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#75 ネームドモンスター

 人工的な英雄の製造に関する研究書を棚に戻し、次に取り出したのは神についての考察を記した200年ほど前の禁書だ。

 禁書と言っても、何かしらの魔法が掛かっているわけではない。禁書の中にはそういうものも存在しているようだが、こちらは単に宗教的な理由で禁書とされたものである。


 禁書の目次には、当時存在しているとされていた神の名前が並んでいる。中には創世神やエルフたちが信仰していると伝えられるハイエルフ、さらには以前俺たちが戦うことになった炎竜王の名前などもあった。

 世界中にその名が知られている有名なものから、各地で信仰される土着の神々などまでを含めると、多くの神々がこの世界には存在しているようだ。中でも農耕や狩猟に関係する神がその大部分を占めていた。


 一番最初に書かれているのは創世神だ。聖国が奉る神であり、人族の大半が信仰している神でもある。もっとも有名な神であるだけあって、創世神について書かれているのは分厚い本の1/10にも及んでいる。

 世界や生物を作った、その配下として12柱の神を作った、人間に知恵を与えたなどの神話がずらりと並び、それら一つ一つに研究者による考察が当てられている。その中でも間違いないとされているのは、神託により近い将来に発生する危機を伝えること、勇者の召喚方法を人族に与えたこと、そして信仰することにより、神聖魔法と呼ばれる魔法を授けるということだった。

 その姿を実際に見たものはおらず、神々が直接降臨して人目に触れるようなこの世界の中では、もっとも有名でありながら、最も謎に包まれた神でもあると締めくくられていた。


 その後も、気になった神についての話を流し読みしていく。

 神の怒りに触れた町が一夜にして消滅した、祈りを捧げると日照り続きだった地域に雨が降ったなどの話が続く。中には人から神へと至った者や、モンスターでありながら神の一種であるとされた炎竜王のような存在、神性を有する植物や武器の話なども書かれている。

 目的の項目ではないため、流し読みになってしまったが、時間があるときに一度ゆっくり読んでみるとしよう。


 本の後半に書かれている内容――神という存在についての考察こそが今回の目的だ。先ほどの研究書に書かれていたように、信者の数に応じて変動する神の特性とその正体について述べられたものである。

 同じ神でも時代によってその特性が変化していること、存在する神の数に対して農耕や狩猟に関係する神の数が圧倒的に多いことを手掛かりに、神の正体を探ろうとしたようだ。

 最終的な結論は、生物や概念のようなものが、一定数の信仰を捧げられることによりそれに応じた形の神になるのではないかというものだった。

 先ほど読んだ人造英雄に関する研究書と照らし合わせると、確かに違和感が無いようにも思える。しかし、実際に神が存在するようなこの世界でこのような研究を世に出してしまえばどうなるか――その結果が禁書扱いという現状なのだろう。


 神の性質に関する考察で気になったのは、信仰が薄れたり神に対する印象が変化することによってその性質を変化させていくことだった。

 何かしらの宗教の勢力圏へと取り込まれ土着の神が悪であると定義されてしまうと、それらの神の性質が変化し、今まで善良であったはずの神が邪悪な存在へと変化するのだ。

 それらの神が本当に邪悪な存在であったという可能性もあるが、あまりにもその数が多すぎる。信仰によってその性質が変化するのはまず間違いないと見てもいいのではないだろうか。

 もしもその信仰によって性質が変化すると考えれば、いくつかの仮説が浮かぶ。


 例えば、このダンジョンには世界樹の枝を成長させたものが何本か存在している。しかし、そこから採れる枝や樹液といった物の効果は、世界樹本体から直接手に入れられる物と比べると遥かに劣っている。

 その原因としては、木が完全に成長しきっていないことなども考えられる。だが、世界樹に対する信仰が存在し、エルフたちが守っている樹木こそが世界樹であると考えられていたとすれば、こちらにはその信仰は届かない。

 このダンジョンに存在しているのは世界樹と同じ種類の樹木ではあるが、神性と呼べるものを有していないということも考えられるのではないだろうか? 単なる仮説でしかないが、可能性としてはあり得る話だろう。何か確かめられるような方法があればいいのだが――


 信仰と言えば、フェアリーマッシュやジャイアントアントから信仰に近い感情を向けられている。

 もしも本の内容が事実であるならば、いつか俺も神になったりするのだろうか? 全体の数で見れば、地上に住む人類よりはずっと少ないが、将来的にはかなりの数になるだろう。十分な量の信仰を集めることもあるかもしれない。

 その場合はどういった存在になるのだろうか? キノコや蟻の神――あまり凄そうなイメージはないな……


 フェアリーマッシュが樹海の各地に作っているキノコの像を思い浮かべながらそんなことを考えていると、フィーネが戻ってきた。どうやら本を読むうちにかなりの時間が経っていたようだ。


