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139、突破の糸口

 その後、他の面々に『トランスエコー』で指示を飛ばし、ドラゴンの相手もそこそこに合流を果たした。

 場所は、ルードとガネットが待機していた小屋。

 体中に傷を作り、泥だらけの面々に水筒や軽食を渡しながら、大きな怪我を負っている者には治癒魔法をかけていく。オレ以外にも数人治癒魔法が使える人間がいたので助かった。


「これで、全員かい」


 テオの確認するような声に、オレは奥歯を噛みしめて肯うしかない。


「……そう、か」

 だが、テオはそれ以上何も言わなかった。

 この作戦を考え付いたオレを謗る言葉などいくらでも出てきただろうに、それでも、何も言わずに目を伏せた。


「…………うらみつらみ、罵詈雑言は後で受け付ける。けど、ドラゴンたちがオレたちに興味を失うまで時間がねぇ。喫緊の問題を話したい」


 オレの言葉に全員が疲れ切った顔でこちらを見た。


「お前らも見た……いや、見えなかったと思うが、体験したはずだ。あの、灰竜の攻撃を」


「あれは、やはり攻撃……なのか?」


 熊野が訝しげに唸りながらその豪掌で顎を撫でる。


「恐らくは、ブレスの類。だが、その正体は不明。分かることは、見えないこと。そしてそれを食らうと、消滅するということ」


 埒外に過ぎる。

 物理法則をバカにしたようなその権能に、オレは恐怖を忘れて苛立ちすら覚えていた。

 こちらがこの世界の法の下で必死に知恵をこねくり回しているにも関わらず、あいつらは優優とそれを超えて来る。


「十一にも分からんのか?」


 熊野の問いにオレは首を振るしかない。


「期待に沿えず悪いが、さっぱりだ。『領識(エリアライズ)』……オレの空間認識魔法でも一切見えなかった」


 そう。あのブレスの通り道だけ、ぽっかりと穴が開いてしまったかのように急に何の情報も伝えてこなくなったのだ。


「…………どうする」


 熊野の問いに、その場の面々は押し黙るしかない。


 不可視かつ必殺の攻撃。

 見ることも出来ず、聞くことも出来ず、感じることも出来ないが、当たると死ぬ。

 そんな馬鹿らしい理不尽を放つ敵に、どう相対すればいいのか誰も答えを出せない。

 雷を放つ竜、冷気を纏う竜、重力を操作する竜……そのどれしもが一応は物理法則に影響を与える存在だった。だが、今回の相手は違う。物理法則を嘲笑う、法外の理でこちらを蹂躙してくる。


 透明ってだけなら泥でもぶつけて姿を見えるようにすればいいんだが。

 実際にダンジョン内で透明な魔物と戦ったときにはそうしていた。だが今回は違う。透明なのは敵の攻撃だけ。見えない攻撃に泥をぶつけるためには、その攻撃が見えなくてはならない。透明の敵であればあたりをつけて無作為に周囲にばら撒けば良かった。だが、敵のブレスは常にそこにあるわけではないし、一度当てればおしまいという話でもない。常時周囲に泥を撒き続けでもしろって言うの、か…………?


「いや、そうだ、そうじゃねえか。常時周囲に泥を撒き続けりゃ見える。それでいいんだ」


 オレの呟きに全員が不可解そうに首を傾げる。


「奴の攻撃は不明だが、2つだけ分かっていることがある。1つは完全に不可視であるということ。もう1つはそれに触れた場所が消滅するということ」


 指折り数えて続けた。


「逆に言えば、消滅した場所があれば、そこが奴の攻撃が当たった場所だということだ」


 オレの説明に、半分が得心の行った様子、もう半分が分からないといった様子で首を傾げた。


「だから、自分の周囲に常に何かしらの魔法を展開すれば、奴の攻撃がこちらへ向かってきていることが見えるはずだ」


 たとえばあの白竜のように、自分の周囲数メートルに氷の結晶のドームを展開する。そのドームの一部が突然消滅するようなことがあれば、そこに灰竜の攻撃が当たったということが分かるはずだ。そして、どの方向に削られていくかを見れば軌跡を予測して回避することも可能なはず。

