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84、王の試練

遅くなりました。


 10階層で休憩を終え、オレたちは順調に11階層もクリアした。現われた魔物は、スカルソルジャー。見た目はガイコツだが武器を装備しており、機敏な身のこなしをする。『風撃』で難なく粉砕し、オレたちは次へ向かう階段を上る。


「そういや、ちょっと試したいことがあるんだが」


 オレの提案に凛は先を促すように首を傾げた。11層目をクリアしてふと妙案足りえる案を思いつく。完全に裏技だが、この割とガバガバな機構なら行けるかもしれない。


「もし、魔物を倒さずに次の階に行ったらどうなるんだ?」


 凛が答えを考えるうちに12階層に到着する。


「まあ、ここで試してみるか」


 凛が頷くのを見届けてから、魔法陣を踏む。本来であれば後退し、魔法陣から距離をとるが、今回は違う。


 魔法陣を踏み抜き、そのまま光の中を突っ走る!


 光を無視し、後ろから響く足音を振り返らないまま階段を駆け上る。すぐに眼前に先ほどと代わり映えしない光景が広がる。13階層だ。


「はぁはぁ!」


 階段を走って上がっただけで息が上がるオレに対し、凛は息一つ乱れず涼しい表情だ。その明らかすぎる身体能力の差に、何度目になるか分からないげんなりとした表情を浮べた。そのまま今しがた上がってきた階段を睨みつける。


「ゆーくん! ダメみたい! 下がって!」


 凛の指示を受け、階段から離れる。だが当然13階層にも魔法陣はあり、オレたちはそれを踏んでしまう。

 結果は当然予想されるべきものだった。すぐに魔法陣から無機質な光が湧き出し、異形の者たちをどこからか呼び寄せる。


「なるほどね……無視して進むとこうなるわけか。参考になった」


 冷や汗を流しながら、一人余裕ぶって嘯く。


 眼前には12階層から上がってきた人型の魔物。だがその姿は二足歩行であること、手に棍棒らしきものを持っていることを除けば、ほとんどが犬に類する生物だ。魔物の名は、コボルト。誤って獣人に類する者もいるが、その発生原因が魔素であることから魔物に分類される。また、彼らの獰猛性や言語能力の欠落を見てもどだい「人」に分類することは難しいだろう。

 そしてオレの後方。そこには、全身がまるで影に覆われているかの如く黒い体躯を持った大蜘蛛が二体。こちらは名前を知らないが、そのしなやかな体躯は2メートルほどにも及び、膨らんだ腹部は金属光沢にも似た輝きを見せている。生理的な嫌悪感を喚起させるには十分な風貌だ。


 前門の蜘蛛、後方の狼。これが階層を無視して進んできたものが払わされるツケだ。


「凛! 犬っころたちを足止めしてくれ! 蜘蛛を先にやるッ!」


「分かった!」


 一瞬で優先順位を判断し、凛に自らの後方を任せることを告げる。

 単純なサイズやリーチ、考えうる攻撃手法の数を鑑みるに蜘蛛を最初に処理するべきだ。

 目の前で顎をカチカチと打ち鳴らす蜘蛛の姿にゾッとしたものを感じながらも魔法を放つ。相手が虫であれば、撃つ魔法は一択。


「『ファイアレイ』ッ!」


 オレが魔法を放つと同時に後ろでコボルトたちが凛に襲いかかる音が聞こえる。だが、こと戦況を維持するという点において、彼女の牙城を崩せる者はそう多くない。

 肉が焦げ付くような不快な音とともに大蜘蛛がそのどす黒い体躯に穴を空ける。穴が空いた腹から蜘蛛の子を散らすでもなく、蜘蛛二体は自重を支えきれずにくず折れた。その姿を確認して、オレはもう一度『ファイアレイ』を撃ち、蜘蛛が生きている確率をゼロにする。


 まずは二体――――


 先手必勝で一勝目を決め、振り返ろうとすると同時にオレの視界は回転した。


「がっ!?」


 背中に受けた衝撃をいなすようにして転がったオレはそのまま仰向けに倒れこむ。


「はっ――――はっ――――」


 肺から空気が強制的に押し出され、酸素不足に陥った身体が酸素を欲する。


「ご、ごめん! ゆーくん! だいじょーぶ!?」


 呼吸を落ち着けようと苦戦する中でようやく自分の背中にぶつかったのが凛であったのだと理解する。


「あ、あいつらの攻撃を防いだらそのまま飛ばされじゃって……」


 どうやら手持ちの短剣で敵の攻撃を防いだらしい。彼女の持っている短剣は見事に歪んでいた。いくら凛がステータスを上げようと、その重量が小柄な少女のそれであることに違いはない。コボルトの鈍重な一撃をまともに受ければ吹き飛ばされても仕方がない。

