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134/216

134、不正解

 魔法都市に来てから11日が過ぎた。

 旅行気分もようやく収まりを見せ、そろそろ「生活」という言葉がしっくりくるような状態になってきた。衣食住に何ら支障もなく、学業や知の探究に集中できる環境というのは何ともまあ恵まれているものだ。


 これまでの日々が死と隣り合わせだったため、周囲からの扱いによる気疲れを差っ引いても十分におつりが来るぐらいには安穏とした日々だった。

 魔法都市での滞在期間もあと三日。

 様々な授業や魔法に触れることができたし、当初の想定よりも多くの実りがあった。

 特に、ほんのわずかだが転移魔法の研究をしている方と話すことができたのは大きい。

 もちろんオレが転移魔方陣を描けることは伏せたが、そのうえで興味があることを伝えると親切に色々なことを教えてくれた。

 この学園は、知識への探求が強い人だけではなく、人に何かを教えたがる人も多く、風土としての知識の循環が豊富だ。

 よくもまあここまでの環境を作り上げたものだと、初代のリベリオはいさ知らず、フォルトナや歴代の学園都市の中枢を担ってきた者たちへの敬意を覚える。

 オレもそんな空気に中てられてしまったのか、結局学生たちに無詠唱や魔法についてオレの知る限りのことをぺらぺらと教えてしまった。

 オレが話すと決まった途端、フォルトナが学内で一番でかい教室を用意して、そこで教壇に立って講演をすることになった。

 席は満席。立ち見まで出る始末だ。


 いや、有名アイドルのライブか何かか?


 その時点でオレとしてはもう胃が痛いのに、参加してるほとんどの人間が目を輝かせてこちらを見て来るものだから、今までで一番死にたいと思った。

 拙いながらも、オレの無詠唱や魔法の知識について、ディスカッション形式で進めることで事なきを得た。


 …………議論が炎上しかけたのは、思い出したくもない。


 忘れることも出来ない自分の完全記憶能力を恨んでいると、「あ!」と爛漫な声が鼓膜を叩いた。


「あれれ! だーりん、おひとり? 珍しいね!」


 つい先ほどテオや熊野たちとの合同演習を終え、お気に入りの中庭ベンチで佇んでいると、アルティがてけてけと何も考えてい無さそうな足取りで近づいてくる。

 こいつはよくもまあこの無防備そうな状態で二週間近く魔族だとバレていないものだ。


「オレはいっつも独りなんだけどな」


「あはは。そうかも。だーりんは、誰といたって一人だもんね」


 アルティの言葉に鼻白んで目を逸らすと、奴は遠慮なく隣に座って腕まで絡めて来る。

 オレの嫌そうな顔などお構いなしにアルティは居座った。

 何か用かとも思ったが、こいつは用もなくこういうことをする輩だと諦めて大きくため息を漏らす。


「…………ねぇ。だーりん」


「あ?」


 アルティが思いのほか小さな声を出したので、雑に聞き返してしまった。

 いつも不必要に大声で話す彼女らしくない。


「なんで、アタシと、契約してくれたの」


「随分とまあ今さらな話をするな」


 ことはもう一か月近く前に遡る。

 勇者たちに忍び込んでいたアルティと一戦を交え、その後情報と魔力を交換に契約を結んだのだ。


「それなら、お前だって何であんな絶対服従の条件を呑んだんだ? あまりに非対称過ぎるだろ」


 オレは魔力を失うだけ、だが、こいつはオレの命令を全てのみ込まなければならず、結果として魔族を裏切る可能性すらある。

 オレの問いにアルティは俯く。


「そんなにもふもふ天国とやらが欲しいのか?」


 アルティの魔力の利用目的は、彼女曰く「もふもふ天国」とかいうよく分からんものを作るため。何やら魔獣を魔力から作り出したいらしいが。


「……その話、本気で信じてるの?」


「お前にバカを見るような目で見られるの、結構腹立つな」


 その実、オレだって本当に彼女のそんな動機を信じているわけじゃない。

 軍事利用される可能性だって無くもない。

 契約を使えば、本当の動機を根ほり葉ほり聞くことはできるはずだ。


「……もふもふ天国の話は信じちゃいないが、お前がオレの魔力を悪用して誰かを苦しめようとしてるわけじゃないってのはたぶん、信じてる」


「…………なんで? アタシ、魔族だし、六将軍だし、それに、普通に人間のことを殺したことだって――――――――」


「でも、勇者たちは殺さなかっただろ」


 そう。当初からの疑問はそこなのだ。


 こいつは魔力リソースを求めていた。

 それを探す目的で勇者に紛れていたというのは理解できる。

 だが、そこに目当てのものが無かった時点で、勇者たちを生かしておく理由などない。

 それに、魔力のために自分のすべてを投げうつなど、相当の強い意思が無ければできない。

 そして、あの契約でオレに本当の目的を明かされる可能性は十分にあった。というか、むしろまともに推論を働かせるのであれば、オレに彼女の魂胆を詳らかにされていたはずだ。


