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冬と不幸と結婚相手!?

 寒い時期は昔から苦手である。ろくな事が無い。

 まず、小学生時代。小2の頃、発症した寒冷蕁麻疹かんれいじんましん、簡単に言えば、アレルギーの一種、温度差で発症する。私の場合は、寒い場所で急激な体温の上昇をすると痒くなり腫れてしまう。その為、冬場の体育の授業は見学。「あいつズリーよ、一人だけ暖かいところに居て」と、男子に言われる始末。こっちも好きで休んでいるわけではないのに。高学年になった頃には、そう言った声は聞こえなくなったかと思ったら、陰口になっただけである。しかも、それは、ついさっきまで私と笑って話していた女子の口から。特別扱いというのは、いつも嫌われる。

 中学の頃は、冬に犬に噛まれたっけ。野良犬、正確には、捨て犬だろう。犬への同情からか、それとも「可哀想な犬を助ける私、優しくてヨクナイ?」的な感情からか、近所のお寺の境内に住み着いた犬に「餌をあげよう」と、グループの女子が言い出した。中途半端な優しさは、牙となってかえってきた。一番後ろに居た冷めた目の私に。折角なので、リアルでナウ○カの名シーンを再現したら、引かれた……犬からもグループの女子からも。

 高校になる頃には、人との距離を多少とり始めたので妙な事件からは無縁となった。と、思いきや、今度は誰もが訪れる不幸が、少しだけ早く来ただけの事を大げさにいたわり、腫れ物を触るが如く親切心丸出しで関わってきた。鬱陶しい。

 兎に角、よわい17歳で理解した事、私は冬が苦手、いや冬とは相性が悪い……不幸は寒さと似ている。



「お爺様!」

 私、百木ももき 桜子さくらこは、長い廊下を全力で走る。

 途中、お手伝いさんが驚いてお盆を落としていた。後でキチンと謝らないとっでも、今はそれどころじゃない。

 無駄に大きな家を駆け走り、目的の部屋の襖を威勢よく開ける。

 純和風、水墨画の掛け軸(古ぼけてるけど多分かなり高額)がかかり、素焼きの壷(どこぞの名匠の備前焼らしい)にはアヤメが数本活けられている。その部屋の主が目的の人物……白髪を綺麗に後ろに流し、長い髭を立派に蓄えた老人が目を細め、口を綻ばせながらこちらを見ていた。


「よおきたのぉ。お前の好きな西洋のお菓子を用意しておいたぞ」

 持って参れと、手を叩けば別の入り口からお手伝いさんが紅茶と一緒に焼菓子クッキーを持ってくる。

 あ、さっきすれ違ったお手伝いさんだ。


「さっきはごめんなさい、急いでいたから……」

「滅相もございません」と、お手伝いさんは慌てて言い、深くお辞儀をすると部屋の外に出た。

 やっぱり苦手だわ……この世界。


「おやおや何かあったのか?」

 優しい笑みを浮かべながらも「可愛い孫娘に無礼を働いたのであれば、必要なら処分するぞ」と、老人の眼が物語っている。


「イヤイヤイヤ、何でもないっ。お茶いただこ――じゃない、お爺様、私はおやつを食べに来たんじゃない!!」

 私の一人のりツッコミが部屋に響くけど、お爺様は動じることはない。

 相変わらずニコニコ笑っている。


「私の結婚相手が決まったってどういうこと!?」


「おや、その話か・・・さすが、藤子さん。孫に話をするのが早いのぉ。それに岡山から東京まで飛んでくる桜子さくらこの行動力、素晴らしい」

 さすが我が孫、褒めつつ感心をする、って私の質問には答えてない。


「お爺様!!」


「そう、騒ぐ出ない。詳しい話は聞かなかったようじゃのぉ。ワシが直々に教えてやろう」

 もう!!こっちの気持ちなんてお構い無し。


「ワシが彼と出会ったのはそう……」

 お爺様は目を細め、語り始めた。


「我が家が代々続く名家なのは知っておろう? ワシは、戦後、父と潤沢な資金を元に様々な商売を起こし成功を収めておった。ある日、華やかな社交界で婆さんに出会った。彼女は、大変美しい娘であった。そう、お前ほどの年頃であったのぉ……緑の黒髪に大きく愛らしい瞳、それでいて西洋のドレスも人形のようでよく似合っておった。成金の家の娘でな、その件で父と揉めた。何しろそう言った家の娘は、誇りばかりをかざし、ろくに働かぬものが多かったからのぉ。まぁ・・・婆さんは、そんな輩とは違い清楚ながらも芯の強い女子であった。たまにせっかちがまた、可愛くてのぉ。結婚に関しては、多少波風が立ったが、結婚後は順風満帆、2男1女と3人の子にも恵まれ、仕事はさらに成功したのだよ。自分で言うのも何だが、今では世界で有数の企業となったと言って相違ないと――」


「お爺様、お婆様との馴れ初めなら何十回と聞いたことあるんですけど? 聞きたいのは――」

 ついにけたか? お爺様。

 素敵な恋話は、好きだけど会う度に「似ている」と言う理由で聞かされていれば耳にタコである。

 お年寄りってこういうトコあるよね、楽しそうに話す姿を見るのは、嫌いじゃない……むしろ好きだけど、今は 私の一生がかかっているので惚気のろけ話をのん気に聞けない。


「おぉ……すまん、すまん、話を遠回りさせすぎたかのぉ。まぁ、簡単に言えば、去年、お忍びでぶらりと訪れた酒場でのぉ、隣に座っておった四十歳ほどの男と気が合ってなぁ、どんちゃん騒ぎ。もう一度、一緒に飲みたいと思ったが、どうやら向こうさんも訳あり”お忍び”でなかなか自由に動けぬ相手だったのだ。ならば、”親族になれば気軽に共に飲めるのではないか”という事になった。ちょうど向こうにも息子が2人おってな」


「っちょ!?お酒飲む為に?」

 まてまてっえらく簡単になったよ。

 前の惚気話って関係ないよね? お爺様?


「いやいや、そんなことないぞぉ。共に酒を飲んで気が合った奴に悪い奴はおらぬ。その息子なら可愛い我が孫の結婚相手に申し分無いと思ったからのぉ」


「酔っ払て何が分かるっていうのよぉ~!!」

 未成年ゆえに飲酒経験はもちろんないので、酒を飲んでどうなるか実体験はないけど、正月とか、結婚式とか祝い事がある度にノンベイのお爺様達をみてたら、わかるっ。

 酔った勢いで決めた事など、ろくな事にならないっ。

 亡くなったお婆様も「お爺様の酒癖さえなければ、もう少し大きな会社になっただろうにねぇ」と残念そうに言うのが、口癖であった。

 十分大きな企業かいしゃなので、まぁそこは、残念ではない気がする。


「そんなに興奮するな。向こうさんが結婚相手にと言っているのは、19歳の大学生の息子。ワシ的には、お前が一押しなのだが……お前はまだ、17歳。嫁にするにはちと若すぎる。いや、お前さえ良ければ――」


「ヨクナイ!!」



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