195、復讐に昏んで
それからオレは、リスチェリカに戻るなと縋ってくるフォルトナとバレッタの静止を何とか振り切り、一旦リスチェリカに戻ることを許された。
リアだけ城に突き返しておきながら、オレが顔を出さないのはリアからしたらはらわたが煮えくりかえることこの上ないのだろうが、オレとて好きで戻らなかったわけではない。許して欲しい。
扉を開けて、地下室から階段を上って地上へと出る。
「あ、ユートさん!!」
シエルの満面の笑みがそこにあった。
「あ、ああ、シエルか。ただいま」
人がいるとは思っておらず少しだけ驚く。
「おかえりなさいっ。もう、戻らないのかと思って私…………」
ぐすぐす、と泣き始めるシエルに「悪かった」と素直な謝罪を口にする。今回の旅路も長かった。一度ぐらいは戻って彼女と話をしても良かったかもしれない。
少しばかりの反省を胸に、歪に笑顔を返す。
「シエル、もしかして、ずっとここで待ってたのか?」
ここは我が家の廊下。それも普段は使わない階段の前。そんな場所でたまたま出くわすとも考えにくい。
「は、はいっ! 一昨日にリア様が戻られて、ユートさんもすぐに戻って来られるはずと……」
「そ、そうか……いや、何だ、待たせて悪かったな」
オレの若干引き気味の言葉にシエルはとんでもないと首を振った。
「ユートさんを待つのが、私にできる数少ないことですから……!」
彼女の自信の無さはやはり変わらない。
オレが口先でとやかく言っても変えられるものでもないということも、もう短くない付き合いで分かってしまっている。
「戻りしなで悪いんだが、すぐに王城に向かおうと……あー、いや、その前に、お茶淹れてくれるか?」
王城に向かうと言いかけたところでシエルが悲しそうな顔をしたので、慌てて取り繕う。
まあ、既に一日以上アトラスで時間を潰してしまったのだ、1時間やそこらシエルとの歓談に時間を割いたとことで、怒られる度合いは変わらないだろう。
そんな風にタカをくくってシエルに提案する。
「っ! はい、すぐに!」
たたた、と軽い足取りで駆けていくシエルを見て微笑ましく思う。
……シエルのオレに向けた好意はきっと――――
その意味付けを行うのは、酷く傲慢な気がして躊躇われる。
だから、もし彼女がそれを口にすることがあれば、そのときにオレが答えを突き付ける必要があるのだろう。
……気乗りはしないが。
そのあと、シエルとの歓談は2時間を超え、家を出た頃にはかなりくたくたになっていたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
オレは何カ月ぶりかに騎士団寮に訪れていた。
石造りの巨大な建造物は久しぶりに見てもその威容を変えることはなかった。
見張りの近衛兵に軽く挨拶をして中に入る。オレの顔も流石に知られているのだろう。引き留められて面倒になることもなかった。
中にも変わりはない。
変わりはない、はずなのだが。
かつかつ、と自分の足音がやけに耳に当たるなと少しだけ疑問に思う。
…………人が少ないのか?