 無論、予測不可能な軌跡をたどる必要もあるが、そこまで考えていてはどうしようもない。

 最終的に抉られた地面の形状はほとんどが円形の穴や直線状の溝。そこまで奇怪な軌跡をたどる攻撃だとは考えにくい。


「そういう魔法に心当たりのある人間は?」


 オレはいくらでも実現できるが、そういった魔法を覚えている人間がこの場にいるのか。一人いるだけでも今後の戦略が大きく変わる。


「広範囲魔法か……なあ、シヴェールは使えなかったか?」


 テオが白髪の青年に語り掛ける。

 白髪の青年――――シヴェールはずり落ちていた眼鏡の位置を直すと、口に含むような言い方で答えた。


「ええ、私の得意とする魔術は風。特に風魔法は広範囲に展開しやすいのはご存じの通りです。ですが……」


 だが、そこで言葉を濁す。


「たとえ周囲に風魔法を展開しても、それが消えたことを観測する術がありません。私には空気が見えませんから。加えて魔力も心もとない。1、2度も撃てば品切れでしょう」


 シヴェールはどこか芝居がかった様子で肩を竦める。


 やはり厳しいか…………


 これが戦闘開始直後であればよかった。

 だがすでに長い間戦闘を行い、こちらはリソースを大量に消費している。その状況であれだけ強力な個体と戦うのは無理筋だ。

 だが、あの灰竜は絶対に魔法都市に向かわせてはいけない。他の竜は良い。だがあいつはダメだ。あの竜単体で、街が滅ぶ。

 だから、オレは最後に場の面々に問うた。


「…………あの竜の攻撃で2人死んだ」


 オレの言葉に大半が悲痛さに表情をゆがめた。


「もしこの場に残れば、もしこのまま戦えば、この中の誰かがさらに死ぬかもしれない」


 それはオレとて例外ではない。

 オレの『不可触の王城(アイソレスフォート)』はあいつの攻撃には効果が無い。先ほどかすったときに、消滅したのを確認している。

 恐怖が無いと言えば嘘になる。


 だが、


「――――だから、お前らは戻ってくれ。シャーリアの援護を」


「十一、お前はどうするんだ?」


 熊野の問いにオレは真っすぐと答えを叩きつける。


「オレは残って戦う。これ以上、誰も死なせないために」


 これはオレのわがままだ。


 これはオレの傲慢だ。


 これはオレの贖罪だ。


 だから、これはエゴの塊に過ぎない、汚い感情だ。

 偽善と呼ぶのすら憚られる、もっと汚い何か。

 オレが前を向くための儀式として彼らを利用している。


「トイチユート……あなたは……」


 テオがオレの名を呼ぶ。

 その声に込められた感情を、オレは読み取ることができない。


「異論はないな? みんなには少し下がって前線を維持して欲しい。今しがた残った他のドラゴンたちが魔法都市に一気に流れ込もうとしている。そいつらを食い止めてくれ」


 雑な指示だが、こいつらもこの数十分の戦闘で対ドラゴン戦闘の経験は十分に積んだだろう。後は考えて動いてくれるはず。


「わたくしは残りますわ」


「リア…………は言っても聞かないだろうな」


 欲を言えばこいつにも下がっていて欲しいのだが、そう言い含めて聞くような素直な耳は持ち合わせていない。


「っつうわけだ。テオ。小隊の指揮はお前に継ぐ」


「ま、待ってくれ、それじゃああなたは…………」


「オレだってあの灰竜をどうこうしようと思っちゃいねえ。けど、この中でまともにあいつと戦える可能性が1ミリでもありそうなのがオレぐらいなんだ。だったら、オレがやるしかないだろ」


