194、離別、そして前進
凛との仲直りからややあって。
凛とレイラを改めてお互いに紹介し合うことになった。
「レイラ、さん?」
「レイラ、って呼んで。リンちゃん」
「おっけー! じゃあ、レイラ!」
オレの心配など不要だったと言わんばかりに一瞬で距離を詰める凛とレイラ。
まあ、性格部分で若干似ているところはなくはない。周囲の顔色を窺いがちという部分では相似形と言っても過言じゃない二人が距離を縮めるのは、そう不思議なことではない。
「…………ああ、そういや、レイラ。リスチェリカではどうしたい? 金銭的な余裕はあるから、一人で暮らすのに十分な一軒家ぐらいは買える思うけど」
かなり強引に彼女を連れ出してしまった手前、リスチェリカまで連れて来てはい解散というわけにもいかない。少なくとも彼女の衣食住については保障するつもりでいたし、他にも彼女の希望があれば聞きたいと思っている。
そんなオレの問いにレイラは首を傾げた。
「え、ユートくんと一緒に住むんじゃないの?」
「え?」
「えっ!?」
1つ目の疑問はレイラのもの。2つ目がオレで、3つ目が凛。
「どういうことゆーくん!?」
「いやレイラ、いくら何でも男女が同じ屋根の下でってのは…………」
「えー、今までも何度も一緒に寝てきたのに」
「ゆーくん!!?」
「待て待て語弊がある。旅の道中の話な」
「でも、リアちゃんも同じ屋根の下で寝てるって」
「それはそうなんだけど、そうじゃねぇんだよなぁ!」
生半可に事実なのがたちが悪い。
先ほどから凛の訝しげな視線が痛い。
ついさっきあんな啖呵を切ってしまった直後だから、なおいたたまれない。
「……ユートくん、あんなに熱烈にプロポーズしてくれたのに…………」
「ゆーくーん!!!?」
「誤解を招く表現しかしねぇな!? というかプロポーズに関しては嘘よりの嘘だろうが!」
あはは、とレイラが笑う。
途中からは分かっててやってたなこいつ。
「冗談よ。ワタシも、これ以上ユートくんに迷惑かけたくないから。ユートくんの決定に従う。街の外で野宿しろって言われればそうするし、宿暮らしでもいい。生活するためのお仕事も自分で見つける。家もいいよ」
冗談で言っている様子もないレイラを見て罪悪感を覚える。
恐らくオレが生活費を出すと言っても聞きはしないだろう。
うーん……と、たっぷり10秒近くは唸り続ける。
最後の最後には諦めて、はぁ、とため息をついた。
「……ひとまずは、うちに来い」
「え」
「幸か不幸か部屋は余ってるからな。好きにしてくれていい」
「…………本当? 迷惑じゃないの?」
「そこらへんで野垂れ死なれる方が迷惑だ。それに、ここまで連れまわした責任もあるからな」
拾ってきた子は最後まで面倒を見ようねという話である。
これは、本当にそれ以上でもそれ以下でもない。
いや、本当にそうなんですよ、凛さん? あの、さっきから殺気がですね。ここバカ受けギャグなので是非とも各位には使っていただきたい。
オレが冷や汗を垂らしながら、どう言い訳を募ろうかと考えていると、
「……じゃあ、わたしも住む」
「…………はい?」
「わたしも! ゆーくんの家で! 生活を! します!!」
大々的な宣誓に、いつの間にか周囲に集まっていた学生諸君が「おー」と拍手を送る。
そりゃあまあ、一応は有名人のオレと凛が集まってわいわいと騒いでいたら、衆目を集めるのは自明の理。
いつの間にやら集まった野次馬たちは、遠巻きに温かい目を向けて来る。
…………なあ、これ断れる空気じゃなくないか?
