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#74 英雄の条件

大変お待たせしました!

ついにこのお話も100話目ですね!…100話だといったら100話なんです!

これからも本作をよろしくお願いします!

 ぺらりぺらりと、本のページをめくる音が静かに響く。

 俺の手元にあるのは、昔の英雄について書き記した民話である。今読んでいるのは、数百年前に王国で活躍した不死身の騎士についての話だ。

 すぐ近くに置かれた本棚には、DPを使って手に入れた、英雄や勇者に関する情報を記した民話や伝記、他にも歴史書やそれらを分析したどこかの学者の研究書なども収められている。

 ある程度の常識と呼べるような知識は、ダンジョンコアを通じて手に入れることができていた。その他の情報はショップで手に入る書籍によって手に入れる必要があったのだが、非常に広範囲にわたるため、なかなか一つに絞れなかった。

 新しい知識に関する物品はそこそこ費用が高くつくため、必要なもの以外は避けていたのだが、今はそうは言っていられない状況だ。


 エルフたちとの話し合いによって、今まで戦っていた相手が人間としては上位の領域に属するものであると知ることができた。これよりも上となれば今読んでいる本に出てくるような、人間としての限界を超えた相手になる。

 特に、勇者はその召喚時に出現したダンジョンを順に攻略しているとも聞いている。そして、その中にはこのダンジョンも含まれている。もしかすると、今すぐにでも勇者がやって来るという可能性も捨てきれない。

 準備しても、結局やって来ることは無かったという可能性もあるが、勇者にまつわる伝説を知った今ではさすがに楽観視はできない。


 お伽噺の中には脚色ももちろんあるのだろうが、歴史書と照らし合わせると実際に起こった出来事に合致するものも多々存在する。

 となれば、これらの物語に描かれている、一見信じられないような英雄の偉業もまた、実際になされたことも含まれている可能性は高い。

 ダンジョンコアを通じて手に入れられるのは100年以上昔の書籍ばかりのため、現在はどのような相手が地上にいるのかは分からない。しかし、過去の英雄に関する情報から、その攻略の手掛かりを探すことはできる。


『主様、定期報告のお時間です』


 丁度、騎士についての話を読み終えたところで、シュバルツから念話が届く。どうやらもう定期報告の時間になっていたようだ。


「ああ、丁度今読んでいる話も終わったところだ。さっそく聞かせてもらおう」

『かしこまりました。ではまずは本日の被害状況から――』


 最近はダンジョンにやってくる冒険者の数が以前にもまして増えている。彼らの主な目的は、ジャイアントアントの素材であったり、アントレディアたちに持たせた魔剣であったりするようだ。

 特に、ミスリルやオリハルコンで出来た武器は、冒険者の持つものよりも性能としては若干高い。一度運よく手に入れた冒険者の様子を見たが、魔剣を掲げて歓喜している様子が見て取れた。

 こちらとしては、生産に多少のコストはかかるものの、そこまで大きな価値があるものであるとは言えない。ミスリルとそれを鍛える時間、そして世界樹の樹液さえあれば量産できるのだ。

 現在は、アントレディアたちに実戦経験を積ませることを最優先としている。ならば、このまま冒険者をおびき寄せる餌として使うのも悪くはないかもしれない。


 しかし……今日の戦いでも、アントレディア数体を含む、結構な数のモンスターが冒険者たちに倒されてしまっているようだ。

 魔剣は持ち去られたとしても、また作り直すこともできる。だが、こちらはアーマイゼたちによってその数を補充できたとしても、死んだアントたちが蘇生することは無い。

 敵の技量を確かめるために最初に衝突するアントたちはもちろんだが、アントレディアたちも、戦闘に参加する数を調整して戦っているようで、相手によっては犠牲が出てしまう。

 シュバルツによれば、冒険者と相対させるアントレディアの数はこちらが若干有利になる程度に絞っているとのことだ。圧倒的に有利な状況で戦わせるよりも、ある程度手こずるような戦いの方が得るものは大きいと判断したらしい。


