短編小説
ようやくこのサイトへの投稿の仕方がわかってきました。このくくりで短編小説をまとめていきたいと思います。今回は「中学校の卒業生を見送る、校庭の桜の木の独り言」を想像してみました。
私は、この中学校の校庭に立つ一本の桜の木。
春になるたび、淡い花を咲かせては、新しい一年生を迎えてきた。
三年前の入学式の日。
まだ制服に着られているような子たちが、ぎこちない足取りで登校してきたことを思い出す。
真新しい色の制服の袖で手の甲まで隠れてしまう子、肩からずり落ちそうな大きなカバンを背負っている子。
その姿があまりに初々しくて、私はそっと枝を揺らした。
「ようこそ。ここから始まるよ」と。
あれから三年。
彼らは驚くほど変わった。
いつも列の一番前で、身長が低いことを気にしていたあの子も、
気づけば真ん中より後ろに並ぶようになった。
大きすぎた制服は、今では肩幅にぴったりと合い、
あの重たそうだったカバンは、逆に小さく見えるほどだ。
男子は声が低くなり、がっしりとした体つきになって、
ふとした瞬間に大人の影を見せるようになった。
女子は柔らかく、しなやかに、
表情も仕草もどこか大人びて、春の光のように美しくなった。
悩んだ日もあったね。
友だちとぶつかって泣いた日も、
部活でうまくいかずに私の根元に座り込んだあの日、
未来が見えなくて空ばかり見上げてため息をついた日も。
私はただ、風に揺れながら見守ることしかできなかったけれど、
全部おぼえているよ。
全部無駄じゃない。
その時間が、今日の君たちを形づくっているんだ。
そして今日。
卒業式の朝、私は夜明け前から空を見ていた。
今年は暖かく花が早く開いてしまったが、
どうしても、この日まで満開でいたかった。
式が終わり、在校生に見送られ卒た業生が校庭に出てくる。
三年前よりずっと大きく、ずっと頼もしい姿で。
泣きながら笑い、笑いながら泣いている子もいる。
その姿を見た瞬間、私はもう抑えきれなかった。
——ひらり。
私の感動の涙が花びらとなって空へ舞い上がり、
光の中をくるくると回りながら落ちていく。
「よく頑張ったね」、
「もう大丈夫だよ」と、
音にならない声を贈った。
「あっ、散り始めた」
「桜、とってもきれいだね」
「なんか、見送ってくれてるみたい」
そうだよ。
私はずっと、君たちを見ていた。
一緒に笑い、一緒に泣いていたんだ。
こらえきれず、私はもう散り始めた。
春風がスーッと吹き抜け、私が勢いよく枝を揺らすと
花吹雪が、降り注ぐ雨のように校庭を包む。
生徒たちが一斉に「わあ!」と歓声を上げて見上げる。
——卒業おめでとう!さあ、行っておいで。
希望に満ちた、君たちの未来へ。
そして、ちょっとつまずいたときは、私の下で悩んだ日のことを思い出してね。
いつまでも、いつまでも、ここから応援しているから。
「本当に、卒業おめでとう!」
最後までお読みくださり、ありがとうございます。