 これは驕りでもなんでもない客観的な事実だ。

 あいつの攻撃を視ることができるのがオレしかいない以上、奴と相対するのはオレしかいない。

 それは彼らとて理解していないところではないのだろう。

 オレの言葉に何の反論も返ってこない。


「…………分かった。任されよう」


「こっちは怪我人もいるし、消耗もしてる。無理はしないで、やばそうならさっさと魔法都市に退避しろよ」


「もちろんだ。……これ以上、誰も失うわけにはいかないからね」


 テオの眼に強い決意の灯が宿ったのを見届けて、オレは「ふぅ」と小さく息を吐く。

 それはオレ自身が覚悟を決めるため。

 遠くで死骸を貪る、未知と理不尽の竜に立ち向かうためだ。


「じゃあ、また後で落ち合うぞ!」


 オレは彼らに背を向けて灰竜に向けて駆けだす。

 リアの軽い足音が後ろから続くのを聞きながらも、もう振り返らない。


「皆で戦えば良かったものを……」


「あの灰竜は未知だ。オレの戦法が通じない可能性だってある。そんな危険な奴相手に、大量の人員引き連れて戦うのはそれこそ愚の骨頂ってやつだ」


 最悪オレ自身が勝てなくても良い。

 この戦いの勝利条件は奴を討伐することではない。

 奴を撃退する。もしくは、他のドラゴンたちの撃退が完了するまで奴をこの場に引き留める。もし魔法都市に余裕が生まれれば、灰竜について魔法都市が何か対策を打ってくれるかもしれない。楽観ととられるかもしれないが、魔法都市にはそれだけの智慧が集約されていると、そう信じていいはずだ。


「倒しますわよ、あの竜」


「いや、別にそこまでしなくてもだな……」


 オレの打算とは裏腹にリアはどこまでも真っすぐに木々の先を見つめている。

 その先には、かの灰竜。

 戦場の荒れようなどまるで意に介さぬかのごとく、味方の死骸を貪り食らっている。


「そんなへっぴり腰でどうするんですの。押して、押して、押して、勝つ。それ以外に術はありませんわ」


「…………はぁ。まあ、そうだな。倒せるならそれに越したこたぁない」


 もし本当に倒せるのであれば、だが。


「ああ、そうだ。リア、聞きたいことがあったんだ」


 オレの話題転換にリアが小首を傾げる。


「お前が戦ってた白竜、逃げたっつってたよな」


「ええ…………ああも啖呵を切った手前、取り逃がすのは心苦しいのですが……」


 ずもももも、と不服のオーラが見えんばかりに不機嫌になるリアに引きつった笑いしか出てこない。


「そのときの原因に心当たりはないか?」


「心当たり……ですか?」


「ああ」


 今回のドラゴンによる襲撃、やはり何かが引っかかる。


 異なる種類のドラゴンが群れて一か所を目指すという異常性。

 どれだけ攻撃をしようとも一切撤退しようとしないという異常性。

 理性に欠いた野性的な行動しかとらない異常性。

 半人半竜の化け物の存在という異常性。


 そのどれもが一見無関係のようなピースに見える。だが、あと2,3ピースあればきっときれいにはまってくれる。そんな嫌な予感があった。


「申し訳ありませんが、わたくしにも、心当たりは……」


 言いかけたところで、リアが言葉に詰まる。

 オレはそれに眉根を上げるだけで続きを促した。


「いえ、そうですわ。あれは、水晶……水晶ですわ」


「水晶?」


 リアの言葉の意味を捉えかねて首を傾げているとリアは「ええ」と頷いた。


「ドラゴンの胸部に、謎の煌めきが見えたのです。最初は氷の結晶かとも思ったのですが、少しばかり輝きが違いましたので。弱点かと思い剣で粉砕しましたわ」


 胸部に光る水晶…………?


「それを破壊した途端、白竜が急に大暴れをし始めて……その後、一太刀を浴びせたら大して効いていないにも関わらず逃げていきましたわ」


 水晶を破壊したら、暴走を始め、逃げて行った…………


 もちろん、それが魔族のコアや我々の心臓のように、ドラゴンの核となるものである可能性はある。ドラゴンは魔物。魔素との結びつきが強い生物だ。心臓にあたる核となる存在が、魔素の結晶の形をとっている可能性は十分にあり得る。


 ――――だが、そんな重要器官が体外に露出しているものか?