 常に危険が付きまとうような戦いをすれば、より多くの犠牲が出ることになる。だが、数を活かして押しつぶすような戦いばかりでは、なかなか個々の技量は成長しにくい。

 出し惜しみをしてほとんど成長することができず、強大な力を持つ相手がやって来た時に歯が立たなければ、結果としてさらに多くの犠牲が出ることにもなる。

 冒険者との戦いで主に犠牲になるのは、下層での訓練を終えたばかりで実戦経験の少ないアントレディアたちだ。

 何度も実戦経験を積み重ねたアントレディアは、多少の怪我をすることはあれど、そう簡単に倒されることは無い。そう考えれば、シュバルツの思惑通りに順調に経験の蓄積はできているということだ。

 もちろん、全滅してしまえばそれまでの経験は失われてしまう。近くに他のアントレディアを配置したり、多くの犠牲が出そうな相手は避けているのだが、それでも犠牲がゼロになることは無い。


『――報告は以上となります』

「報告は受け取った。いつも助かるよ。何か困ったことや悩みなんかは無いか?」

『……いえ、何もありません』

「……そうか。何かあればいつでも相談してくれ」

『かしこまりました。それではこれで失礼します』


 シュバルツの報告が終わり、念話が切れた。


 最近の経験の積み重ねを優先して、配下を切り捨てるような方法だが、どうやらシュバルツの負担になっているような様子がある。

 十のために一を切り捨てるという性質がジャイアントアントの本能として存在している、以前アーマイゼが語ったように、群れや上位の存在のために命をかけ、全体の存続を優先するのがジャイアントアントというモンスターだ。

 しかし、今のアントたちは進化を重ねることで高い知能を持つようになってしまった。今まで本能によって行動していた彼女たちだが、徐々に理性がその大部分を占めるようになったのだ。

 命令する俺と実際に指揮するシュバルツとの違いはあるが、同じように精神面での負担になっているのだろう。


 同じような考えを持っている者としては何とかしてやりたいが、こればっかりはどうしようもない。

 ダンジョンの防衛のためには避けられないことだ。彼女の場合は、ダンジョンの防衛のためにと割り切って指揮をしている。しかし、正論を積み重ねたとしても、それで納得できるかどうかは別なのだ。

 上に立つ者として、必ずどこかでぶつかることになる壁なのだ。各々が答えを見つけるしかない。今はシュバルツが自分でその答えを見つけることができるかどうかを見守るしかないだろう。


「ダン、どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


 フィーネが不思議そうにこちらを見上げていた。

 今日は里の方に遊びに行っていたのだが、どうやら仲間と一緒に絵本を取りに来たようだ。

 英雄に関する資料として、いくつかの絵本も用意してみたのだが、こちらは妖精がよく読みに来ている。

 最近では物語の英雄になりきって木の枝を振り回し、アントを交えてごっこ遊びをしている光景がダンジョンのそこかしこで繰り広げられている。

 主人公役の妖精が、キリリとした表情で決めポーズを取っても、絵本に出てくる英雄とは違ってなんともかわいらしいだけなのだが――


「じゃあアタシはまた遊びに行ってくるね!」

「ああ、俺はここで本を読んでるから、何かあったら連絡してくれ」

「うん!」


 絵本を両手で持って去っていくフィーネたちを見送り、次の本へと手を伸ばす。

 手に取った本は少し厚めの研究書だ。複数人の学者を集めて行った、人工的に英雄を作るプロジェクトについてその中の一人が記したものだそうだ。

 プロジェクトやその研究内容は秘匿されていたようだが、ダンジョンコアはどうやってこのようなものを手に入れたのだろうか? なんにせよ、非常に興味を引かれる内容ではある。


 今までに読んだ英雄に関する情報だが、その出自はスラムの貧民からどこかの国の王族に至るまで千差万別ではあったが、彼らが英雄と呼ばれるにまでの道のりは酷似している。

 ほぼ全ての英雄が、大規模な戦争での活躍や強力なモンスターを打ち倒すことでその名を広め、それと同時期に彼らの強さが跳ね上がっているのだ。

 他の人間の力を借り、傷だらけになってやっとのことで偉業を成し遂げた男が、その数ヶ月後にはたった一人でそれよりも大きな偉業を果たす。そして、さらに数ヶ月後には更なる偉業を――そんな物語がいくつも存在している。

