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201、亡命計画

「フォルトナ、頼みがある」


「まあ、何でしょうか」


 メフティスとの話を終えたのち、オレは早急にフォルトナを探した。

 事の顛末をぼかしつつ話し、また遠征する旨を告げる。


「戻られてまだ数日しか経っていないというのに、お忙しい……」


「まあ正直オレも忙しないとは思ってるよ。けど、火急だ。明日明後日にでもここを発つ」


「それは構いませんが、頼みと言うのは?」


 彼女の言葉にオレは少しだけ迷う。

 だが、もうここまで来てしまったのだ。後戻りをする気はない。


「凛やレイラ、それとリアに、オレが旅に出ることがバレないよう手伝って欲しい。可能な限りすぐに戻るそれこそ数日程度で」


「…………それはまた……妙なお願いでございますね」


 フォルトナは片眼を閉じて薄く笑う。

 その所作はもう少しの説明を求めているのだろう。


「……これは、オレの問題だ。あいつらを連れて行くわけにはいかない」


「なら、彼女たちにそう直接仰ればよろしいのでは?」


「意地の悪い質問はやめろ。お前だって、あいつらに話したらどうなるか想像がつかないわけじゃないだろ」


 オレの言葉にフォルトナがくすくすと笑う。


 今回の件。オレが魔族の地に行くと言えば、少なくともリアと凛は必ず同行を申し出るだろう。恐らくレイラも自分も手伝うと言い出すはずだ。

 そうなれば彼女たちを説得することは難しい。

 隠れて出発しようとしても、彼女らがオレから目を離すとは考えづらい。恐らくは四六時中監視され、一挙手一投足を訝られる。是が非にでもついて来ようとするはずだ。


 ……オレとて、こんな自惚れを確信を以て語るなど恥ずかしいことこの上ない。

 これがオレの自惚れに過ぎなければ、僥倖だ。笑いものにしてくれて構わない。だが、もし仮に、自惚れを過ぎて現実になってしまった場合にはどうしようもない。

 だが彼女たちに遠征を隠し通すのを、オレ一人ですべてを遂行するのは難しい。

 共犯者が必要だ。


「それで私を選んでくださったわけですね? ふふ、光栄の至りです」


「こんなことを頼んでも心が痛まない相手がお前ぐらいってだけだ。他意はない」


 オレのつれない言葉にもフォルトナはにこにこと嬉しそうな笑みを浮かべている。

 本当に腹の底が読めない女だ。

 だが、だからこそオレはこいつを信用している。

 この、理詰めで出来上がった虚構の笑顔を。


「ええ、ええ。お引き受けしましょう。いったい誰が貴方様の頼みを断れましょうか」


「……ま、凛たちには恨まれると思うが、オレが全部悪いってことにしておいてくれればいい」


「よろしいのですか?」


「…………後で殺されるかもしれないが、そうなったらそのとき考える」


 正直、帰ってきた瞬間に腕の一本……や二本ぐらいは覚悟しておかなければならないだろう。あいつらを怒らせると何をされるか分からない。


「そうではなく」


「?」


「……いえ。私から申し上げることではありませんね」


 フォルトナの意図が読めずにオレが少しだけ思案を繰らせていると、彼女は柔和な笑みをたたえた。


「出発する日取りが決まりましたら教えてください」


「ああ。メフティスが快復次第、向かうつもりだ。凛たちは、オレが出発したあとに竜車でリスチェリカに送り届けてやってくれ」


 それだけ言い残して、フォルトナに背を向ける。

 だが、言い忘れたことがあったと、半身で振り返った。


「もし、だ」


「?」


「……もし、オレが戻らなければ。そのときは、あの三人のことを少しでいいから気にかけてやってくれ。こんなことを頼むのは、お門違いかもしれないが」


 だが、恐らくあの三人にとってリスチェリカという場所は狭すぎる。

 息苦しく、行き場も無い。

 魔法都市の方が、いくらか生きやすくはあるだろう。


「…………お約束しましょう」


 らしくない、フォルトナの歯切れの悪い承諾を聞いて安心すると、オレは再び前を向く。

 少しだけうるさく鳴る心音に、耳を塞いでしまいたくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから学内に『領識エリアライズ』を張り巡らせて凛たちを探す。


 すぐに凛、リア、レイラが三人で集まっているのを見つける。三人で頭を突き合わせて何かを話している。『領識エリアライズ』では話の内容まで聞き取れはしないが、歓談をしているといった様子でもない。

 オレが張り巡らせた魔力に気付いたのか、リアやレイラがきょろきょろと周りを見渡し始める。いや、君たち感知能力高すぎるからね?

