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65、魔法の授業

途中で出てくる「風」の理論は割とガバガバなので許してください

 

 目が覚める。

 ぼんやりとした思考は空転を続け、徐々に周囲の世界を認識すべく、覚醒していく。その過程はやけに緩慢だ。だがそれが許されるのも平穏かつ安全な場所で睡眠をとれているからに他ならない。これが旅路の最中などであれば論外だろう。


 ふと、布団の中の温かさに気付き、オレは寝ぼけ眼のまま首を傾げる。

 凛あたりがもぐりこんできやがったのか……

 そう思い、雑に毛布をどけて熱源の正体を確かめる。


「は? ソフィア?」


 純粋な疑問が口をついて出るが、目の前で規則正しい寝息を立てる狐人族の少女には届かない。


 いや、何故彼女がオレの布団にもぐりこんでいるんだ……


 思い返すも当然のようにオレが彼女を自分の布団に連れ込んだなどという事案に心当たりは無い。

 さすればオレの就寝後にもぐりこんできたわけか。


 ま、大方、夜中にトイレに行って寝ぼけたまま入るベッドを間違えたとかそんなオチだろう。

 そうタカをくくり眠りこけるソフィアの肩を揺する。


「ほら、起きろ。朝だぞ」


「……あ、おはよう、ございます」


 意外にもソフィアはあっさりと目を醒まし、くぁ、と小さく欠伸をした。

 その気の抜けた様は、思えば初めて見る彼女の姿だった。

 彼女が無防備に腕を伸ばしている様を見るだけで、いかにこれまで彼女が緊張していたかが分かる。


「……お兄さんは、温かいですね」


 オレが彼女を見つめていたことをどう勘違いしたのか、よく分からない感想を漏らすソフィア。


「そりゃ一応、恒温動物だからな」


「こーおん動物ですか?」


「体温を一定に保つ動物のことだ」


「そういう意味じゃないんですけど……」


 不満げに少しばかり口を尖らせるソフィアに、オレはただただ首を傾げるしかない。


「ってか、お前、寝ぼけてオレのベッドで寝てたぞ」


「え? 寝ぼけてないですよ?」


「は? いやいや、だってお前、オレが寝た後に間違えてオレのベッドに入っただろ?」


「いえ、間違えてないです」


「……ん?」


 え、つまり、どういうこと?


「わざとお兄さんのベッドにもぐりこみました」


「なにゆえ!?」


「それは内緒です」


 解せぬ。

 どういうことだ……一体、何を考えているんだこいつは……

 分かった気になっていた自分を思わず戒める。未だに彼女のことはまるで理解できていないようだ。さっぱり分からない。

 そうこう会話しているうちに声が大きくなってきたのか、隣のベッドから小さくうめく声が漏れる。


「ふぁぁ……んー……ねむいー」


「凛……お前は少し無防備すぎるぞ……もうちょっと緊張感を持て」


 口の端によだれの跡が残っていることを指摘すると、凛は慌てて袖で口元を拭った。

 顔をリンゴのごとく真っ赤にし、「こっち見ないでよゆーくん!」などとのたまい洗面所に去っていく凛。既に手遅れなんですがそれは。


 女子というのは面倒なものだ。


「デリカシー無いですよ、お兄さん」


「なんか、お前ズケズケ言うようになったな」


「あ……す、すみません……」


「いや、別に悪いって言ってんじゃない。ま、むしろ気楽でいいから、喜ばしいまである」


「そ、そうですか」


 そんなことをやっているうちにソフィアも洗面所に向かい、色々と身だしなみを整えに行く。

 オレも『持ち物(インベントリ)』から外出用の服を取り出し、寝巻きから着替える。

 窓を見れば、空には日が強く輝いており、昨晩干しておいた洗濯物もばっちり乾いているようだ。


「さてと、今日も一日頑張りますかね」


 そう決意を固めて、名残惜しいベッドから立ち上がった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「来てやったぞ!」


