第4話
俺は野生の勘か知らないが、こいつが危ないやつだということは分かった。俺はすぐさま自らを鬼と言う男が来る反対方向に走り出した。俺と同じ色の制服の男は、逃げるタイミングが一瞬遅れたゆえ、もうじき捕まるだろう。
十字路に差し掛かり、俺と同じ制服の男は別方向に向かった。鬼は俺をあきらめたらしく、そのままさっきの男を追ってまっすぐ走って行った。
俺はわざと鬼の後をつけることにした。リスクはかなり大きいが、今この状況をもっとも知っているのは鬼のはずだ。理由はもちろんある。
一つは、あいつらがこの状況に戸惑っていなかったことだ。俺がここに来て初めて会ったあの男は、少なからず驚きを見せていた。そして俺も突然現れたその男に警戒をしていた。
もう一つは、出会ってすぐに俺たちを人、自分たちを鬼といったことだ。確かに、3つの選択肢の中にそれらはあったが、人と鬼とで制服の色が違うということは知らなかった。あいつらの制服と発言で、文字の色と制服の色がかぶっていることに気付けたが、それもなしに気付けるものか?しかもあんなに早く。
追跡を始めて間もなく、ドンという音の後、会話が聞こえてきた。
「く、くるな。お、お前たちはいったい何なんだ。何がしたい。」
「俺はただの鬼だよ。君は人。わかる?どうせ半妖じゃないだろうし、半妖だとしても邪魔になるだけだし。どっちにしろ、檻から出す気はないから大丈夫。」
半妖?檻?半妖っていうのは確か選択肢の3つ目だったはず。半妖の役目はなんだ?鬼はおそらく捕まえる側。人は逃げる側。じゃあ半妖はなんだ。時計には半妖らしきマークはなかった。じゃあどこにいる。鬼と人の数の差は1人。人側に半妖がいるということか?いや、今半妖について考えても仕方ない。考えるのはいったん止めてこの状況を確認するべきか。
鬼は人にゆっくりと手を伸ばし、つーかまーえた。と言って人の肩に手をのせた。だがしかし、特に何が起こることはなかった。
「あれ?えいっ。とう。ありゃ?」
そういって人の体をポンポンとたたき始めた。人も何が起きているのかわからないらしく、されるがままになっていた。だが、鬼の手が背中に触れた瞬間、人の姿がきえた。穴に落ちるとか、そういった消え方じゃない。触れた一瞬で、そこにいたはずの人が跡形もなく消えたのだ。衣服さえもそこには残っていなかった。
「あー。やっとだよ。でもなんで移動しなかったんだ?ラグかな。でも、違うよなぁ。」
俺は鬼の進む方向を確認して、近くの部屋に入った。すべての部屋の扉は常時開いており、閉められないわけだが、光が入らず、なおかつ隠れやすそうな部屋を知っている。とりあえずそこに向かうことにした。時計の表記は鬼2、人2、your人、1:03:00と表記されている。おそらく鬼と人の隣の数は残り人数。そしてyourはそのままの意味。後は、時間か。
隠れやすそうな部屋。仏壇やらなにやらが多く置いてあり、なおかつ暗い。まさしく隠れるための部屋といったところだ。ひとまず仏壇と階段との隙間にでも隠れて状況整理をするべきか。鬼の発言から察するに、おそらく捕まった人は檻とやらにとばされるのだろう。そして、半妖は何かしらの力をもった人である。または鬼か。何にせよ、鬼にとって半妖が邪魔になることは間違いないだろう。
もう一つ、なぜ鬼が人に触れて捕まえられるときとそうでない時があるのか。推論でしかないが、紋章が関係あるのだろう。人を選択した時に位置をどこにするかも聞かれたということは、必ず意味はあるはずだ。鬼が人の紋章に触れたとき、人は捕まえられる。そう仮定するなら、紋章さえ触れさせなければいいということだが。間違っていたら最悪だな。
一通り考え事が終わったため、とりあえず時計をいじってみることにした。見てすぐにわかるボタンは押しても全く反応を示さない。横についているボタンはライト機能らしい。3秒ほどついて自動で消える仕様のようだ。もう一つのボタンは充電らしく、5秒程度何かをまくような音がした後、画面の右下にfullと書かれた電池のマークが出現した。現在は0:79:30。あと一時間と20分といったところか。そろそろ…
俺の考えは嫌なところで当たった。さっきの鬼がやってきたのだ。