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75、魔物戦線

久しぶりの更新になってしまいました。


「サイ・ヴルフェロイに、作戦を延々と遂行させよう」


「……延々と?」


 敏いバレッタが、オレの言葉に引っかかりを覚える。


「ああ。延々とだ。だが、アイツの描く物語(シナリオ)の終幕だけを書き変えるんだ」


 その提案に全員が首を傾げる。


「アイツにとっての作戦の肝は、魔物との戦闘時に獣人が裏切るところだ。だが、裏切るタイミングをしっかり決めておかないと、味方の獣人に甚大な被害が出たり、人間だけを効率よく処分できない。だから、腹心の部下にタイミングを指示しているはずだ」


 前線に赴く獣人全員がこの作戦に加担しているとは思えない。

 恐らく、大半は作戦も知らずにただサイの言う通りに動いているだけだろう。だから、タイミングを教えられているのはごく一部の者だけだ。


「だから、情報を錯綜させて、裏切りの本当のタイミングを分からなくする」


 そうすれば、獣人はどこで人間を裏切ればいいのか分からなくなり混乱するはずだ。

 一糸乱れぬ行動など、不可能だろう。

 獣人の被害を出せば、その後、獣人から南部連合に非難が行く。それは奴とて望まないはずだ。もし奴がこの作戦を考えるだけの頭脳を持っているならば、いたずらに獣人の被害が出ないように考えているはず。


「で、戦場が混迷したところで、今度は大々的に獣人全員に指示を出す」


 その内容はこうだ。

 作戦内容を変更する。時機を後にずらす。次の指示があるまで、獣人は全面的に人間に協力をし、魔物の殲滅に努めるように。


「そう言われりゃ、サイから裏切りのタイミングを教えられている奴らは、次の指示があるまで人間に協力し続けるしかない。それに、作戦を知らない大半の獣人は指示の意味はよく分からないが、とりあえず共闘してればいいんだろ、ってことで納得するはずだ」


「なるほど……それで、次の指示はいつ出すんだ?」


「次の指示は出さない」


「は?」


「次の指示は決して出さない。そして、獣人たちは指示を待ちながら共闘を続けるはずだ」


「あっ! そうか!」


 バレッタが気付いたらしく、拍手を打ち鳴らした。


「そのまま共闘を続けて魔物を撃退すればいいのか」


「正解だバレッタ。さすが優秀な生徒は違うな」


 褒めてやると、恥ずかしそうに俯いてしまう。

 うーむ、こうしてみるとやっぱり女子なのかぁ……


「そう。要約するぞと、情報を錯綜させて指示の真偽を判別不可にする。その後、偽の指示で全体を共闘に仕向け、その指示が偽者だと疑われないように次の指示を待たせる」


 裏切りを企てる獣人らは、次の指示に意識を割かれ、「指示を待て」という指示そのものが偽物だということには意識が向かないはずだ。それに、新しい指示内容は最初に与えられていたものと矛盾していない。裏切るな、などと言っていないのだから。ただ「裏切りのタイミングをずらす」といわれただけだ。それを疑えというほうが無理がある。


「そのために必要なことは、南部連合幹部の迅速な拘束。加えて、獣人全体に指示を出すに相応しい人物の選定。これは、多分、サイ・ヴルフェロイの指示書だから全員に読み上げろーとか言って、南部連合に与する獣人を使えばいい」


