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56、自分のために


「一時はどうなるかと思ったよ……」


「オレの演技も迫真だったろ?」


「急にお笑いだしになられたから本当におかしくなってしまわれたのですかと……」


 笑うオレに対して崩壊した敬語で失礼なことをのたまう少女。

 一睨みすると「すみませんすみません!」と再び怯えた目で謝罪を繰り返す。


 オレは彼女のあまりの怯えように罰の悪さを覚えつつも、宿の自室の扉を開ける。

 木製の扉はオレの思ったよりも簡単に開いた。


「とりあえず入れ。部屋の中まではあいつらも追ってこないだろ」


 落ち着いて話をするにも場所が必要だということで、とりあえず二人の少女を宿につれてきた。


 気絶したほうは未だにその意識を取り戻してはいない。

 治癒魔法はかけていたものの、実際どの程度脳に損傷が残っているかは分からない。

 ためらう赤茶髪に「ま、諦めろ」と行って背中を押す。

 恐る恐る部屋に入るのを見届けて、オレは後ろ手に扉を閉めた。

 まだ警戒を解かない赤茶髪の少女を一瞥する。オレは大きく欠伸をしながら、背負った少女をベッドに寝かしつけると、その横に腰を下ろした。

 凛も椅子に腰掛けて、少女に座るよう呼びかける。


 少女がおずおずといった調子で漸く席に着くと、一息ついてからオレは話を始めた。


「さて。オレは十一優斗。こっちのちんちくりんは織村凛だ。……まずは、君らの名前を聞こう。もし教えたくなければ偽名でも構わない」


 そんなオレの一言にぽかんとした表情を浮べる少女。

 言葉の真意を読み取ろうとしているのか少しばかり目線を彷徨わせるが、明確な答えを得られないままに視線をオレに戻した。


「……えっと、あたしはエルナって言います。そっちで寝てる子はソフィアです」


 そう言ってチラリとオレの後ろで寝ている少女に目をやる。

 どうやら観念したようだ。


「お二人とも、お助けいただいてありがとうございますでした」


 ぺこりと頭を下げるエルナ。

 癖毛とともに頭についている獣耳も揺れる。

 よく見れば二人ともあまりきれいな身なりをしていない。薄汚れた肌と不健康そうな顔つき、そしてぼろきれに程近い服装からはいい暮らしでないことが窺える。否、より端的に言えば、まともな生活などまるで送れていないことが一目で分かる。


