125、蝶よ花よ、大魔導士よ
「本日は私たちのためにこのような会を開いていただき、ありがとうございます」
そう言うとオレは壇上で軽く一礼をした。
この世界においても、頭を下げることが礼の意になることは確認済みだ。
目の前には人、人、人。知っている顔もあれば知らない顔もある。密集しているとまではいかないがそこそこの人間がこの広間に集まっている。
晩餐会の冒頭。オレは熊野に頼まれた任務を達成するべく、大勢の人の前で大して感情も篭っていないスピーチをしていた。
「此度の遠征は、魔法都市の皆様方の協力無くしては為しえませんでした。このような機会を頂いたことに改めて深く御礼申し上げます」
今度は魔法都市の面々に少し身体を向けてもう一度小さく礼をする。
「私自身、魔法やそれにまつわる技術には深い関心があり、魔法に関して世界の最先端であるシャーラントにお招きいただけたことは僥倖です。もちろん、私以外の皆も強い探究心をもち、今回の遠征に自ら志願しました」
いや、実際は知らんけど。
「皆様と交友を育みながら、時には切磋琢磨しつつ、お互いに高めあっていけることを心より切望しております」
ちら、と脇に控えるウェイターに目配せをすると、トレイをオレの元に運んでくる。乗っているのはグラスに注がれた果実酒。
オレはそれを手に取ると他の人間が全員グラスを手に持ったのを見て息を吸った。
「シャーラントとリスチェリカの交友、そしてこれからの魔導の発展に…………乾杯」
乾杯の声とともにオレはグラスを軽く掲げた。
あちこちでグラスを軽く打ち合わす音や、掲げる人々が見受けられる。
こちらへの注目が徐々に減っていき、各々自然とグループになって雑談を始める。
ほっとため息をつきながら、オレは壇上から降りた。
周囲の反応を見る限り、スピーチ自体に特に変なところは無かったのだろう。散々リアと練り直した甲斐はあったようだ。
「素晴らしいスピーチでした」
ぱちぱちぱち、とややまばらな拍手をしながら近づいてくる人影。
それは学園長フォルトナ・アトラウスに他ならない。
「……光栄です。では、オレの仕事は終わりましたので、これで」
「そう邪険になさらないでください」
にこり、とたおやかに笑みを浮かべると距離を詰めてくる。
彼女の歩幅に合わせてオレが後ずさると、どん、と背中に何かがぶつかる感触を得た。
「……フォンズ、お前いつからそこに」
オレのすぐ背後には正装姿のフォンズがいた。
「ずっといたのだが、気付かなかったかね?」
「生憎な」
「まあ、だーりんもそれだけ話すのに必死だったってことじゃない?」
隣にはアルティもいた。
なんとまあ凸凹なコンビだが、これで意外と目立たない。見れば二人もスーツとドレス姿で、場にそこそこによく溶け込んでいる。もちろん二人とも変装をして皮膚の色やらを誤魔化してはいるのだが。
というか、よくもまあ堂々とパーティに出席しようと思ったな。仮にも魔族、バレればちょっとした騒動ではすまないのだが。堂々としている方が逆にバレにくいのかもしれない。
「……あら、お二人は確か、この街にいらしたときもご一緒に……」
フォルトナの目が何かを品定めするように二人の間を行き来する。顎の下に人差し指を当て、少しばかり考えていたが、諦めたのかそのまま再び笑顔に戻った。
「トイチ様は商人の方々とも仲がよろしいんですね?」
「…………まあな。勇者って役職上、それなりに接点はある」
「なるほど、なるほど」
オレの言葉のどこにそこまで納得したのかは分からないが、フォルトナはしきりに頷いている。
……どこか心を見透かされているようで気味が悪い。
「まずはお詫びを。先ほどは、ご客人であるトイチ様にとんだご無礼を。不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
そういうとフォルトナは腰を深く折り、頭を下げる。