 ようやく酸素を取り戻し、目じりを拭って状況を確認すれば後方にいたコボルト三体のうち二体は既に地面に血溜まりを作って伏せていた。残る一体も胸元に赤い線を持ち、それが凛のつけた傷だと悟る。


「凛! 使え!」


 新しい短剣を投げて渡す。粗製品ではないが、市販されている普通のダガーだ。


「ありがと!」


 凛は新しい短剣をワンモーションで引き抜き、そのまま質量を感じさせない踏み込みでコボルトに肉薄する。当然、獣としての知覚能力と反射神経を持っているコボルトは反撃を試みる。

 だが勇者の圧倒的なステータスはそれを許さない。


「はぁっ!」


 凛の鋭い刺突がコボルトの首に刺さり、そのまま奴の首をかっ割いた。

 コボルトは悲鳴を上げることも出来ず、唸り声とも付かない音を上げてそのまま崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ……」


「すぅ……はぁ……」


 肩で息をする。凛もやや息が上がったのか、深呼吸をして整えている。

 数秒で呼吸を整え終えた凛が、ダガーについた血を払い鞘にしまう。そのまま軽い足取りで、座り込むオレに駆け寄ってきた。


「だいじょーぶ!? ゆーくん!」


「ああ……そっちは問題ないか?」


「うん。わたしは、怪我してないよ」


 その確認を終えてほっと一息をつく。

 階層の敵を無視して次へ行くと、二層分まとめて相手をする羽目になるわけか……そりゃ、そう簡単には行かせてくれないよな。


 改めてダンジョンの性格の悪さにため息を漏らすと、凛が手を握ってきた。


「あ? どうした?」


「ごめんね、ゆーくん……わたし、あんまり力になれなくて……」


 だが彼女の手は震えている。不安げにこちらの様子を伺い、目の奥底に光る感情は仄暗い。後ろめたさと罪悪感、そして見限らないで欲しいという懇願だろうか。


「……一応、お前自身の身を守るっていうオレとの約束は果してるわけだし、別に問題はない」


 そう。凛の旅への同行を許可する条件は、彼女の身の安全だ。現状、彼女自身が命を脅かされる状況に置かれていない以上、最低限の義務は果していると言える。


 それに、


「それに……あー、なんだ。実際、ラグランジェでギルタールと戦ったときとか、ここでゴーレムとやりあったときとかもお前がいなきゃ、やばかったかもしれないしな……」


 凛がいなくても乗り切れていた可能性もある。

 だが、凛がいなければ乗り切れなかった可能性が残っている時点で、彼女は十二分にオレの旅に必要な存在だったと結論できる。


「……だから、力になってないとは思わないな」


 彼女の顔を見ないで告げる。


「ゆーくん……うん……ありがと」


 そう言うと凛が静かに肩を預けてくる。素朴な甘い香りと汗の匂いが同時に鼻腔を撫でる。交じり合うそれらの匂いは決して不快ではない。

 だがいつものように勢いよく飛び込んでくるわけではなく、控えめに軽く頭をオレの肩に乗せる程度だ。それゆえオレも邪険に扱いにくい。結局、手持ち無沙汰な両の手を地面につけておくしかない。


「……ゆーくんって、意外とこうやってお淑やかに来られると弱い?」


「突き飛ばすぞ……」


「じょ、冗談だって!」


 そう言うと凛はオレから飛びのいた。

 その顔にはすでに笑みが取り戻されていた。


「行くぞ、凛。生きて、このダンジョンを終わらせる」


「うん!」


 そうしてオレたちは進む。

 代わり映えのない風景を、幾度となく繰り返して。


 上へ、上へ。




 二十層、三十層とダンジョンを制覇していく。

 油断なく先手必勝をモットーに、全ての敵を一撃で屠る。MPを惜しげなく消費することで実現された方針のお陰でオレたちは被害を最小限に抑えていた。

 四十層、五十層、六十層……何も、変わらない。

 敵が強くなっただけだ。まだ、オレの魔法が効かないような相手には出会わない。ゴーレムとの戦いで反省をし、オレは最初から全力の魔法をぶっ放す戦法を取り続けている。そのおかげで、あれ以来苦戦らしい苦戦はしていない。