 だが、それでもこいつはあの条件を呑んだ。


 つまり、その動機は相手に知られても問題がないと踏んだから。


 なら、何故言わないのかは分からないが、言いたくないのだとしたら、無理に聞き出すのも憚られる。

 そもそも、人間に危害を加えられない制約があるのだ。魔力を悪用しようとしても、できることなど限られている。

 そんな、いくつもの理論武装で現状を肯定する。


 危険なのは分かっている。もちろん、分かっていた。

 だが、最後はもう勘だ。


「……お前は、オレの敵にはならないだろうなと思ったんだよ。何となくな」


「っ…………だーりんのそういうところ、大すきだけど、大っっっっきらい」


 彼女の口から発された、拒絶の言葉。

 一瞬だけその意味が掴めずに呆けてしまう。

 だが、数回の瞬きの後にオレは思わず吹き出す。


「ははっ。あははは!! そうか、嫌いか! そりゃ、良かった!」


「よくないってば!! だーりんと二人で愛の巣を作らなくちゃいけないんだから!!」


「アホ言うな。作るわけねぇだろ、そんなもん」


 ひとしきり笑うオレを見て、アルティが「がるる」と悔しそうに唸る。

 何ともまあ普段とは立場が逆転していて気持ちがいい。


「あ、そうだ。これ」


 アルティはたった今思いついたように手を拳で打つと、そのままオレに何かをおしつけた。

 閉じられた彼女の拳の下に、片手で受け皿を作るとそこにからんと乾いた音を立てて何かが落ちてきた。


「こりゃ、何だ……? ……ただの首飾り……ってわけでもねぇか?」


「ふふーん。それは魔法の角笛です」


 自慢げにアルティが無い胸を反らす。


「…………角笛ねぇ。魔獣でも呼び寄せるってか?」


 この世界で笛というものにあまりいい印象がない。

 要塞都市ラグランジェで、ギルタールが魔物を呼び寄せる角笛を使い、街を危機に陥れていた。


 まさかこの笛が同じものだとは思わないが――――


「困ったら吹いてみて。魔獣がいっぱい集まってくるから」


「やっぱりその類のものじゃねぇか!?」


 答え合わせに思わず叫び声を上げた。


「あはは! 大丈夫。アタシの友達が集まってくるだけだから、だーりんの思ってるようなことにはならないってば」


 そうは言われても、オレの中には街に押し寄せてきた魔物の大群をどうしようかと頭を悩ませた記憶ばかりが色濃く刻まれている。

 急に掌の中のそれが破滅を呼ぶ匣に見えてしまい、思わず身体から遠ざける。


「もー!! そんなにジャケンにしなくてもいいじゃんかー!」


「いや、そうは言っても危険物だろ。機内持ち込み厳禁のデンジャラスアイテムですよ、これ」


「何言ってるか分からないってば……」


 素で困惑しているアルティを見て、何とかかんとかため息ひとつで冷静さを取り戻す。


「……ひとまず受け取っておく。使うかどうかは別として」


「うん」


 やけに殊勝なアルティの態度に少しばかり戸惑う。

 だが、気分屋のこいつのことだ。特に何も考えてはおらず、この笛だって思い付きの産物だろう。オレに危険物を押し付けて反応を見て楽しんでいるまである。


「ま。ペットがセミの死骸をプレゼントとして持ってきたみたいな感じだろ」


「失礼?」


「オレほど礼儀に満ち溢れた人間もそういないぜ?」


 アルティは「べー」と舌を出す。

 だからオレも精いっぱいに口の端を歪めて笑う。


「ま、お前の魂胆、いつかその気になったら、教えてくれよな。六将軍アルティ・フレン」


「……絶対に教えなーい。勇者十一優斗っ」


 そう言うと、アルティはパッと腕から離れる。


「にひ。久々にアタシと話せて嬉しかったんじゃない?」


「抜かせ。あと二日とちょっと。バレるなよ」


「誰に言ってんのさ!」


 そう言うと、アルティは軽快な足取りで跳ねるように去っていく。

 その後ろ姿を見送って、「ったく」とこぼす口元は、思いのほかに緩んでいたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アルティと別れてからオレは人ごみを避けるようにして図書館に来ていた。

