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78、欲しかったもの

お久しぶりですごめんなさいエタってないのでお気に入り解除しないでください・・・



 褒章の授与が終わり、騒がしい町並みを一人歩く。勝利に沸き、復興に沸き、友好に沸く。喧騒の中にありながら、ひとり静寂を感じる。

 ひどく矛盾があるように感じながらも、ああ、と納得する。

 オレ自身が、喧騒に溶け込んでいないのだ。それは、オレ自身がこの町に馴染めない部外者であるからなのか、それとも他の感傷がそうさせるのか。


 なんだか、一人の時間も久しぶりな気がする。


 思えば、勝手についてきた凛、それに途中で拾う形になったソフィア。ラグランジェに来てからはバレッタにラインさんと、常にオレの回りには誰かがいた。


 一ヶ月前までは寝ても覚めても一人の方が多かったのにな。

 そうして思い起こされる顔は、やや苦々しさを伴ってオレの中に蘇る。

 強いて言うなら、シエル、リア、エーミール、ブラント団長あたりはそれなりに深い仲と言えるだろうか。


「いや、自惚れだな」


 自らの勘違い甚だしい評価を鼻で笑う。

 オレがそんな深い関係にある人物など、この世界にいるはずがない。オレがそう思ったとしても、それは錯覚であり、誤解であり、根本的な間違いだ。


 いつもどおりの思考に身を任せて宿への道を歩いていると、見知った顔に気がついた。どうやら向こうも気づいたようで、笑いながら手を振ってくる。


「やあ、ユートじゃないか! 良かった、無事で!」


 金髪を無造作に流した冒険者、エルヴィン・カーマイン。何かと縁のある奴だ。

 第一声でこちらの安否を気遣う彼らしい言葉にオレは苦笑を漏らす。


「そっちも元気そうだな。あー、その何だ。ミレフィア女史は見つかった…………みたいだな」


 エルヴィンの後ろで魔法使いの少女が、赤髪の女性となにやらいがみ合っている。


「ああ……ミレフィアが無事だったのはいいんだけど、帰ってきたらすぐこれだ」


 いつも通りのミレフィアとガリシアの喧嘩風景だ、とエルヴィンは仕方なさそうに肩をすくめてみせた。うんざりするような口調とは裏腹に、表情は優しい。


「そういえば、色々と大変だったね。獣人の武装蜂起に、魔物の襲来……まさか、こんな大事件に巻き込まれるなんて」


 エルヴィンはそう苦笑しながら、腕に巻かれた包帯をさすった。

 魔物との戦闘で怪我をしたのか、それとも獣人に襲われたのか、定かではないが彼も武勇伝の如く話す気は無さそうだ。


「まあ、な。運が悪いってレベルじゃない。ババ抜きのジョーカーを何枚も配られた気分だ」


「……ババ抜き?」


「あー、伝わんないか。ま、要するに滅多に起こらない最悪な事態だってこと」


 首を傾げていたエルヴィンもオレの言葉に追随してうなずいた。


「……それで、本題なんだけど」


 エルヴィンがあたりの様子を伺いながら声を小さくした。


「今回の魔物との戦いで君の姿が無かったよね?」


「……あー、そりゃ、まあ、すまん」


「あ! いやいや! 責めているわけじゃなくて!」


 エルヴィンがあわてて自分の言葉の真意を訂正する。


「……もしかして、ユート。今回の暴動を鎮圧した人間って、君のことなんじゃないか?」


 核心をついたエルヴィンの質問に虚を衝かれる。

 まさか、あれだけ少ない情報でオレをピンポイントで指名してくるか普通? まあ、こいつからしたらちょっとした冗談で言っているだけかもしれないが……


「……別に、そんな大層なことはしてねえよ。鎮圧したのはこの国の兵隊たちだ。オレは、そのきっかけを作ったに過ぎない」


 実際問題、オレは鎮圧などしていない。結局ギルタールを倒したのも凛とバレッタだし、思えばオレの功績って王の間を全壊させたぐらいじゃない? あれ、これは国家反逆罪で立派に大罪なのでは。

