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3、至極当たり前の最弱

なんだかどこかで見た設定が多いかもしれませんが、作者自身がイセカイモノスキーなので許してください。徐々に独自方向になっていくと思います。


 目を覚ます。

 

 自分がベッドに倒れこむようにして寝ていることに気付き、ようやく昨日の記憶を思い出す。

 食堂で解散した後は各々部屋に戻って自由行動となったのだ。だが、オレは疲れていたためにそのままベッドに倒れこみ、そのまま眠りに落ちてしまった。

 食堂で解散したときには既に夕暮れだったとはいえ、丸半日は寝ていた計算になるだろうか。

 

 空腹を感じ、何気なく部屋から出る。


 そこで昨日のブラント団長の言葉を思い出す。

 そういや、昨日解散するときに朝は食堂に集まるように言ってたな。


 ま、特に行く宛てもすることもないし向かうか。

 軽い気持ちでふらふらと歩みを進める。

 道中で他の勇者たちと出会うも、お互いにほぼ面識は無いため軽く会釈をして特に会話も無い。彼らも食堂の方に向かっているし、恐らく食堂で朝食がとれるだろう。


 寮内はそこそこに広いはずだが、オレは少しも道を間違えることなく食堂にたどり着いた。何故か、記憶が普段よりも鮮明なのだ。


「いよいよ勇者補正ってやつか……?」


 独りごちながら食堂を見渡すと、既に何人か朝食をとっていた。どうやらカウンターで注文をして食べるシステムらしい。


 オレは自分の前に並んでいた人と同じものを頼むと、適当に口の中に詰め込んだ。まずくはなかったが、元いた日本の料理に比べるとやや味は落ちる。だが、食べられないほどではなく安心した。

 無意識のうちに不安を感じていたのかもしれない。この世界の食事がオレの感性における普通の食事と何ら変わりないことにほっとしつつ、やや速いペースで食事をかきこんだ。


 10分足らずで食べ終えると、この後の予定について思索する。


「この後はどうすりゃいいんだ……」


 昨日の記憶を掘り返しても特にこの後の予定については言われていない。

 と、食堂に二人の男性が入ってくる。見るからに勇者ではなくこちらの世界の人間だ。


「勇者の皆様、食事を終えた方から講堂にお集まりください」


 一人がそう言うと、もう一人が「案内を致します」と勇者たちを募り始める。

 あれに付いてけばいいか。


 オレはトレイをカウンターに返すと、足早にそちらへ向かった。


 彼の後を付いていくと、講堂と呼ばれる場所に着いた。手元には入り口で配布された腕輪がある。

 腕輪は銀色で装飾の付いていない至ってシンプルなもので、表面をよく見ると何かの文字列が刻み込まれている。無骨なデザインは非常にオレ好みだが、一体なんだこの腕輪。


「えー、皆に配布したのはステータスチェッカーだ」


「ステータスチェッカー?」


 その明らかに場違いな響きに鸚鵡返しに声を上げてしまう。


「ああ。学者たちは魔力感知型能力識別器などと呼んでいるが、まあ、我々もいつもステータスチェッカーと呼んでいる」


「どういうものなんですか?」


「使ってみるのが早いだろう。皆、装着して『能力表示』と念じてみてくれ」


 訝しみながらも腕輪を付け、能力表示と念じる。


「うわっ!」


 腕輪から光が射出され、ホログラムのように空間に何かしらの文字と数字を表示した。

 

 十一優斗 男 17歳

 HP 10/10 MP 10/10

 膂力5 体力5 敏捷5 耐久5 魔力10 賢性???

 スキル

 持ち物 賢者の加護 ???


 文字列の意味を理解するにつれて、徐々にその内容の意味不明さに気付く。


「な、なんだこれ……」


 だが、すぐにその意味を悟った。伊達に異世界物の小説を読んだり、ゲームやったりしてないからな。むしろこのために普段から多くの時間を投げ打ってゲームに勤しんでいたまである。ないな。

 こんなところで無駄にサブカルの知識が役立ってしまったことに嬉しさ半分虚しさ半分といった面持ちで周りを見回すと、ブラント団長が言った。


「君達にも見えているだろうが、それが君達の能力値だ。この世界では、その数値がその人の持つ能力を反映している。例えば私であれば……」


 そう言って団長がステータスを表示する。

 

 ブラント・ヴァルヘイム 男 34歳 騎士

 膂力340 体力320 耐久力240 敏捷210 魔力160 賢性240

 スキル

 剣術2.8 槍術2.2 双剣1.3 盾術1.7 指揮2.6 不屈1.1 

 士気2.2


 このおっさん強すぎない!? 何これ筋力だけでもオレの50倍ぐらいあるんだけど!? え、これオレが弱すぎんの!?