 徐々に体内時計が狂っていく。今が朝なのか夜なのか。今は食事を取るべきなのか、睡眠をとるべきなのか。その全てを自分の身体の調子に聞くしかない。今までどれだけ時間という概念に縛られて生きてきたかを痛感する。そして、縛られることの楽さも等しく。


 そうしてちょうど七日かけて、そのまま九十層へ至った。


「ようやく、九十層か……」


 感傷もそこそこに、慣れ親しんだ魔法陣と樹の部屋を見渡す。

 これまで通った部屋の姿かたちは仔細まで記憶しているにも関わらず、やはりこの部屋もこれまでの部屋とそう変わらない。違いを探せといわれれば苦労しそうだ。


「行くぞ、凛」


 これで彼女に確認をとるのも通算86度目だ。最初の層を含む、四階層ほどだけ確認の言葉をかけていないと記憶している。

 慣れ親しんだ動作で魔法陣を踏み抜き、そのまま後退する。

 自分が考えていたタイミングと一瞬のずれもなく魔法陣が光出す。そして、これまた完全に想定通りのタイミングで敵が出現する。


 そのはずだった。


「……魔物が、出てこない?」


 魔法陣はその仕事を終えたと言わんばかりに、光を消し今は静かに眠っている。だというのに、オレの眼前には醜悪な巨人も、獰猛な禽獣類も、不快感を煽る甲殻類もいない。

 目の前に広がる景色は先ほどまでと何も変わらない。


 そこでオレはようやく気付いた。


「よけろ!」


 刹那、スキル『魔力感知』が魔力を感じる。ほぼ同時にオレと凛が左右に飛びのく。


 熱線――――否、熱閃。


 つい今しがたオレたちが立っていたところを、紫紺色の熱閃が通り過ぎていった。

避けきったにもかかわらず顔を熱風が舐り、吸い込む空気に肺が焦げる錯覚を覚える。王樹の壁が熱を帯び、赤く変色している。

 今まで何もなかった空間が揺らぐ。ノイズがかかったような揺らぎを経て、熱の暴威を放った張本人が姿を現した。


「――――九尾ッ!!」


 その姿は、オレがリスチェリカのダンジョン最奥部で出会った、九尾の妖狐に相違なかった。

 オレが名を呼んだことに満足したのか、九尾は再びその姿を隠す。どれだけ目を凝らそうと耳を澄まそうと、その存在を感じることは出来なくなる。


 だが――――


「『泥弾(マッドショット)』」


 これまでの経験を活かし、オレは即座に全方向に泥の塊を発射する。

 勢いよく射出された弾は、大半が壁にぶつかりその形をだらしなく変えていくが、全てがその末路を辿るわけではない。


「見つけた!」


 何も無い空間に泥が当たり、まるで空中から泥が沸いて出ているかのような箇所がある。だが、それの意味するところは、当然不可視の魔物の存在。

 宙に浮かんだ泥の紋様が壁を飛び交い更なる被弾を避けようと試みるも、弾幕の前では全てを避けきるのは難しい。一つ、また一つと当たっていき、その輪郭を画定していく。


 魔力の膨張を感知する。


「凛ッ!」


「守れッ、『ディバインシールド』!」


 敵の放つ凶悪な熱線が、凛の出した結界に阻まれて四方に散る。細くなった熱線一本一本がまた凶器となり樹壁を焦がし穿とうとするが、王たる樹が身体に風穴を開ける様子は一向にない。


「『蒼斬』!『蒼斬』!『蒼斬』ッ!!」


 水のレーザーを泥めがけて放つも、俊敏に動きまわる標的を掠めることすら許されない。


「こんの、クソ狐ッ! ちょこまか動きやがってッ!!」


 全身に泥を被り姿を露にした九尾を睨みつけて悪態を吐き捨てる。九尾の姿が揺らぎ、再び透明になる。泥が付いていない部分は完全に背景と同化して見えなくなった。


「また来るぞ!!」


「分かった!」


 凛が結界を発生させると同時に、九尾が紫色の光線を放つ。熱量の塊は結界に弾かれて四散するも、なお九尾は諦めない。


「『蒼斬』ッ!」


 こちらも負けじと水のレーザーを放つが、九尾の持つほかの砲門に見事に相殺される。


 やっぱり九本の尾全部から熱線出せるのか……!