先ほど、というのはオレとの初対面の際に魅了の闇魔法を使ったことだろう。
「……頭を下げる必要は無い。たとえ謝罪されようがされまいがオレのあんたに対する態度は変わらない」
一度失われてしまった信頼を獲得するのは難しい。
その極めて当然の事実は、彼女であれば理解していて然るべきだろう。
「……一つだけ弁明を」
「話すのを止めはしないが」
バツの悪そうな顔のまま続けるフォルトナに、オレはすげない態度を崩さない。オレの中の直感が告げている。こいつはまともじゃない。
そう、オレが最初に龍ヶ城に感じたときと同じ、『人間』としての違和感を覚える。
「……トイチ様は、この歓迎会に備え、お召し物や髪型を整えられていますね?」
脈絡の無い質問にオレは一瞬だけ目を見開くも、すぐに答える。
「ああ、そりゃあな」
答えて、自分の髪を触る。
らしくなくワックスの類で髪を撫でつけており、服装もシャーラントから貸し出された正装で身を固めている。外行きの服装に違いないだろう。
「ええ、そうでしょう。他の皆もそうです」
そういうと彼女はあたりを見渡す。
「大事な人と会うとき、大事な会に出席するとき、大事な挑戦をするとき……我々は、とっておきの装束を身にまとい、丁寧に髪を撫で付け、香り高い香水を身に纏います。女性であれば、化粧を含めさらに入念に準備してその場に臨むでしょう」
話が読めず怪訝な表情を浮かべていると、フォルトナ・アトラウスは困ったように眉根を下げた。
「それと何が違うのでしょうか?」
「…………は?」
ついにオレの困惑は吐息のような声となって口から漏れ出た。
「きれいな装束に身を纏うことと、お気に入りの香水を身に纏うことと、丁寧に化粧をして自らを繕うことと、――――少しばかり魔術の力を借りることの、何が」
その言葉を聞いてようやく理解する。
いや、それを理解と呼ぶのはおこがましい。きっと、オレには理解できない感情だ。思想だ。情念だ。
だがそれでは何も進まない。
辛うじて情報のピースをつなぎ合わせ、彼女の主張を言語化する。
「……つまりは、魅了の魔法さえも、少しでも自分をよく見せようという営みの一つに過ぎないって、言いたいのか?」
「ご明察です。やはりトイチ様は理解が早いお方ですね。お話していてとても愉しいです」
彼女は世辞を言ったように気負う様子も無く、ただ純粋にそうのたまった。
彼女の思想に怖気が走る。
この女は、他人の心を土足で踏み荒らすことをなんとも思っていない。
もちろん、彼女がかけていた魅了の魔法は大きな効果も持たない些細なものかもしれない。だが、だとしても、それでも。他人の心に干渉するような魔法を、ただの「おしゃれ」の一言で済ませるのは、あまりにおぞましい。
「…………」
オレの無言をどう受け取ったのか、彼女はどこまでも透き通った恐ろしい笑顔を浮かべた。
恐ろしいと感じたのはオレの主観だ。
彼女の笑顔には一切の含みが無かった。
だから、恐ろしかった。
「……ですが、もしトイチ様がそのことでお気分を害されたのであれば、謝罪させてください。決して害意は無かったのです」
今となっては害意があった方が良かった。
勇者であるオレに取り入って自分の立場を有利なものにしようというような理屈の方がまだ理解できた。
だが、彼女はそうじゃない。
女性がきれいな装飾品を身に纏うように。
男性が髪をワックスで固めるように。
彼女は魔法で人の精神に干渉する。
「オレには、理解できない」
「…………残念です」
フォルトナは心底残念そうにため息を漏らすと、「では、他の勇者様方にもご挨拶をしたいのでまた」と一礼して去っていった。
「ふむ。随分と、面妖な少女だったな」
「なんかアイリーン姉さんにちょっと似てたかも! あはは」
「……あんまり間柄を縮めたいとは思えないな」
三者三様の感想を漏らす。
