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49、やり残し


 武器屋で剣を二振り購入し、オレは自宅へと足を進めていた。

 騎士団寮ではなく、購入したオレの自宅だ。

旅に出る前にすべきことがもう一つだけある。


「よし……」


 自宅の工房へ向かう。

 まだ使っていない工房は、新品同然だ。

 当然、各種の工具や金床、かまどなども使われていない。


 ここでオレのすべきこと。


「インゴットの確認と、弾丸の作成だな」


 先日ダンジョンの最下層で手に入れた各種金属のインゴット。そして、二丁の銃。

 忙しくて何だかんだしっかり確認できてなかったからな。


 魔族と戦ったり、決闘やったり、幽霊倒して家買ったり、ドラゴン倒したり、幽霊屋敷開いたり……え、過密スケジュール過ぎない?そろそろ労基法違反しちゃうよ?


「さてと」


 そう呟きながら『持ち(インベントリ)』から三十種以上あるインゴット類を取り出していく。


【鉱物:アダマンタイト】

 この世界において純粋な鉱物としては最も固い。黒い色をしており、熱による変形にも強いため加工には困難を要する。


【鉱物:ゲルマイト】

 高温にすると非常に高い粘性を持つようになる鉱物。合金として他の金属に加えることで、可塑性を高めることが出来る。単体では非常にもろい。


【鉱物:エルトライト《別名:雷電石》】

 放置しておくと電気がたまる鉱物。衝撃とともに電気を放電するため、掘削は困難を極める。


 などなど。


 オレが鉱物図鑑で確認したのと同様と思しき大量の鉱物が出てくる。


 その一つ一つを確かめながら、順に何が必要で、何が利用可能かを考える。

 恐らく、現状で主立って使えるのは上に上げた三つになるだろうか。

 一つ目と二つ目は、弾丸作りに。

 三つ目は、少しだけ考えているものがあるのでそれを作るのに使えそうだ。

 その他にも、鉄や銅なども多くあるから作業に困ることは無いだろう。


「さてはて。『鍛冶』スキルの本領発揮と行こうか」


 こうしてオレは作業に入った。



 まず弾丸だ。

 『持ち物』から銃と弾丸を取り出す。

 銃の種類はハンドガンっぽいのとマグナムっぽいのが一つずつ。

 当然の弾丸の種類は違う。

 試しに切断し、断面を観察する。


「なっ……火薬、入ってねえのか……?」


 本来オーソドックスな銃弾は、メタルコーティングの施された弾頭、発射薬の詰まった本体、そして点火薬が組み合わさった構造のはずだ。


 だが目の前のそれには火薬と思しきものは入っていない。

 多少構造的な工夫は見られるものの、材質は金属オンリーだ。


「いや……違うな……」


 単一の金属かと思ったら微妙に違う色の部分がある。

 他が全て銀白色であるのに対し、弾丸の末尾の方が淡い紫色になっている。ただ、金属光沢があるので気付かなかったのだ。


「これは……なんだ?」


 確認しようと力を込めると、ぼんやりと紫色の部分が光りだした。


「うわっ」


 思わず手元から弾丸を落とすと、すぐにその淡い光は収まる。

 その現象を理解するために弾丸を見つめる。

 待てよ……?もし、この銃が魔力で発射するタイプだとしたら……

 一つの仮説に思い当たり、弾丸をもう一度拾い上げる。

 そして、今度は意図して魔力を流し込む。


 すると、


「やっぱりか……」


 弾丸の紫色の部分が先ほどよりも強く輝く。

 どうやらこれは魔力によって反応するようだ。

 そして、恐らく点火剤のような役割を果している。


「確か、インゴットの中に似たような性質のやつが……」


 独り言を漏らしながらあさると、確かにあった。


【鉱石:マギカフロスト《別名:魔積霜》】

 ダンジョン内や魔力濃度の高いところで魔力が蓄積してできる鉱石。魔力伝導性が非常に高く、各種の付与効果がある武器には欠かせない。

 

