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136、斥候殲滅部隊

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 策は練った。

 準備も整えた。

 心構えも済んだ。


 あとはきたる脅威を待ち受けるだけだ。


 だからオレは叫ぶ。


「なあ、この布陣、おかしくないか!?」


「何を言ってるんだ今さら……十一、お前の提案じゃないか……」


 熊野の呆れた声にオレは「うー!」と不満を垂れ流す。

 周囲にいる人間からの冷たい視線を受けながらも、オレは「はぁ」とため息を漏らした。




 遡って10分前。


「最前線にはオレを含めて火力の出せる数人が行くべきだ」


 オレの提案に、フォルトナは一瞬だけ勘案する素振りを見せ、視線だけで続きを促した。


「敵の数はあまりに多い。いくらこちらに周到な準備があろうと、学園付近で待ちぼうけていたら間違いなく撃ち漏らす」


 だから、学園から離れた北の森で機動力と火力を兼ね備えた数人が暴れ、ドラゴンたちを散らす。あわよくばその時点でドラゴンたちが危険を感じ進路を変えてくれたりすればなお良い。

 多勢に無勢という言葉がある。それだけに数のもたらす力というのは恐ろしいものだ。シャーリアに一度に到達するドラゴンの頭数をあらかじめ減らしておけば、シャーリアの防衛成功の確率が格段に上がる。


「戦力を集中させるべきでは?」


 評議会の一人が手を挙げて反論を述べる。

 その反論は尤もだ。兵法において戦力の分散は下策中の下策。とりたてて作戦でもない限り、兵力を分散させるべきではない。加えて、これは防衛戦。オレたちは学園都市という城に籠り、攻城戦を仕掛けてくるドラゴン軍を撃退するべきという意見も分かる。


 だが、これは人間同士の戦いじゃない。


「その理屈は分かるが、相手はドラゴンだ。兵法の常識が通用するとは思わない方がいい。特に、ドラゴンのブレスやらそれに類似した広範囲攻撃。もし相手側が文字通り息を合わせてそんなものを吐いてきたら、こっちは一網打尽だ。少しでもあいつらの統率をずらし、各個撃破できる形に持っていきたい。それに高い機動力と飛行能力を持つ相手に、籠城をするのは骨が折れる」