「一国の王子がこんな下町に護衛も付けずひょっこり来ていいのか?」


「一応、わたくしもいるのですが」


 そんな、バレッタ王子とラインさんの声がオレのため息を誘った。

 朝食をとり終え、そういえばいつどこで魔法の師事につけばいいのかと考えていたところ、我が弟子ことバレッタ王子と付き人のラインさんが宿屋に殴りこんできたのだ。

 無論、殴りこんできたのはバレッタ王子だけで、ラインさんがそれをたしなめていたのだが。


「ちなみに、ラインさんって、バレッタ王子の……乳母さん?」


「仰るとおりでございます。わたくしは、バレッタ様の幼少の砌より乳母兼護衛を務めさせていただいております」


「護衛……? あなたが?」


 目の前のやや年をいった女性の立ち居姿を見て疑念の視線を向けてしまう。シックなメイド服は動けるようには見えないし、そもそも戦闘能力があるのかも分からない。

 そんなオレの疑念の視線を感じ取ったのか、彼女はニッコリと微笑む。


「なっ――――」


 次の瞬間、オレの体は宙を舞っていた。


 ふわり、とゆっくり背中から地面に落ちる。怪我は一切無い。

 だが、即座に彼女に投げられたのだと気付き、嫌な汗が垂れた。

 一切の予備動作を見せず、一瞬で距離を詰めて投げられた。もし、彼女が手にするものがナイフであるとしたら、オレは既に死んでいただろう。その技能の錬度にオレはゾッとする。


「……侮っていたことをお詫びします。失礼しました」


 オレの謝罪に、ラインさんは恐れ多いと深く頭を下げた。

 オレが投げられたなんて知れば大騒ぎするだろう凛たちには買い物を頼んでいるので、今はいない。


「こちらこそバレッタ様の師匠であられる方に、突然の無礼、お許しください。……わたくし自身、屈強に見えないことが弱点であることは自負しておりますので」


 確かに、実力は十分だとしても、見た目が強そうに見えないのは護衛としてはやや問題だ。屈強な護衛がついていると一目でわかれば、そんな者たちに守られた対象を狙おうとする気概もそがれるからだ。

 彼女がオレをわざと投げてみせたのもオレへの牽制の意味合いが強いだろう。彼女からしてみればオレは人間族のどこの馬の骨とも知れない相手だ。自らの実力を示し、バレッタ王子に手を出さないよう釘を刺すのは当然と言える。


「それに、獣人は生まれつき身体能力に優れておりますので」


「そうなんですか?」


 先天的な才能の違いが種族ごとにあるのだろう。


「ええ。感覚や反射神経、運動神経と言ったものに秀でております。その反面、中々、考え事が苦手な者も多いですが……」


 なるほどね。肉体的な進化に、脳構造は伴わなかったと。

 まあ、明晰な頭脳を簡単に実現する方法は脳の肥大化だ。しかし、頭でっかちであればそれは身体能力の低下を意味する。さすれば、獣人が運動能力を得るにあたって、脳のサイズが比較的小さくなったのも理にかなっている。


「そんなことより、早くおれに魔法を教えてくれ!」


「まあ、待て。まず、お前に確認したいことがある」


「何だ?」


「魔法の知識についてだ」


 指を立てて告げる。

 オレが教える魔法は理論体系に則ったものだ。だから、オレが教えるのであれば、ある程度の魔法の基礎知識は必須になる。流石に、そこから教える気は無い。


「オレの質問に答えてみろ」


「ああ、分かった」


 頷くバレッタ王子にオレは質問を投げかけていく。


「まず、魔法発動のしくみについて簡単に述べてみろ」


「えーっと、確か、体内の魔臓から魔導回廊を通じて魔力を伝達して、それに属性を付加して放出することで色々な魔法になるんだったかな」


「……正解だ。なら、詠唱の存在意義は?」


 まさか答えられるとは思っていなかったため、淀みなく答える彼に驚く。


「詠唱は、魔法を体系化、組織化するのに必要なものだな。まだ詳しい仕組みは分かってないけど、詠唱をすることで本来自分で操作しなければいけない魔力の伝達や属性の付加を形式的に行えるようになる、っていうのが通説だな」


「……これも正解か。なら、魔素について説明してみてくれ」


「魔素は、この世界の全てを構成する元になるものだな。この世界を満たしていると言われていて、魔物の生成原因だったり、人間が魔法を使う際に使われているかもしれないらしい」


「驚いた。全問正解か」


 概ね、魔法を学ぶにあたり必要な基礎理論は整っていると見ていいようだ。そうであれば、ここからはそれぞれの魔法の理論を逐一詰めていき、足りない知識を補えば十分にオレから魔法を伝道できる。


