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5、魔法との出会い

タイトル詐欺じゃないです。

3、魔法との出会い


 オレが異世界に飛ばされて来てから早三日が経過した。

 あれ以来、実力が合うからという理由でオレは様々な場面で春樹とコンビを組まされている。春樹自身とも気が合うから問題は無いのだが……


……結論から言うとオレは香川春樹より弱かった。


ステータスの値を見てもらえれば分ると思うがなんと春樹君、僕の二倍の体力をお持ちなんですね。体力5なんで、数十分もたたないうちにバテるオレ。それを見て、攻撃していいのか迷っている春樹君。もうこれ分かんねえな。


 訓練は基本的に、座学、戦闘実技、魔法実技に分けられている。

 座学では基本的な常識や魔物などの知識、戦闘実技は剣術や体術訓練、魔法実技では魔法の詠唱および発現を行った。

 この世界、オレの憧れる無詠唱魔法は不可能らしく、詠唱によって魔力を固定化して現象を発現する必要があるらしい。いや、何か、講師の説明が分かりづらすぎて、これで合ってんのか分からないけど。

 あの講師、見た目ヒョロヒョロの爺さんなのに「考えるな。感じろ」みたいな授業やるから、理論派のオレからするとわけが分からない。

 他のやつらは、そのありあまる才能からそれが一番いいらしいが。


 そんな講師をディスるぼっちなオレが、三日過ごして気付いたことがある。


 座学:簡単すぎてクソゲー。教わったことは一字一句覚えてる。

 実技:無理すぎてクソゲー。何があれって、魔法の発現は一回も成功してないし、剣術も春樹に負けるレベル。

 

 僕の異世界ライフは詰みました!


