた他の植物が、フェアリーマッシュのようにならないかを警戒しているのだが、どうやら彼らは相当なレアケースだったようだ。

 最近では定期的に地下に根を広げていないかもチェックしているので、おそらく大丈夫だとは思うのだが、何度も見過ごしてしまうわけにもいかない。


 下層から順にチェックしていき、最後に一階層へと目を向けると、既に数人の冒険者がダンジョン内で活動していた。

 まだ明け方であるせいか、冒険者の数はまばらといったところだ。もうしばらくすれば、町から多くの冒険者たちがやって来ることになる。

 最近ではダンジョン内にやってくる冒険者も増え、アントレディアたちが戦う回数も少しずつだが増えている。ネームドモンスターを作る計画がうまくいけばいいのだが、そちらは今後に期待するとしよう。


「うーん……」

「おっと、そろそろフィーネが起きる頃か」


 フィーネのベッドの方へと目を向けると、ベッドの上にできた布団の山がもぞもぞと動いている。やがて、その中から眠そうな顔をしたフィーネが這い出してきた。


「おはようフィーネ」

「うん……おはよー……」


 とろんとした目をこすりながら挨拶をするフィーネだが、かなり眠そうだ。また夢の世界に旅立たないうちに、残りの作業を終わらせてしまおう。


 ……今日もダンジョンには異常はないようだ。このまま何も起こらなければいいのだが。


 フィーネは――ベッドの上でうつらうつらと舟をこいでいる。もう半分意識が飛びかけているようだ。

 せっかく朝の仕事を早めに終わらせたのだ。このままゆっくりと二度寝するのもいいものだが、それでは少しもったいない。今日は昨日の分も合わせてフィーネと遊んでやりたいところだ。


「ほらフィーネ、そのままもう一度寝るつもりか?」


 寝ぼけ眼でうとうとしているフィーネに声をかける。しばらくすると、ようやく眠気が取れ始めたのか、ふわりとベッドの上から飛び立ちこちらへとやってきた。


「ダン! おはよう!」

「ああ、おはようフィーネ」

「今日もダンは本を読むの? それなら邪魔にならないように別の場所に行くけど……」

「いや、今日は夕方までは何も予定はないぞ。フィーネさえよければ、一緒に何かしてもいいんだが――」

「ホント!?」


 俺の用事が無いことを聞くやいなや、フィーネが輝かんばかりの笑顔を浮かべる。やはり、昨日かまってやれなかったことが少し寂しかったのかもしれないな。


「昨日は何もできなかったからな。今日は半日の間ゆっくりできるぞ」

「じゃあ、まずは里の方に行こうよ! 今日はアタシが案内してあげる!」


 ご機嫌な様子のフィーネに連れられ、妖精の里の方へと向かう。

 そう言えば、何か用事があって里に向かったことは何度もあるのだが、こうして何も用事が無い状態で向かうことはほとんどなかった。

 今日は道案内はフィーネに任せ、のんびりと里の内部を見て回るのもいいかもしれないな。


 コアルームを抜けた先にある森に入ると、どこからか花のような甘い香りが漂ってくる。

 生い茂る木々の下に広がる茂みには、ちらほらと品種改良で作られた植物が見えている。そのうち、森の中の植物の分布も変わっていくことになるだろう。

 新しい大樹を植えてから、心なしか森の活力が増したようにも感じる。妖精たちも元気を取り戻したようで何よりだ。


「ダン! まずはあっちに行こう!」

「ああ、今行くよ」


 フィーネが指さす方向は――確か花畑があった場所のはずだ。最近では新しい種類の植物が増えているらしい。

 どうなっているのかは気になるが、せっかくフィーネが案内してくれるのだ。モニターで先に確かめるような無粋な真似はやめておこう。


 フィーネの後を追いながら森の中を歩いていく。

 森の中であるせいか、ダンジョンの内部に比べて空気が澄んでいるような気がするな。最近はいろいろと忙しかったのだが、森を歩くうちに少しだけ疲労が回復したような気がする。


「ダン! そろそろ着くよ!」

「甘い匂いがだんだん強くなってきたな」

「ふふーん! この先を見たら絶対に驚くよ!」

「なるほど、それは楽しみだな。この向こうに何があるのかな?」


 森を作った際に、フィーネを案内しながら花畑に向かったことはあったが、その時はここまで甘い匂いを放ってはいなかったはずだ。

 生い茂る木々の合間を進んでいくと森が途切れ、木々に囲まれた花畑が目の前へと現れる。


「これは――」

「見て見て! すごいでしょ!」

「そうだな、まるで絵本の中みたいだな」


 目の前に広がっているのは色とりどりの花が咲き誇る花畑――だが、ただの花畑ではない。

 花畑の至る所に生えている植物なのだが、色とりどりの飴玉やグミ、ふわふわとした綿あめのような実を付けた植物などその大半がお菓子に似た性質を持ったものばかりだ。

 もし名前を付けるならばお菓子の花畑だろうか? 絵本の中から飛び出してきたと言われても不思議ではない光景が広がっていた。

 花畑の中では、既に何人かの妖精たちがお菓子を食べてはその顔を蕩けさせている。どうやら味も彼女たちが満足できるもののようだ。


 妖精たちには、指定した植物の改良を行ってもらう際、事前に提示したDPが余った場合は、そのいくばくかを自由に使わせている。

 大抵はほとんど残ることもなく、支払われるのもお駄賃程度のほんの僅かなものなのだが、それを使って品種改良を重ね、このお菓子の花畑を作ったのだろう。

 同じく装備開発を行っているアントレディアたちにも、開発時に余ったDPのいくらかを自由に使わせている。

 妖精とは違い、こちらは更なる開発のためにDPをつぎ込み、余った端材で妖精用のおもちゃや衣装などを作っている。妖精に合わせたミニチュアサイズの物を作ることで、細工などの技術も上達しているようだ。