 普通に考えれば、どう考えてもあり得ない成長速度である。誰もがこれだけのスピードで成長できるなら、このダンジョンなど吹けば飛ぶようなものでしかない。

 異常な現象が発生しているならば、どこかにその要因があるはずだ。そう考えて実際に行動に移したのが彼らだったようだ。


 レポートの冒頭は、英雄の強さに関する分析から始まっている。

 研究者がまず着目したのが、時代ごとの英雄の強さの変動だ。時代が後になればなるほど、英雄が強くなる速さも、その上限も徐々に上昇する傾向にある。これが何を示しているのか。


 英雄になるには何かしらの力を示し、それが人々に知られる必要があるのではないか――研究者の出した結論はこうだった。

 それらの根拠として、英雄となった人物が偉業を果たした時代の交通網や噂が別の地域へと広まった時期とその強さの変化の仕方。さらに英雄としての名声が薄れることに応じてその力を失っていくことなどがそれらの証拠となる資料と共に挙げている。

 さらには各地に存在する神が、信者の数に応じた力を持っていると考えられることや、ネームドモンスターの発生までを追った研究書の存在を挙げていた。


 英雄になる条件を予測した研究者たちは、次はそれを立証するための実験を行った。各地にいた孤児たちを集め、彼らを使って強力なモンスターを倒そうとしたようだ。

 もちろん、そう簡単にできるような話ではない。正気を疑うような過酷な訓練内容をこなし、ある程度成長したところで、中級以上の竜種などの強力なモンスターや、大規模な戦争を行っている地域へと送り込んだらしい。

 プロジェクトはそれに関わる研究者を入れ替えながら数十年もの間続けられ、途方もない数の人間が無理な実験によって犠牲になった。


 狂気に満ちた実験が数十年もの間続けられるが、なかなか偉業を果たせた人間は現れなかった。徐々にスポンサーも減り、研究は縮小されていく。しかし、犠牲者の数が数えるのも馬鹿らしくなった頃――ついに竜を倒した子供が現れた。

 10人組で送られた子供たちの中で生き残ったのはたった一人、竜を倒したのもいくつもの偶然が積み重なっただけでしかなかったが、間違いなく偉業と呼ぶにふさわしいものだった。


 竜を倒した子供はその直後では、そこまで目立った戦闘能力の変化は無かった。だが、その後後見となった国の力を使って大々的にその偉業を広めるにつれ、研究所の外に出ていないのにもかかわらず、その子供は自身の能力を大きく向上させていった。

 実験の舞台となった国の外にまでその名が広まる頃には、単身で中級の竜種を倒すことができるようになったらしい。


 英雄の力とその名声の関係性――研究者たちの予測はほぼ立証されたのだ。

 そして、更なる証拠を集めるための実験に移行しようとした頃、急にプロジェクトは凍結されることになった。

 プロジェクトに関わった研究者たちは軒並み処刑され、研究所も焼き払われてしまったらしい。事前にその動きに気が付き、研究内容を持ちだして逃げた研究者がこの本を書いたようだ。

 果たして彼らが処刑されたのはその実験内容のためか、用済みになったためだったのか――どちらにせよ、全てが闇に葬られたのは間違いないのだろう。


 研究内容は反吐が出るようなものではあったが、そこから得るものは多かった。

 英雄に至るための条件は絶対とは言えないだろうが、この本に記されていた方法で実現できたのは事実だ。

 さらに、この研究書の冒頭に挙げられていた書籍だが、いくつかショップの中に同じものがあった。

 次はこれらの書籍を読んでみるとしよう。研究書の中にはいくつか気になる考察が含まれていた。

もしかすると、ダンジョンの強化につながる手掛かりが手に入るかもしれないな。

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