 なんて教え甲斐のある生徒なんだ……


 にへらーと笑いながら勉強から逃げようとするポニーテールの少女の姿を幻視しつつ、オレは何を教えるか思考をめぐらせた。


「そういや、魔法を教えて欲しいって、具体的には何を学びたいんだ?」


 オレの問いにバレッタ王子は少し悩んだ後に、


「……アンタみたいに、無詠唱で魔法を使うコツと、後は、魔法の威力向上」


 まあ、極めて無難なところだろう。

 とはいえ、無詠唱で魔法を使えるかどうかはオレには分からない。オレができている以上原理的に可能ではある。だが、この世界の人間にそれを成し遂げられるかはまた別の話だ。


「使える魔法の属性と、一番得意な魔法は?」


「今使えるのは、火、土、風……一番得意なのは火だな。でも、風は同じぐらい使えるぞ」


 ふすー、と自慢げに鼻息を荒げるバレッタ王子に、ラインさんがはしたないと喝を入れた。何ともまるで親子のようだ。


 しかし驚いた……3属性も使えるのか……

 大抵の魔法使いは1属性かせいぜい2属性だ。

 3属性も使え、さらに火魔法はオレに危機を抱かせるほどの能力……


 随分と魔法の才に恵まれている。


「そうか……なら、応用も利く風魔法を鍛えよう」


「分かった! 頼む!」


 頼みながらも態度がでかいバレッタ王子に苦笑を返しつつ、オレは特訓の内容を構築していくのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いいか。無詠唱で必要なものはイメージだ」


「いめーじ?」


 おっと通じないか。


「具体的に、自分がどんな魔法を発動するのかという想像することだ。大きさは? 色は? 形は? 性質は? 温度は? 構成物質は? その全てを脳内で綿密に構築する。それがコツだ」