 過大評価も甚だしいと自分の功績を卑下していると、エルヴィンはためらいがちに視線を泳がせる。どうしたものかと声をかけるでもなく彼の言葉を待っていると、やや口に含むような言い方で話し始めた。


「……その、率直に言うけど。ユート、僕のパーティに入る気は無い?」


 完全に予想外の提案にオレは言葉に詰まる。

 そんなオレの沈黙をどう受け取ったのか、エルヴィンはあわててフォローするように言った。


「もちろん、君の連れのリンさんも一緒に。君が連れて行きたいならあの小さな女の子も」


 小さな女の子、とはソフィアのことだろう。

 つまり彼はオレたち一行に仲間になって欲しいと、そう言う訳だ。そして、一緒に冒険をして、一緒に旅をして、一緒に戦う。


「へぇ」


 エルヴィンは気のいい奴だ。今回の提案だって、彼自身のパーティの補強という目的に留まらず、こちらを気遣ったものなのかもしれない。ミレフィア女史は、中々の魔法の使い手のようでオレを尊敬しているらしいし、ガリシアさんだって面倒見の良い姉御肌だ。

なるほど、一緒に旅をすればそれは楽しいだろう。


 だが、


「……悪いが、一緒には行けない」

 オレの拒絶にエルヴィンは一瞬だけ悲しそうに眉尻を下げる。だが、すぐに笑顔を取り戻すと、冗談めかして言った。


「そっか……あーあ、残念。ふられちゃったみたいだ」


 肩をすくめる動作と軽々しい口調はあまり彼らしくはない。

 だが、彼の気遣いを無駄にしないために、オレも続けた。


「あいにくオレの魔法はピーキーでね。敵味方かまわずぶっ飛ばしちまう可能性が高いんだ」


 口の端をゆがめて言う。

 嘘ではないが、これは同行を辞退した本当の理由ではないし、エルヴィンもそれぐらいは気づいているだろう。

 これはオレのエゴだ。どうしようもない我がままで、けれどもどうしようもないオレの責務だ。きっとオレがこのパーティに入れば、このパーティは全滅する。それはどんな理由でもいい。だが、確実にまず間違いなく死が待ち受けている。


 オレに、仲間などを作る資格は無い。


「確かに、君の魔法を食らうのはおっかないな」


「お、一発食らってみるか?」


「遠慮しておくよ」


 そのやりとりだけを聞いたのか、ミレフィア女史が乱入してくる。

 エルヴィンに絡んでいる彼女と、それを窘めるエルヴィン。そして二人を見守るガリシアさん。すでにそこではパーティが完成している。


「んじゃ、オレは行くわ」


「うん。旅をしていればまた出会うだろうから。……そのときまで」


 エルヴィンはオレを止めない。

 きっと、彼の言葉はお世辞でも常套句でもなく本心なのだろう。


 だから、オレは


「……ああ、そうだな。また会えることを、祈ってる」


 そんな心にも無い言葉を吐いた。




 エルヴィンと分かれたオレは、無事に宿屋にたどり着く。まあ、本来であれば無事にたどり着けないほうが悪いんだが、あいにくオレの体質ではその可能性がままある。


「お、黒髪の坊主! 王女様が探してたぞ」


 宿屋の主、ブラウン・ソルムに言われ、バレッタのことだと思い当たる。

 そのまま彼の言うとおり裏の空き地に行くと、そこにはすでにバレッタとラインさんの姿があった。

 バレッタはすでに準備万端といった様子で、仁王立ちをしている。


「よう、ってなわけで最終試験だけど、首尾はどうだ?」


「……無詠唱は出来なかった」


 そうか。そうだろうな。

 オレが何の落胆も見せなかったことにややむっとした表情を作るも、すぐにバレッタは口の端をゆがめた。


「でも、師匠の魔法は盗んだ」


「……へぇ」


 今まで、オレのオリジナル魔法を再現できた奴はいない。それは簡単で、オレの魔法には詠唱が無いからだ。詠唱が無いということはどういった仕組みで発現される魔法かも分からないということに他ならない。だから、再現できない。


