そりゃもちろん逃げたいに決まってるだろ!!
俺高口賢吾は再度、覚悟を決めることにした。
姿勢を正し、深呼吸をする。
もう逃げない!
いや、逃げれない!
俺は勢いよく、振り向いた!
振り向くと、やはりそこには相沢がいた。
まぁ、いるよな。
ニコニコ笑顔で俺を見ている。
できれば、そこにいないでほしかった。
今は相沢の笑顔が怖過ぎて堪らない。その笑顔の裏に何が隠されているのだろうか。マメになった彼女だ。いや豆になった彼女だ。なにが出てくるのか、なにをするのかまったくもって想像できない。俺は得体の知れない恐怖を感じていた。
しかし、恐怖を感じつつも、俺は彼女から目をそらすことはできなかった。なぜだろう。先ほどまで彼女から逃げてばかりだったのだが。
「先生、少し話しましょうよ」
俺に体を近づけ、上目遣いになりながら弾んだ声で彼女は言った。
***
2年B組、俺の受け持つクラスに俺は相沢とともにいた。放課後で割と時間が経ってたからだろうか。俺たち以外誰もいない。カーテンが開かれている窓から夕日がのぞいている。
なぜクラスに移動したかというと、職員室は俺が居づらいし、かといって進路相談室は戻るのも時間がかかるし、それじゃあってことになったからだ。
クラスに着くまでだいぶ慎重に相沢と距離をとって歩いていた。なにが起きるかわからないので、相沢を先に歩かせた。
相沢はそんなに緊張しなくていいですよなどと笑いながら話していたが、俺は警戒を続けていた。
相沢が教室に入っていくのを見届けて、続いて俺も入り、今に至る。
たかが教室に戻るだけなのに、なんという疲労だ。いつも俺、あいつに怒って注意してたよな。立場が逆転したような気持ちになってきた。
ため息をつきながら、相沢をみると、彼女は夕日に照らされて、神妙な面持ちでこちらをみていた。少しドキッとした。
「先生、私はずっと悩んでたんです」
夕日が差し込む窓をバックに、相沢は語り出した。