「……具体的に魔法を想像する……」


 いまいち納得しきれていないようだが、オレはそれに頷きを返す。


「例えば、風魔法の最も基礎的な『ワインド』。そのイメージはそよ風だ。空気が一定の方向に流れていき、それは大きな流れとなり相手を押し流す」


「空気の、流れを……吹け、風よ――――」


「はい、ストップ」


「なっ……何だよ!?」


 詠唱し始めたバレッタ王子の魔力が霧散し、不満げに眉をひそめる。


「詠唱短縮のコツは詠唱に頼らず魔力を操作できるようになることだ」


「いや、つっても……」


「だから、まずは、魔力を操作する術を覚える」


 そう言いながら、オレは『持ち物』から水晶のような石を取り出す。掌に収まるほどのサイズのそれは、透明だが、その中央には紫色のもやのようなものが渦巻いている。


「これは、『瘴渦水晶』って鉱石だ」


「『瘴渦水晶』?」


「そうだ。中央付近の紫色の霧みたいな部分は、魔力に反応して……」


 そう言いながらオレが掌の中で魔力を操作すると、もやが水晶内を動き回る。


「こんな風にその位置を変える」


「お、おお……」


 バレッタ王子がキラキラとした目で水晶を見やる。

 この水晶も、リスチェリカのダンジョン最奥部でかっぱらってきたものだ。


「まずは、詠唱無しでこのもやを自由に動かせるようになることだ」


「この、もやを……」


 バレッタ王子はあれやこれやと魔力を流し込もうとしているが、水晶の中の紫煙はゆらゆらと揺らめくばかりで彼を相手にもしない。


 それもそのはずだ。

 これまで魔力の操作を詠唱に頼ってきたのだから、そうそう一朝一夕で出来るものでもない。オレがこの街を去るまでに出来れば御の字だろう。

 だが、オレは一度こいつに魔法を教えると言った。ならば、その約束は果さなければならない。


「とにかくだ。オレがこの街を出るまでそう時間があるわけじゃない。そうだな……三日だ」


「は?」


「三日以内に紫煙を自由に動かせるようになってみろ。その水晶はこの三日間ずっと貸してやる」


「み、三日……」


 バレッタ王子がやや強張った笑みを浮べる。

 彼は魔法に関してそれなりに明るい。だからこそ、自分がその目標を達成するビジョンが思い描けず、及び腰になっているのだ。


「出来ないのか? 魔法だけは誰にも負けないんだろ?」


 発破をかけると、バレッタ王子はむっと口を一文字に引き絞った。


「……やるよ」


「聞こえない」


「やるって言ったんだよ! 三日もいるか! 二日だ! 明後日の日が暮れるまでに絶対にできるようになってやる!」


 啖呵を切るバレッタ王子に、オレは思わず笑みを零す。


「……やってみろ。達成できなかったらオレは師匠を降りる」


「望むところだ!」


 そんな、無鉄砲な物言いに、ラインさんは「またか」と肩を落とした。


「で、だ。並行して風についてのレクチャーも行う」


「れくちゃー?」


「要するに、風とは何たるか。の簡単な講義だな。そこから魔力をどう使って再現するのかも教える」


 感覚派の勇者諸君にはこういう説明は出来ないが、バレッタ王子であればこうした教え方も効果的なはずだ。


「瘴渦水晶は?」


「だから並行して、って言っただろ?」


「鬼だコイツ!」


 邪悪な笑みを浮べるオレにバレッタ王子が愕然とした表情を浮べる。

 だが、すぐに負けじと不敵な笑みを浮べる。


「望むところだけどな!」


 こいつ、バカなのか……?


 いや、頭のいいバカか……


 そんな評価を内心で下しつつ、オレは授業内容を構築していく。


「さてと、まずは……風は何で生じるか分かるか?」


 オレの質問に少し悩む素振りを見せる。


「えーっと……魔素が空気を動かすから?」


「……確かに、魔素の影響は未だに判明していないからその可能性もありえる。けど、根本的には違う。最も物理学的かつ簡潔な理由として挙げられるのは、気圧差だ」


「きあつさ?」


 またも伝わっていない言葉のようだ。


「気圧は分かるか?」


「悪いけど、分からない……」


 バレッタ王子が初めて自分の全く知らないことが出てきたことで肩を落とす。


「気にすることは無いさ。ぶっちゃけ、オレも詳しいことまでは分かってないんだ。実際、お偉い学者たちが見つけてきたことをそのままなぞってるだけだからな」


 先人たちの知恵を借り受け、さも自分のもののように扱っているだけに過ぎない。パスカル大先生あたりに感謝すればいいだろうか。


「気圧っていうのは、ものすごくざっくばらんに言うと空気の持つ重さだ」


「重さ?空気に重さなんて無いぞ?」


 当然、空気を重さとして感じられないという反論が出る。

 これも歴史をしっかりと踏襲してるな。


「これがどうして、実際空気ってのは小さい粒子が集まって出来ていてな。粒子ってことは必ず重さを持つ。それが一杯集まった空気も重さを持つってわけさ」


「けど、もしアンタの言うように空気が粒子なら、全部地面に落ちてくるんじゃないか? でも、俺は城の高いところでも息が出来るぞ?」


 鋭い質問に思わず感嘆の声が漏れる。

 と同時にこの世界でも、空気が呼吸に必要なものであることはわかっているのだと理解する。


 やはり、こいつは賢い。


 いや、確かに馬鹿なところはあるが。


「そのあたりの話をすると原子分子の熱運動とか色々めんどくさい話になるんだが……空気は軽すぎて落ちない。後、地上に一杯ありすぎてこれ以上地上を埋め尽くせない、ってあたりで納得してくれ」


 例えば軽い綿毛と、重い鉄球では前者の方は地面に落ちにくい。そんなことをイメージしてもらえればいい。


 ……実際は、空気抵抗による速度収束の違いによって綿毛と鉄球の終端速度が違うだけなので、全く以って別の問題なのだが。まあこの際こいつの疑問を受け流せればいい。この議論はあまり本質的じゃない。