「あの、拒否権は…………」
「ん?」
凛の満面の笑みにオレは「ナンデモナイデス」と首を振った。
十一優斗、無条件降伏の白旗である。
…………いや、冷静になれ。
そう。ただのルームシェアだ。
あの家は相当に広いし、あと1人、2人増えたとことで生活に支障は出ない。
しかも、相手はあの凛。
万が一、億が一にも変なことになるとは思え――――――――
先ほどの凛の告白を思い出し、少しだけ頬が熱くなる。
ぐおお…………据え膳か? 食わぬは武士の恥なのか? あれ、そっちは高楊枝か?
何が何やら分からなくなってきた。
だが、そんな間にも凛とレイラのきゃぴきゃぴと……はしていないが、女子トークは続いている。
「ゆーくん、こう見えて意外と意地悪だから」
「そう? あーでも、うん。分かるかも」
主にオレの悪口でね! 何も本人の前で言わなくても良くないか?
そんな風にオレが一人負けして凹んでいると、どたどたどたという足音が、耳に届く。
「どいてくれ!」
少年の声が、野次馬を割る。
…………この声、どこかで。
オレが答えを見つけるより早く野次馬の中から、ひょっこりと緑色の獣耳が2つ現れる。
「――――本当に……いた……」
その獣耳の持ち主たる緑髪の少年――――否、少女はオレを見て目をしぱたたかせた。
「ししょー!!!」
「バレッタ!?」
そこにいたのはバレッタ・ジモン。
かつてフローラ大森林へ向かった旅路の途中、要塞都市ラグランジェで出会ったラグランジェの王子…………もとい王女。
強さに固執しオレに喧嘩を振っかけてきた出会いから一転、魔法を鍛えたいと弟子入りを請われ、その意気込みに圧されて彼を…………もとい彼女を弟子にとったのが既にもう4か月以上前。
完全記憶能力があろうとも懐かしいと思うのだから、人間の記憶というのは不思議なものだ。オレの記憶と違うところを上げるとすれば、それは彼……ええい、バレッタは女! 彼じゃなくて彼女!
頭の中の混乱を何とかして整えようとする。
最初、バレッタは王子としてオレたちに接していた。バレッタの一人称や、男勝りな言動から誰もそれを疑っていなかった。だが、蓋を開けてみれば彼女は女子で王女であることが判明したわけだ。
「久しぶりだな!」
ぶんぶん、とオレの手を握って上下に振る。
それに合わせて彼女の二房の尻尾が大きく跳ねた。
1つは彼女が獣人であるがゆえの猫の尻尾。
そしてもう1つは彼女が髪を編み込んで後ろに流している長い緑髪。
相も変わらず元気なやつではある。
だが、オレの記憶と違う部分を上げるとすれば、バレッタは以前のようにローブで体格や長い髪を隠していない。
もちろん、極めて女性的な格好をしているというわけではないが、それでもことさらに自分の性別や体格の小ささを隠そうという気は感じられない。
「少し、背伸びたか?」
男子三日会わざれば刮目して見よという言葉があるが、それは女子とて例外ではない。
「そ、そうか? ちょっとぐらいは師匠に近づけたかな!」
へへん、と胸を張るバレッタを見て思わず笑いが零れる。
「な、何だよ」
「いや、変わらないなって」
変わることばかりが良いとも限らない。
変わらないものにも、きっとかけがえのない価値がある。
「ってか、何でここにいるんだ、お前」
オレの最初から覚えていた疑問を、ようやく投げかける。
バレッタはラグランジェの王女。本来、こんなところにいるはずがない。
「ああ、それなら。留学しに来たんだ。魔法都市に」
「留学?」
「そう! 師匠がいなくなってから、ずっと一人で訓練してたんだけど、なんか行き詰まっちゃって……それで、親父に頼んで魔法都市に入れてもらった」
バレッタの父親の顔を思い出す。
ラグランジェからここまでそれなりに距離もある。
愛娘を一人旅立たせるなど、彼は認めたくはなかったのだろうが、バレッタに根負けしたのだろう。泣きながら娘を見送る様が目に浮かぶ。
「師匠と入れ違いになったって聞いたときはちょっぴり凹んだけど、会えたし良かった!」
「そうだな。この広い世界で再会できる方がまれだ。素直に喜んでおいて損はない」
「師匠も相変わらずだなー」
などと、久々に子弟の交友を温めて――――温まってるのかは知らないが――――いると、凛が横から身を乗り出してくる。
「一番弟子はわたしだからね!」
凛の対抗心むき出しの言葉にバレッタは慣れた様子で笑った。
「分かってるよ、リン姉さん」
「リン姉さん……?」
聞き覚えの無い呼び方にオレが首を傾げると、バレッタが「ああ」と思い出したように言った。
「この一カ月ちょっと、色々あって……」
「そう! バレッタちゃんはわたしのことを凛姉さんと呼んで慕ってくれているのです!」
バレッタに抱き着きすりすりと頬ずりをする凛を、バレッタが半分鬱陶しそうに遠ざけようとしている。
本当に慕われているのか……?