 味方から偽の情報が流れてくるとは思わないはずだ。


「……そんな方法が……」


 国王が作戦の中身と成功率を吟味して唸る。


 そう。この方法は数々の仮定に基づいて成り立つものだ。

 全てが「はずだ」「だろう」「べきだ」といった曖昧な推定に基づいている。

 それぞれの命中率が90%だったとして、その仮定が10個重なれば、全てが成功する確率は、35%ほど。賭けるには、少しどころか大いに小さな数字だ。


 だが、それでも賭けるしかない。


 降りる、などという選択肢が存在しない勝負で、限りなく勝率を高めるための戦法。

 オレはそれを選択できたはずだ。


「…………他に、方法は考え付かんな?」


 それは自分に、そしてこの場に皆に向けて発した問いかけだろう。

 国王は瞑目し、数秒の沈黙の後にゆっくりと目を見開いた。

 その双眸に宿る強い意志に、オレは背筋が粟立つのを感じた。


「トイチ殿の案をとる。至急、近衛兵詰め所に連絡し、ファルッドを中心に実行させよ! まずは、サイ・ヴルフェロイたちの確保だ!ライン、詰め所に言伝を頼めるか」


「はっ、仰せのままに――――トイチ様、バレッタ様をよろしくお願いいたします」


 バレッタのことを言い残し、ラインさんはその俊敏な身のこなしで、豹の如く廊下を駆けて行く。すぐに角に消え、見えなくなったところで、オレは重い身体に鞭を打って立ち上がる。


「さてと。オレらも行きますかね」


「ゆーくん、どこに行くの?」


 それは、どこにも行かないよね?という暗黙の圧力。


「いや。流石にここに国王様がいると、急場の対応が出来ないだろ? だから、とりあえず全員で一階の兵士詰め所に向かう」


 何を勘違いしていたのか、凛は「なんだ」と胸をなでおろした。

 まあ、オレが前線に行って少しでも戦力を水増しすることも考えたが……


「それよりもオレたちの現在の仕事は国王の護衛だ。ギルタール派は隙さえあれば国王様を狙うはず。場合によっちゃ近衛兵に紛れることだってありえない話じゃない。なら、素性の割れてるオレらが側に侍るのが一番安全かつ信頼できると思わないか?」


 オレの提案に、国王が頷く。


「……うむ。そうしてくれると、ありがたい」


「流石にオレらも疲れたんで、国王様のお側で休ませてください、ってのが本音のところなんですけどね」


 そうぼやいて笑うと、国王は申し訳無さそうに苦笑を漏らした。


「本当に、なんと礼をして良いことやら……」


「それは、全部終わってから話しましょう。今は、この国を救うことが先決です」


「……ああ、そうだな」


 それで話を切り上げると、オレたちは演説の間を後にする。

 ふらつく身体をソフィアや凛に支えてもらいながら歩くのはなんとも情けないが、先ほどまで死に瀕していたのだから致し方が無いと信じたい。

 自分が今生きていること自体が奇跡だということにぞっとする。


 だが、なおオレたちは薄氷の上に取り残されていることを忘れてはいけない。


 一歩、また一歩と、霧の晴れない薄氷の上を踏みしめていく。


 その足取りは、依然としておぼつかないままだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ミレフィアッ!!」