 オレとて、最前線の数名でドラゴンを殲滅できるとは思っていない。

 最低限、奴らを散らし、ドラゴンによる集団での蹂躙を回避できればそれでよい。

 及第点としては、ドラゴンの頭数を減らせればなお良いし、奴らの進路など逸らせた日には満点と言っても過言じゃあない。


「最前線に赴く人間はそれこそ命を賭けることにはなるが……」


 オレの尻切れな言葉に、場にいた面々が目を逸らした。

 だが、その中でも真っすぐとこちらを見つめる視線が三つ。


「おれは行くぞ」


 熊野剛毅。その口を一文字に固め、決意も固いようだ。


「俺も同行しよう。なんてったって我が学園の危機だからね」


 テオドール・シンクレア。評議会の一員にして、何かと学園で世話になっている学生だ。


「言うまでもありませんわね」


 リア・アストレア。名目上――今では内実も伴っているんだったか――のオレの騎士だ。


 それぞれの顔を見回したフォルトナは小さく息を吐いた。


「心苦しい限りですが、その戦術の有効性を認めざるを得ませんね」


「…………提案者のオレも行く。オレの魔法の火力ならそれなりに仕事はできるはずだ」


「あら、言うまでもありませんわね?」


 リアがオレを見てからかうように言う。


「……本当は行きたくないけど」


「大丈夫ですわ。わたくしが傍にいる限り、必ずアナタを守り抜きましょう」


 一片の疑いも無く真っすぐとした言葉は、オレの奥にストンと届いた。


「ま、死に損ないとしちゃこの中で一番の先輩な自信があるからな。任せとけ」


 オレの軽口にリアが口の端を歪めるのを見届けて、他の者に向けて行った。


「学園都市のために、そしてここにいる人々のために、自らの命を賭けようなんて酔狂者は他にいないか?」


 オレの呼びかけに、しんとあたりが静まり返る。

 数秒の静寂。そののちに、控えめな挙手が目に留まった。


「わ、わたしも…………行く」


 その言葉にオレは目を見開く。

 声の主は凛だ。


「…………ダメだ」


 オレの言葉に凛は口をぽかんと開けた。しかし、すぐに眉を吊り上げると、怒りに近い表情を浮かべ不安げに声を荒げた。


「な、何で!? わたしだって戦える!」


「そういう問題じゃない。お前の『術法』……結界は今回の防衛線における要になる。それはさっき話しただろ?」


 そう、都市の防衛の話をする際に、凛の結界についても議論がなされている。

 彼女の力は、都市の防衛に大いに貢献してくれるはずだ。

 適材適所、それを説いているだけなのだが、どうにも凛はそれに納得していない様子で続けた。


「で、でも! わたしは……」


「私が代わりに行く」


 冷たい声で凛の反論を遮ったのは、氷魚。


「あ、朱音ちゃん……」


「凛。あなたの能力は、あなたが最もよく分かっているはず」


 思わぬ不意打ちに、凛は言葉を失う。


「…………っつうわけだ。氷魚は参加。他にいるか?」


 学園都市側の人間が数名手を挙げる。

 他の勇者の手は挙がらない。

 ま、そうだよな。なんの思い入れも関係も無い街のために、命まで張ってられないよな。


「10人弱……こんなもんか」


 出発まで時間がない。

 この面子で行くしかない。


「フォルトナ学園長。そういうことですが、いいですね?」


 一応は皆の前なので、かしこまった態度をとる。


「……ええ、こちらからお願いすべきことです。よろしくお願いします」


 今回ばかりはフォルトナも殊勝な表情で深く頭を下げている。


「じゃあ、一狩り行きますか」


 実際には百狩りぐらいしなくちゃあいけないんだが。

 などとくだらないことを考えて、オレたちは準備もそこそこに学園都市から北へ向かった。



 と、そんなことがあり。


 オレが提案しておいて何だが、この作戦結構無理があるんじゃないだろうか。

 開幕全滅の可能性まである。

 戦いを前にオレが気弱になっていると、軽く柔軟体操をしていたリアが近づいてきた。


「怖いんですの?」


「そりゃあな。オレほど怖がりな人間もそういないぜ? 全国怖がり選手権シード選手として名高いからな」


 オレの軽口にリアは「また訳の分からないことを……」とこめかみを押さえた。

 リアはため息をつくと、オレの肩に手を置いて言った。


「……さきほども言いましたが。わたくしが、アナタを守ります。だから、アナタはアナタの思うように戦いなさい」


「…………つってもな」


「わたくしはアナタの本気を知りません」


 リアの唐突な言葉にオレは眉根を顰める。その発言に心当たりがなく首を傾げているとリアは続けた。


「アナタは人相手であると、無意識なのか意識的なのかは知りませんが、手心を加える癖がありますわ」


「いや、んなこと言われても……」


 手心を加えている……オレが?

 脅威は可能な限り全霊を以て排除してきたはずだ。

 それこそオレの魔法は人など簡単に殺すことができる凶器だし、軽く振るえば誰であろうと一溜りもない。


「わたくしは最初、そんなアナタが嫌いでした」


「えぇ……なんでオレ急に嫌悪感ぶつけられてんの? 何、そういうイジメ?」


「茶化さず最後まで聞きなさい」


 リアにぶったたかれて悲鳴を上げる肩を摩りながら、オレは彼女の言葉の続きを待った。


「でも、それがアナタの美徳であるかもしれないと、考えを少しだけ改めました」


「いや、美徳って……」


「どんな状況にあっても。絶望と理不尽の最中にあっても、決して狂気に、衝動に呑まれない。弛みない理性と精神」


 ……そんなことはない。


 オレはそこまで持ち上げられるほど理性的な存在じゃあないし、精神だって優れちゃいない。もしそんな存在なのだとしたら、今こんなことになっていない。

 リアの見つめるオレは、オレであってオレでない。


「まあ、アナタはそれを否定するのでしょうけど」


「ああ。否定する。オレはオレだ。オレであることを自認しているからこそ、オレはそれを否定する。否定しなくちゃならない」


 その言葉はひどくトートロジーを含んでいる。だが、自家撞着の繰り返しに過ぎない言説にこそ、オレは自分という存在の本質があると信じて疑っていない。


「来たぞ、十一!」


 熊野の跳ねるような声に反応して、オレは一瞬で『領識』を空間に染み渡らせる。

 世界が情報を伝え、それは絶望の影へと変わっていく。


「おいおいおい……聞いちゃいたが、マジで何体いるんだよ……!」


 ざっと数えて数十はくだらない。一つ一つが暴威の象徴を象っている竜影が、数えることすら億劫な大群でこちらへ向かっている。その足取り……翼取りか? に迷いはなく、明らかな指向性がある。


「いいか! 全員聞け! 殲滅する必要はない! 敵を散らして数を減らせ! 生存第一だ!」


 オレの叫び声に確かな返答があるのを受けて、オレは一瞬だけ瞑目する。

 さあ、ドラゴン狩りを始めるとしようか。


短いですが、ここで切らないと長くなりすぎるので……



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