 おちおち『領識エリアライズ』も使えないなと考えていると、三人が少し話したあとにこちらに真っすぐ向かってくる。当然のようにこちらの位置を察知している。怖い。


 さてと、メフティスが来ていなければ今日にでもリスチェリカに戻る予定だったわけだが、どうやって言い訳を募るかな。

 思案しているうちに、リアが廊下の先に見える。すぐに後ろから凛とレイラが付いてきているのが見えた。オレから歩み寄るのもどうかと思い、何気ない風を装って歩いていると、リアたちが真正面に立ちふさがった。


「どうしましたの? そんなに魔力を出して」


「……ああ、いや。魔族が来た件である程度情報共有しておこうと思ってな」


 魔族がオレを探していたということは既に学園中に広まっている。当然、こいつらの耳にも入っているわけだ。

 オレが魔族と話していたことも知っているだろうし、彼女たちに何も情報を共有しないというのも不自然だ。リアあたりには妙な疑いを向けられ、監視の目が強まりかねない。そうなる前にこちらから情報を共有した方がいいはずだ。


「なるほど。アナタがそうやってわざわざわたくしたちに話をしてくれるなんて、珍しいですわね」


 リアの鋭い指摘に一瞬だけ動揺するも、必死に普段通りの表情を取り繕うと「おいおい」と笑う。


「報・連・相は円滑なコミュニケーションの基本だろ」


「…………まあ、構いませんが」


 まだ納得いっていなさそうなリアに内心でやばいやばいと思いながら、オレは気を取り直す。


「……さっき、オレに会いたいっつってた魔族と話してきた」


「……どう、だった?」


 凛の不安そうな視線を受けて、オレは小さく笑って返す。


「ああ。オレが手を結んでる魔族の知り合いだった。オレに魔族側の情報を伝えに来ただけだったよ。ま、定時連絡ってやつだな」


 オレがフォンズやアルティと手を組んでいるのはこいつらも知るところだ。

 だから、この話自体に違和感はない。


「ふぅん。そうなんですの」


「ああ。ただ、ちょっとここに来るまでに怪我をしちまったらしくてな。治療が終わるまで、念のためオレもアトラスに残ろうと思ってる。お前らはさきにリスチェリカに戻っててくれて構わないぞ」


「そっかー。じゃあ、わたしもゆーくんが帰るまで待ってるね!」


「……いや、オレの都合で待たせるのも悪いから、先に戻っててくれていいんだが……」


 当然のようにアトラスに残ろうとしている凛を何とか追い返そうとする。


「ワタシも、大丈夫。何日でも、待つよ」


「レイラ、そんなに待たなくて大丈夫だからな? オレもすぐリスチェリカに戻るし……」


「あら。待たれると、何か都合が悪いことでも?」


 リアの指摘を受けて、オレは一瞬だけ返答に窮する。

 まさかここまでゴネられるとは思わなかった。


「別にそういうわけじゃないんだが…………」


「なら、構いませんわね」


「うん。わたしも、みんなにまだ残れるって伝えてくるね!」


 そう満面の笑みで言い残すと、リアはたったったと駆けて行ってしまう。

 それを気軽に言えるような間柄の友人たちを作れたことは、大変に好ましいことなんだが今はそこに感動している余裕はない。


「先ほど三人で話していましたの」


「…………一応聞くが、何を」


 リアがくすくすと笑う。


「いえ、絶対にアナタを逃がさないようにしましょう、と」


「何で!?」


「なんかね、ユートくんがすぐ一人で抱え込んで、どっかに行っちゃう癖があるからって…………」


「人のことを放浪癖あるみたいに言わないでもらえます?」


 オレが口の端をひくつかせていると、リアとレイラがにこっと笑う。


 いや、怖い怖い怖い。


 …………どうやってこいつらを撒こうかな。


 どれだけ考えても成功しそうな案が思い浮かばず、オレは誰にも聞こえないようにため息を漏らした。


ヒロインから逃げ切れるのか!?

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