時間帯や時期の問題かもしれないが、人が少ないために全体的に静かにも聞こえる。
特に、嫌と言うほど聞こえて来たはずの少年少女たちの笑い声が少しも聞こえない。
「ユートか! 入りなさい!!」
何度目になるか分からない騎士団長室へのノック。
オレの名乗りに、やや食い気味に中から返答が返ってきた。
「失礼します、ブラント団長」
ブラント・ヴァルヘインは、顔を喜色やら困惑やら驚愕やらをまぜっかえしたようなものに変え、オレを迎え入れた。
「久しいな。魔法都市から戻らないと最初に聞いたときは、肝を冷やしたが」
「すみません。向こうで事件があって、その調査に」
「その件も大まかなあらましは聞いている。君が無事で、本当に良かった。ご苦労だったな」
ブラント団長の労いにオレは「ありがとうございます」と簡単に返した。
「遅くなってしまったが、まずは礼を言おう。魔法都市への遠征、ご苦労だった。感謝する」
ブラント団長の礼にオレは少しだけ面食らう。
まさかお礼を言われるとは思っていなかった。言ってしまえば、最後の最後でほっぽりだして旅に出てしまったので、怒られるかなと少し内心でびくびくしていたのだ。
「……君にはこういったことは隠さずに伝えた方が良いだろうから伝えておくが、君の魔法都市からの評判は非常に高い。勇者として、そして我が国が誇る大魔導士として十二分に、こちらの期待を遥か上回る活躍をしてくれた」
勇者の魔法都市への遠征は、二都市間の友好関係の確認や、勇者の能力の誇示。その点で、オレは十分にはたらきを務められたらしい。
「…………そりゃ、良かったです」
オレとしちゃ過分な評価なので何とも素直に受け取りにくい話ではあるのだが。
「君を勇者から追放しなかったことを、私は今でも間違いではなかったと確信している」
それはリアとの決闘騒ぎや、オレが自由に動き回れるようにあれこれと立ち回ったことを指しているのだろう。ある意味、国に対する反抗なわけだ。問答無用で勇者追放、場合によっては処刑なんてことになってもおかしくはない。
「オレも国と敵対することにならなくてよかったと、本心から思ってますよ」
「…………今後ともよろしく頼みたいものだ」
ブラント団長の引きつった笑みに、オレも無言で作り笑顔を返す。
「そう言えば、君にいくつか共有したいことがあってね」
「オレにですか?」
「ああ。大きく分けると2つ。1つは、最近、異教徒が各地で暴動を繰り返している事件があり、もしかしたらその鎮圧に君にも助力を要請するかもしれない」
「異教徒……?」
ゾッとしない響きにオレはその単語を繰り返した。
「うむ。君も、我々の国教は知っているね?」
「あー、っと確か……ユータ教、でしたっけ」
記憶を掘り返してようやく思い出される。
「ああ。そうだ。ユータ教、ユタ教など呼び方に差はあれど、どれもただ唯一の同じ神を信仰する宗教だ」
オレはその言葉に気の抜けた返事しか返せない。
何故なら、神というのは目下オレの敵になりうる存在だからだ。
砂漠の屋敷で、須藤神威が言っていたあの言葉。
そして、大罪人たちの残した言葉。
それらを信じるのであれば、神がこの世界に害を為そうとしていると。
その中身も動機も不明だが、いずれにせよオレに神様とやらを妄信する動機は一抹も存在していない。
「それで、異教徒ってのは?」
「『真理の眼』という集団を知っているかね?」
「いえ……」
「そうか。元は同じユータ教の信徒だったのだが、その一部が教義や思想を変えて、分裂。新しい宗教として成立したものだ」
宗教にはよくある話だ。
例えば、元の世界で有名なキリスト教だって、カトリックから始まりプロテスタントや東方正教に分離していった歴史を持っている。イスラム教も、派閥によってシーア派やスンナ派などに分かれている。
