第9話
ある女がひとりでにおもった事。
忘れ去ろうとすることさえ忘れた、そんなこと。
・・・負けた。あっけなく、あっさりと、完璧に。
一人の少女はベットの上で髪をかき上げながら、ゲームでの敗北を思い出していた。
単に負けるだけでも悔しいというのに、あの敗北は恥ともいうべきか?
相手には多大なペナルティがあった。ルールを知らない。そんなやつに負けたんだ。
それだけじゃない。自分の間抜けな行動にも腹が立つ。味方を排除したことは問題じゃない。それをしたとしても50:50にはならない。まだ、いや、圧倒的にこちらが優勢だったはずだ。
あいつはあのゲームをプレイしながらほとんどを理解していた。それに、ゲームだというのに本気で取り組んでいた。さも楽しんでいるかのように。
・・・。
あいつの最後の言葉が今も頭の中を巡り続ける。頭の中だけじゃない。私の周りを取り囲み、私を嘲るかのように響き続けている。
ああ。おわりだ。おまえなら、そうするよな。
私をも理解した気になっていたのか?ああ、腹が立つ。あいつじゃなく、あいつに負けた自分に対して腹が立つ。
ターニングポイントは大広間とその前の廊下。
あいつは廊下で壁を蹴った。あの時私は、逃げることより私を倒すことに専念する気になったのだと思っていた。反転し、私を蹴りに来ると。今考えれば間抜けな話だ。相手は鬼を倒すという選択肢があることを知らないというのに。
身構えた一瞬、あそこで背中に触れていれば、結果は違っただろう。
そして何より、あさはかすぎたあの判断だ。真正面から立ち向かってきたこと、背中を狙ったときバランスを崩してまで私の手をはじいたこと。そんなもので紋章の位置を背中だと思いこんだ。全てあいつの掌の上で行われていた遊びだとも知らずに。
まったく、笑えない。こんなに悔しいのはいつ以来だろう。あの日以来かもしれない。私という存在がちっぽけで、何もできないようなものだと悟った日。今も夢に出る。まさに傑作だ。私が第三者だったなら笑いとばしてやりたいもんだ。
ありもしない希望にすがる人間。その人間を信じる人間。運が絡まないゲームだというのに無策で乗り込むバカ。
そうはなるまいと誓ったのに、ただ単に運も何もない子供の遊びのようなもので負かされた。ふふふ。全く持って傑作だ。今も昔も大差ない。私はいつまでも弱い。ははは。本当に、この屈辱、どう晴らそうかな。自分に対しての怒りや失望。どうしてくれようか。
証明してやる。あいつに、あいつに勝って。リベンジなんて言わない。あれ以上に、
完膚なきまで叩き潰す。あいつと同じ方法で。あいつより優れた方法で。
それだけでは腹の虫はおさまらないだろう。でもまあいい。まずはそれだけ、それだけをやる。だれにも負けず、あいつに勝つ。さらに恥を増やすなんて御免だ。調子になんて乗らない。ただひたすらに勝つ。
負けは恥。敗北は絶望。敗走は…死だ。
私は負けない。負けたくない。あんな奴らみたいにはならない。大事な…大事なものを失うような負けなんてもうこりごりなのだから。
勝って、勝って、勝ち続けて。私の、いまだみつからない大切なものを守るために。自分を犠牲になどしなくとも守れるように。
私は…。負けたくないんだ。自分にも。誰にも。
そうだ。私は
「私は、負けることが。・・・ぃんだ・・・。」