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183、空間魔法


「優斗。神についてはオレから詳しくは話せない。ただ、各地のダンジョンを巡れ。そうすれば情報があるはずだ」


「そのダンジョンってのの情報がほぼ無いんだが……リスチェリカとフローラ大森林、あとリスチェリカからずっと東に行ったサヴォナローラって大都市にあるやつ……ぐらいしか確かな情報がないんだが」


 あと、確かフォンズが魔大陸のダンジョンを踏破していたはずだ。

 だが、それでも4つしかダンジョンがない。


「一応、この屋敷もダンジョンっちゃダンジョンだぜ?」


「は? マジで?」


「さっき鍵を渡しただろ」


 ダンジョンと言うとこう、洞窟だったりを想像してしまうので、こんな普通の日本家屋がダンジョンだと言われると拍子抜けする。


「そもそも、砂嵐を抜けるのが難しいし、館にたどり着いて掛け軸の裏を探すのも常人には思いつかねェ。それに試練も課してるしな」


 言われれば分からないでもないが……


「……で、もうクリアしたダンジョンはいい。残りの3つだが、1つはリベリオが作ったやつが魔法都市近辺にあるはずだ。見つかってねェのか?」


 言われてもそんな話は聞いたことがない。

 フォルトナあたりに聞けば何か分かるかもしれないが、全く情報がなかったことを考えると、そもそも見つかってない可能性すらある。


「……まあ、リベリオは性格悪かったからな。常人には見つからねェ場所に隠してるかもしれん。あと2つは、1つが『大火山』深部の遺跡――――」


「デフ・アルデ大坑道!」


 レイラが来ましたと言わんばかりに声を上げた。

 思わず大きな声が出てしまったことに自分で驚き、両手で自分の口を塞いだ。

 オレがその様子に小さく笑うと、レイラも「えへへ」と恥ずかしそうにはにかんだ。


「そうだ。あそこは結構キツいから気合入れて頑張ってくれ。で、最後が魔大陸。魔族の領地だな」


 それはフォンズが既に踏破しているはずだ。


「悪ィが、ダンジョン内部の情報については俺も詳しくねェんだ。ダンジョン作りを手伝ったりはしたんだが、ある程度形になった後にどうなったかまでは面倒を見てねェからな」