 一度自分たちのために使ったりしないのかを聞いてみたのだが、物を作ったり、完成した物で喜ぶ顔を見るのが楽しいとのことだ。

 工房に所属している彼女たちは暇さえあれば何かを作っているようだが、それで満足しているのならそのままでもいいだろう。


「ほらダン! こっちこっち!」


 その場で花畑を見つめていると、待ちきれないといった様子のフィーネに急かされてしまった。さっそく花畑の中へと向かおうとしたのだが、その手前で足が止まる。


「あれ? どうしたの?」

「せっかくきれいな花畑なのに、それを踏んでしまうのもどうかと思ってな。せっかくフィーネたちが作った花畑なんだ。あまり踏み荒らしたくはないな」


 俺の足が止まったのに気が付き、フィーネが不思議そうな顔をする。

 せっかく妖精たちが作った花畑なのだ、そこに咲く花を踏んでしまうのは少しためらわれた。

 彼女たちのように体重が非常に軽かったり、空を飛べたりすればいいのだが、そのどちらも難しい。


「それなら、アタシが取ってきてあげる! 何か欲しいものはある?」

「じゃあそこで待ってるよ。フィーネのお勧めで頼む」

「任せて! ちょっと待っててね!」


 花畑の中へと飛んでいくフィーネを見送りながら、近場にあった倒木へと腰掛ける。

 脆くなっているかもしれないと恐る恐る腰かけてみたのだが、崩れてしまうということもなくしっかりと椅子の代わりになってくれた。

 表面をコケに覆われた倒木からは、いくつかの木の芽が伸び始めている。これらの倒れた木々も、じきに新しい植物の糧として森を作っていくのだろう。


 そんなことを考えていると、他の妖精を連れたフィーネがこちらへと戻ってくる。彼女たちがその腕に抱えているのは、さまざまな見た目のお菓子だ。

 どうやらフィーネだけではなく、他の妖精たちもお菓子を持ってきてくれたらしい。


「ダン! 持ってきたよ!」

「ありがとうな、じゃあ一緒に食べようか」

「うん!」


 まず渡されたのは、小さく丸い赤色の実だ。

 表面の皮を剥いて食べるのだとフィーネが教えてくれたのでさっそく赤い皮を剥いてみると、つるりと簡単に剥けた皮の中からうっすらと赤く染まった半透明の中身が現れる。

 口の中に入れてみると、イチゴに似た味がする。イチゴ味の飴玉といったところだろう。

 妖精に合わせた大きさなので量は少ないのだが、味に関しては本物の飴と比べても問題はなさそうだ。


 次に別の妖精に渡されたのは、ふわふわとした質感の茶色い実。

 口に入れるとカステラのような風味が広がる。中に小さな種があるのだが、それ以外は焼き菓子そのものと言ってもよさそうだ。種も食べられるようで、試しに噛み砕いてみるとメープルシロップに似た味がする。

 こちらは先ほどの飴玉よりは大きいが、それでも一口サイズなので食べやすくもあり、少々物足りなくもあるな。


 次に渡されたのは、まるでウツボカズラのような形をした植物だ。ツルの中が空洞になっているため、ストロー代わりに使えるとのことである。

 中に溜まった液体なのだが、記憶が正しければこれは捕まえた生物を消化するための消化液なのでは――元になる知識は別の世界のものだが、見た目が非常に似ているのでどことなく不安を感じてしまう。


「あれ? どうかしたの?」

「……いや、なんでもない」


 ウツボカズラをまじまじと眺めていると、一回り小さなものにストローを差し込んでいたフィーネがこちらを見上げていた。


 ……まあ物は試しだ。そこまで危険なものは出てこないだろう。

 蓋のような部分が閉じたままなので、手で持ちあげると簡単に開く。中の液体へとストロー状のツルを差し込み、一口飲んでみる。

 中に溜まっていた液体は、ほんのり甘くそれでいて僅かな酸味を感じるジュースだった。さっぱりとしてあまり後を引かないので、いくらでも飲めそうだ。口の中が溶けたりもしないのでひとまず大丈夫だろう。


 その後も妖精たちがお勧めしてくれるお菓子を受け取っていく。

 ごく稀にイタズラ用なのか口の中でいきなり弾けたり、甘そうな匂いとは裏腹にとてつもなく酸っぱい実が混ざっていたりしたが、それはそれでなかなか面白いお菓子だった。


「じゃあそろそろ次の場所に行こう!」

「そうだな。次はどこに案内してくれるんだ?」

「それは着いてからのお楽しみだね!」


 十分お菓子を堪能したところで、次の目的地へと向かうようだ。ニコニコと笑顔のフィーネを先頭にして、花畑にいた妖精たちと一緒に森の中を進む。

 思い付きで半日休むことにしたが、思った以上に楽しい体験ができそうだ。さて、次はどこへ案内してくれるのだろうか?

一話にするつもりが予想以上に長くなりました。

たぶん後編でこのお話は終わるはずです!

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