力の片鱗と……
戦場に、一瞬の空白が生まれた。
誰も、すぐには理解できなかった。
今、何が起きたのか。
「な、なんだぁぁ!?」
沈黙を破ったのは、実況席の叫びだった。
「アルヴェインの【クーウェル・スティングス】が――消えた!?」
場内がざわつく。
だが、その隣で。
ヒスカがわずかに目を細め、静かに口を開いた。
「……いや」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「ただ“消えた”っていうより――」
その視線は、まっすぐに一点を捉えていた。
「……吸収した?」
その一言に。
空気が、もう一度揺れた。
「は……?」
「吸収って……」
ざわめきは、今度は困惑へと変わっていく。
その中心で。
アルヴェインだけが、はっきりとそれを見ていた。
「……今の」
わずかに眉をひそめる。
「吸収……された?」
確信を含んだ声だった。
一方で。
当事者の片割れは――
「赤城君……今の」
樋川が、肩の上へと視線を向ける。
そこにいるタヌキへ。
だが。
「えぇぇ!?何これ!?」
当の本人は、素で驚いていた。
場の空気が、一瞬止まる。
観客席の心が、見事に一つになった。
お前も知らんのかい!!――と。
無言の総ツッコミが炸裂する。
「……あー」
軽く頭をかきながら、俺は息を吐いた。
「すまん、樋川」
少しだけ真面目な声になる。
「俺の認識と指示が甘かった」
視線を前に戻す。
「まさか三本全部、同じ箇所に正確に叩き込んでくるとはな……」
苦笑する。
「漫画脳が泣くぜ」
「なんでちょっと余裕ある感じなのよ……」
即座にツッコミが飛ぶ。
だが、その空気も一瞬で切り替わる。
樋川はすぐに表情を引き締めた。
「……ううん」
小さく首を振る。
「全包囲に、寸分違わない着弾……」
その目は、まっすぐアルヴェインを見ている。
「やっぱり……魔法のコントロール技術がすごい……」
その評価に、迷いはない。
そして。
「でも、赤城君」
わずかに声を落とす。
「今のって、やっぱり……」
「あぁ」
俺も、視線を自分の右手へと落とした。
さっき、確かに“触れた”場所。
「なんか……人の魔力だけじゃなくて」
ゆっくりと言葉にする。
「魔法そのものも、吸収できるみたいだ」
自分で言いながら、少しだけ整理されていく。
――そうか。
「……いや」
ぽつりと、呟く。
「言われてみれば、原理は同じか」
頭の中で、繋がる。
「ばぁちゃんの“視認不可”の魔道具……」
「あれの効果、俺が消してたのも――」
視線を上げる。
「この力ってことか」
2人のやり取りと自分が体験した現実を前に、アルヴェインは小さく呟いた。
「あなたも……“そちら側”ですの……」
アルヴェインが、ぎり、と歯を噛み締める。
「ほんっとうに……腹立たしいですわ……」
俯いたまま、拳に力がこもる。
その様子を見て、俺は即座に口を開いた。
「今だ!とにかく一発叩き込め!」
「う、うん!」
肩に、ドンっ、と魔力を一度送り込む。
樋川が杖を構えた。
「リビュオン・レイ!」
その言葉と共に放たれた光が一直線に走る。
立て直しを見越した、軽い一撃。
交わされる事も想定し、力を抑えた攻撃――
の、つもりだった。
だが――
アルヴェインの反応が、わずかに遅れた。
視線は俺に向いたまま。
ほんの一瞬、意識が逸れていた。
そしてその隙は、致命的だった。
「しまっ――」
言い切る前に。
光が直撃する。
「――っ、くはっ……!」
衝撃に弾き飛ばされ、地面を滑る。
砂が舞い、金髪が汚れる。
「直撃!!」
ミコラの声が弾けた。
「威力は抑えめ!しかし、今度は確実にアルヴェインを捉えた!」
「……おかしい」
ヒスカが低く呟く。
「普段のアルヴェインなら、あの程度……避けれなくても、防御できたはず……」
ざわめきが広がる。
「おい……今の……」
「樋川の魔法にアルヴェインが……?」
「まさか……」
そして、誰かが言った。
「――"アイツ"に負けるのか?」
その一言。
それだけで、十分だった。
アルヴェインの思考が止まる。
(……負ける?)
両手を地面についたまま、顔を上げる。
観客の声は、もう届いていない。
ただ――
視線だけが、突き刺さる。
見下すような目。
値踏みするような目。
(……また)
胸の奥が、ざらりと軋んだ。
(また……あの視線……)
呼吸が浅くなる。
(嫌……)
指先が震える。
(もう、“落ちこぼれ”なのは……)
その瞬間。
意識が、すとん、と落ちた。
◇
魔法使いの名家――アルヴェイン家。
高い魔力量と特異な魔法を誇るその家に、末妹として生まれた私には、歳の離れた兄姉がいた。
「この落ちこぼれが!少しは兄達を見習ったらどうだ!」
その言葉が――
今でも、耳に焼き付いて離れない。
読んで頂きありがとうございました。