 そう思いちらと左隣の奴のステータスを覗き見ると、

 

 膂力90 体力80 耐久力80 魔力120 賢性60


 おう……ええい、こいつが強いだけかもしれん! 右隣のいかにも根暗な感じのこいつはどうだ!


 膂力60 体力50 耐久力50 魔力180 賢性80


 十一優斗氏、完全敗北。

 おい、嘘だろマジで言ってんの? いやいやいや、異世界召還されたらチートな能力とスキルがもらえるのがお約束だろ? え、オレ「戦闘力5か……ゴミめ」状態になってるんだけど!?


 などと焦りに焦るオレにさらなる追撃。


「な、なんだこれはっ!」


 団長がその姿に見合わぬ驚きの声をあげる。何事かとそちらのほうへ目を向けると、いつも話題の中心にいる龍ヶ城輝政のステータスが表示されていた。


 龍ヶ城輝政 男 17歳

 膂力270 体力260 耐久250 敏捷250 魔力300 賢性220

 スキル

 全属性耐性1.0 全能力値強化1.0 全属性攻撃力1.0

 光属性特化2.0 魔力変換効率1.0 成長率増加1.0 女神の加護1.0


 おい、チーターだ。チーターがいるぞ。チーターでベータテスター。ビーターか? 運営さっさとアカBANしろよ。

 などと嘆いても目の前の現実は変わることは無く。一体オレが何人束になればこいつに勝てるんだ? たぶん、100人で殴りかかっても塵芥のように吹き飛ばされるだろう。


「輝政と言ったか……いやはや、何の訓練もしていないのに既に私と並ぶレベルとは……修練を積んでいない一般人だとそれぞれの値は高々20~30ほどなのだが……これからに期待が持てそうだ」


 そう言うと、団長は龍ヶ城輝政の背中をバンバンと叩いて。豪快に笑った。


「輝政の能力値の高さは異常だが、他の皆も向こうの世界からこちらの世界に来る際に『寵愛』を受けているため、一般人よりかなり高いはずだ。成長率も我々とは比べ物にならないだろうから、何か人より低いものがあってもあまり気落ちすることはない。君たちは間違いなくこの世界で最強だ」


 そう褒めちぎる団長の言葉を受け、皆が満更でもない顔を浮べる。


 昨日、この騎士団寮に来るまでの道すがら、例の老人による説明があった。オレたちがこの世界に来るにあたって、一度次元の境界をまたいでおり、その際に『寵愛』とやらを受けてオレたちは所謂チート能力を授けられているらしい。


 そう、チート能力を、授けられているはずなんだ。


 げんなりとした表情を浮べ、自分の能力とにらめっこをしていると、


「あのぉ……」


 一人の気弱そうな少年が手を挙げた。彼は身長が低いだけでオレと同い年ぐらいだろうか。気もそぞろに何気なくそちらの方にオレが目を向けると、


「む、どうした?」


 団長が嬉々とした表情のまま、その気弱な少年に近づいていくのが目に留まる。

 恐らくイケメン龍ヶ城の能力値の高さにホクホク顔なのだろう。


「いや、その、これって、どういうことなんでしょう……」


「これは……!」


 団長とは先ほどとは違う驚きの声をあげる。

 まーた、チーターか? と思いつつそいつのステータスチェッカーを覗き見ると、


 香川春樹 男 17歳

 膂力5 体力10 耐久7 敏捷7 魔力2 賢性15

 スキル

 誘引1.0


 あれ、オレさっきこれと同じようなステータスの奴見たよ? うん。なんか、あれだ。


 オレ意外にも弱い奴いてよかったぁああああああああ!!