 だが、その格好よりも目を引くのは二人の身体的特徴だ。

 エルナそしてソフィアはともに獣耳と尻尾を持っている。

 エルナのそれは猫に近く、ソフィアのそれは狐のそれに近いように見える。


「二人は、あのおっかない男たちに追われてた……って認識でいいんだよな?」


 とりあえずつれてきてしまったものの、コトと次第によっては彼らに返すことも考えなければならないだろう。

 意図せずして彼女を品定めするような視線を向けてしまうも、猫耳の少女――――エルナは慣れているのか気持ち悪がりもせずに答えた。


「えと、その……何というか、あたしたち……」


 急に歯切れの悪くなった彼女にオレと凛が合わせて首を傾げると、彼女はためらう素振りを見せる。


 だが、「まあ、ダメ元でしたし……」とよく分からない呟きを漏らすと、急にまとっているぼろきれの胸元をはだけさせた。


「……は?」


「ちょ、ちょっと!」


 唐突な出来事にオレが不意を付かれ声をあげ、凛は焦りと驚きを露にする。

 エルナがオレらに胸元を見せ付ける表情には恥じらいが見受けられる。

 無論、彼女に露出癖などあるわけもなく、オレらの目を引いたのは彼女の発展途上にあるつつましい胸ではない。


 ――――胸のやや上、鎖骨の間あたりに刻まれた紫色の紋様。


 それは幾何的な記号だ。とても自然にできたやけどやあざには見えない。


「それ何……?」


 凛の疑問符にエルナは驚きを顔に浮べる。


「……ご存知、無いのですか?」


 オレも凛も黙って頷く。

 その二人の反応にさらに驚いた顔をするエルナ。


「お二人はどこかの、おぼっちゃまおじょうさまでございましょうですか……」


 ぶつぶつと独りごちる彼女に説明の続きを促す。


「この胸の紋様は奴隷紋……あたしたちは、――――奴隷、なんでございますよ」


 奴隷。


 この街にその存在がいるのは知っていたし、日中もその姿を幾度と無く目にした。

 だが、彼らは背景の一部、喧騒の一部としてしかオレたちの前に立ち現われておらず、こうして実際に会話を交わすことなど無かった。だから、そのこみ上げる違和感と不快感に目を瞑れた。


 目の前にいる二人の少女が奴隷。

 その事実はオレらに微妙な感情を抱かせるのに十二分だった。


「あ、いえ、その! お二人がそういったことに疎いのでございましたら、それは別に全然これっぽっちも問題ありませぬことでございまして!」


 オレらの表情を常識を知らなかった故の恥と誤解したエルナは、要領を得ない励ましを口にする。だが、オレらにそれを訂正する余裕は無い。


 こんなに小さな子供が、奴隷……?


 二人の歳は10も行くだろうか。

 もしかしたら、まだそれにも満たないかもしれない。

 少女、否、幼女に程近いほど小さな体躯、成熟しきっていない精神、か細い四肢。

 この体が奴隷の責務を背負っている……

 凛が酷く辛そうな表情をしているのを認め、オレは話を進めることにする。


「それで、二人はどうしてあの男たちから逃げてきたんだ?」


「それは……」


 再度のためらい。


「……オレらが信用できないならそれも構わないが、聞かないことには協力も出来ない」


「え……」


 ぽかんと、だらしなく口を開けたままで固まるエルナ。

 不意に向けられた優しさに驚愕を隠せないといった様子だ。


 だが、オレの向けた言葉は単なる優しさではない。

 酷かもしれないが、既にオレたちがこの状況に巻き込まれている以上、彼女たちには情報を吐いてもらわなければならない。何も知らないまま彼女らを手元において置けるほど、オレの危機管理意識は低いつもりはない。


 だから、先ほどの言葉はある種の打算の上に成り立つものだ。

 彼女に情報を吐かせるための計算づくの優しさ。

 そんなあくどいことを考える自分に辟易しながら、彼女の言葉の続きを待つ。


「無理、しないでいいからね?」


 そんなことなど露知らぬ凛の優しい声音が、最後の一押しになった。


「あたしたち……逃げてきましたんです……」


「どこから?」


「………………奴隷商の、ところから……」


 奴隷商。その名の通り、奴隷売買を行う業者だ。

 この世界では奴隷を売るのに資格が必要で、認められた者しか販売することは出来ない。

 同様に、人を奴隷たらしめる、奴隷紋の取り扱いにも資格が必要だ。奴隷紋を刻まれた者は、奴隷として主の命令に従わなければならない。何故なら、命令に反すれば奴隷紋に体内の魔力をかき乱され、激痛に苦しめられるからだ。