 インゴットにすると濃い紫だが、恐らくこれが使われている。

 さらに弾丸を薄切りにして、構造を細かく調べていく。


「なるほど……ここがこうなって……」


 ぶつくさと呟きを漏らしながら小さな弾丸を刻むその様は紛うことなき変質者です、本当にありがとうございました。


 などとくだらない思考を割きながらも、構造の理解を終える。


「なるほど。概ねの仕組みは理解した。これなら作れそうだ」


 もとより、同じ弾丸をまねるだけであれば大した技術は必要あるまい。

 そうタカをくくり作業に取り組み始めたのであった。





 それから三時間後。


「あー……疲れた」


 何気なく漏らす声もか細く、途切れがちだ。

 肩も腰も痛いし、目もしょぼしょぼする。


 あれから弾丸の構造を把握したオレは、土魔法とスキル『鍛冶』を駆使して、弾丸を計96ずつ作成した。これだけ作れば当分困りはしないだろう。


「にしても、魔法でいちいち形を整えたりするのくそ面倒だな……」


 傍らに置かれた失敗作の弾丸の山を見やりながら思う。

 最初、余裕だと思っていた弾丸作りは思いのほか困難を要した。

 大きさや密度、合金など様々な課題が浮き彫りとなり、その調整等に追われるのに、ざっと二時間ほどはかかった。

 そこからはオレの鍛冶スキルも上昇し、今では、


十一優斗 男 17歳

HP290/290 MP26800/34200

膂力40 体力52 耐久35 敏捷81 魔力14350 賢性???

スキル

持ち物 賢者の加護 ??? 隠密3.6 魔法構築力6.9

魔力感知3.9 魔法構築効率4.8 MP回復速度3.9 多重展開4.0 術法1.0

煽動1.0 鍛冶2.2


 もう、これ鍛冶屋としてやっていけるんじゃね?


 そんなわけの分からない自分の未来像に苦笑を漏らしながら工房の床に倒れ伏す。


「やべぇ、マジで集中切れた。もう何もしたくない」


 そんなダメ人間もびっくりな自分の状況にも何も思わなくなっているあたり、相当疲れているらしい。

 工房の床に寝転び休息をとっていると、何かが動く物音が聞こえる。


 玄関の方からだ。

 外はまだ明るく強盗が入るとも思えない。


 となると、オレの知人の可能性が高いか、もしくは、先日こっぴどく懲らしめてやったイジメっ子三人組あたりが復讐に来たか。

 イジメっ子ってこうなんで三人でいたがるんだろうね。

 まあ、理由は色々考えられるが、今ここで考えることでもないだろう。


 さして警戒するでもなく、意識だけを工房の入口に向ける。

 絨毯の上を誰かが歩く音が聞こえる。

 足音から推定されるに、あまり重い人物ではない。

 すると、足音が遠ざかっていく。

 そのまま足音が聞こえなくなる。

 だが、ややあって足音が再びこちらに近づいてくる。

 どうやら何かを探しているようだ。

 その不安げな足取りをする正体には心当たりがある。


 シエルだ。

 この家を預けるにあたって、彼女に合鍵を渡す約束をしているのだ。

 約束していた時間より少し早いが、彼女のことだ、早めに来たのだろう。


 すると、すぐに工房の入口にひょっこりと影が現れる。


 けれども、それはオレのよく知る白髪をたなびかせる人物ではなかった。


「―――――お久しぶり、ですわね」




 オレは内心の驚きを隠しながらも不敵に笑う。

 その笑みは警戒の意思を示しているに他ならない。


「……よお、リア。元気か?」


「……おかげさまで。アナタもドラゴン相手に大立ち回りを演じた割には元気そうですわね」


 少しばかり皮肉を籠めているのは、やはりまだオレに対して怒りが収まらないのだろうか。

 結局お見舞いのときも顔も見ないで帰ったしな。


「で、何しにここに?」


 単刀直入に聞くも、リアはゆったりとあたりを見渡すだけでこちらを見ようとはしない。


「良い御宅ですわね」


「お前の住んでるお城の豪勢さには負けるけどな」


「でも、アナタはたとえお城に住めるとしても住みたいとは思わないでしょう?」


「かもしれないな」


 世間話というには些か緊張感がありすぎる会話。

 お互いに核心を避け相手の隙を窺うかの如く、様子を見合っている。


 だが、最初に切り込んできたのは彼女の方だった。


「シエルさんとは……」


 その名前を出して一瞬だけためらいを見せる。

 それは彼女らしくないと言えば彼女らしくない姿だった。


「仲直り、出来ましたの?」


 彼女はずっと考えていたのだろうか。


 シエルに距離をとられていたのはもう一週間以上も前だ。もう既に関係は以前通り、とまでは行かないまでも回復しているつもりだ。むしろ、幽霊屋敷でイジメっ子たちを成敗してから、近づいているまである。