「アルヴィン!?ああ、良かったです!」


 城に逃げ行く人々をの流れに逆らうミレフィアの姿を見つけ、大声で叫ぶ。

 人の波に乗りながら、否、半分押し分けるような形で急いで彼女の元に駆けつける。

 そして、そのまま彼女の小さな身体を抱きしめる。


「ア、アルヴィン? その、人目がある中で、こ、こういったことは……」


「よかった……本当に、無事で……」


 彼女の無事を喜び、安堵に胸を撫で下ろす。

 だが、すぐに襟首をつかまれ、ミレフィアから引き離される。

 見れば、呆れた顔で自分の襟首を掴んでいるのはガリシア。

 ため息を吐きながら首を振る彼女の動きに合わせて、深紅の長髪が左右に揺れる。


「あんたがそうやって女の子を口説くのはいいけどね、一応場所と時間を弁えな」


「が、ガリシア……! そ、そういうつもりは無くて……!」


「ま、分かってるって。古い付き合いだからね」


 そう言うとガリシアはその気概に違わず、カラカラと笑った。

 彼女も言葉には出さないが、ミレフィアが無事に見つかったことを喜んでいるのだ。


「それにしてもミレフィアが散歩しているときに暴動が起こるなんて……」


「はい、私も驚きました……それに、先ほどの放送……」


 朝、ミレフィアが日課の散歩をしているときに獣人の暴動が起きた。

 すぐに支度をし、ミレフィアを探しに出たものの、中々見つからずに焦燥に焦がれていたところで、町中に放送が流れる。

 演説の主はラグランジェの国王様。

 暴動の首謀者に捕まっていたものの、無事に救出されたらしい。


 と、そこまでは良かった。


 問題は、ここからだ。


「……千の魔物が攻めてきてるって」


「にわかには信じがたいけど」


 ガリシアの疑心を帯びた声に、曖昧な頷きを返すしかない。


「でも、わざわざ国王様が避難や戦闘準備を指示してるんだ。実際、冒険者ギルドのほうにも魔物の撃退依頼が入ったらしい。ギルドに所属している冒険者はランクを問わず駆りだされるってさ」


 それは先ほどすれ違った獣人の兵士に聞いた話だ。

 そして、事実、町の人々は城壁の方へと南下して避難しているが、冒険者や兵士と思しき者たちは北の街門へと向かっている。


「まず間違いなく本当でしょうね」


 またも曖昧な返事を返し、これからどうするか迷う。


 そりゃあ、僕たちも一端の冒険者だ。

 当然、召集に応えて、魔物の撃退任務に参加しなければいけない。

 けれども、相手の数は千。

 百や二百どころじゃない。

 どれだけの兵力と知力と武器をかき集めれば対抗できるのだろうか。


「もしかして、あの偉大なる魔法使いさんも参加するんでしょうか!?」


 思いついたようにミレフィアが声を上げる。

 偉大なる魔法使い、彼女が大仰にそう称するのは一人しかいない。


「ユートは……どうなんだろう。彼なら、参加してくれる気もすると思う、けど……」


 先ほどの彼との邂逅。

 彼は、どこかへ急いでいるようだった。

 明確な目的を持ち、暴動が起きている危険な街中を進軍していた。


「……あまり、期待しないほうがいいかもしれない」


 これは、予想に過ぎないけれど、国王様の言っていた「自分を救ってくれた人間」ってのはユートのことなんじゃないだろうか。

 冴えない一人の青年の顔を思い出して、勝手に一人期待する。


 彼なら、やりかねない気がする。


「多分、彼は別のことでかかりきりになっているはずだ。だから、僕たちが頑張るしかないんだけど……」


「けど?」


 こういうときガリシアは厳しい。

 僕が濁した言葉尻を決して誤魔化させないで、追及する。

 それは残酷であると同時に、いつも優柔不断な僕に決断を迫ってくれた。


「……これは、多数決で決めようと思うんだけど――――」


 そう言いかけて、ふと口を噤む。

 ミレフィアの碧色の瞳が、ガリシアの紅色の瞳が、僕を見つめていたからだ。

 その目に宿る意思は、何も言わずとも伝わってくる。


 逃げることは許されないらしい。


「いや、違うね。……僕らも北に急ごう。少しでも魔物の撃退に貢献するんだ」


「……そう言うのを待ってたよ!」


「やっぱり、そうするしかないですね! ふっふっふ、新しい魔法の試し撃ちができます!」


 僕たちは冒険者だ。

 騎士なんて大層なものじゃないし、背負う物も多くはない。


 でも、戦う力があるものとして、戦う責務がある。


 そう自分に言い聞かせて、震える足に、無理矢理踵を返させた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「来るぞッ!!」