「はー、つっかえ」


「お前…………一応は先輩に向かってぐいぐい来るな?」


 須藤は呆れながらも怒ってはいないらしい。


「……ユウトは、これから今言ったダンジョンに潜りますの?」


「ああ。そうしないといけないらしい。なあ、須藤。一応聞くんだが裏道とか近道は……」


「俺が知るわけねェだろうが。最深部と外を行き来する転移魔方陣ぐらいはあるだろうが、それを外から見つけるのはまあ砂漠のど真ん中で裁縫針を探すような作業だろうなァ」


 ですよねー。


 まあ、無いものねだりをしても仕方がない。

 ダンジョンの位置情報が分かっただけでもありがたいとしよう。

 それからダンジョンについて知り得る限りの情報を須藤から引き出していると、ふと須藤が思い出したかのように声を上げた。


「そういや、お前ら何でここに来たんだ? ダンジョンだと知ってて来たわけじゃねェみてェだし」


「ドラグニル沼地に向かう途中に巻き込まれたんだよ」


 完全に巻き込み事故だった。

 まさか、あれだけ距離があった砂嵐が一瞬でこちらに転移してくるなど聞いていない。

 そう文句をまくし立てると、須藤は「かっかっか」と豪快に笑った。


「いやァ、そりゃ文字通りに災難だったな。まァ、同じ賢者のよしみだ。ドラグニル沼地に近い場所まで送ってやるよ」


「そんなことできるのか?」


「砂嵐ごと転移させてんだぞ。人を数人飛ばすぐらいできるっての」


 旅路が大幅に短縮できるかもしれない。

 思わぬ収穫と言っていいだろう。


「……なあ、転移魔法って、魔方陣なしでもできるのか?」


 オレの問いに、須藤は「そんなことか」と笑った。


「できない理由が存在しねェだろ。空間魔法っつってな、転移したり距離を縮めたり空間を歪めたりとまあ色々できるぜ」


「やり方教えてくれ」


 オレは恥も外聞も捨て、一直線に教えを乞う。

 その様が意外だったのか、須藤は目を丸くすると、頷いた。


「ああ、いいぜ。っつっても、『世界樹の智慧(ルート)』にアクセスすりゃァ、グーグルよろしく一発なんだけどな……あそこにはあらゆる魔法の情報が保存されてる」


「…………なあ、オレが無詠唱で魔法を使えるのって、もしかして『賢者の加護』の恩恵なのか?」


「無詠唱? っと、そうか、そっからか」


 須藤の言葉に、首を傾げていると須藤は「そうだな」と続けた。


「まず、そもそもお前らが魔法と呼んで使っているものは厳密には魔法じゃねェ」


「あ? どういうことだ?」


「『ファイアーボール』やら『ワインド』やらは、魔術だ。魔法とは厳密に区別される」


 …………魔法と魔術。


 そんな話は聞いたことがない。

 基本的には皆すべて魔法と呼んでいるはずだ。


「……いや、フォルトナは魔術って呼んでたか?」


 あいつは確か、魔法のことを魔術と呼んでいた。

 特に気にも留めなかったが、確か、魔法と魔術、両方の言葉を使い分けていたはずだ。


「魔術ってのは、魔法をより使いやすい形に落とし込んだもんだ。普通の人間は、魔導回廊と魔臓を手足みたいには扱えねェからな。詠唱っつうプロセスを噛ませることで、誰でもお手軽に使えるようにしたっつうわけだ」


「じゃあ、オレが魔法……っつうか魔術か、を無詠唱で使えるのは?」


「これはあくまで俺の仮説だが、恐らくお前は全く『世界樹の智慧(ルート)』に接続できないってわけじゃねェんだろう。完全記憶能力だったり、思考スピードの加速、無詠唱あたりは『世界樹の智慧(ルート)』の恩恵を受けているっぽいぜ」


 彼の言葉を聞いて、ようやくオレの不可解な能力に1つの仮説が与えられた。

 無意識で『世界樹の智慧(ルート)』に接続している。

 そのために、魔法の使い方が分かり無詠唱で魔法を使えるし、完全記憶能力なんてものも得たというわけか。


「……たまに、自分が思いついたものじゃない魔法が頭に浮かぶことがあるんだが」


「そりゃァ、間違いねェな。『世界樹の智慧(ルート)』から何かしらの情報を引き出してる」


 埒外な結果をもたらす魔法『大罪シリーズ』は、『世界樹の智慧(ルート)』に保存されていた一部の魔法がオレの中に漏れ出てきていただけだったのか……?


 得体の知れなかった存在に一定の説明が付きそうで少しだけ安心する。


「そもそも、魔法っつうのは、そんなおいそれと使っていい代物じゃねェんだ。ありゃ、世界を侵す毒。猛毒や劇毒の類だ。魔術に落とし込む際に相当、小奇麗にまとめはしたが、本来の魔法はもっと埒外なもんばかりだ」