 もう図書館に通いづめるのも習慣になっている。

 今日は何を読もうかと適当にあたりをぶらついていると、思わぬ人影を見つけて「あ」と声を出してしまう。

 それは向こうも同じだったらしく、オレを見つけると一瞬で体を石のように固くして動かなくなってしまった。


 白妙恵。


 あいつもどうやら図書館によく通っているらしく、それなりの頻度で遭遇する。

 向こうはどうにもオレを避けているようで、オレを見かけると数秒固まったのちに逃走を図ろうする。

 だが、今日はどうにも逃げ出そうとしない。

 しきりにオレの顔とオレの真横の書架の間で視線を往来させている。


「あー……このあたりの本に用事か?」


 オレの問いに白妙は一瞬自分が聞かれていると思っていないのか、きょろきょろとあたりを見回し、直後に首を激しく縦に振った。


「まあ、オレはこの辺に用はねぇからもう行くわ。邪魔して悪かったな」


 別に話すような間柄でもないので、早々に立ち去ろうとする。

 そのとき、


「あるぇー!? めぐみんじゃないっすかー! もー、探してたっすよー!」


 オレでも、ましてや目の前で蒼白になっている白妙でも無い声が響く。

 ハスキーな声。だが、この図書館ではよく響くその快活な声の主はすぐにオレの後ろから現れた。


「うわー、どうしたんすかこの状況。勇者一の問題児くんとご一緒とか、めぐみん、今日は厄日っすね?」


 そんな失礼極まりないことをけらけらと宣う一人の少女。


 黒崎美咲。


 彼女もまたオレや白妙と同じくこの世界に飛ばされてきた高校生であり、筆頭勇者魔法部隊の一人だ。ハスキーな声と軽快な語り口は、同じ部屋にいるだけでいやでも耳に入ってくる。

 とりたててオレから悪い印象は無いが、1つ特徴を上げるとするならその服装だろうか。元からなのかは知らないが、何やらゴスロリなファッションに身を固めているのをよく見かける。さして会話をした覚えのある相手でもないが、残念ながら向こうからのオレに対する印象は良くは無さそうだ。


「んで、この状況なんすか? もしかして、めぐみん、問題児くんにイジメられてたっすか?」


「オレがそんなことするわけねぇだろ。むしろお前らにイジメられていたまである」


「えー、でも凛ちゃん泣かせたとか、香川君に寄生してたとか、色々悪名高いじゃないっすかー」


 そんなことを平然と言われ、少しばかり心がざらつくが、ため息と同時にそれらを全て押し流すと事務的な応答を続けた。


「そうか。話は終わりだな? じゃ」


 そのまま返事も待たずに立ち去ろうとすると、がしっと肩を捕まれる。


「…………何だよ」


「いやあ、一回問題児くんと話してみたかったんすよね」


 嫌な目だ。かつてオレが勇者の中にいた頃に幾度となく感じた視線。それを受けてオレは思わず舌打ちを漏らした。


「そうか、オレに話をする意思は無い。悪いが他を当たってくれ」


「えー、なんでっすかー! 問題児くんのせいで、うちら結構迷惑してるんで、少しぐらい罪滅ぼししようとか思わないんすかー!?」


 その言葉にオレは眉根を潜める。


「オレが、お前らに? 迷惑をかけた? 何の冗談だ?」


 オレが立ち去らずにその場に留まったのを見届けて、黒崎はにたぁと嫌らしく口の端を歪めた。


「迷惑も迷惑、大迷惑っすよ。だって、問題児くんがいれば、うちらは筆頭勇者として前線に出なくても良かったんすよ!! あんなすごい魔法使えるんすもん」


 …………は?


 黒崎が言う迷惑。それはオレが勇者業をサボっていることを指して言っている。こいつらは魔法部隊。オレの魔法があればこいつらの魔法は不要となり戦いに出る必要もなかった、とそう主張している。