 オレはなんのためにこの世界に来たんだ……


 そんな風にこの世の理不尽に絶望しながら歩いているとふと、一つの部屋が目に留まる。


「図書……館……?」


 オレたちが訓練している場所は王城のすぐ近くに建っており、様々な施設がある。その一つがこの図書館だ。

 図書館か……色々調べてみたいこともあるし、ちょっと覗いていくか。

 気落ちした気分を誤魔化す、いい気分転換になってくれるだろう。

 少しばかり迷いながらも赤い二枚組みの扉を押す。


 ドアは音も無く開き、中から図書館特有の木の香りが流れ出てきた。

 そのどこか懐かしい香りに、心が落ち着くのを感じながらも中を見回す。


「失礼しまーす……」


 小声で来場の意を伝えるも、図書室は静まり返っており人っ子一人見当たらない。


「あれ、今日やってないのか……?」


 図書館に休日とかあるのだろうか、と思いつつも後々面倒事になるとイヤなので退出しようと後ろを振り返ると、


「少年、どうしたんだい」


「うわあああああ!」


 ぬっと現れた老婆の姿に思わず情けない声を上げる。

 そんなオレの動揺も我関せずといった様子の老婆が、


「人の顔を見て絶叫とは失礼な少年だね」


「いやいやいや! 後ろ振り向いたらゼロ距離に老婆のご尊顔とかぞっとするでしょう!?」


「なんだい、あたしみたいな美人に顔を近づけてもらえるんだ、もっと喜びな」


「あんた、初対面の相手にぐいぐい来るなぁ!」


 冷や汗を流すオレに老婆は老いを感じさせない快活さで笑った。


「ふん、面白い少年だね。で、この王立図書館に何の御用だい?」


「ああ、王立図書館なのか……ここ……」


 それにしては人が少ないが。


「普段は人がもっといるんだがね。あんたら勇者様が来てからは締め切りだよ。何でも、外部の者にはまだあんたらのことを知られたくないんだと」


 そう言うと老婆はフッと息を吐いた。


「で、少年は何故ここに?」


「あ、ああ……色々調べものしようかと。魔法とか」


「ふぅむ。なるほどね。だったらこっちだよ」


 そう言ってオレを先導する老婆。多分この人、司書かなんかだろう。


「あ、ちなみにあたしは司書でもなんでもないからね。ただのおせっかいなお姉さんだ」


「その年でお姉さんは無理があると思うが!? ってか、司書さんじゃねえのかよ!」


「まあ、司書じゃないけど、司書代理みたいなもんさ。色々あんだよこっちにも。ゆっくりしていきな、トイチユウト」


 そう言ったきり、老婆は無言で本棚の前へと歩いていく。どうやら何冊か見繕ってくれるらしい。

 ん? なんであの人オレの名前を……

 ああ、ブラント団長たちから話が行ってるのか。なら納得。

 脳内に沸いた疑問に結論を与えると、赤い絨毯の床を踏みしめていく。

 蔵書の多さ、そして本棚の高さに圧倒されながらも、ワクワクする気持ちは抑えられない。どうやらオレの冒険心はまだ死んでないようだ。三つ子の魂なんとやらって言うしな。


「にしても……」


 この図書室、もとい図書館めちゃくちゃでかいな……まだ終わりが見えないんだけど……


「ほら、このあたりが魔法の本だよ。初心者向けだと……このあたりとかかね」


 そう言って数冊の本を見繕ってオレに渡してくる。その動きからは本を大切にする心遣いがうかがえた。なんだかんだ言って、本好きなんだな。


「ありがとう、ばーさん。後は一人でも大丈夫そうだ」


「そうかい。あたしは向こうにいるからね。何かあったら呼びな」


「分かった」


 そう言うとばーさんはこちらを一瞥もすることなく戻っていった。

 マジで誰だったんだあれ……


「…………さてと。読みますか」


 魔法の講義は、講師が感覚派のせいでオレには理解できなかった。

 だったら、理論をこちらで補完してしまえばいい。そうすれば、多少は魔法が使えるようになるかもしれない。オレは感じるより考える派なんだ。


 ってか、ぶっちゃけオレも早く魔法使いたい。

 そう思いながら、「魔法入門! 今日からあなたも魔法使い!」なる怪しげな参考書を読み漁っていくのだった。



 それから閉館までの3時間足らずで20冊強の本を読み漁った。

 いや、3時間20冊って一時間あたり6~7冊という異常なペースで読んでいるのだが、これでしっかりと内容は頭に入っているし、理解もできている。前から、読書スピードは速いほうだったが、異世界に来てさらに上がっている気がする。

 まさか、異世界でオレの得た能力って速読……? 地味すぎじゃね?

 そんな他愛のないことを考えながら、オレはペンを走らせる。

 今日読んだ本の内容を紙にまとめているのだ。いくら記憶したとはいえ、それを自分なりに体系付けてまとめる作業は不可欠だ。


 そもそも魔法とは何か。それを語るにはこの世界の原理や成り立ちにまで言及する必要がある。

 一般的な見解では、この世界の全ての物質は『魔素』と呼ばれる、最小単位の粒子によって構成されている。魔物などの高濃度魔力生命体、つまりは魔力から生まれた生物が、死後放置しておくと、光の粒子となって消えていくのがその根拠なんだとか。

 まあ、突っ込みどころは色々あるが、この世界において魔物や魔法なんていうもとの世界では考えられないものが存在している以上、物質の構成粒子にこの世界特有のものがあっても不自然ではないだろう。それに、魔素が元の世界の素粒子と同じようなものだと考えれば、さほど違和感もない。

 魔法とは、その粒子でしかない魔素に特定の属性を付与して、現象として具現化したものである。噛み砕くと、魔素という素材を元に、一つの作品を作るようなものだ。魔法には、水や火などの自然現象を引き起こすものから、人の精神に干渉したり、治療を行ったりと様々な種類があり、かなりの部分を個人の適正や才に左右されるらしい。

 全ての生物の体内には、『魔臓』と呼ばれる魔力を溜める器官が存在し、体全体に血管のように張り巡らされている『魔導回廊』という魔力を伝達する通路を通って、外部へと伝えられる。外部へ放出する際に、様々な属性付与などの指定をすることで、魔法はその具体性を持つようだ。

 しかし、その外部への伝達を意識的に行うのは、不随意筋を動かすようなもので非常に難しい。というか、不可能である。急に、「じゃ、心拍数2倍にしてー」といわれても無理なのと同じなのである。

 それゆえ『詠唱』という過程を経ることで、不随意筋たる『魔導回廊』の操作を行うことなく、魔法を発現するのだ。先人たちの考えたものだそうで、詠唱の一語一語に『魔導回廊』が反応するための触媒の作用を持っているようだ。

 と、そこまで考えておかしさに思わず息が漏れる。


「まあ……オレは、できちゃったんだけど」


 そう言いながら、右手の中にコインサイズの火を形成する。

 

 それは、紛うことなき、オレの憧れた魔法の発現だった。


 本を読んだ後、魔法の仕組みやこの世界における魔力の原理を理解したオレは、試しに無詠唱で魔法を試してみた。すると不思議なことに、大して苦労することなく無詠唱での魔法の発現に成功したのだ。

 まあ、調子に乗りすぎてぶっ倒れたけど。

 いくら無詠唱が使えるとはいえ、オレのMPは最大値10。数回小さな火を灯すだけで、MPは尽き、耐え難い眩暈に襲われてしまった。


 だが、ぶっ倒れたことによって得られてたこともある。

 怪我の功名だな。なんて思いながらステータスを表示する。


 MP8/30


 MPの上限が大きく増えていた。おそらく、MPを使い切ることで最大値が大きく上昇するのではないかと、オレは踏んでいる。

 つまり、毎日しっかりとMPを消費していれば、オレのMPは上がっていくってわけだ。


「ちょっとだけ、希望が見えて来たじゃないか」


 もしかしたら、オレもちゃんと魔法が使えるようになるかもしれない。

 オレは期待に頬を緩ませながら、ペンを走らせ続ける。

 何故自分が無詠唱で魔法を使えるのかという疑問など、このときのオレの頭の中にはいささか程も残ってはいなかった。


春樹君マジメインヒロイン

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