 だが、バレッタはそれを再現してみせると言う。


「じゃあ、オレの魔法を今ここで再現できたら試験は合格だ」


「分かった」


 落ち着いている。最初に合ったときの破天荒さや焦りを感じない。


「――――暴風よ、吹き荒れよ」


 聞いたことの無い詠唱。だが、不思議と何の魔法の詠唱か、オレには分かった。


「その暴威を以って、仇為す敵を蹴散らせ……!」


 バレッタの手のひらに魔力が集束する。

 頬を風が撫で、オレの良く知る、オレだけのものだった魔法が発現する。


「『風撃(ブロウショット)』」


 風の塊が、暴力的な破壊を纏ってオレにまっすぐと飛ぶ。

 その魔法はどう見てもオレの『風撃(ブロウショット)』、それ以外の何物でもない。


「合格だ、バレッタ」


 弟子に合格を与える。その上で、


「――――『風撃(ブロウショット)』」


 同じ魔法でバレッタの撃った『風撃(ブロウショット)』を打ち消す。


「やっぱり無詠唱はずるくないか、師匠!」


 先行して魔法を発現したにもかかわらず相殺されたことにご立腹のバレッタ。


「安心しろよ、オレ以外に無詠唱使うやつなんてまずいないから」


 凛は例外的に『術法』に限っては詠唱をほぼ無くすことが出来るが、それは勇者補正の一部だろう。少なくとも無詠唱の前例については聞き及んだことが無い。


「師匠がそう言ってもなぁ……」


 どうやら、オレの言葉があまり響いていないらしい。

 脇で見ていた凛やソフィアがバレッタに駆け寄り、女三人でワイワイと騒いでいる。

 この前の暴動騒ぎ以降仲のよさに拍車がかかったようだ。

 その様子を見てラインさんが嬉しそうにしている。無表情だけど。

何というかちょっとだけラインさんが何考えてるか分かるようになってきた。おそらくバレッタの魔導士としての成長を喜んでいるのだろう。


「バレッタ様……ご家族以外の人とあんなに打ち解けられて……」


 分かったと思ったけどそんなことはなかったぜ!

 どうやらバレッタの脱ぼっちを喜んでいるらしい。ええ、バレッタもぼっちだったのか……なんか、オレの知り合いぼっちしかいなくね? まあ類は友を呼ぶって言うしな!!

 さらっと自らの心を抉りながらも、オレは目の前の姦しい光景を眩しく見つめる。


 もしあのとき――――


「……師匠!」


 バレッタの呼び声で追憶の底から引きずり上げられる。記憶が弾け、残滓は再び思考の底に沈む。


 らしくない。

 今日のオレはやたらと感傷に沈んでいる気がする。いや、感傷などときれいな言葉で片付けるのもおこがましい。もっと別の、何かに…………


「ありがとう」


 バレッタが照れくさそうに笑う。


「……お礼ならさっきも言ってもらったと思うんだが……」


 絡まっていた思考を振り払うような彼……彼女の笑顔に、オレは何とかそう返した。


「それは、父さんを助けてくれたお礼。今のは魔法を教えてくれたお礼だ」


 教えた、といっても大したことはやっていない。

 基本的にはこいつの才能が為せるわざだ。


「いや、おれだけじゃダメだったよ。ありがとう、師匠」


 バレッタの礼にもオレは頬をかくしかない。

 彼女のそれは過大評価だ。きっとバレッタはオレがいなくとも魔導士としてやっていけていたし、更なる成長を遂げていたはずだ。


 オレは、何もしていない。


 そんな言葉は、彼女の無垢な笑顔の前では息を潜めた。


「……ああ、そうだな」


 だから、オレは情けない顔でそう言うのが精一杯だった。


 でも、気づけば頭の中を閉めていた仄暗い感情は、きれいさっぱり、消えてしまっていた。


久しぶりなのに短くてごめんなさい、でも区切りが!区切りが良かったんです!

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