第6話
「じゃあ。やるか?」
「ええ。始めましょう。」
二人は一斉に同じ方向へ走り出した。男の俺が女に速さで負けるのはつらいな。帰宅部なのが原因かもしれない。20メートルほど走るたびに十字路があり、そこで急速に曲がることで若干差を広げられるが、このままでは持ちそうにない。
そこで俺は大広間を目指した。
大広間の手前に、直線40メートルほどの廊下がある。俺と鬼との差は約10メートル。
大広間へと続く廊下に差し掛かった時、俺は勢いよく跳び、そのまま壁を蹴り方向転換することで減速を最小限に抑えた。そのためか差は少々ひらいたが、それでもギリギリだ。俺は大広間の中が見えた瞬間中へと飛び込み、受け身を用いて鬼と対面した。
「残りは…接近戦か。」
鬼はそういうと、懐に向かって飛び込んできた。俺はそれに真正面から向き合い、腕をつかって勢いを受け流した。だが、鬼は体を流されながらも反転して手を伸ばしてきた。こちらも反転する際に手をはじいたが、とっさの行動のため足をもつらせ、その場に倒れてしまった。
鬼がそれを見逃すわけもなく、体勢を立て直し、こちらへと向かってくる。のんきに立ち上がってる暇はない。俺は素早く膝立ちに持ち直し、左足のすねを軸にし、右足で鬼の脚をかっさらう。倒れる鬼を間一髪かわし、両足を地につけ構える。
構えなおしたときにはすでに鬼が襲い掛からんとしていた。
かわせる。俺の頭に一瞬よぎった。だが、この緊迫した状況において、そういった慢心とも取れる考えはときに致命傷を生む。
完璧に間合いを取ってかわしたつもりだったが、鬼の腕は俺の顔の横をとらえた。
その時、周りの世界の全てが回転した。受け身なぞとれるわけもない。肩から上にかけて、もろに衝撃を受けてしまった。すぐさまおぼろげな眼で鬼をとらえるが、次の一手をかわせるわけもない。
「おわりだ!」
そういって一気に間合いを詰めてくる。
「…ああ。おわりだ。」
残り5秒。鬼の手は俺の背中をなぞっていた。
「おまえなら、そうするよな。よかったよ。背中を庇うふりってのは、案外疲れる。」
時計はゲーム終了の合図をした。
「ゲーム終了。お疲れ様。今回のゲームは、人、の勝利です。」
鬼は冷たい目で俺を見ていた。心底悔しいのだろうか。そんな鬼の姿と周りの景色が再びぐるぐると回りだす。景色は黒く歪み、徐々に白くなっていく。そして、全体がゆっくりと小さくなってゆく。いつしかそのちいさな点さえも消え、あたりに漆黒の静寂がおとずれた。
目を開ければそこには、白い天井が見える。だが、温かい雰囲気に包まれている。まわりをみれば、そこは一人部屋のようだ。一般の大学生の一人暮らしにとっては十分広く、家具は軒並み揃っていた。布団に寝かされているあたり、この大学の関係者は変なところで丁寧なようで。
布団から出るとともに、机の上のタブレットが声を上げた。
次話、3つのゲームを紹介します。
1つは隔離鬼ごっこ。残りの二つは、何でしょうね。