「ダン、ただいま!」

「おかえり、フィーネ……もうこんな時間になっていたのか」

「今日はずっと本を読んでたの?」

「そうだな、朝からずっと読書漬けだったな……いろいろと有益な情報も手に入ったぞ」


 フィーネの話を聞いたり、アーマイゼやシュバルツからの報告を聞いていた時間以外は、ずっと本を読んでいたということになる。伸びをすると、首や背中がパキパキと小気味よい音を立てた。

 時間を考えると、読める本は後一冊というところか。最後に読むのは、ネームドモンスターの発生についての研究レポートだ。

 フィーネが頭の上に乗り一緒に読もうとしているようだが、残念ながら読んで面白いようなものではないだろう。朝も同じように一緒に本を読んでいたのだが、飽きてしまったのか仲間の元へと遊びに行ってしまったのだ。


「一緒に読むのか? 先に寝ててもいいんだぞ?」

「うーん……これで最後みたいだから一緒に読もう!」


 どうやら先に寝るつもりはないようだ。そこまで長いものでもないようなので、一緒に読んでしまうのもいいだろう。


 このレポートではネームドモンスターと呼ばれるものの発生原因について記しているようだ。

 現時点ではネームドモンスターはダンジョンコアの機能でしか作ることができてはいない。だが、発生の原理が分かればそれ以外でもネームドモンスターを生み出すことができるかもしれない。


 ダンジョン外に生息するネームドモンスターだが、同種のモンスターと比較した場合、戦闘能力やその特性が高くなっている傾向がある。中には数倍以上の力を発揮するようなモンスターも確認されているそうだ。

 その戦闘力以外の特徴としては、大きさであったりどこかに古傷が残っていたりと他のモンスターと区別がつきやすいというものがある。そこに着目した研究者は、条件に合致するモンスターの情報を手に入れるたびに現地へと向かい、それらモンスターを観察し続けたようだ。


 フィールドワークと呼ぶような手法だが、かなり地道な作業だ。

 モンスターの生息域では危険も多く、観察対象や他のモンスターに襲われることも何度もあったようだ。観察対象が狩られてしまい、それまでの観察が無駄になった物も多々あったらしい。

 しかし、彼は長年の研究によるデータの積み重ねにより、ある程度の傾向を見つけることに成功した。


 ネームドモンスターに至るのは、その地域である程度その存在の知られたモンスターであることが多い。

 特に、危険なモンスターがその生息域から移動した場合、その目撃情報が周辺地域へと広がっていく。ある程度の期間が経過すると、それらのモンスターは大抵ネームドモンスターへと変化する。

 それ以前には、その種族の平均的な能力の個体でもネームドモンスターになっているものも多い。つまり、その強さが関係しているという訳ではないのだろう。


 また、知能が高いモンスターの生息域には、ネームドモンスターが含まれている可能性が高い。

 ゴブリンやオーク、コボルトなどの道具を扱い、群れの内部で複雑に役割が分かれるようなモンスターの場合、ある程度の規模の群れが生息している場所には、大抵ネームドモンスターになっている何かが生息している。

 ただの偶然という可能性はもちろんある。その関連性を確実なものとするならば、途方もない数の検証を重ねる必要があるだろう。

 残念ながらここで研究は終わってしまったようで、このレポートからそれらの確証を得ることはできない。しかし、人工の英雄に関する研究の成果を考えると、ネームドモンスターが発生する条件と英雄の発生する条件は似通っているようにも思われる。


 ネームドモンスターとは、モンスター版の英雄とでも呼ぶべきものなのではないだろうか? 知能が高いモンスターの生息域にネームドモンスターが多いのは、彼らが天敵となるモンスターを区別する際に独自に名前を付けているのかもしれない。

 こちらは検証する方法はいくつかありそうだ。何かしらの目印のようなものを作り、名前の無いアントたちを区別できるようにする。その後は冒険者と戦わせてみたり、ダンジョン内のアントたちにその存在を知られるようになれば、何かしらの変化があるかもしれない。

 すぐに結果は出ないだろうが、そこまで手間のかかるものではない。まずはアントレディアたちを使って試してみるとしよう。


「フィーネ、もう読み終わったけど――っと、もう寝てるのか」


 レポートを読み終えたのだが、頭の上にいるフィーネは既に寝息を立てていた。やはり、この手の話は退屈だったようだ。フィーネを起こしてしまわないように、彼女のベッドへ連れて行くとそっと毛布を掛けてやる。

 今日はずっとこれらの本を読んでいたため、あまりフィーネにかまってやることができなかった。一緒に本を読むと言っていたのも、かまってもらえずに寂しかったからなのかもしれないな。

 既に手に入れた書籍の殆どを読み終えている。明日くらいはじっくり遊んでやるのも悪くないかもしれないな。

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