↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
55/55

誰の為に

【地を駆け、敵を喰らう捕食者と成れ!!】


エルミナの魂の叫びとともに、魔法陣が爆発的な光を放った。


誰もが、炎の魔法が放たれると思っていた。


――だが。


「……あ、れ……?」


エルミナの口から、間の抜けた声が漏れる。


眩い赤光は頂点に達した瞬間、蝋燭の火が消えるように、ふっと掻き消えた。


あとに残ったのは、ただの静寂。


繋がったはずの詠唱。

完成したはずの魔法。


それなのに、魔法は発動することなく終わった。


「どうして……?」


エルミナの手が、ガタガタと震える。


魔力は確かに注いだ。詠唱も最後まで繋げた。


それなのに、どうして――。


「フン……哀れなものだな」


冷徹な声が、凍りついた空気を切り裂く。


気がつけば、エドワードの右手が遥の首を掴み上げていた。


「が、あ……っ!」


宙に吊り上げられ、遥の顔が苦痛に歪む。


「感情の昂りで、長文詠唱が扱えるようになるとでも思ったか?」


エドワードは、絶望に染まったエルミナへ視線を向けた。


「奇跡など、ありはしない。これで終わりだ。落ちこぼれの身の程を知れ」


「……っ」


あと少しだったはずなのに。

もう一度、挑戦できたはずなのに。


結局、自分は何も変われなかった。


「……いい、ぞ」


その時だった。


首を掴まれたままの遥が、苦しげに声を絞り出した。


「いいぞ、エルミナ……!もう一回だ!次こそでき――」


「黙れ」


エドワードの手に力がこもる。


「がっ……!」


喉を締め上げられ、遥の言葉が途切れた。


「腹立たしい……どうあっても負けを認めないと言うわけか」


エドワードは苛立ちを滲ませながら、遥を睨みつける。


それでも遥は、彼の目を逸らさなかった。


「ガハッ……当たり前……だろ」


途切れ途切れの息の合間に、それでも言葉を紡ぐ。


「アイツが……戦う限り……俺が支え続けんだよ……!」


「……よかろう」


エドワードは小さく答えると、遥の体を乱暴に投げ飛ばした。


「ぐっ……!」


地面に叩きつけられた遥の体が、土の上を滑っていく。


すぐに立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。


腕に力が入らず、足にも踏ん張りが利かなかった。


それでも遥は、エルミナから目を離さなかった。


エドワードは観客席に背を向けたまま、声を張り上げる。


「学園長。ここからは、この小僧を殺すつもりで動きます」


「なっ!?」


驚きの声を上げたのは、ババ様だけではなかった。


周囲の観客たちも、何事かとざわめき始める。


「止めたければ、いつでも止めていただいて構いません――が」


エドワードは肩越しに観客席を見やった。


「その瞬間、この決闘の勝者は言わずとも分かりますね」


「……」


ババ様は何も答えず、エドワードを見据えていた。


その視線を受け流し、エドワードは再びエルミナへと向き直る。


「お前もだ。降参したければすればいい。諦めないのもお前の自由だ――だが」


その目が、地面に倒れた遥を捉える。


「このガキが死んでもいいならな!!」


言い終えると同時に、エドワードは一気に距離を詰めた。


「っ……!」


遥はふらつく体を起こし、迫り来る拳を右手で払いのけようとする。


だが、もう限界だった。


腕はわずかに動いただけで、拳を止めることすらできない。


鈍い音が響いた。


「がっ……!」


拳をまともに受け、遥の体が大きく揺れる。


続く一撃が腹部にめり込み、遥は地面へと膝をついた。


それでも、エドワードは手を止めない。


容赦なく拳を叩き込み、遥の身体を一方的に打ち据えていく。


防ぐことも、避けることもできない。


すでに遥の身体は限界を迎えていた。


「さぁ、選べエルミナ!降参か、このガキの死か!!」


エドワードが地を蹴った。


その凄まじい踏み込みに、地面が砕け、亀裂が走る。


「が、はっ……!?」