あれが、この魔法都市の学園長。その容姿端麗な立ち居姿からは想像できない狂気をはらんでいる。否、彼女にとってはあれが正気なのだろう。
「君も少しはこの会を楽しんではどうかね?」
そういうとフォンズがちらりとオレの背後に目をやった。
振り返れば、オレに話しかけたくて機をうかがっているのだろう魔法都市の学生たちが列をなしていた。
オレはその様子にげんなりとしながら、ため息を漏らす。
「勇者サマは大変だね」
アルティはけらけらと笑うとすっとオレの傍から離れていった。フォンズも肩を竦めるとその後を付いていく。
「あの、トイチ様! 是非、あなた様の魔導のお話を伺いたく!」
「あー、ずるい! 私が先よ!」
「まあまあ、待ちたまえ君たち。僕が代表して……」
「すぐそうやって仕切りたがるのはお前の悪い癖だな」
などなどなど、オレの前でてんやわんやに騒ぐ魔法都市の学生たち。
「そんな大層な話は出来ませんが……」
オレが顔に営業苦笑を浮かべていると、その中でも極めて長身な一人の青年が一歩前に出た。
「いえいえ、ご謙遜を」
赤毛を後ろに撫で付けた好青年。
間違いなくイケメンだが、この世界の人間よろしくやや顔の彫りは深い。高い鼻とやや角ばった顎のラインは精悍な印象を与える。
「俺は、テオドール・シンクレアと言います。どうぞテオとお呼びください。シャーラントの六年生です」
「オレは十一優斗です。っつっても、今更ですかね」
そういうとお互いに少しだけ笑い、握手を交わす。
オレよりも一回りほど大きい手だ。身体を鍛えているのか、ややスーツが窮屈そうにも見える。
六年生、とは言ったが年齢はどう考えても十代後半から二十代前半。小学六年生というわけではないのは間違いない。
「あー、ずるいぞテオ!」
「抜け駆けはなしってみんなで話しあったでしょ!」
「はは、すまないな。俺が一番乗りをもらってしまった」
周りの学生たちにやいのやいのと言われているが、本気で責めているわけでもないようだ。どちらかといえばじゃれているようにも見える。それだけで彼らの関係の良好さが窺えた。
「っと、失礼。トイチ様はかの魔族の将を撃退された魔導士だと聞き及んでおります。是非、そのときのお話などお聞かせ頂けませんでしょうか?」
「……トイチ様ってのはむずがゆいからやめてください。そもそも、オレがどういう人間だと魔法都市側に伝えられているのか、オレは把握してないんですが」
やたらとオレを褒めそやすような言葉が多いが、リスチェリカは一体魔法都市にオレをどのように宣伝したのやら。
「トイチ様……失敬。トイチさんは、リアヴェルト王国が異界より召喚した勇者であると。そして、その類まれなる魔法の才をいかんなく発揮し、対魔族戦において国を勝利に導いたと伺っております」
……何というか、嘘は言ってないんだが物は言い様って感じだな。
オレは結構ギリギリの戦いをしていて、実際にガリバルディのトドメを刺したのは龍ヶ城とリアなのだが、どうにもオレが大活躍をしたことになっている。
まあ、魔法都市との交流においてオレという駒の効果を最大限まで高めたいのであれば、その宣伝方法は理に適ってはいるのだが。
「…………そこまで大したことはしていないけどな」
「ご謙遜を。ですが、もしかしたらその謙虚な姿勢こそが、魔導を極める上で重要なのかもしれませんね」
何だこれ気持ち悪い。何を言っても褒められる。気味が悪い。
褒められ慣れていないからか、それとも事実とは微妙に違うことで褒められているかは知らないが、感覚のズレとも呼ぶべき不快感を覚える。
そもそも、こいつらは一度たりともオレの魔法を見ていないだろう。それで何を褒めるって言うんだ。
「我々も魔導を探求する者として、見習わなければなりません」
「……魔導を探求するって言いますけど、具体的に魔法都市って何をやってるんですか? ある程度は王都の文献で調べたんですが、あまり情報が無かったもので」