 九尾が突如、熱線を放っていない残りの尾を天高く突き上げた。

 その不可解な現象に仮説を建てるよりも先に、結果が訪れる。

 九尾が残りの尾から上方へ熱線を連射した。


「何を……!?」


 天井へと放たれた熱線は、天井に衝突し、その軌道を反転させる。


「おい! そりゃ反則だろ!」


「守れッ! 『ディバインシールド』!!」


 凛がさらにもう一枚の結界を頭上に張る。ほぼ同時に数多の熱線が篠衝く雨の如くあたりに降り注いだ。


「『水壁(セレンズウォール)』ッ!!」


 さらに自分たちの周りを囲うような水の壁を作る。

 視界を埋め尽くすほどの熱線の弾幕が降り注ぎ、地に這う者たちを焼き尽そうとする。その一本一本が軽く人を灰に帰す熱量を持ち、床に当たってさらに乱反射した。


 さっきのオレの泥弾幕の意趣返しってことかよ!!


 内心で相手の性格の悪さに反吐を吐きながら、身動きのとれない現状の打開を考える。まずいな。このままだとやがて凛のMPがきれて結界を維持できなくなる。そうなる前に決めなければならない……


「まずはあいつの攻撃を中断させる!」


 結界は内部からの攻撃は通すはずだ……だが、奴の注意は確実にこちらに向いている。この状況で真正面から魔法を放っても簡単に避けられて体勢を立て直される。


 だから、虚を衝く。


「真正面がダメなら、他のところからやるしかねぇな!」


 両の手に水魔法を形成していく。


 イメージは十分か?


 魔力は練れているな?


 後は、具現化するだけだ。


「『蒼斬』ッ!」


 左手から『蒼斬』を九尾の真正面向かって放つ。だが、当然のように尾を使い、熱線で相殺される。生じるのは大量の蒸気。視界は当然眩む。

 右掌を自分の真横に向けた。当然そちらには何も無い空間が広がっている。


「正面が全てじゃない! 『蒼斬(アオギリ)《鞭》』ッ!!」


 右手から放たれた水のレーザーは当然、見当違いの方向へと向かう。

 だが、この魔法はそれで終わりではない。


「しなれッ!!」


 直線しか描かないはずの水のレーザーがぐにゃりとその形状を歪める。それは地を這う蛇のようにしなやかで、予測不可能な挙動を描いて九尾の死角から迫った。


 キュオオオオオオオオオオオオ―――――


 という耳を劈くような悲鳴と、止んだ熱線を直撃した合図として、凛に結界を解除させる。


 このまま決める!


 手の中に濃密な魔力を練りこむ。

 イメージは万物を貫く水の槍。


「凛! 次の一撃、受けられるか!?」


「大丈夫……だけど、魔力的に多分次が最後!」


「上等だ! 次で決めてやる!」


 吼える相手はいつぞやオレがリスチェリカの最奥部で邂逅した九尾の狐だ。だが、リスチェリカのそれよりも熱線の威力も、敏捷性も桁違いに上がっている。姿は同じだというのに、まるで別の魔物だ。

