無駄な逃亡
僕は寺島照史です。
面倒なことが大嫌いな普通の地味な眼鏡男子です。誰になんと言われようが、僕は地味な眼鏡男子です。
今僕は目の前で繰り広げられた光景にとてつもなく嫌な思いを抱いて立っています。
その光景とは、生徒が先生に告白しているというものです。先生曰く、その生徒は豆に変身した生徒らしいんですが、これに関してはなにを言っているのか僕にはよくわからないです。
まぁ、そんな豆とか先生が頭おかしくなったとかそんな話ぶっちゃけどうでもいいんです。
僕は今先生が告白されているのをみてしまったこの状態、これがものっすごく嫌なんです。だって明らかにフラグじゃないですか。コレは。完全にこれから生徒と先生の恋愛のごだごだが始まりますよ、コレは。そして僕は今その目の前にいる。巻き込まれるフラグが立っています。
巻き込まれる可能性があるならば、これは逃げるしかありません。
しかし現実問題、今僕はこうして語りながらも結構動揺しています。
予想外なことが起きると人って結構動けないんだね。
目の前で先生が固まっているのと相沢さんが恍惚な表情を浮かべているのを静かにみちゃってます。
……ここら辺でもういいかな?やっぱりここで表現力の限界だよ。
しかし、相沢さん高口先生の言うとおりぶっ飛んでる人なんだなぁ。距離を少し置いて正解だった。まぁ元々クラス違うから話すことは滅多にないんだけど、高口先生のところにいくと必ずと言っていいほど彼女がいるからなぁ。警戒してたんだよね。
「相沢……嘘だろ。おま……やっぱり豆なってたのかお前は……あー」
先生がぼそぼそ呟いているのが聞こえてくる。一方の相沢さんは恍惚な表情を崩さず、熱視線を先生に送ってる。
ところで今僕気づいたことがある。
相沢さん……遠!!
一メートルぐらい遠くから告白してるよ。
近くでお話すればいいのになんでちょっと遠いんだろ。この距離は先生が豆を飛ばして飛んで行った距離に近いような……。
まぁ気のせいかな。
あり得ないよね。
人が豆になるとか、その逆も。
あ、相沢さんが歩いてくる。
恍惚の表情のまま歩いてくる。
先生は呆然としたまま立ち尽くしている。
カツ……カツ……カツ
静かな廊下で、相沢さんのローファーの音が聞こえてくる。ちょっとした緊張感が生まれてる。
っていけないいけない。
なにやってるんだ、僕は。
何見て実況中継してるんだ。
この場から立ち去らなきゃ。
よし、今だ今。
第三者は去ろう。
僕は踵を返し、逃げ出した。
先生に助けを求められる可能性があるから、僕は走り出した。
そりゃもう全力疾走でね。
☆☆
だいぶ走った。
はぁはぁいってる。
生徒会指導室は校舎の三階にあるんだけど、今僕がいるのは階段からすぐ降りたところの一階だ。
うっわ、ちょーがんばった!
めっちゃ速かったんじゃない?
こりゃ先生は僕を見失ったね!
まぁ僕を追いかけるはずなんてないんだけど、確認のため、後ろを振り返ってみる。
……え。
なんで相沢さんが階段から駆け下りてるわけ?
嘘だろと思いながら僕は逃げなくてはと、また走り出した。そして同時に近くで息苦しそうな声が聞こえた。
「はぁ、はぁ…もう無理」
高口先生だった。
なんでいるんだ!
え? てか、いつから、いつから隣にいたの!?
気づかなかった。
無我夢中で走ってたからか。
そして今更ながら、驚く。
「僕と一緒に走ってたんですか!!?」
必死の表情で、こくりと先生が頷いてる。
マジかよ!?
これじゃあ、相沢さん来ちゃうじゃん。
僕立ち会っちゃうじゃん、このままじゃ。
全然逃げきれてないよ、僕!
さりげなく先生のスピードを落としてもらうような言葉を放ってみる。
「教師が廊下走っちゃダメですよ! 歩いてください!! 先生は生徒の見本ですよ!?」
先生は真っ青だったが、走り続けている。
ちょっとかわいそうな気がしたけど、
僕はやっぱ巻き込まれたくない。
どうにかして引き離さなければ。
どうしたものかなと思いながら走っていると、職員室から後頭部がちょっと残念な小太りの年配男性が出てきた。
教頭先生だ!
しかも教頭先生はこちらに気づいてない様子。僕が走ってることも今ならわからない。
チャンス!
「教頭先生!! 高口先生が走っていますが、いいんでしょうか!!」
このときだけ僕は走りから歩きに変え、息も整った感じに高口先生を指差した。
教頭先生はこちらに気づくと、走っている先生をみて驚いた様子だった。
そして、「高口先生!」と声を上げ、先生に近寄って行く。教頭先生は怒っていた。先生は更に真っ青になっていた。
あーやっと帰れる。
「いやぁ、疲れた疲れた」
僕はポケットからイヤホンを取り出し、耳にかけ、曲をかける。選んだ曲はお気に入りのデスメタル曲「はばたけ、俺のソール」これはデスメタル界の歴史に残る名曲だと思っている。
僕はこの曲を聴きつつ、説教が始まった横を素通りし、下駄箱へ向かおうとした。
したのだが、やっぱ少し気になりちらっと後ろをみると、すでに説教は終わっていて、先生の隣には代わりに相沢さんがいた。
先生は頭を抱えてた。