 それでもなお命令に反する者は、極度の痛みと魔力のかく乱により、死に至る。


 と、オレが読んだ本には書いてあった。

 その実情が正しいのかエルナに確認すると、「あたしの知ってることと一緒です」と、お墨付きを頂いたので、概ねオレの理解は間違っていないはずだ。


「……なるほどな。奴隷生活に耐え切れずに逃亡してきたわけか」


「……はい」


 肩を落とすエルナの姿に、オレは小さく息を吐いた。


「……逃げるアテはあるのか?」


「……」


「そもそも、奴隷紋がついたままでいいのか? 主に『帰って来い』って命令されたらおしまいじゃないか?」


 逃げることは出来ないはずだ。


「あたしたち、まだ、買取手が見つかってないんです……ですから、奴隷紋ついてても命令する人がいないんでございますです……」


「……奴隷商はどうなんだ? 命令権を持たないのか?」


「……はい……あたしたちに命令することは出来ません……ただ……」


「ただ?」


 凛が語尾を上げて問う。

 但し書きに嫌な予感を感じつつも、オレは彼女の話を静かに聞き続ける。

 凛も神妙な面持ちで耳を傾けている。


「…………もし、奴隷商があたしたちの奴隷紋に、魔力を送ったら、あたしたちは体内の魔力をかき乱されて――――」


 ――――死んじゃいます。


 彼女は、自らの死が目と鼻の先にあることを告白する。

 彼女の声は震えている。

 目の端に涙を溜めながら言う少女は儚げで、闇夜に溶けてしまいそうだ。

 凛が息を呑むのが伝わってくる。


「……つまりは、お前らは命令をされることは無い。だが、お前らの生殺与奪は未だに奴隷商が握っていると……」


 こくり、とまた黙って頷く。


「じゃあ、今にでも殺されるんじゃないか?」


 オレの無遠慮な物言いに凛が非難の視線を向けてくるがあえてそれを無視する。

 そうすると、エルナは小さく首を傾げた。


「それは、どうでしょう……その、獣人の子供の奴隷は珍しいので、向こうも出来れば確保して高値で売りさばきたいって、思ってると思うんです」


 つまり、自分たちにある程度の価値があるためそうそう簡単に棄てられることは無い、と。


 ただ、


「それも何時までかは分からない、か」


 もしかしたら数分後には価値なしと判断されるかもしれないし、一週間はもつかもしれない。


 だが、死が常に隣にいるという恐怖。


 その恐怖を分かってやれるなどと傲慢にのたまうことはしたくないが、それでもやはり心のどこかで分かる。

 オレも幾度と無く死とは手を繋いで、仲違いをしてきた。


 エルナは感極まり涙を溜めてオレの胸に飛び込んでくる。


「お、おい!」


 うろたえるオレを見上げるエルナ。


「あたしたちを……助けてください……」


 涙目で見上げるその様をあざといと感じてしまうオレは相当性格が悪いらしい。


 だが、明らかに目の前の少女は助けを求めている。


 この子らを切り捨てる覚悟がオレにはあるのか。


 いや、違う。オレは切り捨てていいのか?


 楔はそれを否定する。




 ……ああ、そうだよな。


 全てを掬えって、こういうことなんだろ?


 オレは無意識に口の端が歪むのを感じた。

 その理由は分からない。だが、醜悪なほどにオレは音も無く笑う。


「ああ……任せておけ」


 エルナが、その顔をオレの胸元にうずめてくる。

 チラリとわき目に見やると、凛は未だに微妙な表情のままだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 くぁ、と小さな欠伸を漏らす。