「……まあ、分かった。そういうことにしておく」


「助かる。んで、話を戻すと、空気は重さを持つ。その重さが気圧だ。そして、粒子が多いところのほうが当然重さは大きい。それは分かるな」


 バレッタ王子は初めて聞く概念にも関わらずこくりと頷いた。


「ってことは、粒子の多寡で場所によって気圧に違いが生じる。それが気圧差だ」


「なるほど……つまりは、粒子の多いところが気圧が大きくて、粒子の少ないところは気圧が小さくなる……そうなればそこに差が生まれるってことでいいんだよな?」


「グレート。その通りだ」


 オレが褒めるとバレッタ王子は恥ずかしそうに頭をかいた。仏頂面だが、嬉しいのか耳と尻尾がぴこぴことうごいている。

 そんな彼の様子を見てラインさんが微笑み、バレッタ王子が噛み付く。何気ないやりとりに妙な感覚を覚え、オレは余計な雑念を振り払うべく頭を振った。


「で、だ。ここからが本題なんだが、空気の粒子は、気圧の大きいところから小さいところへ流れるんだ」


「は? 何でだ?」


「例えば水槽の真ん中に仕切りを入れることを考えてみてくれ」


 そう言いながらオレは実際に土魔法で真ん中に仕切りのある水槽を作る。

 こういうとき魔法って便利だな。


「それで、片方にはたくさんの水を。もう片方には少しだけ水を入れておく」


「あ……分かった!」


 バレッタ王子が嬉しそうに笑う。

 オレは驚きながらも黙って答えを促した。


「もし仕切りが無ければ、多いほうの水が少ないほうへと流れていくよな。その流れは、水だと水流だけど、空気だと風になるんだな!」


 彼の答えにオレは笑みを零してしまう。

 その笑みは決して微笑ましいとか弟子の賢さを賛辞するとか、そういった類のものではない。


 驚愕だ。そして感嘆。


 目の前の少年の聡明さにオレは言葉を失い、思わず笑みがこみ上げてきたのだ。こちらの世界に来て、相手の頭の回転の速さに驚いたのは初めてかもしれない。


「そうだ。……だから、今度はそれを魔法で起こすことを考えればいい」


「魔法で……」


「ああ。魔力を使って擬似的な気圧差を生み出すんだ。それも現実では考えられないほどのな。そして空気の塊にポテンシャルを溜め……あー、要するに力を溜めて、一気に解放する」


 解説しながらもオレの手から放たれた『ワインド』がまばらに生える草を揺らした。


「それが、風魔法の基本だ」


 基本的に、面で攻撃する風魔法の原理は概ねこの通りだ。


 オレの『風撃(ブロウショット)』や『疾風尖槍(ガストランス)』などは、この基本原理からはやや外れるものの、考え方は同じだ。風を一点に集め、それに形状を与えて、効果を発現する。


「風の仕組みはよくわかった。すげーな師匠は」


「まあ、それなりに勉強してるからな。……って、待て。今なんて言った?」


「風の仕組みはよくわかった」


「違うその後」


「すげえよな、師匠は」


「し、しょう……?」


 まるでその言葉を知らないかのように鸚鵡返しをしてしまう。だが、無論言葉の意味が分からないわけではない。


「……どういう風の吹き回しだ?」


 風だけに。いや、ごめん、なんでもない。

 意図せず洒落になってしまったことを恥ずかしく思いながらもバレッタ王子を見ると、彼もまた恥ずかしそうに俯いて言った。


「いや、その……なんつーか、アンタ色々と思った以上にすげーからさ。名前を呼び捨てにするのも、ちげーし……だったら師匠って呼ぶのがいいかなーって……」


 歯切れ悪くぶっきらぼうに言うが、その目はチラチラとこちらを見やり可否を窺っている。


「……まあ、別に呼び方を矯正するつもりは無いが……師匠なんて呼んでもらえるほど大層な人間じゃないぞ、オレは」


 バレッタ王子はオレの言い様を意にも介さず、「じゃあ師匠で」と一方的に呼び名を決めてしまう。


 まあ、呼び名ぐらいどうでもいいか。


「じゃあ、今回の修行の目的を定めよう」


「?」


 オレの提案にバレッタ王子が首を傾げる。


「今回の目的はオレの魔法『風撃ブロウショット』の習得だ。もちろん、無詠唱で」


 そういうと、オレは試しに『風撃』を出す。

 この風魔法はオレが良く使う使い勝手のいい自作の風魔法だ。風魔法の『ワインド』と似ているが、あれよりも焦点を絞り打撃に近い攻撃を実現する。


「……」


「弱気だな?」


「そ、そんなことない! やる……やるぞ! やってやるからな!!」


 ふすー、とやや空回り気味に息巻くバレッタ王子に呆れ半分、期待半分で肩をすくめる。

 もちろん、無詠唱ができるとは思っていない。

 だが、少しでも彼の魔法の上達に寄与できればそれで十分だろう。


 そうして、他愛の無い訓練は続いていく。



 しっかりと、予定通り、他愛なく。


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