 何人もの怒号が飛び交い、ただでさえ高まっていた緊張が、千切れてしまいそうなほどにさらに強く張られる。

 引き絞られた弓のように、空気が張り詰め、異様な高揚が場を支配する。ただ、その高揚は恐怖や緊張感といったものの裏返しに過ぎず、空回りしているようにも見えた。


「……いつも通りにやるんだ。防衛戦だから、無理に前に出すぎる必要は無いよ。群れからはぐれたやつを、一体一体確実に倒していこう」


 改めて二人に作戦を確認すると、頼もしい頷きが返って来る。

 それに少しだけ安心の材料を見つけて息を漏らすと、すぐに自分の耳にも地を揺らす轟音が聞こえてくる。


 それは、うねりを持った、巨大な何かが蠢く音。


 まるで、魔物の軍勢が一個体かのように群れを成し、地響きを起こすような足音を立てる。

 高揚した戦士すらも威圧するような黄塵が万丈まで立ち上り、平原の先を霞ませる。


 だが、こちらとて威圧されるばかりではない。


「魔物どもに我々の町を好きにさせてよいか!? 答えは否だッ!!! 要塞都市ラグランジェの名に偽り無しと、全国民にッ! 全世界に知らしめてやるぞッッ!!!!」


 指揮をとる将軍の空を割るような豪声に、兵士、冒険者が人間、獣人ともども大いに沸く。

 すぐに、土煙の壁が迫る。


 先頭の魔物たちが、こちらを見つけ、駆け出した。


 それが、開戦の合図だ。


「――――かかれぇッ!!!!」


 指揮の声に伴い、一斉に矢と投石が放たれる。

 何百という矢が魔物の群集に突き刺さり、致命に至った魔物たちが次々と倒れていく。


 だが、彼らは止まらない。

 まるで何かに絆されているかのように、何かに誘われているかのように、ここを目指して行軍する。

 仲間の屍を踏み越え、同種の血溜まりを踏み分け、確実にこちらに迫り来る。


「いいか! 街門付近で処理するぞッ! 他の魔物は外壁上の兵に任せておけッ!」


 地上戦闘員である僕らに指示が飛ぶ。


 これも作戦通りだ。

 二つしかない門の周辺で戦う。これにより、背後を味方に任せられるため、全方向から魔物に囲まれることを防ぐ。シンプルだが、強力な戦法だ。

 もちろん、そこを突破されれば一気に門の中になだれ込まれるリスクは伴うが、この状況ではある程度のリスクは仕方ない。


「来たッ!」


 一人の冒険者の声に応じて、武器を取り、巨躯を揺らすオークに切りかかる。

 一瞬のうちに兵士や冒険者が各々、魔物たちとの戦闘に入る。


「くっ……」


 初撃が浅かったのか、オークが棍棒を振り回しこちらをすりつぶそうとする。

 身をよじって回避をすると、そのまま距離を詰め、手首に切り上げを入れる。


 ――――ガァアアアアア!!


