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先生、私マメになりました!  作者: さくらみち
先生、私豆になりました!
6/11

相沢さんのお話です

「先生、私悩んでたんです。実は遅刻の理由も提出物出せなかったのも理由があったんです」


 相沢が、語り出した。

 先ほどまで笑顔で追いかけてきた怖い相沢と違う。深刻な顔つきに変わっている。



 まさかの事態だ。



 真面目な顔で、深刻な顔で、何か訳ありな顔つきで俺をまっすぐにみつめている。


 俺は動揺した。なぜなら、こんな相沢をみたことはなかったからだ。


 なにかあったのだろうか。


 もしやいつも遅刻をしたりしていたのは、家庭の事情が理由でだったりするのだろうか。


 てっきり相沢のことだから、夜に漫画読みすぎて眠れず遅刻したとかそんな理由だと思っていたのだが。そうじゃなかったのか。


 予想外だ。


 そうだとしたならば、教師として気づかなかった自分がとても情けない。もし、家庭の事情で頻繁に遅刻してそれでも笑っていたのなら、俺は彼女に対する認識を改めなければならない。



 彼女はまっすぐに俺をみていた目線を外し、夕日が照らしている窓の方へ目線を移す。



 そして相沢は語り出した。

 豆になれる前の話を。





***


「疲れたぁ……」


 私の名前は相沢香奈です。

 最近とても疲れています。



 ホームルームが終わり、周りはみんな友人と楽しそうに話してるけど、ざわざわとした教室内で私は机に顔を伏せ、一人ため息をついています。




 原因は高口先生。

 担任の高口先生にまた呼び出されたんですよ。確かに自分でも遅刻は多いと思うし、提出物忘れ多いと思います。


 けど先生はマメになれって言い過ぎなんです。


 今日も出会っては同じセリフばっかり。復唱出来ますよ〜。


「お前はなんでマメにやらないんだ。将来働いた時に困るのはお前なんだぞ」


 私はぼそっと呟いたあと、私はため息をついて机に伏せました。


「香奈? どうしたー?」

 友人の一人が心配そうに駆け寄ってくれました。





 私は気づきませんでした。



 もうほんと疲れてました。





 マメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれ…





 私は心の中で先生の言葉を繰り返していました。いや、頭の中でフレーズが勝手に回ってきたのです。



 マメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれマメになれ…





 駆け寄った友人の言葉は私には届きませんでした。私は曖昧に友人に返事をし続けていました。


 そしていつの間にか気づけば下校時刻になり、その間もぐるぐる回りました。


 ふと私は思いました。




 マメになれってなんだろうな。なにを示してるんだろう。なにを言ってるんだろう。


 次第にわからなくなってきました。



 あれに近いです。

 漢字を何度もみつめていると、これでよかったのかなと思うアレに。




 私はわからなくなりました。ほんとーにわからなくなったのです。




(マメってなんだ? まめ? 豆? 豆か! 先生は私にまめになれと言ってるのか!)




 高口先生は私が好きな先生です。

 先生として好きという意味でない方の好きです。

 みんなはフツーフツー言ってどこがいいのと賛同してくれませんが、私は大好きな先生です。


 確かに口うるさいけど、優しいです。だってどの先生よりも親身に話を聞いてくれます。うるさいけど、優しい先生に私は心を惹かれたのです。



 一年の冬、私は先生と少しでも話したかったので先生の科目では提出物忘れや遅刻をわざとするようになりました。



 二年、まさかの担任!

 私はその姿勢を崩しませんでした。

 怒られても屈しませんでした。



 しかし、実は私は真面目なのです。だからこそ、物凄く疲れるのです。

 やめればいいんですが、なにを話しかければいいのかわからなくて、その姿勢を貫いていました。




 そうして今の現状になっているわけです。




 マメになれマメになれマメになれ



(実際豆になったらどうなんだろな)



 まめになれ、まめになれ、まめになれ



(先生が私に豆になれっていってるのかな。)



 豆になれ、豆になれ、豆になれ



(豆になったら好きになってくれるかな? でもどうやったらなれるかな……)


 私は必死にどうやったらなれるのか頭を悩ましました。しかし答えは出ませんでした。



 するとどこからか声が聞こえてきました。




「僕がその願い叶えてあげましょうか」




 それは少年の声でした。







☆☆

 夕日が照らす教室で相沢は語っている。

 豆になれる前の話を。


 続きが気になるところだったが、俺は遮った。


「ちょっとまて。質問いいか」


 俺は黙って今まで相沢の語りを聞いていたが、もう耐えられない。一言だけ言わせれてくれ。



「はい!なんでしょう?」

 相沢は笑顔で俺の方へ振り返った。夕日と笑顔が眩しい。


「……家庭の事情は?」


 俺はとりあえず先ほどの深刻な表情から想像していたことを口に出してみた。


 相沢は笑った。


「しいていうなら、恋の病ですか…ね☆」


 熱視線を俺に送っている。



 俺は黙った。

 恋の病とかそれ以上にまず豆になれたってのが気になるところだ。

 いやむしろ豆になれたってところがまずおかしい。


 とりあえず、俺は突っ込みはここだけにして、相沢の話を静かに聞くことにした。














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