万人が一つの思想を全く同じように信じることなど無理な話なのだろうということは、元の世界でもこちらの世界でも同じだ。
「『真理の眼』が各地で自らの主義主張を通そうと、暴力的犯罪的な行為に手を染めている。ユータ教を国教として定めている我々としても、看過するわけにはいかん」
「……あまり宗教的ないざこざには関わりたくないんですが」
宗教関係の何かに近づいてろくなことになる未来が見えない。
「君の力を借りるのは、あくまで我が国を直接的に脅かせば、という但し書きが付いている。私とて、無造作に青少年たちをこの手の話に駆り出そうとは思わない……と、言いたいところなんだがね」
そこでブラント団長が困ったように苦笑に顔を歪めた。
そのとき初めて彼の顔に老いを感じた。これまでの精悍とした石膏像のような顔に初めて「錆び」を見出し、オレは何と言っていいか分からなくなる。
「実は……いや、すまない。君にこの話をしても仕方ないな。次の共有事項に移る」
有無を言わさずにブラント団長が話を進める。
「これは君にも話が聞きたいんだが、最近――――」
と、ブラント団長の話を遮るようにして鋭いノックが2回鳴った。
全く同じ音量で機械のように2回鳴らされたノック音に少しばかり不気味さを覚えて振り返る。
「――――僕です。戻りました、ブラント団長」
扉の外からくぐもった声が聞こえる。
その声には聞き覚えがあるはずなのに、何故かオレはすぐにその声の主を思い出せなかった。
「ああ、テルマサか。入っていいぞ。ちょうどよかった、今ユートが来ているんだ。君も話すといい」
「…………十一君が?」
少しの間の後に龍ヶ城の訝るような声がドアの外から聞こえる。
それから数秒の沈黙があって、音も無くドアが開いた。
「りゅう、がじょう…………?」
オレの口から彼の名を呼ぶ声が、情けなく漏れた。
目の前の男は、龍ヶ城輝政。
ただ、それだけの事実のはずなのに、オレは確信を持って目の前の男を龍ヶ城輝政だと断定できなかった。
その理由は彼の顔から失われた輝き。
左目を覆い隠す黒い眼帯。
顔には深い陰が刻まれている。
「久しぶりだね、十一君」
「あ、ああ。そうだな……龍ヶ城」
最後に彼と話した記憶は苦々しいものだ。
オレは勇者たちの死を軽んじたことを、彼に非難された。
そのことを掘り返すべきか悩んでいるオレを置いてけぼりにして、龍ヶ城はそのまま空いているソファに座った。
「ブラント団長、昨日話していた魔族の情報、掴めましたか?」
「ああ、ちょうどその話をしようとしていたんだ」
龍ヶ城の問いにブラント団長が頷く。
オレは龍ヶ城に何があったのか聞くこともできず、ひとまず彼らの話に付き従う。
「ユートにも伝えておきたいが、君がいない間、魔族たちとの戦闘が複数回行われた」
「それは…………」
「ほとんどがリアヴェルト王国の小都市か、同盟関係にある諸国での戦いだった。幸いにもガリバルディ・ソリッドの襲撃以来、リスチェリカで魔族との戦闘は起きていない」
少しだけ安心に息を漏らす。
だが、ブラント団長は痛ましげに顔を歪めた。
「……勇者たちを分散して送っていたのだが、戦いは熾烈を極めた」
何が言いたいのか分からずオレが彼の言葉を待っていると、龍ヶ城がそれを継いだ。
「僕を含め、戦っていた34人の勇者。そのうち8人が戦死した」
その言葉に、どくんと、心臓が嫌な音を立てた。
残りの勇者は26人。
最初は48人もいたのに、もう半数近くが死んでしまった。
その事実には恐怖を覚えなくもない。
だが、それ以上に。
その事実を淡々と述べている龍ヶ城に、強い違和感を覚えた。
