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ある高校生のバレンタイン Type A

作者: 高平 由孝

いやー、何というか。

今の今まで「前書き」に当たる所を「あらすじ」に書いちゃってましたよwwwwwニアミスwwwwww

 時刻は真夜中。後数分すれば午前零時を迎えて、俺は晴れてチョコを食べる事が出来る。

 机の前には、初めて女の子、しかも気になっていた娘から貰ったチョコがある。ピンク色の紙に包まれて、真っ赤なリボンが綺麗に結ばれている。箱の中には、あの娘が俺のために、そう俺のために(大事な事だから二回言った)一生懸命作ってくれたチョコが入っている。

 (もう少し、もう少しで……)

チョコを横目に、俺は時計の針の動きを見つめる。残り、三分四十七秒。

 俺は子供の頃から、ある一つのジンクスを信じている。

「悪い事の後には良い事があり、良い事があれば後に悪い事が起こる」

初めて聞いた時は「んな訳無ぇだろ」なんて、心の中で馬鹿にしていたものだが、それを実感したのは中学校に入ってからだった。

 たまたま張ったヤマが偶然当たり、テストでイイ点が取れた。が、その翌日に原因不明の腹痛に一週間悩まされた。翌年クラス替えの時、学年内で有名な不良と同じクラスになってしまった。が、これまた学年内で有名な可愛い女の子と隣同士になる事が出来た、など等。

 ちなみに、チョコをくれた娘というのがその女の子、千佳ちゃんだ。それからも、体育祭の練習中に足を挫いて怪我してしまった時、保健室まで連れて行ってくれたり、修学旅行の班で一緒になれたり(修学旅行は散々だったが)、とにかく彼千佳ちゃんとは縁が合った。

 そして、高校に入学して初日。クラスの振り分けを見てみると、俺と千佳ちゃんは、何とまた同じクラスになる事が出来たのだ。その時俺は思った。「これは、『運命の赤い糸』に結ばれている」と。

 という事を友達の小林に話したら「あぁハイはいそうですか」なーんて冷ややかな反応を返されたけど、小学校から中学、高校と付き合いがある俺にはわかる。きっと心の中では「あんな可愛い娘と仲良くなれるなんて」と嫉妬心が渦巻いているに違いない。

 その後も、俺と千佳ちゃんの仲は日増しに近づいていった(ように思う。少なくとも俺の中では)。横では小林が恨めしそうな目で見ていたが、こういう立場になって初めて分かった。

「こういうのも、悪くないモンだな」、なんて。

 そして、運命の二月十四日。つまり今日。千佳ちゃんから、目の前にある箱を渡された。

『あなたに食べて欲しくって。手作りだから、自信無いんだけど……』

恥ずかしそうに、俯きながら話す千佳ちゃんは、今までで一番可愛かった。

 その時の俺は正に有頂天だった。だって「バレンタインに手作りのチョコレート」だぞ?それはもうある種の「告白」じゃないか。千佳ちゃんに「告白」されたも同然じゃないか。

 俺は文字通り天にも昇る気分で、帰って早速そのチョコ、延いては「千佳ちゃんの愛」を味わいたいと靴を履き替えた、その直後だった。

(俺は今日、無事に帰れるのか)、と。

「悪い事の後には良い事、良い事の後には悪い事」

忘れかけていたこのジンクスが、今頃になって思い出された。

 もう殆ど気に掛けなくなった筈の「ジンクス」が何故今になって、と数瞬思ったが、思い出してしまったからには、異様に気にしてしまう。

 それからの俺はというと、駅までの道のりを慎重に歩み、電車では座席に座らずドア付近で立ちっぱなし。電車を降りた後は、本来ならばバスに乗るんだけど、事故に遭っては堪らないので一時間掛けて家へと徒歩で帰る。と、徹底した「不幸」対策の甲斐あってか、何事も無く自宅に辿り着けた。のはいいが、それでも何故か、俺の中から不安は消えてくれなかった。

(いや、明日を迎えるまではまだ油断できないんじゃないか?)

 何ていっても、初めて女の子からチョコレートを貰ったんだ、しかも手作りで。確かに、今までは何も起こらなかったが、逆に「何も起こらない」という事実が、俺の不安を一層掻き立てた。

(万が一、って事もあるしな……)

 ――そして、今現在に至る。という訳だ。

今、秒針が最後の一周に差し掛かった。あと少しで日付が変わり、何事も無ければ俺はやっと安心してチョコを食べる事が出来る。

残り三十秒を切った。十五秒、五秒、三、二、一……。

 静かに、バレンタインデーは終わりを告げた。

大きく息を吐き、無事に明日を迎えられた事に安堵する俺。

「もしかしたら今日死ぬかもしれない」とか、今からしてみれば随分馬鹿な思いに俺は囚われていた。でもやっぱり、迷信は何処まで行っても迷信なんだ。

「さて、それじゃあ」

 逸る気持ちを押さえ、俺はゆっくりと、包装を解いていく。中には、少し形は悪いけど、一生懸命作った事を思わせるチョコがあった。数時間もの間常温で放置していたから、端っこが溶けかけていたけど、そんな事はどうでも良かった。

 手を合わせて目を瞑り、心の中で千佳ちゃんの姿を思い浮かべながら千佳ちゃんに向かって「ありがとう」と呟く。

 そしていよいよ、千佳ちゃんの愛の結晶ともいうべきチョコを手にする。やっぱり少しばかりべた付くけど、構いはしない。

「いただきます」

そーっと口に入れて、一口頬張る。

「……ん?」

 人生初のバレンタインチョコの、一口目の感想はそれだった。

何か、やけに苦い。いや、きっと千佳ちゃんは「甘いものが苦手かもしれないから」って理由でちょっぴり苦めに作ろうとしたんだけど、返って苦くなり過ぎてしまったんだろう。全く、意外におちゃめだったんだなぁ、あの娘は。でも大丈夫。俺はどんなに苦くっても君が作ったものならたとえ何でも食べきってみせるさ、ハハハ。

……それにしても、いくらなんでも苦すぎないかコレ? まるで舌を抉られてるみたい、ってか、アレ、何か、頭が、いた。

「……るぇあ?」

 視界が大きく右に傾いたと思った次の瞬間、俺は床に倒れ付していた。体が、いう事をきかない。あたまが、いたい。目眩が、とまらな……。


 最期に千佳ちゃんの笑顔を思い浮かべながら、俺の意識は徐々に消えていった。


「――ねぇねぇ聞いた? 四組で誰か死んだらしいよ!」

「へぇ」

「へぇ、って。ちょっと千佳! 真面目に聞いてって! ヤバいんだって!」

「聞いてるよ。どうせ事故か何かでしょ?」

「そうじゃないよ! 何かね、毒を盛られて殺されたんだって!」

「……毒?」

「そうそう。でね、チョコに毒が入ってたんだって! つまり、誰かが毒入りのチョコ渡して殺したって事じゃん! ね、マジでヤバいでしょ?」

「……そうだね。怖いね」

「この中にハンザイシャがいるんだよ? 私マジで怖いんだけど――」

(良かった、やっと邪魔なヤツが消えた。小林君と仲良くなる為に近づいたのは良いけど、最近邪魔になってきたから。上手く行くとは思ってなかったけど、死んでくれて清々したわ、本当に)

「――千佳、千佳ってば! ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるって。そう言えば、一時限目の英語なんだけど――」


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