……え?
僕の名前は寺島照史。高校二年生です。
普通の冴えない地味な眼鏡男子です。
「今なんと言いました? マメ? 豆?」
僕は混乱しています。授業内で配られたプリントでわからないところがあったから、生徒指導室へ行ったのにさらにわからないことが増えました。
生徒指導室に入ると、先生は豆みたいな粒を持っていてなんか投げていて、しまいにはなんとその豆を相沢だというのです。
いつもの先生とは違う姿に僕は驚きを隠せません。今もまだ先生が深刻な表情で僕を見つめていてきっと助けを求めているんだろうなぁと思うけど、僕は正直頭おかしくなったなこの先生と思っているので、きっとそれが顔に露骨に出ていることだろうと思います。
とりあえず、落ち着くために僕はお気に入りのデスメタル曲「はばたけ、俺のソール」でも聴きながら、明日また先生のところに質問に行こうと思いました。
「先生、お疲れ様です!」
僕は笑顔で言い放ち、扉を閉めまし……、閉めたかったのですが、先生がすんでのところで手を挟み、閉めれませんでした。残念。
「……俺は頭がおかしくなったわけではないぞ」
先生は真剣な顔をして僕をまっすぐに見つめています。
因みに眼鏡男子といえば、先生も眼鏡男子です。僕のより眼鏡のフレームがかくかくしています……って僕もう限界です。話し言葉で語っていいですか。表現力の限界です。
いいよね。
高口先生は僕の学年の数学担当。銀縁で四角いフレームのメガネが特徴的で、服はいつもきちっとした白いワイシャツにグレーのジャケットを羽織っている。年は確か20代後半。でも30代と言われても信じてしまう顔立ちだ。
担任じゃないけど、僕はよく高口先生と話しに行く。それはやっぱり、同じ普通仲間ってのが強いかな。話しやすいし、なにより、頭ごなしに怒鳴ったりしないし、まぁ相沢さんは例外だけど、ちゃんと親身に聞いてくれる先生。 僕の趣味についても理解してくれるし、本当いい先生。そして、本当に普通の先生、なにを言っても普通のことしか返さない。そこがいい。
えーと話は戻ってそんな先生が頭がおかしくなったのは可哀想だと思う。いつもなら、こんな変なこと絶対言わない先生なのに。正直、面倒くさいけど、優しい心をもって先生を傷つけまいと、笑顔で提案をしてみた。
「先生きっと疲れてるんですよ! 病院行きましょう! きっと元気になれます」
僕は善意で先生に提案してみる。けれどなぜだろうか。先生は露骨に嫌な顔をして僕を睨んでいる。
そうかと思いきや、先生は突然下を向き何かぶつぶつ話し出し、そして何かを決意したようなそんな目で顔を上げ、ポケットから何かを取り出し、何かを力強く握りしめ、体全体を使って物凄い勢いよく、手に持ったものを投げつけてきた。
それは猛スピードで僕の顔のすぐ近くを横切り、僕の背後の壁にぶつかった。
びっくりした。僕に向かって投げたのかと思った。 しかし、若干僕にかすりそうな感じだった。危ないなー。
でも待て、仮に当たってもそんな痛くないな。なんか今ちらっとみたけど、節分に使いそうな一粒の豆だったと思う。なら痛くもかゆくもないだろうし。まぁさすがに目に入ったら危ないだろうけど。
けどまさか先生が全身全霊でちっちゃな豆粒を全力で投げつける図を見る日が来るなんて。僕はなぜかウケて、口に手を当てて笑いを堪えた。
「そうだよな!」
突然明るい声が聞こえた。高口先生だ。僕にみたこともないような無邪気な笑顔を僕に向けている。どうしたんだ先生、僕は少しびっくりする。なに病院行くのにそんな明るく言う?
「悪い夢をみていたようだ、変なことを口走ってゴメン!」
謝りと同時に、勢いよく頭を下げる先生に対していえいえ大丈夫ですよと笑って答えた。まぁめんどくさくなければ全然構わないし、わかってくれたならもうどうでもいいし。
僕は面倒なことが一番嫌いだからね。
先生と話していると、突然、僕の後ろからボンっと弾ける音がした。驚いて音のした方へ顔を向けようとしたのだが、目の前の先生の物凄い表情に目を奪われてしまった。口を大きく開けて、あんぐりとして目を見開いて驚いている。こんな先生みたことない。
先生のみつめる方向をみると、そこには恍惚の表情をうかべる相沢香奈がいた。相沢さん、いつのまにいたんだ? 全然気配が感じられなかった。相沢さんが一直線を先生にみつめ、口を開いた。
「先生……好きです」
突然の展開。僕が間にいるのにここで告白すんの? 二人の中間にいる僕は思った。
うわ〜、めんどくさいことになりそうだ。
この回を後から間違って消してしまって、私も一瞬ビビりました。