「僕も六将軍の一人と戦ったときに、この傷を負わされた」
そう言うと、龍ヶ城は自分の左目の眼帯に手を当てた。
それを剥がすと、その下にあるのは痛ましい傷痕。何か刃物の類で切りつけられたのであろう切り傷。
あの龍ヶ城輝政が、癒えないほどの重傷を負った。
その事実にうすら寒いものを覚えて思わず身震いした。
「その六将軍ってのは」
「さあ。剣を使っていたけれど」
「いや、『さあ』ってお前…………」
強い違和感。
何だ、この違和感は。
龍ヶ城輝政から漂う、この、嫌な黒い匂いは。
「六将軍の素性になんて興味はない。次に会えば、必ず殺す。必ずだ」
龍ヶ城はぎり、と奥歯を噛んで吐き捨てる。
その言葉に、オレはぞくりと背筋が粟立つのを覚えた。
そして龍ヶ城に感じていた違和感の理由を見つける。
それは、彼の全身から発される剣のような鋭い悪意。
憎悪、憤怒、絶望、後悔――――そんな、赤く、黒い感情がぐるぐると巡り、巡って、抱えきれずに周囲に滲みだしている。
龍ヶ城輝政が、そんな風に悪感情を隠そうともせずに振りまいている。
そのために、オレは最初にこいつを見たときにすぐに龍ヶ城だと分からなかったのだ。
「…………そう言えば、十一君。君も、六将軍の一人と仲が良かったよね。あの魔族は」
その憎悪の目が、こちらに向いた。
ただそれだけだというのに、オレは全身から魔力を放出させてしまう。
それはほとんど無意識の、防衛本能。
だが、目の前に腹をすかせた獣がいるかのような錯覚を覚えて、掌が汗で滲んだ。
「……今は、北方大陸に戻ってる。連絡をとろうとしてるが、捕まらない」
オレの言葉に龍ヶ城は目を細める。
そして、見たことの無い表情でこちらを値踏みすると、小さく息を吐いた。
「そうか。もし呼び出せるようなら、教えて欲しい」
「…………アルティに会って、どうするんだ」
龍ヶ城はきょとんと小首を傾げる。
そして、すぐに口の端を精密に歪めると、その精緻な顔に精細な笑顔を浮かべた。
「もちろん、切り伏せる。次は負けないと、そう言ったはずだよ」
彼の言葉はどこまでもまっすぐで、まっすぐで、まっすぐで。
そして、どうしようもなく歪んでいた。
オレが無言のままでいると、ブラント団長が言葉を継いでくれた。
「数多くの犠牲を出してしまったことは本当に申し訳なく思っている」
「ブラント団長は悪くありません。全ては、魔族……いえ、世界にはびこる過ちが悪いんです」
龍ヶ城はどこまでも流麗に悪意を吐き出していく。
あまりに流暢に吐き出されるそれは、耳にしただけでは悪意には思えない。
だが、オレは、それに気づいてしまう。
気づけてしまうのだ。
「…………ああ、そうかも、しれないな。他の皆が去ったのも全て……」
「……他の皆が、去った?」
オレの疑問にブラント団長がためらいがちに頷く。
「残った勇者は26人だと、そう言ったな」
その勘定は、オレの計算と相違ない。
「だが、この騎士団寮に、勇者として残っている者はさらに少ない」
「どういうことですか?」
「君と似たようなものだよ、十一君。勇者をやめたんだ。彼らのうちの多くが」
「勇者を、やめたぁ!?」
想定外の言葉に思わず大声を出してしまう。
ブラント団長が眉尻を下げて言葉を継いだ。
「……ああ。外向けには話していないが、今も騎士団寮に勇者として残ってくれている者は実は10人僅かしかいない。他の者は、勇者としての責務をもう全うできないと、ここを去って行ったよ」
「は、はあ!? んなことが……」
「我々にそれを止める術はない。これを言ってしまえばおしまいだが、彼らに武力で押し切られてしまえば、それまでだ」
勇者の多くが、辞めた?