的外れな称賛に基づく不快さを紛らわすために、質問を返す。
王立図書館で調べたはいいものの、あまりに情報が乏しく魔法都市に関する情報はほぼ得られていない。
「そうかもしれませんね。シャーラントは秘匿すべき部分も多いですから」
そういうとテオドールはどこから話し始めるべきかと思案顔になる。
すぐに脳内で順序立てが終わったのか、とつとつと話し始めた。
「まず、ここ魔法都市シャーラントは学園都市とも呼ばれています」
オレの知っている学園都市と同じだろうか。
脳内に超電磁砲だか禁書目録だかを思い浮かべる。
「都市の中心に学園アトラスがあり、それを囲むように街が広がっています。この街の行政や司法などの政治的な中枢も、全てアトラスが担っています」
なるほど。文字通り学園の学園による学園のための都市なわけか。
「基本的にこの街で暮らす人々は、皆、学園アトラスの学生となります」
「……大人もいるようですが」
「ええ、大人も学生なのです。アトラスにおいては年齢、出自、性別、種族などは関係なく誰でも学生になり得ます。逆に言えば、学生で無い人間はアトラスにおいて、かなり権利が制限されると思ってください」
どこまでも学園主体。市民権を得られるのは学生のみか。
「もちろん、皆様のような客人は特別待遇として扱われます。流石にこの街の永住権や参政権などは持ち得ませんが、衣食住や自由などは制限されません」
それを聞いて少しだけ安心する。
しかし少しだけ気になる単語を聞いた。それは普段であれば何の違和感も無いが、この世界においては大きな違和感を持った響きだ。
「参政権? 学生に政治的な意思決定に携わる機会があるのか?」
「ええ。4年に一度、この都市の最高意思決定機関である評議会の選挙があります。学生の身分であれば、その選挙に立候補、投票することが可能です」
……驚いた。
この世界は基本的には王制だ。勿論、議会などがあるところもあるが、基本的には王が任命した人間が回している。
そんな中で、完全な民主主義による議会制、しかも市民の投票によって席を決定する代議制がとられていることは驚嘆に値する。どれだけ文化的に進んでいるんだ、この都市は。
「評議会の長は議長であるとともに、学園長も兼任します」
「……それがフォルトナ・アトラウス」
「はい。彼女は前回の選挙で全体の実に半数近い票数を集めて当選しています」
「……評議会の座席数は」
「基本は全部で12席。場合によって少しばかり増減はしますが」
つまり、あいつはそれだけ投票先がありながら、全体の半数近い票数を集めたわけか。
随分とまあ人の精神掌握に長けている。
それが魔法によるものなのか、それとも彼女の自力によるものなのかはオレには判別がつかない。
「さっき、自分のことを六年生と言っていたのは?」
「ええ、シャーラントでは学生はまず初等部に入学します。入学した年を一年目として、各年2回行われる進級試験に合格することで年次が増えていき、初等部六年生で卒業試験を受けて合格すれば卒業という扱いになります。その後、高等部でさらに六年学ぶこともできますが、大半の人は初等部を卒業した段階でシャーラントを出て行きますね」
最大で初等部六年、高等部六年の十二年か。随分と気の長い話だな。
いや、進級試験が年2回あるってことは、一年のうちに年次を2回増やせるのか? 流石に無理だと思いたいが。
「そうですね、進級試験は合格してしまえば、一年間は受けられません。もちろん、落第してしまった場合には半年後の試験を受けることは可能ですが」
面白い制度だ。
かなり近代的と言っていい。それどころか、もしかしたら元いた現代日本よりも先進的なまである。
「と、そろそろトイチさんのお話もお聞きしたいのですが……」
恐縮、といった様子でテオドール・シンクレアが言葉を続けた。