目の前のやりとりを見ているとそうでもないような気もするのだが、それは言わぬが花。そっと心のうちに秘めて近況報告などを軽くかわしていると、一人の男が歩み寄って来る。
「やあ、トイチさん、リンとバレッタさんも」
「……テオか。頼む、このじゃじゃ馬二人を何とかしてくれ」
テオドール・シンクレア。魔法都市の学生の一人。
気さくで話しやすく、その上成績も優秀。友人も多く、何と学園都市の評議会の一員であるという全てを持っている男だ。オレの中でも印象深い人物で、フォルトナに次いで学園都市で交流があると言っていい。
だが、そんなコミュ力の化身たるテオの物言いに、少しだけ感じた違和感。
その違和感を払しょくするためにオレは大仰にため息をついて二人を押し付けようとしてみせる。
テオは「ははは」と軽快に笑った。
「請け負いたいのは山々だけれど、僕じゃあ力不足だよ」
「いや、マジでお前のイケメン無敵スマイルと最強コミュ力なら何とでもなる」
「……半分ぐらい何を言われてるか分からないけど、褒められているのかな?」
「褒めてる褒めてる、超褒めてる」
そんな適当な会話を投げつけ合うぐらいには、テオドールという男との間柄は気さくなものだ。
お互いに立場があるため一線を引いているという共通認識があり、非常にコミュニケーションがとりやすい。まあ、根本的にテオが人好きのする性格というのもあるだろうが。
「少しはゆっくりできたかな?」
「あー、そうだな。さっきは助かった」
凛と仲直りしたあと、魔法都市の面々に見つかりもみくちゃにされかけていたのを救ってもらったのだ。マネージャーとして雇いたいまである。
「いえいえ、これぐらいはね」
テオは「お安い御用だよ」と人懐っこい笑みを浮かべた。
「なぁ、凛。このイケメンもしかして龍ヶ城とかと違ってただの良いやつか?」
「輝政くんも別に悪い人じゃないと思うけど…………うん、テオくんは超が10個ぐらい付くぐらい良い人。頭も良いし、運動も出来るし、ダンジョン探索でもすごいお世話になっちゃった」
凛が指折りで数えていく。
「いや、そんなことは……」
テオが少しだけ照れて頬をかく。
「……そういや、何か用件があるのか?」
テオがオレに話しかけてきた理由。
無論、特に理由などなくただ雑談に交じりに来たという可能性も無くはないが、オレと話してても楽しいとは思えないし、何か明確な目的があると言われた方が納得しやすい。
オレの問いにテオは一瞬だけ目を見開くと、「はは」と小さく笑う。
そして、初めてオレから視線をそらした。
いや、逸らしたというよりは別の何かに視線を向けたと言うのが適切か。
それはあまりに何気ない所作だ。普通であれば見逃してしまうよな。
けれど、彼の視線は凛のいる方向へと注がれていた。
「…………ああ、いや、あなたが帰ってきた、ということはと思ってね」
「?」
彼らしくない歯切れの悪い言葉にオレは首を傾げるしかない。
「……寂しくなる、と思って。リンは……リスチェリカに、戻ってしまうんだよね?」
ぽつり、と呟くテオの姿は語るまでもなく寂しげだ。
「…………うん。もうちょっとだけダンジョンの調査とか、やり残しをやり終えたら、戻ろうと思ってる」
それはオレからすれば意外な言葉だった。
見れば分かるように、凛は既にこの場で多くの仲間たち友人たちに恵まれている。
それこそテオが惜しむほどには。
そんな状態で、未だに遺恨が残っているであろう勇者諸君が待つ、あの窮屈な場所に帰る理由などあるのだろうか。
「前も聞いたけれど、どうして?」
理由を問う言葉は、オレの口からではなくテオの口から投げかけられた。
それは少し意外と言えば意外だった。テオという人間は、来るもの拒まず、去る人を惜しみながらも追わない人間だと思っていた。だが、彼は凛に理由を問うている。
テオの顔に浮かぶのは困惑とほんのわずかの不満。
それぐらいには、凛が彼らに溶け込めていたのだろうか。
「…………それは」
凛が今度はちらりとこちらに視線をやる。
えっ、何ですか。僕に何か……?