 男性の睾丸なんかは体外に露出している臓器として有名だが、さすがにそれを破壊されて死ぬことはない。想像するだに下腹部あたりが締め付けられるが、それでも生命に関わるような重要な器官ではない。いや、ある意味生命に関わるけどね?


 閑話休題。


 とすれば、恐らくその水晶はドラゴンが生来持っている器官ではない。

 恐らくは何かしらの理由で後天的に埋め込まれたもの。


「…………リア、頼みがある」


 オレは、彼女に目を向けずに言った。

 リアは既に剣を抜いている。彼女の視線もこちらを向いてはいない。

 その理由は明白。木々の先。

 かの灰竜が、じっとこちらを見ていた。


「ドラゴンの死体を漁ってくれ」


「……はい?」


「ドラゴンの胸部に、白竜に埋まっていたのと同じ水晶があるか調べて欲しい」


「どうして、そんなことを……いえ、必要なんですわね?」


「ああ、もしかしたらあの灰竜を簡単に撃退できるかもしれない」


 オレの言葉にリアは仕方なさそうにため息をついた。


「……わたくしが戻るまでに死んだら、許しませんわよ!」


 そう言い残すと、リアは地を蹴って飛んだ。

 それを見た灰竜が「ごぅ」と息を吸い込んだ。


「てめぇの相手はこっちだッ! 『雷走』!!」


 灰竜の顔面に向けて稲光を弾けさせる。

 だが、ノーダメージどころか当たっている気配すらない。

 試しに石の塊を魔法で発射すると、竜の直前で掻き消える。


「やっぱりか……!」


 対象を消滅させる能力。

 それを自分の周囲にまとっているのだ。

だが、『領識(エリアライズ)』で奴の動きが捉えられていないわけじゃない。常時全方向に張ってるわけじゃないはずだ。なら色々とやりようが――――


 灰竜が、口から何かを吐き出す。


「『ウォータースプラッシュ』」


 周囲に水をばらまくだけの単純な魔法。基本的な魔法で、誰にでも使える。

 だが、それを潤沢なMPと埒外な魔力で放てば、それは豪雨にも等しい効果を得る。半径十メートルほどに水しぶきを降らし続ける。

 だが、『領識』が不可解に雨の降らない領域を伝える。


「視える! これなら……!」


 『領識』の伝えて来る情報を元に、奴のブレスを避ける。


 今ので理解した。奴の攻撃はやはりブレスの一種。

 奴の口元から放たれた「何か」に触れたものは、何であろうと消滅する。まるで蛇が通ったかのような道筋。そのブレスの通り道には何も残らない。

 そして、ひゅごう、という何かを飲み込むような音。

 あれは恐らくブレスの通り道の跡に、空気が入り込む音。

 あのブレスが通った場所は、空気すらもかき消され真空状態になる。ブレスが消えた後で空気が入り込むことで、あのような珍妙な音を発生させていたんだ。

 考えれば考えるほど原理が理解不能だ。

 だが、原理が分からずとも、現象は理解した。

 であれば、対応のしようもある。


「――――だが、問題は……」


 独り言ちて灰竜に向かって炎球を飛ばす。

 だが、灰竜に当たって弾けるはずだった熱炎は、まるで闇に呑まれるかのようにしてすっと息を潜めた。

 奴に攻撃を当てる手段がない。基本的に、あいつの体に当たる攻撃は全て、「何か」――――消滅魔法とでも仮称しよう――――にかき消される。

 あいつの攻撃に対する対策はできた。だが、防御として使われる消滅魔法の攻略法が見つからない。

 ひとまずは、全域攻撃で様子を見る。


「――――灼き尽くせ、『炎嵐』ッ!」


 ゴウ、と熱風が頬を撫でると同時に、灰竜の周りを焔が囲った。うねるような焔の竜巻が炎々と立ち上り、大地すらをも灼熱に焦がす。