次の瞬間、遥の身体が木の葉のように宙を舞った。


エドワードの蹴りが、まともに叩き込まれたのだ。


地面に叩きつけられる遥。

だが、それで終わりではなかった。


エドワードは倒れた遥に追いすがり、再び拳を振るう。


抵抗することさえ許されない、一方的な蹂躙。

殴打の音が響くたび、遥の身体から鮮血が飛び散った。


「が……ぁ……っ!」


とうとう遥は激しく吐血し、地面へ崩れ落ちた。


その姿を目にした瞬間。

エルミナの中で、何かがプツンと音を立てて弾けた。


(死んでしまう……)


思考が真っ白になる。


(私のために、赤城遥が……)


自分を信じ、何度倒されても立ち向かい、最後まで支え続けてくれた人。


その人が今、自分のせいで傷つき、命さえ失おうとしている。


勝利なんて、どうでもいい。


名誉も、許嫁という立場も、何もかも。


全部、全部どうでもいい!


(今すぐ、赤城遥を助けなきゃ……!)


早く。

一刻も早く、彼を助けなければ。


(お願い……もう、やめて……!)


喉まで込み上げた言葉を、エルミナは必死に押し殺した。


降参すればいい。


自分が負けを認めれば、少なくとも遥がこれ以上傷つくことはないはずだ。


だから、早く。


早く降参して、赤城遥を――。


(私が、遥を――守るのよ)


その言葉が心の奥から湧き上がった瞬間だった。


エルミナの脳裏に、何かが走る。


――守る。


その言葉が、頭の中で何度も反響した。


何の変哲もない、ありふれた言葉。


けれど、その言葉と共に、エルミナは思い出した。


心の奥底にしまい込んでいた、母との記憶を。


優しく微笑む、今は亡き母の姿を。


◆


あの日、私は母に詠唱のコツを尋ねた。


すると母は、詠唱の仕組みについて私に問いかけた。


私は、教科書に書かれていた通りの答えを口にした。


『命令』


それが、私の魔力とマナを繋ぐためのもの。


それが、当時の私の答えだった。


しかし、母――ルナ・アルヴェインの考えは違っていた。


「私はこう思うの。詠唱は――」


母は優しく微笑み、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「お話をすることだと思うの」


「お話?」


聞き慣れない答えに、幼い私は首を傾げた。


「えぇ、そうよ」


母は私の目を見つめながら、ひとつずつ教えてくれた。


「どんな魔法を使いたいのか。その魔法で、何をしたいのか。自分の思いを、マナに伝えるのよ」


「自分の……思い?」


「そう。そして、あなた自身も問いかけてみるの」


母はそっと胸元に手を添えた。


「あなたのことを知りたい。あなたは誰なの?何を望んでいるの?ってね」


「うーん……よくわかんない」


私は素直にそう答えた。


魔法の本には、詠唱の手順も、魔力の扱い方も書いてあった。


けれど、マナとお話をするなんて、どこにも書いていなかったから。


「ふふっ。まだエルミナには少し難しいわね」


母は楽しそうに微笑むと、私の頭を優しく撫でた。


その手の温もりを、今の私ははっきりと思い出せる。


「でも、いつかきっとわかる日が来るわ」


「いつ?」


「そうね……」


母は少しだけ考えるように目を伏せた。


そして、私を包み込むような優しい声で告げた。


「あなたに大切な人ができて、その人を『守りたい』と思った時は、お話ししてみなさい」


「守りたい……?」


「えぇ。あなたの思いを、マナに伝えるの。きっとマナは、あなたに答えてくれるわ」


母はそう言って、もう一度、私の頭を撫でた。


「だから、焦らなくても大丈夫よ。エルミナなら、きっとできるわ」


――あの日の私は、母の言葉の意味を理解できなかった。


けれど、今なら。


今なら、少しだけわかる気がした。


だから――。


◆


「あなたはだぁれ?」


エルミナは、そっと問いかけた。

読んで頂きありがとうございました。

また次回も見てもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。