「わたしの中で、1つの目標を超えたから、かな……ようやくスタートラインに立てたっていうか…………ええっと、うまく言えないんだけど……その、スタートラインに立てたからには、ちゃんと頑張りたいっていうか……あの……」
しどろもどろになりながらも、自分の思いを言語化しようとああでもないこうでもないと言葉を尽くす凛を見て、テオがその表情を崩す。そのまま、仕方なさそうに笑った。
「……そうか。うん、そうだな。君は、最初からそうだった。もちろん、変わった部分も多いけれど。それでも、最初からそれだけは変わらなかった」
テオの言葉の意味をくみ取ることはできない。
だが、凛はその言葉に思うところがあったのか、こくりと頷いた。
「ありがとう、テオくん。本当に」
凛の差し出した手。
テオは「はは」と今度こそいつもの笑みを浮かべるとその手を握った。
柔らかい握手。
だが、それは明確な決別を意味していた。
「…………いいのか、凛」
いつかも問いかけた疑問を、再び投げつける。
少しだけ緊張して表情がこわばるオレを見て、凛が確かに頷いた。
「うん。これでいいんだ」
「……そうか」
当人たちが解決していることなのであれば、これ以上オレからは何も言うことは無い。
「あ。ゆーくん、まだ魔法都市にいる?」
気を取り直すように殊更明るい声で凛が言う。
「いや、明日にでも帰ろうと思ってんだが」
「えー!! 何でだよ師匠!! せっかく来たんだからもうちょっと色々話したいのに!!」
バレッタに腕を掴まれてゆすられる。
「なー、いいだろー!」
「分かった分かった! 凛、さっき言ってたやり残しってのはどれくらいかかるんだ? 急かすつもりはないんだが、一緒に帰るだろ?」
「たぶん、一週間ぐらいで終わると思う! やー、ゆーくんいないとリスチェリカに帰るのも大変だから助かるー!」
「お前、人のことタクシーか何かだと勘違いしてない?」
「してないしてない! ゆーくん様には頭が上がりません……!」
拝み始める凛にやめてくれと顔をしかめる。
だが、オレとて本気で怒っているわけでもなく、それは凛にも伝わっていた。以前までなら、こんなやりとりも危なげなく成し遂げられなかっただろう。
「…………師匠とリン姉さん、長い間会ってなかったんだよな?」
「まあ、疎遠になってた期間含めりゃ結構だな」
「うんうん。ゆーくんと話せなくて本当に寂しかっ…………なんでもない」
勢いのあまりこっぱずかしいことを言いそうになる凛に、オレまで恥ずかしくなってくる。
勘弁してくれ…………
それから、レイラやバレッタから根ほり葉ほりとオレと凛の関係を問い詰められたり、レイラからバレッタとの関係を聞かれたり、テオに囃し立てられたりとまあ騒がしい時間を過ごしたのだが、あえて振り返ることもないだろう。
そして、フォルトナに勧められるがままに魔法都市で一晩を過ごす羽目になった。
バレッタの強い要求と、フォルトナの有無を言わさない勧誘、その他大勢の熱烈なアピールを受けて、オレも首を横に振るに振れなかった。
転移魔方陣の部屋をフォルトナに握られてしまっているため、彼女にやんわりとかわされてしまうとなかなか、だよな強引に言い募ることもできない。
こんなことであれば彼女の管理下に置くのではなかったなと思う一方で、恐らくフォルトナに任せてしまうのが最も信用できる管理方法なのだとも頭で理解している。
フォルトナという人間、最初は人に魅了の魔法を使ってくるただの異常者だと思っていた。だが、先日のドラゴン襲撃時の対応や、それ以来の彼女とのやりとりを経て、それが彼女なりの努力の結果なのだと僅かばかり理解できた。