 改めて目の前の仇敵にくそったれな評価を下し、その手強さ舌打ちを漏らす。


「来いよ、クソ狐ッ!!」


 オレの怒声に応えるようにして、九尾が空気を貫くような声を上げる。そのまま姿を実体化し、紫紺色の熱線を九本の尾から放った。


「お願い! 守れ、『ディバインシールド』ッ!!!」


「貫けッ!! 『蒼斬(アオギリ)蒼穿槍(ヴァッセント)》』ォ!!」


 お互いの決死を尽くした攻撃が炸裂し、閃光が目を焼いた。


 爆音が鼓膜を破らんと響き渡る。刹那、押し寄せる熱気に頬を焦がされ、そのまま吹き飛ばされる。視界が回る中で思考は回り、自らが生きていることを認識する。

 噴出するような蒸気と土煙が上がる中で、巨大な何かが地面に叩きつけられる音が地面伝いに身体を揺らした。耳はキーンという一定の耳鳴りを伝えるだけで使い物にならない。


 視界はまだ白い。音も聞こえない。


 左腕を地面につきたてようとして激痛が走った。身体を直接伝って、骨の軋む音が耳朶を揺らした。

 骨にひびでも入ったのだろう。

 折れた左腕を庇いながら、オレは必死に上体を起こした。


「――――」


 耳鳴りがやまない中でかすかな声を聞く。


「―――ん」


 その声は何かを探している。


「ゆーくん!」


「凛!」


 ノイズがかった聴覚がようやく取り戻され、視界がクリアになっていく中で、駆け寄ってくる少女を見つける。

 その奥には、上半身を吹き飛ばされた、かつて狐だったものの残骸が転がっていた。


「凛、怪我は!」


「ゆーくん、腕は!?」


 お互いに相手の心配を真っ先に告げることにおかしさを覚え、思わず目を見合わせてしまった。


「腕は折れてるみたいだが治癒魔法で何とかなる」


「わたしも、その、もしかしたら肩を火傷しちゃってるかも。ゆーくんの後でいいから治療お願い」


 これまで幾度となく、それこそ100回近く繰り返してきた報告を重ねて、オレは自らの身体に治癒魔法をかける。まずは左腕、そして内臓の損傷、最後に身体の裂傷や擦過傷。

 そして、凛の体にも同じように治癒魔法をかける。


 お互いの怪我が治りきったところで、ちょうどMPが切れた。


「割とギリギリだったな……」


 MPがなくなってしまったという状況に背筋が薄ら寒くなる。

 もし先ほどの一撃で倒していなければ、治癒もままならず死ぬ可能性もあったということだ。やはり大きな技を撃ち過ぎたようだ。特に『蒼斬(アオギリ)蒼穿槍(ヴァッセント)》』などは一発撃てば5000近くは持っていかれる大技だ。やはり気をつけなくてはいけない。


「少し、休憩しよう……流石に疲れた」


 本日4回目の戦闘ですでに疲労困憊となり、オレはその場にへたり込んだ。

 凛もMPを使いきったようで、そのまま無防備に座り込む。


「これで九十階層……もうちょっとだね」


「ああ。百で終わりだといいんだが……」


 食料的にもそろそろ終わりが来てくれないとまずい。ダンジョン内で飢え死にとか洒落にならん。もって後一週間ほどだろうか。道中で中々、補給ができなかったのが痛い。


「そういや、ステータスのほうはどうなってんのかね」


 ダンジョンに潜り始めた当初はよく見ていたのだが、50層を超えたあたりからはHPとMPを確認するだけの機械と化していた。HPとMPだけ表示させたいと念じれば、他のステータスとかは出てこないしな。


十一優斗 17歳男

HP243/420 MP19/78190

膂力51 体力79 耐39 敏捷112 魔力29150 賢性???

スキル

持ち物 賢者の加護 ??? 隠密4.0 魔法構築力8.0

魔力感知5.1 魔法構築効率6.6 MP回復速度5.6 多重展開5.0 術法1.6

煽動2.4 鍛冶2.3 悪運 魔力操作1.9 慧眼


 魔力や魔法関連のスキルの伸びは相変わらずだ。敏捷や体力が大きく上がっているのはでかいかもしれない。まあ、一週間もダンジョンで戦い続けていたら嫌でも上がるわな。潜り始めた当初からともに15程度上がっている。これはオレの低い能力値では目覚しい成果だ。

 加えて、『慧眼』なるスキルも取得している。どういう効果かは分からないが、名前から推察するに洞察力が上がるのだろうか。でも、賢性との住み分けってどうなってるんだ……?


 何気なく凛のステータスも見ようとする。


「ちょ、ちょっと! 勝手に見ないでよ! でりかしー無いよ!」


 いつも通り、何故だかステータス確認を拒否される。


「別に減るものじゃないし、いいだろ……それに、能力値確認は作戦を立てる上で重要なんだっての……」


 という文言を毎度繰り返してはいるのだが、


「だって、恥ずかしいし……」


「安心しろ。オレのステータスよりは、人にお見せできるから」


 勇者としての『恩寵』を受けていながら、魔力以外は未だにそんじゃそこらの一般兵にすらでまけまくってるからなぁ……辛うじて敏捷で肩を並べられるぐらいだろうか?


 うーん……もうちょっと魔力以外に能力値が振られててもいいと思うの。


「とりあえず、自分のスキル状況とかはしっかり把握しとけよ?」


「りょーかいですっ!」


 ほんとに分かってんのか……?

 そうしてオレたちはいつも通りの距離感で、進んでいく。


 順調に。


一応、100話ぐらいまで書き溜めていますが、ある程度書いた後で矛盾点の解消や伏線等の整理を行っているのでどうしても遅くなってしまいます。申し訳ない。

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