 寝ぼけ眼をこすりながらベッドに眠る三人の少女を見やる。

 こうしてみると姉妹のようにも……まあ、見えんな。姉妹にしちゃ髪色も姿形も違いすぎる。

 とりあえずエルナとソフィアを同じベッドに寝かしつけ、凛にはもう一つのベッドを使わせた。オレは当然のように床寝だ。

 まあ、寝袋の類はあるから問題は無かった。


 窓の外を見れば落ちた日は既に昇っている。

 朝焼けというには時間も遅い。既に完全に日は昇り切ったようだ。


「ほら、起きろお前ら。いつまで寝てるつもりだ」


 幸せそうに眠りこけている三人、凛、エルナ、ソフィアを起こす。

 いや、エルナとソフィアが幸せそうというのは語弊がある。ただ、緊張が和らいだだけだ。

 まず初めにエルナが目を醒まし、くぁ、と小さく欠伸を漏らした。


「あ、お、おはようございますです!」


「ああ、おはよう……で、凛! お前はさっさと目を醒ませ!」


 彼女の顔に少量の水をかけて無理矢理たたき起こす。

 「ぶへっ」と少女の口から漏れてはならないような珍妙な奇声を上げながらようやく凛が覚醒する。


「ゆ、ゆーくん……朝から激しいよ……」


 目をこすりながら凛が不満を口にするが、オレはため息を返すだけだ。


「とにかく、早いうちにこいつらの扱いをどうするか決めなきゃならないんだから時間は無い」


 そう。エルナとソフィアの生殺与奪が未だ奴隷商の意のままである以上、オレらは早いうちにソイツと話をつけなければならない。

 もしこの二人が生かしておく価値なしと判断されればすぐにでも死んでしまう可能性だってあるのだ。


 だから、オレたちはその前に動く必要がある。


 そんな風に現状の確認をして寝起きの頭を醒ましていると、ベッドで紫紺色の尻尾が動いた。


 ソフィアのものだ。

 もぞり、と緩慢な動きで体を起こしたソフィアは呆けた表情のまま焦点が定まらない。


 脳震盪の後遺症か……?