 須藤の大言壮語のような言葉を、普通なら一笑に付すだろう。

 だが、既に多くの埒外な魔法を目の当たりにしたオレは、彼の言葉を笑うことはできなかった。


「……だからな、優斗。転移魔法も、お前が使えねェと思い込んでるだけで、実は何とでもなる代物かもしれねェぜ?」


「いや、そうは言ってもな…………」


 空間転移。

 簡単に言っているが、その原理を想像するだに意味が分からない。

 そもそも空間や転移の定義からして定かではないのだから、議論の俎上に上げること自体が難しい――――――――


「難しく考えてやがんな……まァ、賢者だし仕方ねェか」


「いつもこんな感じですわよ、この人」


 リアにこんこんとこめかみを小突かれる。


「ワタシはユートくんのそういうところ、いいと思う……!」


 レイラのなけなしのフォローにいたたまれなさを覚えつつも、そうは言ってもなぁと思考を止めることはできない。


「優斗。魔力操作はできるな?」


「? あ、ああ。そりゃな」


 『不可触の王城(アイソレスフォート)』や『見得ざる御手インヴィジブル・リアクタンス』なんかはそれを利用した最たるものだろう。


「なら話は早ェ。次は魔力を操作して、空間を歪めてみせろ」


「待て待て待て、飛躍してないか!?」


「してねェよ。何で魔素や自然現象が操作できて時空間が操作できねェんだよ」


「いや、そうは言うけどなぁ!?」


 だが、須藤に文句を言い返しながらもハッとする。

 オレは現に重力操作を成功した。

 あれが実際に重力を操作できているのかは不明だが、目に見える結果としては重力が大きくなっていたはずだ。


 なら、それと同様にして空間も操作できるのか?


「というか、ぶっちゃけると俺からテメェに教えられることは大してねェ。魔法なんぞ実践あるのみだ。理論や理屈を振りかざす方がバカらしい。科学できるような対象じゃねェんだからな」


 豪快に笑う須藤にオレは「身も蓋もない……」とげんなりした調子で返す。


「ま、ここでいくら特訓してくれても構わねェんだが、急いでるんじゃねェのか?」


「ああ。そうだな」


 ちら、とレイラの方を見る。


「ワタシのことは気にしなくていいよ……?」


「そうか。じゃあレイラのことは気にせずに最速でドラグニル沼地に向かう」


 オレの言葉にぱちぱちとレイラは目をしばたたかせた。

 そしてすぐに破顔して笑った。


「ありがとう。本当に」


 レイラの笑みに、確かに頷きを返す。


「これはオレの償い――――いや、オレがやりたくてしていることだ。気にしないでくれ」


「ユウトの口からそんな誠実な言葉が……」


「おい、オレの騎士。何だその失礼な発言は」


 てんやわんやなオレたちの会話を見て須藤は笑った。


「仲が良いようで結構だ。まあ、急ぐってんならすぐにでもドラグニル沼地の近くまで飛ばしてやる」


 そう言うと、須藤の前に魔方陣が現れる。


「そこに入れば砂漠の縁まで行けるはずだ」


「…………須藤、あんたは」


「はっはっは、俺の心配か? 安心してくれ、俺ァ、もう死んでる人間だ。ここで異世界スローライフとやらを満喫させてもらうさ。って、もう死んでるからスローデッドか?」


 会心の冗談を飛ばしたと言わんばかりに大笑する須藤を見て、オレは何とも言えない表情をするしかない。

 同郷の人間として、彼がこのままこの場で孤独に今後も過ごし続けることを想像すると、いささかばかり憐憫の念を覚えてしまう。

 だが、オレの心配もどこ吹く風と言わんばかりに須藤は笑い飛ばす。


「ここにいても世界の色々な出来事は見れるからな。まァ、お前が思うほど退屈はしてねェぜ?」


 一拍の間のあとに、須藤は続けた。


「…………ただ、もしお前が世界を救いきったら、そのときはまた会いに来てくれや」


 その言葉に混じる微かな哀愁に、オレは確かにうなずきを返した。


 須藤はやや気恥ずかしそうに頬をかくと、「さあ、とっとと行け」と振り返ってしまう。

 その背中は、最初に見た時よりは小さく見えた。

 けれども、どこか安心感を覚えている自分がいる。


「ありがとう、ございます。須藤神威さん」


 オレは小声でそう呟くと一礼した。

 そして、リアとレイラとともに魔方陣に足を踏み入れる。

 一瞬の浮遊感ののちに、視界が霞んでいく。


「頑張れよ、後輩」


 最後に、そんな声が聞こえた気がした。


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