 吐き気を催すような醜悪な悲鳴をあげ、オークの右手が棍棒とともに地面に落ちる。

 怒りと狂気に目を血走らせるオークがそのまま左腕を無差別に振り回す。


「ミレフィアッ!」


「――――水よ水よ、その青き心で全ての邪を潤い充たせ! 『アクアシュート』!!」


 水の弾が勢いよく放たれ、オークの顔に直撃する。

 頭を揺らされたオークの動きが一瞬だけ止まる。


「――――ハァッ!!」


 ガリシアの巨剣が空を切る音が聞こえ、そのままオークの首が飛んだ。

 噴水のように飛び出す血しぶきを無視し、数十キロはあろう得物を軽く振るうと、ガリシアは次の敵に切りかかった。


「ちょ、先走りすぎだって!」


 慌ててフォローに入り、背後からゴブリンを切り捨てる。

 そのまま、三人で連携をとり、また一体、一体と魔物を切り捨てていく。

 返り血で鎧は汚れ、剣には既に血と油がこびりついてしまっている。


「オルトロスが来るぞ!」


 二つ首の禿げた狼。


 その獰猛さは冒険者の間でも有名だ。

 そして尋常ならざる俊敏さも。


「ミレフィア!」


「その静謐なる洋牢に彼の者を誘いたまえ。溺れよ! 『マリンズロウ』!」


 一瞬で距離を詰め飛び込んできたオルトロスが、浮かぶ水の中に囚われる。

 水の檻に閉じ込められ、為すすべなく苦しみもがくオルトロスにためらい無く剣を突き刺す。

 透き通った水に血が滲み、見る見る赤く染まっていく。紅い血に塗れ、オルトロスが水の檻から解放されたときには既にその命は失われていた。


「ミレフィア! 魔力はまだ大丈夫!?」


「何とか! まだ半分ぐらいあると思う!」


 残り半分。となれば、そろそろ退き時だろう。


「よし! 少しだけ下がろう!」


「危ないッ!」


 指示を出した瞬間、視界の端に影がちらついた。


 それが、オルトロスだと気付いた瞬間には既に遅い。

 ゆっくりと流れる景色の中で、禿げた狼が飛び込んでくる姿が見える。

 その牙は血に濡れ、爪は今まで殺してきた者の油で汚れていることまで見えた。瞬間瞬間がコマ送りに流れて行き、オルトロスの爛々と輝く瞳に自分の顔が写った。


 ああ、死に際って、こんなにはっきりと分かるものなんだな……


 そう、思い、目を瞑る。


「しっ!!」


 だが、いくら待てども鮮烈な痛みも、衝く衝撃も来る気配は無い。


「大丈夫か!?」


 目を開ければ、目の前にいるのは獣人の兵士。

 傷を負いながらも、隙なく周囲を警戒している。

 傍らには先ほどまで僕に襲い掛かろうとしていたオルトロスの死骸が転がっていた。


「あんたら人間と協力しろってのが本部からのお達しだ! 死なれちゃ困る!」


「す、すまない……! ありがとう!」


 辛くも命拾いし、心臓が思い出したかのようにうるさく鳴り始めた。


「くそっ……時機の指示はいつになったら出るんだ……」


 僕の感謝の言葉に、獣人の男はよく分からない言葉を漏らすと、すぐに別の敵めがけて飛び掛っていく。


「大丈夫ですか、アルヴィン!」


「怪我は!?」


 ミレフィアとガリシアが急いで駆け寄ってきてくれる。

 そのことにやや目頭が熱くなるのを感じながらも、戦場であることを思い出し、鼻をすするにとどまった。


「大丈夫だよ。さっきの獣人の人にはお礼を言わなくちゃね……」


「ひやりとしました……」


 そう、ここは戦場。

 命のやり取りが為される最前線にして、その命の価値は羽毛の如く軽い。

 一陣の風の前にいとも容易く散り行く。


 オルトロスの向けてきた死の爪牙を思い出して身震いする。


「よし、まだいける! 下がりながら数を削ろう!」


「分かった!」


 ガリシアの頼もしい返事を受けて、急いで駆け出す。


 気付けば、門からかなり離れたところまで出てしまっていた。


 それは、自らが戦いに集中していたことを意味するだけではない。


「……魔物たちが、退いている?」


 先ほどまで一心不乱に外壁を目指し、群がっていた魔物たちがその数を減らし、徐々に前線を後退させていた。僅かな変化だが、確かに押し返している。


「このまま押し返せぇええッ!!!」


 兵士たちの鬼気迫る怒声に、別種の身震いが起こる。


 敵を見つけ、切り捨てる。

 腕を切り落とし、足を削ぎ、首を刈り取る。

 腹に一突きし、蹴り飛ばして、心臓を刺す。

 足を払い、頭を砕く。

 切って、斬って、断って、穿って、砕く。

 返り血に咽びながら、増える傷に喘ぎながら、確実に敵を屠っていく。


「魔物がッ!!」


 見張り兵の声を受け、ふと見やると、魔物たちの背中が見える。


 それは、彼らの遁走を意味していた。


 背筋を得体の知れない興奮が駆け上がった。


「やっ、た……」


 思わずもれた歓喜の声。


 ―――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!


 それに、地を砕き天を割るような歓声が応えた。


 この日、要塞都市ラグランジェはその歴史において初めて人間と獣人が手を取り合い、その名に恥じぬ戦いを見せた。



 そして、千の魔物の軍勢から自らの街を守りきったのだった。


ようやくラグランジェ編の本編が一段落しそう?

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