努力の方向性がややずれている、と言いたいところだが、その結果として彼女は輝かしい成果を得て現にこの魔法都市のトップに君臨しているのだから、過ちだと糾弾することもできない。
良くも悪くも実直なのだ、あいつは。
ぼんやりとベッドに背中を預けながら色々な人の顔を思い出す。
凛との仲直りの後、久々にテオとも再会できた。
テオドール・シンクレアは久々に会おうともその好青年っぷりに曇りが差すことは無かった。何ともまあ気遣いの塊のような男だ。顔が良く、勉学と運動神経にも優れ、気が配れる好青年。
龍ヶ城輝政を超える傑物はそうそう出てこないとは思っていたが、流石は異世界。オレの想像など軽々しく超えて来るのだから腹立たしい。
だのなんだのと僻み恨みは立て連ねていながらも、オレ自身テオには悪い感情は抱いていない。
それどころか、かなり好印象を抱いている。
……彼に悪感情を抱く理由が一抹ほども存在しないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
この世界の人間が全員あんな風であればいい。
だが、善人がいれば、それだけ悪人もいる。
隣人を救うものがいれば、目の前の人間を殺めるものもいる。
それは異世界に限った話ではない。
しかし、こと異世界という環境において、今まで見えていなかった世界の暗い部分を幾度となく目の前に突き付けられる。
そのことに辟易していないと言えば嘘になる。
だが、それでもオレの為すべきことは変わらないし、進むべき道は確かなものだ。
オレは決めたのだから。
償いではなく、自らの希望のためにその先に進むと。
じゃら、と胸の奥で楔が疼く。
「…………春樹、エルナ、ウォシェ、セーニャ」
数多くのオレが取りこぼしてきた人々。
掬えなかった。
手を、伸ばすことができなかった人たち。
彼らに報いなければならないという気持ちは今も確かにオレの中にある。
今後も、一生、報い続けていかなければならないと、そう覚悟している。
だからこそ、世界の救済なんていう分かりやすい戒めで、自分の罪を贖おうなんて考えない。
ずき、と胸の奥が痛む。
楔が黒く嗤う。
ああ、嗤っていろ。
それでも、オレは、前を向き続けると。
この罪に、向き合い続けると決めたのだから。
そして、目を瞑るといくつもの顔が浮かぶ。
オレが救うと。
守りたいと、そう願う人々の顔が。
少し前のオレであれば、その必然性も蓋然性もありはしないと一笑に付していた。斜に構えて、どうしようもなく、ふてくされていた。
オレに何ができるかは分からない。
でも、少なくとも彼らを守りたいと、そう願うことはできるようになった。
ようやくスタートラインだろう。
「よっしゃ」
小さく呟いて気合を入れる。
ひとまずは須藤の言ったようにダンジョンを制覇して鍵を集める。
凛のおかげで、残りは2つ。
……そういや、フォンズから鍵を譲り受けるのを忘れていた。
「まあ、次に会ったときでいいか」
そして、あの女。
アイリーン・ブラックスノウ。
奴を、必ず征伐しなければならない。
決して、許しはしない。
あの邪悪と絶望を煮詰めたような、災媛の魔女を。
「…………寝るか」
明日は一旦リスチェリカに戻るつもりだ。リアを置いてきているし、諸々の報告も必要だろう。報告が終わったらまたここに戻れば良い。
フォルトナに渋られようとも、強く出ればあいつも言い返せないだろう。