軽く周囲の人間を見ると、オレがシャーラントに関して質問責めしていたためか、若干退屈そうな顔をしている。
「ああ、申し訳ない。何分、シャーラントについては分からないことばかりで、好奇心が刺激されてしまいまして」
オレの言葉にテオドールはとんでもないと手を振った。
「いえ、トイチさんのような偉大な魔導士様に、我々の学園に興味を持っていただけるのは光栄です」
話題がオレのことに移り変わる。オレとしては無視してしまいたいが、一応はチスチェリカの大使のような扱いだ。無碍に扱うわけにもいかない。
そんな内心を隠しながらも、オレは適当な営業スマイルを浮かべた。
「私が聞き及んだ限りですが、トイチさんは、その、魔法を詠唱無く行使できる……とか」
ややためらいがちに言うのは、彼自身、自分で言いながらその事実を信じ切れていないからだろう。
「まあ、勇者補正ってやつなんでしょうね」
そういいながらオレは軽く手の中に水を生成し、動かして見せた。
「おお!」とどよめきが沸く。
この力自体、神様から『恩寵』とやらによりもらったものに過ぎないので、威張り散らかすのもあれだが。
「まさか本当に……」
「信じられないですか?」
オレのやや意地悪い問いに、テオドールはハッとして慌てて首を振った。
「い、いえ、決して疑っていたわけでは……ですが、よもやここまでとは思いませんでした。感服の限りです」
「……そこまで褒められるものでもないですけどね」
自分の機嫌をとろうと必死になっている相手に対応するのは何とも疲れる。普段はむしろオレのことをぞんざいに扱うやつの方が多いが、その方が気が楽だという悲しい事実に気付いてしまった。
「無詠唱で魔法を行使できる人間が、本当に存在するなんて……伝説だと思ってた……」
聴衆の一人がそんなことを呟いているのを聞く。
「伝説?」
オレの問いに、呟きを漏らした女の子は自分が声をかけられると思っていなかったのか、あわあわと慌て始めた。
「ええ、伝説の大賢者様のお話です」
「伝説の……大賢者……」
その響きにわずかな引っ掛かりを覚える。
「かつて、世界がまだ混沌としていた時代に、人々を導き今の世界を作り上げた……と言われる賢者様のことです。何でもこの世に遍く存在する全ての魔法を生み出し、詠唱を通じて人々が魔法を扱えるようにしたのもこの賢者様だとか。魔導を極めようとする人であれば、一度は耳にする御伽噺の類ですね」
「知らなかったな……」
色々な書物は読んだつもりだったが、民族伝承の類はあまり手をつけていなかった。緊急性が低いと思ったからだ。
だが、賢者という存在には直接的にではないものの、覚えがある。
オレの効果不明スキル『賢者の加護』。
今まで、完全記憶能力だとか並列思考能力だとか、多少頭が良くなるスキルぐらいにしか思っていなかったが、今の話を聞くと、オレの無詠唱はこのスキル由来である可能性が出てきた。
もちろん、確たる物的証拠は無いが、現状スキルに『無詠唱』などというスキルが無い以上、『賢者の加護』がそれを担っている可能性は高い。まあ、『???』がある時点で、何があってもおかしくはないのだが。
などと、散々に問い詰めたり褒めそやしたりする聴衆たちとの会話をのらりくらりとかわしながら、二時間近くが過ぎただろうか。
「皆様、本日はありがとうございました。明日は、皆様にこの学園をご案内いたします。本日は旅の疲れを十分にお癒しくださいませ」
フォルトナが壇上で優雅に一礼をすると、パチパチと参加者から拍手が漏れる。その隙を見てオレは、「では、僕もこれで」と言うとスキル『隠密』を使用して場から逃れる。
明日以降もこんなテンションで歓待されるのか? だとしたら、心労が嵩みそうだ。
その光景を脳裏に描き、気だるげにため息を漏らす。そんな憂鬱なオレの心持とは裏腹に、自室までの歩みに迷いは無く、ただただ事務的に睡眠をとるため自室へと戻った。