 だが、無論その関係の接近はある種一方的なものに過ぎない。

 自負でも傲慢でもなければ恐らく彼女はオレに対して恩を感じている。その恩人に対する感謝の念こそが、オレらの「距離が縮まった間柄」の基盤に他ならない。つまり、オレが行った行為に対する彼女への感謝というファクター無しにしてはオレと彼女の関係は成立し得ない。

 だから、そもそも喧嘩や仲違いという言葉を、オレと彼女の間に当てはめること自体がナンセンスなのだ。


 と、そんな理屈を頭でこねくり回しつつも、


「まあ、以前以上に友好な関係は築けているから安心しろよ」


 などと適当な言葉で誤魔化して面倒な口論を避ける。

 こいつと口論すると、剣が飛んでくるかもしれないから絶対に争いたくない。


「そう、ですの……」


 そう言うとリアはほっとした表情を浮べて小さく息をこぼした。

 随分と面倒見がいいこって。

 リアからしたらシエルなど赤の他人に過ぎないだろうに。


「で、用はそれだけか?」


「え、ええ……まあ……」


 またも歯切れの悪いリアの様子にオレは呆れて頬をかいた。


「そうか…………」


「……」


 妙な間が続き、何も言わないリアにオレはわざとらしくため息をついた。

 リアはそんなオレの態度に少しだけためらい、意を決するかのように息を吸った。


「あの」


「……なんだ?」


 できるなら手短に頼む。そんな意思をこめてリアを見やる。


「先日、シエルさんに対して非難を浴びせていたのを、その、一方的に糾弾してしまいましたけれど……」


 それはシエルがものの見事に商談をおじゃんにしたときの話だ。オレが、彼女の商談の何が悪かったかを説いたのだ。

 その際、オレの言い方にリアは怒っていたようだが。


「よく考えれば、アナタは間違ったことは言っていませんでした、し……」


 恥ずかしさを隠すようにしてリアが続ける。

 彼女にしては珍しい、歯切れの悪い言葉だ。


「……それに、次の商談の場を設けてきたのも、彼女に再び挑戦させるためだったのだと……」


 あの時、オレはその場で商談をまとめることはせず、シエルのために次の商談の場を設けた。彼女は未だ商談を行ってはいないようだが。


「そうしたことを何も考えずにただ糾弾してしまって、その……申し訳ありませんでしたわ」


 消え入りそうな声でそう言うと、彼女は頭を下げた。

 そのしおらしい彼女の様子に思わずオレは目を見開いたまま固まってしまう。


 まさか彼女が人に頭を下げるとは。


 むしろ人に頭を下げさせてその首を剣ではねるぐらいのことはやってのけそうだと思っていたんだが。


 予想だにしない彼女の行動にオレは小さくと息を漏らした。

 ……やはり人間というのは難しい。

 簡単に理解などさせてもらえそうにない。


 オレは気まずさに頬をかきながらもぽつぽつと言葉を漏らした。


「いや……別に、お前は悪くないんじゃねえの?」


「ですが……」


「オレもお前も違う方法でシエルのことを心配していた。ただ、それだけだろ?それ以上でもそれ以下でもない」


 そう言うとリアは納得できなさそうな表情を浮べる。

 だが、実際そうなのだ。

 彼女は間違いなくシエルのことを心配していた。

 オレはオレなりに彼女のためになる最善を尽くした。

 その結果の食い違いだ。

 そこにどちらが正しいかなどありはしないし、そんなもの考えるだけ無駄だ。

 だから、オレは決して謝ろうとも思わないし、謝って欲しいとも思わない。


「納得できないなら別に構わないが、オレは謝られる必要も無いのに人に謝って欲しいと願うほどまでは歪んじゃいないんでね」


 オレが口の端をゆがめると、リアは小さく吹き出した。


「……アナタは、本当に」


 その言葉の先に何を言おうとしたかは分からない。

 だが、悪口ではないだろうことだけは彼女の表情から窺えた。

 ま、もし罵詈雑言の限りを尽くそうとしてたなら逆に聞かなくてよかったんだけどね。

 そんなくだらないことを考えていると再び玄関が開く音がした。


「あ、あのぉ……トイチユートさんいらっしゃいますかぁ……?」


 オドオドとした弱弱しい声は間違いなくシエルのものだ。


「じゃ、リア。時間切れだ。シエルと話してくるからまた今度な」


「ええ。次こそは必ずアナタの首を討ち取って見せます」


「そろそろ諦めて欲しいんだけど」


 そんな軽口を交わしつつ、オレたちは再び元通りの殺し殺される関係になったのだった。


次回旅立ちます!本当です!嘘じゃないです!

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