 錯視の可能性を心配して近寄る。


「大丈夫か?」


 オレが彼女に触れたその瞬間、



「ッ――――――」


 ダンッ、とソフィアに突き飛ばされ床に背中を打ち付ける。


「ッ――――ッ――――!?」


 理解出来ないことがおきたかのように半狂乱状態で頭を振り回すソフィア。

 そんな彼女の姿をオレは床に倒れ伏しながら見上げる。


「ってぇ……おいおい、何だこりゃ……」


 今しがた起きたことに疑問符を浮べていると、ベッドの上で声も出さずに暴れるソフィアをエルナが一喝した。


「ソフィア! 落ち着いて! この人たちはこわい大人じゃないでございますですから!」


 その大きな声に、ぴたりとソフィアの動きが止む。

 口が半開きの状態で目だけをエルナ、凛、オレの順に動かし、首を傾げる。

 息は荒く、こちらを強く睨みつけている。

 だがその目の奥に潜むのは強い恐怖。決して、獰猛な闘志などではない。


「この人たちはあたしたちを助けてくれたんですよ。だから、怖がらなくてもだいじょうぶでございますです」


 そう言いながらエルナはソフィアを胸に抱きかかえる。

 ソフィアの肩が震える。

 そのままソフィアは音も無く泣き出してしまう。


 な、何なんだ一体……


「えっと、その、……すみません……ゆ、許していただけるなら、あたし何でもします」


 ようやく落ち着いたソフィアの背中をなでながら、代わりにエルナが謝罪を口にする。

 許す、とはソフィアのことをだろう。


「いや、構わない。驚いただけだ……それにしても……」


 ちらり、とソフィアのほうに目を向けると、ソフィアは怯えた表情を隠すこともせずエルナの後ろに隠れてしまった。


 こりゃまた……


「重症だな……」


 オレの呟きにエルナが辛そうな表情を浮べる。


「……はい。この子は、その、おとなたちに酷い目に遭わされて、……声が」


 言いづらそうに口ごもるエルナにオレは得心が行く。

 凛だけは未だに分かっていないようだ。


「ASD――――急性ストレス障害。それに伴う防衛機制、及び失声症ってところか……」


 半端な知識ゆえ、精確な診断などは出来ないが概ね目の前のソフィアという少女が抱える精神的疾患は以上のようなもので間違いないはずだ。


「えーえすでぃー? きゅーせい……? なんでございますか?」


「……何語?」


 エルナが意味を捉えられずに首を傾げる。

 いや、凛。お前が理解出来てないのはダメだろ。

 相も変わらずな凛の様子に苦笑を漏らしそうになるも、ソフィアと目が合い憚られた。


「いや、何でもない。ソフィアの症状の医学的な名前だ」


「名前があるのですか……? も、もしかして、ユートさんはお医者さんなので?」


 期待の眼差しを向けてくるエルナに首を振った。


「いや、かじった知識に過ぎない。医者なんていう大層な人柄じゃないんでね、オレは」


 肩を竦める挙動にエルナはそれ以上の話を避けた。


「さて、それでソフィア。初めまして、オレは十一優斗だ。こっちの……」


 妙なやつ、と言おうとして凛の眼光が鋭くなったのに気付きオレは慌てて口を噤む。


「……こっちのは織村凛」


「やっはろー」


 斬新かつ近未来的な挨拶で凛がソフィアとの距離を縮めようとするもあえなく失敗。どうやら、凛の完璧外面笑顔も役に立たないようだ。


「こら、ソフィア! このお二人は、あたしたちを助けてくださったんでございますですよ! そんな態度じゃダメです!」


 ぷりぷりと怒るエルナに渋々とソフィアが顔を出す。

 そして、何度か口をパクパクとさせた後にペコリと小さく一礼すると、再びエルナの後ろに隠れてしまった。


「……その様子じゃ、オレらと話さないほうが良さそうだな。エルナ、悪いけどソフィアに今どういう状況か話してやってくれ」


「分かりました!」


 エルナがソフィアに現状を説明する。

 最初は怯えた表情をして聞いていたソフィアだが、次第に顔を驚きと困惑に染めていった。


「って、わけなのですよ!」


 何故か胸を張って話を締めたエルナに生暖かい視線を送りながら、オレは立ち上がった。

 オレの一挙手一投足にびくびくと怯えるソフィアだが、そんな彼女に笑いかけて提案した。


「まあ、何はともあれ」


 急に居住まいを正したオレに、ゴクリ、と二人が唾を呑む。


「――――朝飯でも食べようか」


 拍子抜けした三人の表情を見て、オレは小さく笑いを漏らした。






「こ、これ、本当に頂いてよろしいんですか!?」


 キラキラと目を輝かせるエルナに対してソフィアの表情は憂鬱げだ。


 目の間に並べられた宿の朝食。

 豪華絢爛と呼ぶには程遠くどちらかといえば質素なほうだろう。

 無論、オレが宿をとる際に食事の美味さは優先度を上げたため、質も量も十分ではあるのだが。


「好きなだけ食べればいい」


 彼女らの0と1の反応に苦笑を漏らしながらオレも一口目を口にする。

 それを見届けてエルナもようやく食事に口をつけた。

 どうやらまだ遠慮しているようだ。


「ん、美味しい」


 凛が素朴な感想を漏らす。

 オレも彼女の意見には同感だ。

 簡素な味付けながらも素材の味を生かしており、非常に美味といえる一品だろう。

 現代のレトルト食品などには無い美味さだ。


 だが、目の前の少女、ソフィアは未だに食事に手をつけていない。


「どうした、食べないのか?」


 迷うような素振りでこちらに視線を向けてくるが、すぐにまた逸らしてしまう。

 その瞳の奥に潜む表情は困惑、そして疑心。


 だから、オレはあえて笑いながら言った。


「安心しろって。別に毒なんて入ってないし、食べて太ったお前らを食おうなんて魔女的な考えはしてねえよ」


 どちらに図星だったのかは分からないがソフィアが目を丸くして罰の悪そうにこちらを窺った。


「もし心配ならオレのトレイと交換しても構わない。二口ぐらい手を付けたけど、まあ誤差の範囲だろ」


 そんなやりとりを繰り広げる間も凛とエルナはばくばくと朝食を食べ進めている。

 君たち少しペース早くない? もっと味わったら?

 二人の緊張感の無さに毒気を抜かれたのか、ようやくソフィアがスープを一口、口へと運んだ。


 その細い手は震えながらも、確かに口へと料理を届ける。


「――――」


 一瞬の驚愕、そして無言ながらも彼女が料理を美味に感じたことが分かった。


 二口目、三口目とソフィアの手が進む。


 ポロッ、とソフィアの目元から雫がこぼれた。

 ボロボロと涙を流しながら、食事をする様はなんともいたたまれないが、それでもいいかとも思える。


 幸せそうに食事をほおばる彼女たちを見ながら、オレはパンにかじりついた。


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