妹が露出狂だと言う事実
冬の短編祭り第2弾は危ない変態さんのお話。
犯罪はいけません。
こんな統計がある。
“クリスマスには露出狂が増える”
露出狂―――と言えば、基本的イメージとして。
か弱そうな女性の前に全裸のオッサンが登場し、全てを見せつけ、風のように去る。
これが定番であろう。
警察なんかも露出狂が出現すると、注意を促すのは決まって女性にだ。
……では、男性は露出狂の被害に合う事はないと言う事か?
それは否。
中には、定番イメージとは真逆の展開、まさに予想外の事が起きる事もあるのだ。
―――そう、女性もまた……。
「……っ!?」
俺は今、露出狂に出会っていた。
時は12月25日深夜。
冷え込みの激しい冬の真夜中だ。
時間としては、ついさっきクリスマスイブから普通のクリスマスの日になったばかり。
俺は彼女もいなく、かと言って友達も皆リア充としてクリスマスイブを堪能しているのであって。
1人家に居ても悲しくなるだけなので、さっきまでバイトのシフトを入れて、ずっとコンビニでレジを打っていたのだ。
そして今、帰路についている所。
で、自宅まであと500メートルの所の小さな交差点の角で、露出狂に遭遇したのだ。
……言い忘れたが、俺の名前は棚橋空也、4年制大学の1年。
「へっへっへ……え?」
寒さ厳しい真冬の夜中。
目の前には、コート1枚のみしか着用していない露出狂の姿。
俺はただただ驚愕していた。
……コートを広げ、全てを見せつけてくる露出狂。
その手足は細く、髪は長い。
そして胸部にはそれなりの膨らみがあり、その……下はない。
俺は瞬時に露出狂に遭遇してしまった事を悟り、それと同時にある事にも気づく。
……この人、女性!?
一方の露出狂(暗くて顔がよく見えない……)は、
「えっ……うそ、ヤバっ!!」
なんか慌てていた。
そして……
「……い、以上サンタクロースからのプレゼントでしたっ!」
露出狂はめっちゃ動揺しながら、いそいそと退却の体勢へ。
……しかし。
まぁね、露出狂自らが退却してくれる事自体、助かる事なんだけど。
「……お前」
「ひっ!」
退却寸前の露出狂さんに向かって声を掛ける俺。
あ、いや決してもっと見たいとかそういう事ではなくて。
本当に。
……ただ、暗くて顔なんかもよく見れてないし、声もそんなに聞いた訳ではないんだけど。
ちょっと気になる事が。
「……ちょっと、つかぬことをお伺いしますが」
「な、何ですか? わ、私はしがないサンタクロースですが……」
うわ、めちゃくちゃ挙動不審になりおった!
ってか、
「サンタクロース?」
何故に?
「は、はい、サンタクロースです。クリスマスなのに彼女もいないダメ男達に少しでもいい思いをさせてあげようと、奮闘しているサンタクロースなのです……くしゅんっ!」
何だこのサンタクロース?
ありがた迷惑にも程があるだろ。
……本題からズレたな。
露出狂さんはグッとコートを羽織り、もうぶるぶるガタガタ。
真冬にコート1枚じゃ……そりゃな。
だから手短に済ませよう。
「すみませんが、お名前伺ってもよろしいですか?」
「はッ! まさかこの善良なピチピチサンタクロースを国家権力のお縄につかせようとっ!?」
「まぁ普通だったらそうしてるな」
普通だったら……
「……違ったら悪いんですが」
暗くて顔の確認は出来ていないけど。
何となく、何となく分かった。
「……お前、奈菜か?」
「はふぅっ!」
突然、露出狂さんが咳とため息と絶叫を合わせたような声を出した。
「……やっぱり奈菜か」
奈菜―――それは俺の妹の名前。
今年で16、高校1年。
そして多分、今目の前にいるのは……
「な、何を言っているんですかアナタは!? わ、私はロマネスサンタクロースであって、棚橋奈菜なんて人は……」
「……俺、まだ奈菜と言っただけで名字までは言ってないんだけど」
「はふぅっ!」
「…………」
「あ、ああ……ぁぁぁ……」
「……奈菜よ」
「あ、えっ……とぉ……違っ……うん。お兄ちゃん、メリークリスマス!!」
「お前何してんだ?」
「……ぶえっくしょんっと」
「豪快なくしゃみだな」
自宅、自室。
あれから俺は即行帰宅。
もちろん菜奈も半ば引きづりつつ帰宅させた。
そして服を着せ、自室に呼び、さぁ尋問タイム。
「……なぁ菜奈」
「ん?」
「……その、まぁ、ストレートに聞くが、何故お前は深夜にその……か、開放的スタイルで深夜徘徊なんかを?」
「お兄ちゃん、どこがストレート? 抽象的過ぎるよ?」
俺のベッドにちょこんと座り、無垢(いや、この場合無垢はダメだろ)な瞳で俺を見つめる菜奈。
「……と、とにかく。何故あんな犯罪みたいな事を?」
露出狂は犯罪だ。
事と場合によっては、両親交えての家族会議いきだぞ。
すると、菜奈はにぱっと笑い、一言。
「新感覚を求めて!」
「…………」
俺は、言葉が出なかった。
「なんかね、胸の奥がゾクゾクして、とても快感と言うか、病み付きになると言うか……?」
「……い、いつからそんな事を?」
「中1!」
これはもう家族会議開廷は免れないな。
……俺の妹はいつからこんな変態になってしまったのだろうか?
昔はあんなに純粋で可愛い子だったのに……
「……で、お兄ちゃん?」
「……何?」
「私の身体見て興奮した?」
ドカッ!
「痛いっ!」
とりあえず頭にげんこつを入れてやった。
「ちょっ、いきなり何すんのよ!」
菜奈は頭を押さえお怒り気味。
「うるさい、悪いのはお前だ、もう2度とするな、この犯罪者」
そのうち捕まるぞ。
「……今どき、こんなピチピチのみずみずしいキュートな見せたがりなんて、めっちゃレアなんだよ?」
「自分で言うな」
全く……涙が出てきそうだよ。
「……本当に興奮しなかったの?」
ドカッ!
「痛いっ!」
「妹の裸体に興奮してたら俺もう終わってるだろ」
「……ッ」
この犯罪者妹、こっちに向かってめっちゃ睨みきかせてきやがった。
何でだ。
「……本当に興奮しないんだね」
「するわけねぇだろ。そもそもお前の身体なんか……」
はらり
「ち、ちんちくりんだし、しかも相手がいつも会ってる……」
ぷちっ
「お、おおお前だし、第一に……」
スっ……
「い、妹だし……」
サっ……
「……ッておいっ! お前何今脱ぎだしてんだッ!?」
何故か突然脱ぎだした菜奈。
カーディガン、デニム、シャツと次々に脱いでいき、残るは上下の白い下着のみ。
「……ふふっ、興奮してるでしょ?」
めっちゃニヤニヤな菜奈。
「ふ、ふざけるな露出狂っ! だ、誰がすっとんとん……でもねぇな、そんな妹なんかに欲情を……」
とか言いつつ、多分めっちゃ動揺している俺。
「……お兄ちゃん」
菜奈は笑顔だ。
「……な、なんだ?」
俺、視線を外に。
「……メリークリスマス!!」
カチンっ
「兄をからかうなぁぁぁあああっ!」