鼻先に春
春かい、桜は散ったかね。
外の桜は散ったかね。
誰か泣いていたね、何が悲しい?
春ならいいじゃないか、少しくらい笑え。
あいつはどうした。
しんだって?それはまた物騒だな。
俺かい、いやなに、少し片目を閉じてたら
お前らの様子が違ってるからさ。
寒い寒いと腕組んで小さくなってたのが、
随分のんびり食ってばかりいるだろ。
俺はまた食欲の秋ってのが
戻ってきたのとばっかりな。
ほうら、きたきた。やぁお前。
お前の話をしていたよ、人気者だなぁ。
あの女中は嘘つきだ、お前を死んだと
俺に笑い話をした。いやな女だな。
こっちへ、こっちへ。そばにおいで。
そのまんまるの目が好きだよ。
随分とおとなのふりをするんだな。
何かあって、おとなになったの?
にゃあ、だって。そりゃすごいな。
名前をやりたいけど、
すぐ大きくなってしまう
お前の様子じゃ、俺より先に
さっきの女の冗談みたいに。
そしたら、俺はその名前のせいで
長らく悲しまなきゃいけない。
だから、お前は、おまえ、のまんま。
次の春には、お前も話せるようになるかねぇ。
そしたら、そんときに
二人で名前を決めようか。
あ、お前鼻先が桜色だね。
お前のところも春かい?