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101、新しい魔法


 ああ、何でオレがこんな気持ちにならなくちゃいけないんだ……!


 理不尽に理不尽なものを見てしまい、理不尽に理不尽な怒りをぶちまけた。


 理屈も論理も無い。

 ただ、苛立ちと自嘲だけが胸中を焦がす。

 自宅までどう帰ってきたか覚えていない。ただただ脳内を意味の無いノイズが占めていた。


「……随分と浮かない顔をしているようだが?」


「…………そりゃ、六将軍が攻めてくるって知って浮かれる馬鹿はいないだろ」


「君はそれぐらいの逆境は気にしないタチだろう?」


 フォンズが知ったような口でオレのことを語る。


「ま、どうしようも無いことだ。忘れるのが手っ取り早い」


「……君が、それでいいのなら、私の慮るところではないが……」


「なーに、だーりん、失恋?」


「……いや、それだけは断じて無いから安心しろ」


 魔族二人に励まされる状況に苦笑を漏らし、ようやく頭の中の黒いもやを振り払う。


「さて、と。気を取り直して、後4日でガリバルディ対策だ」


「対策って言っても、あのおっさん、弱点とか無いよ?」


「でも生物なら死ぬだろ。たとえば、コンクリに詰めて海に沈めるとか」


「こんくり? うみ?」


「海も伝わらないのか……」


 確かに、海という地形をこちらに来てから一度も見ていないし聞いてもいない。いや、海と同様の存在は確認されているようだが、それが海と呼ばれているわけではないらしい。


「水中に沈めるってことだ」


「あー……どうなんだろ、あのおっさん窒息死とかするのかな?」


「魔族は基本的に魔力さえあれば生きていけるからな……例え空気が無かったとしても、奴なら生存は可能だ」


 魔族ってのは環境適応能力が高いこって。


「そうか……」


 だが、絶望的なのに変わりは無い。こいつらから弱点情報を得られないとなると、後は本人に聞くしか無いわけで。


「なぁ、フォンズ。お前のあの風魔法『ホロウズ・エアト』で何とかならないか?」


 以前、オレに使ってくれやがった理から外れた魔法『ホロウズ・エアト』。凛の結界すら含む、あらゆる対象を分解するという埒外な魔法に殺されかけたわけだが、あれなら倒せるんじゃないか?

