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嵐の前の静けさ

「――ひとまず、ダロンさんの予感通り、魔物が確認できましたわ」


村へ戻ったエルミナは、村長宅のテーブル越しにそう告げた。


窓の外では、夕暮れの光が少しずつ薄れていく。


「森の周辺には複数の魔物の痕跡がありました。しかも種別の違う魔物同士が、ほぼ同じ範囲を移動していた形跡もあります」


「やっぱり異常……だよね」


樋川が不安そうに尋ねる。


エルミナは静かに頷いた。


「えぇ……」

「少なくとも、ダロンさんが感じていた“魔物が近付いている違和感”そのものは、間違いではありません」


その言葉に、ダロンは小さく息を吐いた。


「そう……でしたか」


安心したような。

だが同時に、不安が確信へ変わってしまったような複雑な表情だった。


だが、そんな空気を断つようにエルミナは続ける。


「とは言え、現時点で魔除けは機能しています。魔力の弱まりは少し気になりますが、すぐに村へ魔物が侵入するほどではありません」


「なら安心って事か?」


遥がそう尋ねると。


「少なくとも、直近で何か起こる可能性は低いですわね」


エルミナは姿勢を正したまま、答えた。


「明日、もう一度森を調査します」

「原因さえ掴めれば、対処は可能ですわ」


その言葉に、ダロンも少しだけ表情を緩める。


「ありがとうございます……本当に」


◇


その後。


ダロンの家では、簡単な夕食が振る舞われた。


焼いた白身魚。

野菜のスープ。

少し硬めの黒パン。


豪華ではない。

だが、どこか落ち着く味だった。


「うめぇー」


食事を頬張った遥が素直に声を上げる。


「ふふ、ありがとうございます。学園の食事に比べられると、見栄えはしませんが、村で採れた自慢の野菜です」


「いやいや、これだよこれ。この落ち着く雰囲気で食べるご飯が一番美味しいんだよなぁ」


そんな遥の様子を見て、樋川も小さく笑う。


その横でエルミナは、優雅にスープを口へ運びながらため息を吐いた。


「本当に、どこでも順応しますわねあなたは」


「そうか?でもこれ凄く美味しいぞ?」


「美味しいかどうかの話はしてませんわ!」


そう言い返した後、

エルミナは少しだけ視線を逸らす。


「……美味しいですけど」


そんなやり取りに、ダロンは穏やかに微笑んでいた。


◇


夜。


寝る準備を終えた後、三人は来客用の一室へ案内された。


「では、萌花はこちらのお布団を使ってください」


「うん、ありがとう」


女子二人は客間へ。


「ほんじゃ俺は――」


三枚並べられた布団の右端に行こうとした

遥は――


「赤城遥」


「ん?」


エルミナは当然のように告げた。


「あなたは廊下ですわ」


「は???」


遥の声が家に響く。


「いやいやいや!?なんで!?」


「当然でしょう」

「女性二人と同じ部屋で寝る気ですの?」


「だって、そこに布団が……なぁ樋川も何とか言ってくれよ!」


布団の上に座ったままの樋川は答えた。


「納屋かどっちがいい?」


「廊下でお願いします……」


即答だった。


そんな小さな騒がしさの後。


村長宅の灯りは、静かに落とされた。


◇


――深夜。


「……ん」


遥はゆっくりと目を覚ました。


原因は――尿意。


「最悪……」


ぼやきながら、遥は眠そうな目を擦る。


廊下の窓からは、薄暗い月明かりが差し込んでいた。


静かな夜。


聞こえるのは風の音だけだが、その静けさ故の不気味さが遥を襲った。


「べ、別に幽霊なんか怖く無いし?そもそもそんなもん信じてないし?」


そんな情けない独り言を呟いていた時、ふと。


遥の視線が窓の外へ向く。


村の外周。


そこに並んでいるはずの、魔除けランタン。


だが――。


「……あれ?」


遠目でよく見えない。


だが。


「火が……」


そう呟いた瞬間だった。


コン――……。


夜の静寂を裂くように、魔除けランタンの灯がふっと消えた。


その直後。


「ォオオオオオオオン――!!」


森の奥から響く遠吠えのあとを追うように、村中の窓に明かりが走った。


そして背後の扉が勢い良く開いた。


「今のは!?」


慌ただしい表情でそう告げたのはエルミナだった。

続いて樋川も姿を表す。


「ランタンの火が!」


遥のその一言で表情をこわばらせたエルミナは窓際まで駆け寄り、一番近くに見えるランタンを確認した。


「なんて事……くっ!」


エルミナの表情から、余裕が消えていた。


だが――


思考は素早く、その足は直ぐに屋外に向かっていた。


「萌花、魔法省へ連絡をお願いしますわ!」

「赤城遥は村長と共に村民を連れて、村の中心まで!」


「う、うん!」

「了解!」


その瞬間――


再び、森の奥から遠吠えが響いた。


それはまるで。


“狩りの始まり”を告げるように。

読んでいただきありがとうございました。

また来てもらえると嬉しいです。

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