「…………ふざけるな。使えないとレッテルを貼ったのはお前らだろ。オレのことを下らないと切り捨てたのは、他でもない、お前らだ」


 腹の底にどす黒い感情が渦巻くのを必死にこらえながら、オレは何とか言葉を紡いだ。


「あは。怖い顔してるっすね。いいっすねー、問題児くんがそういう顔してると、こっちも多少は胸が空く思いっすよ」


 そんなことを言いながらカラカラと笑う黒崎を見て気づく。


 こいつは一切笑っていない。

 先ほどから形だけ口の形を歪めているが、その実目の奥はどこまでも冷たく、灰色に淀んでいる。

 白妙の浮かべる歪な笑みともまた違う形で、彼女の笑顔も十分になりそこないだ。


「勇者もサボっている奴が、こんなときだけ大魔導士様として祀り上げられて……美味しいところだけ持っていって、愉しそうっすね」


「国が勝手に決めたことだろ。お前が代わってくれるんなら、喜んで代わるが」


「うちはいやっすよ。めんどいんで」


 どこまでも身勝手な黒崎の言葉にいら立ちが募っていく。

 さっさとここを離れたいのだが、先ほどから黒崎に掴まれていて動けない。

 強引に振りほどいてもいいが、どうしたもんか。


「散々サボっておいて、こんなときだけ英雄気取り。問題児くんに、そんな権利があるんすかね?」


「だから散々言ってるだろ。オレは――――」


「では、偉大なるサボり魔の問題児くんに、ここで問題です。てーてん!」


 黒崎はおかしそうに続けた。

 心底つまらなさそうに笑う黒崎は、そのまま極限まで口角を上げると、吐き捨てるように言った。


「君がいない間に、勇者が何人死んだでしょーか?」


 ドクン、と心臓が嫌な音を上げた。


 先ほどまで騒がしかった場を完全なる静寂が満たし、どこまでもゆっくりと流れていく時間が思考を鈍らせていく。


 オレが、いない間に、勇者が何人――――


 ……その言葉に、何かを咎められたような気がしてオレは思わず目を逸らした。


 脳裏に過るのは、憤慨する龍ヶ城の顔。オレの言葉に怒りを顕わにした一人の青年の声。


 分かっている。


 分かっていた。


 考えないようにしていた。


 勇者の数が、少なかった理由を。


 ガリバルディとの決戦時、どう考えても勇者の数が少なかった。

 総力戦と呼ぶにはオレの知っている頭数と合わなかったのだ。


 だから、数えないようにしていた。

 正確な数を数えれば、見えない亡霊に囚われるような気がして。


「頭のいい問題児くんでも分からないっすかね? ヒント、出しましょうか?」


「やめろ」


 オレには関係の無い話だ。


「最初に呼び出された勇者の人数は48人」


 オレは勇者をやめた。

 まったく無関係の人間たちだ。


「……やめろ」


 たかが数人。勇者が死んでも戦力に大差はない。

 そう、合理的に考えろ。


「今生きている勇者が、34人」


 どれだけ拒んでも、脳内を数字が駆け巡っていく。

 難しい演算だったらどれだけよかっただろうか。

 単純な引き算は、容易に解となってオレの前に立ち現れた。


「正解は、6人」


 脳内に浮かんだ一桁の数字。

 それと違わぬ正解を突き付けられて、オレは何を言えばいいのか分からなかった。


 春樹、柏木、入江、東条。それにガリバルディ戦で死亡した佐野、久川、三木、上野。それらを合わせれば計8人。

 48人からその数を引き、さらに現時点で生きている勇者の数を引けば、自ずとオレがいない間に死んだ勇者の数が出てくる。


「あーあ、問題児くんがいれば死ななかったかもしれないのになあ」


「く、くろ、黒崎さん……!」


 白妙のささやかな抗弁も、もう耳には入って来なかった。


「オレが…………オレが、悪いって、そう、言いたいのか」


 か細い声は自分でも驚くほど弱弱しい。

 分かっている。脳みそでは、理性では、思考では理解している。

 そんなものは責任転嫁だ。詭弁だ。論外だ。

 だが、黒崎の目。龍ヶ城にも向けられたその目が、オレの胸に刺さった楔をどうしようもなく震わせる。


 黒崎はもう笑っていなかった。


「さあ、どうっすかね。もしかしたら、死んでたかもしれないし、死んでなかったかもしれないっす。…………その場にいなかった、問題児くんに知る由は無いと思うっすけど」


 オレは、黒崎の言葉に何も返せなかった。

 そんなものはお前らの都合だ。お前らが解決しろ。

 そんな言葉が喉元まで出かかるも、どうしてもオレの口はその言葉を吐き出してはくれない。口の中に綿でも詰められたかのように、何も言えずにただ呻くように沈黙を繰り返す。


「おっとー! わーすれてたっす! そういや、めぐみんを呼びに来たんだったっす!」


「え、わ、わた、し?」


「そうっすよー! なんか、あみねえが呼んでるっす。早くいかないとまたボコられるっすよ?」


「っ! いく、いま、いくから……すぐ、行かなきゃ……!!」


 そういうと白妙は慌てて本を本棚に戻すと、すたすたと図書館内を駆けていった。

 黒崎はその様を退屈そうに見送ると、オレの耳元で小さく囁いた。


「…………ボクは問題児くんが帰ってきてくれるのは、大歓迎っすよ」


 そう言い残すと、黒崎は「じゃ!」とだけ言って軽い足取りで去っていった。

 取り残されたオレは思わず本棚に寄り掛かる。


「くそ、くそっ…………」


 何からも逃げ切れず、何も為せていない自分自身の居場所を、霧の中で見失っている。


 これでいいはずだ。


 これで、間違っていないはずだったんだ。


 幾度となく自問した。


 幾度となく自答した。


 何度も何度も考えて。何度も何度も打ちのめされて。


 それでも出した答えに、皆が不正解を突き付ける。


 どうしてだ。


 絞り出した最後の問いは、声にならずに図書館の静寂にかき消されていった。


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