 そんなオレの疑問にフォンズは微妙な表情を浮かべた。


「……ふむ、直撃すれば倒せるとは思うが……」


「お、マジで!?」


「だが、あの魔法自体、君が思っているほど万能じゃないぞ? 魔力は莫迦ほど消費するし、実際の攻撃範囲もかなり狭い。初速も無いからすばやい相手には当たらない」


 つらつらと自分の魔法の弱点を語るフォンズ。これ、奴隷契約が効いてるからってより、こいつ自身、自分の魔法を説明するのが好きなのでは……


「ガリバルディ自体に当てるのがまず難しいだろう。それに、当てたところで、一発で心臓を分解できなければ、奴であればすぐに再生してしまうだろうな」


「待て、ガリバルディって再生持ちなのか?」


「ああ、言っていなかったか……そうだな。私自身よく知らないが、自己再生能力も非常に高いらしい。魔族は性質的に回復力が高い者が多いが、その中でも別格だそうだ」


「随分と、人聞きな感じだな?」


「そりゃ、あいつが大怪我するとこなんて見たことないからねー! 怪我しないなら、回復できても宝の持ち腐れってやつじゃない?」


 アルティがけらけらと笑うが、オレはさらなる絶望情報に眩暈を覚える。

 待て、待て。六将軍の全力攻撃で傷をつけられるか分からない体の硬度を持ち、数階建ての建物を投げ飛ばす埒外の膂力、加えて異常な再生能力を持つ、戦闘狂。

 何その、ぼくのかんがえたさいきょうのせいぶつ、みたいな奴。


「……生き物、なんだよな?」


「あはは! だーりん、そこ疑っちゃう!? わかる! わかるけど、残念! あいつは正真正銘、生物! アタシが保障しましょう!!」


「………………」


 生物なのか……いや、生物なら殺せるはずだ。つまり、生物であることを利用した倒し方を考えなければならない……


「それに、私の『ホロウズ・エアト』のことを言うのであれば、君のあの魔法……ほら、雷の剣を使っていただろう?」


「ああ、『天叢雲剣(アメノムラクモ)』のことか?」


「それだそれ。あの魔法であれば、ガリバルディに対して十分な威力を持ちうると思うが……」


「あー……そうだよな……あの魔法、ぽんぽん使えればいいんだけどな……」


「?」


 フォンズが首をかしげる。


「いや、な。あの魔法、まだオレだけの力じゃ使えないんだよな」


「誰かの力が要ると?」


「違う違う。ほら、あのときオレ、わざわざ湿度上げたりして雷雲発生させただろ?」


「ああ、そうだな」


「あの魔法は、雷雲から雷を引っ張り出してきて自分のものとして使ってるだけなんだよ」


「なっ……そんなことができるのか!?」


「いや、お前だってそこらへんにある空気使って風魔法使ってるだろ」


 そう、この魔法をオレはまだ自分の魔力だけで発現できない。純粋な瞬間火力不足だ。

 もっと小さなもの、そして威力の低いものであれば真似事はできるが、だとしても所詮は贋作(レプリカ)。本物の威力そして法外な効力を得るには至らない。

 フローラ大森林という気候と地形だからこそ実現した魔法だ。現に、フォンズ戦の一回を除いて、これまで一度もあの魔法を成功させたことはない。

 特に、リスチェリカ周辺は開けた草原が広がっている。お世辞にも湿潤な気候とは言い辛く、前回と同じような環境を構築することは難しいだろう。


「んー……攻撃と防御どっちを上げるか……」


 現状、四日間でものに出来そうな効果のある攻撃魔法は思いつかない。『青斬《蒼穿槍(ヴァッセント)》』や『嵐玉』を超える火力を持つ魔法はオレの手持ちには無い。無論、『罪人シリーズ』である、『贖罪の緋槍(カサルティリオ)』やらを使えば話は別だが、そのためには誰かの死が必要になるので論外。


 なら、攻撃力を上げるより防御面を上げたほうがいいはずだ。現在のオレでは、敵の攻撃を受ければ即死、よくて一発退場だ。多少なりとも壁を作れるが、それだけでは俊敏な動きの敵には適わないし、強度も足りない。


 そこまで考えて、先延ばしにしてきた魔法を習得することを決意する。

 オレが習得すべき魔法は二つ。それらは、オレの弱点を補うための魔法だ。相手に弱点が無いのであれば、こちらも弱点を無くして挑むしかない。


 名前は決めてある。


「よし、アルティ、フォンズ。ちょっと協力してもらうぞ」


「……構わないが、何に?」


「オレの魔法の訓練」


「あは! 面白そう!!」


「アルティ。悪いが、ガリバルディ撃退まで魔力提供は延期だ」


「えー!」


「オレが死んだら元も子も無いだろ?」


「それもそっか! 死んじゃったら意味無いもんね!」


 あっけらかんに言ってみせる。彼女の中でオレの魔力蔵としての価値はやはり高いようだ。


「魔法の構想は出来てる。後は実用に漕ぎ着けるだけだ」


「ほう……どんな魔法だ?」


 興味深深なフォンズににやりと口の端をゆがめる。

 オレの説明を聞いたフォンズが面白そうに笑う。


「なるほどな、発想は面白い」


「魔力の直接操作自体はもうある程度できる。だから、後は具体的な実装を何とかするだけだ」


「良いだろう、協力しよう」


「即答かよ!?」


 フォンズがやや食い気味で承諾をする。


「いいのか、オレはお前の仲間である六将軍と戦うんだぞ?」


「奴とは肩書きが同じ、というだけで別に仲間と思っているわけではない。悪い奴ではないが、それよりも君の魔法に興味がある」


 早口で捲くし立てるフォンズに若干引きながらも、その申し出を有り難く思う。

 元からこいつらには協力させるつもりだったのだ。そうでなければ、今のようにわざわざオレの魔法のタネをこいつらに説明したりはしない。


「じゃあ、アタシも協力する! だーりんには死なないで欲しいしね?」


「……そうか。じゃあ、よろしく頼む」


 強力な助っ人を二人も確保し、オレは四日後の襲来に向けて鍛錬に励む。

 ただ、喉の奥に引っかかった何かを忘れるようにして。


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