オレにだってその発想はあった。というか、むしろこの世界に来た当初から考えていた。
けれども、実際にそれを実行に移すのはデメリットが大きいと、リアヴェルト王国との関係をある程度は保っておく方向で落ち着かせた。
だが、こと今になっては多くの勇者がその責務を放棄したらしい。
冗談じゃない。
オレのことを散々に嘲笑って見下していた、あいつらが、自分はさっさとリタイアしただって? ふざけるのも大概にしろ。
オレの歪んでいく表情をどう思ったのか、ブラント団長は申し訳なさそうに眉根を下げた。
「我々としても出来る限り君たちを守りたかった。いや、今でも守りたいという思いは変わらない。だが――――」
事実として、数多くの勇者がこの過酷な世界で命を落としている。
どれだけチート能力を与えられて、並大抵の人間よりも優れていようと、溶岩に潜って死なないわけでもなければ、首と体が生き別れても復活するわけでもない。
無論、龍ヶ城レベルであればその限りではないが、オレの見立てでは他の勇者諸君は龍ヶ城ほどの桁外れな力はない。
「…………それで、辞めた奴らはどこへ?」
「人によるが、冒険者になった者や、他の都市へ行ったものが多い。一部の希望者は魔法都市へ送ったり、こちらとしても可能な限り対応はしたのだが……」
それは少しだけ意外だった。
勇者を辞めるなど、国からしたら百害あって一利なし。そんな者たちに義理立てをする理由など無いように思える。逆に兵たちから追い立てられるまである。
「ブラント団長が、国の人たちにかけあってくださったんだ。彼らの今後の人生を支えるべきだ、とね」
「ブラント団長…………」
「いや、私にはそれぐらいしかできなかった。せめてもの義理を通させてくれ」
ブラント団長に、何も言えない。
だから、話題をずらすのが精いっぱいだった。
「でも、辞めたやつらは、どうするつもりなんだ。元の世界に帰還したくないのか?」
どの程度信用していいのかは分からないが、国との口約束で言えば、魔族たちとの戦争を終結させればオレたちを元の世界に戻してくれるという話だったはずだ。
オレは戻るつもりもないが、まさか他の奴らも諦めたのか?
「ああ、それなら心配ないよ。僕が全てを終わらせれば、彼らもともに元の世界に戻して欲しいと、国と契約したからね」
龍ヶ城の言葉に唖然とする。
「魔族との戦いも、異教徒たちも、この世界にあまねく広がる「悪」を僕は許さない。それらを討滅して、必ず仲間たちと元の世界に戻るよ」
「…………あいつらは、お前を見捨てたんじゃないのか」
やめていった勇者たち。
残された者のことなど考えず、龍ヶ城に全てを押し付けて、逃げた者たち。
そんな奴らを助ける理由が、あるのか?
だがオレの問いを龍ヶ城は鼻で笑った。
「違うよ。彼らは僕に全てを託してくれたんだ。僕を信じてくれたんだ。だから、僕はそれに応える。勇者として、英雄として、龍ヶ城輝政として」
そう言い放つと、龍ヶ城はどこか満足したようにして眼帯を左目に戻した。
龍ヶ城は、歪もうと擦れようと龍ヶ城輝政であることを捨てはしなかった。
それが心底――――
気持ち悪い。
その事実を再確認して、オレはこみ上げてくる吐き気をぐっと飲み込む。
「少し話が逸れてしまったな。テルマサ、昨日話していた魔族の件だが――――――」
ブラント団長の話があまり耳に入って来ない。
ちら、と盗み見た龍ヶ城の顔には、相変わらず深い陰ばかりが刻まれていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから、リア、シエルに一言挨拶してシャーラントへと戻ろうとした。
だが、リアが「自分も付いて行く」と言って言うことを聞かなかったので、渋々彼女もシャーラントに連れて戻ることになってしまった。いや、数日で戻るってのに。
バレッタが転移魔方陣の前で張っていたらしく、戻ってきたオレを見て「本当に戻ってきた……」と驚愕に目を丸くされた。オレを何だと思ってるの?
バレッタから魔法を教えてくれだの、魔法を教えて欲しいだのと言い募られ、なされるがままに対応することになりため息をつく。凛は、ダンジョンの再調査に向かったらしい。今の彼女なら、きっと大丈夫だろう。
一通り報告すべき相手への報告も終わったし、ようやく今回の旅も本当に終わったと言っていいだろう。
「あ、いや。そういや、まだいたな」
一応、帰還したことを報告しなきゃいけない相手がまだいた。
フォンズ・ヘルブロウ、アルティ・フレンの二人。
オレが旅に出る前に魔族の本拠に召し戻され、それ以来連絡がない。
念のため連絡をしておこうと思い、通信指輪で呼びかける。
だが、待っても返答がない。
忙しいのだろうか。
そう軽く考えていた。
だが、幾度にわたる呼びかけにも、フォンズたちが応えることは無かった。
龍ヶ城闇政。