 そのまま竜巻を収縮していき、灰竜を炎熱の渦中で圧殺せんとする。

 だが、火炎の牢獄に閉じ込められた灰竜が、面倒げに腕を振るった。

 ただそれだけの一振りで、気勢も猛々しく立ち上っていた炎渦がかき消される。

 眼で見ただけでは、竜がただ腕を振ったようにしか見えなかっただろう。


 だが、『領識(エリアライズ)』を通じて視たオレは違う。


 いま、あの竜は、ただ腕を振ったんじゃない。

 その爪に、消滅魔法を纏って振るったのだ。

 奴は確実に自らの能力を使いこなしている。そして、それは偏に、ブレスに限らずやつの体にかすった時点でゲームオーバーであることを意味していた。


「つくづく戦いたくねえな……」


 愚痴をこぼしながらも、次の手を考える。

 消滅魔法は炎すらかき消す。その埒外さは驚嘆を通り越して怒りすら覚える限りだが、何か弱点があるはずだ。

 億劫そうに大地に四本脚を付けながらこちらを静観する灰竜を睨みつける。


 ――――待てよ……? 大地に立っている?


 っつうことは、足の裏なら――――


「――――隆起せよ、『地返槍(テラシュバイト)』!」


 灰竜の足元の大地が、変形し槍のように突出する。

 岩石の槍は、見事に灰竜の四肢に突き刺さり、灰竜の悲鳴を呼んだ。

 慌てて空へと逃げようとする灰竜に追い打ちをかける。


「『雷走』ッ!」


 鮮血が垂れる灰竜の傷口に向けて、ひび割れのような無作為な稲光が駆けた。広範囲の雷撃。もし少しでも奴の鮮血に当たれば、一気に血の滝を駆けのぼり奴の体内に届く。


 だが、オレの目論見はあえなく崩れた。

 血に触れる直前で雷がかき消される。


「なっ、あいつ、自分の血にも消滅魔法を纏えるのか!? そんなんありかよ!」


 どこまでが奴の体の一部と認識されるのかはかの灰竜のみぞ知ることだが、少なくとも体から流れ出る血は奴の体の一部であるらしい。血にすら消滅魔法をまとった灰竜は、空に飛び上がると今までになく大きな咆哮を上げた。

 その咆哮には、オレにでもわかるような強い感情がこもっていた。


 怒り。


 圧倒的な強者たる存在に、真正面から憤怒の感情をぶつけられたことに一瞬だけ後ずさるが、すぐに震える足を叩きつけてその場に留まる。


「は、ようやくこっちをまともに見やがったな。それでいい。その方が戦いやすいってもんだ」


 いつものように強い言葉で自身を鼓舞していると、ザっという足音とともにリアが戻ってきた。


「ドラゴンの死体を何体か確認してきましたわ」


「どうだった?」


「…………ほとんどのドラゴンにこれが」


 そういう彼女の掌の中には、砕けて欠片になってしまっている紫色の水晶が握られていた。

 あれだけ違う種族のドラゴンほぼ全員の体内から同じ水晶が見つかっている。

 ドラゴンが普遍的にこのような結晶を持っているとは聞いたことが無い。オレがロストドラゴンを狩ったときに得た素材にも、こんなものは混じっていなかった。


「でも、これ、気味が悪いですわね」


 そういうとリアは紫の水晶を地面に捨ててしまう。


「なんというか、持っていると、頭の中にもやがかかるような。気が昂るような、そんな感じがして…………」


 水晶から感じる違和感。

 そして、奴らの狂乱に近い状態。


「――――リア。あいつの水晶、探すぞ」


 まだ推測の域を出ない。

 だが、あんな化け物と正面切って戦ってなどいられない。


 もしかしたら、この戦いを終わらせられるかもしれない。

 そんな皮算用をしながら、オレは迫りくるブレスを避けるために空へ跳んだ。


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