 正直最低だとは思うが、自分以外にも同類がいると分かった安心感は尋常じゃない。なんか元気出てきたぞ。

 そんな最低な思考に身を任せながらも、自分のステータスを閉じる。

 よし、香川君、是非僕とお友達になろう。ここは最弱同士、存分に友誼を育もうじゃあないか。そんな風に歩み寄ろうとした瞬間、


 誰かの吹き出す音が聞こえた。


「ぷっ……あっはっはっはっは!な、なんだこれ! 弱すぎじゃね!」


「お、おい……あ、あんま言うなよ、か、かわいそうだろ……ぶふっ」


「ちょ、ちょっとぉ、男子ってばぁ……ふ、ふふっ」


 そこからは堰を切ったように、嘲笑のオンパレードが始まった。唖然とするオレを置き去りにしつつも、嘲笑と好奇心の混じった耳をかきむしる笑い声が広がる。


 ……なんだよ、これ。


 自分より下の者を見て嘲笑うのは人間にとってよくあることだ。

 誰だって、自分よりノロマな人間を陰では笑い、自分よりもオロカな人間を秘かに侮る。

 普段ならばそんな醜い部分は表に出さない彼らも、異世界という異常な状況で締めるべきネジが緩んでいたのだろう。嘲笑のコーラスは講堂内に響き渡っていた。


「……みんな、そんなに笑わなくてもいいじゃないか」


 そう言うと、義憤に駆り立てられた少年――――龍ヶ城輝政は憤然たる面持ちで春樹に近づいていった。そして優しく声をかける。


「大丈夫。君がどれだけ弱かったとしても、僕が君を守ろう。何も心配しなくていい」


 そう言いながら、哀れみと慈愛を含んだ笑顔で春樹の肩に手を置く。


 そこには、一切の悪意はない。

 あるのは純然たる善意と、まっすぐな好意と、正しさを信じて疑わない真摯な思いだけだ。


 だが、そのセリフを聞いた周囲はさらに沸いた。


 龍ヶ城は一見春樹を助けたように見えるが、あれでは逆効果だ。周囲の観客は、その光景が面白くてたまらないといった様子で笑っている。

 中には笑わずに苦い顔をしているものや苦笑しているものもいるのが、幸いだろうか。

 いや、それはあの少年にとって何の救いにもならないだろう。


 ……ああ、胸糞悪いな。弱者を嘲笑って楽しいか。


 何かがプツンと切れた瞬間、オレは全員に聞こえるよう大きく声を上げた。


「うっわ! なんだこれっ!」


 あたりの喧騒が静まり、こちらへと注意が向く。


「今度はどうした?」


 流れを見守っていた団長がややひきつった笑みでこちらに振り返る。


「いや、オレのステータスなんですけど……」


 そう言って、オレは表示を全員に見せるように腕輪を向けたのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あー……散々な一日だった」


 そうぼやきながらオレは自室のベッドに倒れこんだ。

 寮内でのオレの部屋は、三階の角部屋に位置している。冬とか寒そうなんだが、あまった部屋ということでオレに拒否権は無かった。


 あの騒動において、聴衆の興味は香川春樹から完全にオレへと移行した。

 いや、オレがそういう風に誘導したからなんだが、明らかに見下してくる相手との会話ってのも中々疲れるものだ。出来る限り道化を演じたつもりではあるが、果てさてどれほどの効果があることやら。


 彼を助けたなんて、驕るつもりは一切ない。ただ、オレのやりたいようにやっただけ。そう、オレの健やかな安眠のために必要だっただけだ。ほら、寝覚め悪いしね?

 そして、オレが気を病む理由がもう一つ。オレのステータスチェッカーの不具合についてだ。


十一優斗 男 17歳

 HP 10/10 MP 20/20

 膂力5 体力5 敏捷5 耐久5 魔力10 賢性???

 スキル

 持ち物 賢者の加護 ???


 オレのステータスチェッカーにだけ、なぜかHPとMPが表示されており、しかも賢性とスキルに???なる部分が存在している。

 このことについて、団長に聞いてみたのだが、団長にはHPやMP表示、???が見えておらず、賢性の部分にいたっては空欄になっているらしい。「あ、あー……不具合か?ま、まあ、賢性は値が分らなくともあまり困らないからな」と露骨に気まずそうにしていた。

 あの、もしかしなくてもオレが真性のバカだと思われてますよね、これ。


「ああ、明日から訓練か……めんどくさっ」


 そうぼやきながら枕に顔をうずめる。

 最底辺スタートという逆境で、現代っ子のオレは完全にやる気が萎えていたのであった。


春樹君がメインヒロインです。

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