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短編小説

掲載日:2026/03/16

ようやくこのサイトへの投稿の仕方がわかってきました。このくくりで短編小説をまとめていきたいと思います。今回は「中学校の卒業生を見送る、校庭の桜の木の独り言」を想像してみました。

私は、この中学校の校庭に立つ一本の桜の木。

春になるたび、淡い花を咲かせては、新しい一年生を迎えてきた。


三年前の入学式の日。

まだ制服に着られているような子たちが、ぎこちない足取りで登校してきたことを思い出す。

真新しい色の制服の袖で手の甲まで隠れてしまう子、肩からずり落ちそうな大きなカバンを背負っている子。

その姿があまりに初々しくて、私はそっと枝を揺らした。

「ようこそ。ここから始まるよ」と。


あれから三年。

彼らは驚くほど変わった。


いつも列の一番前で、身長が低いことを気にしていたあの子も、

気づけば真ん中より後ろに並ぶようになった。

大きすぎた制服は、今では肩幅にぴったりと合い、

あの重たそうだったカバンは、逆に小さく見えるほどだ。


男子は声が低くなり、がっしりとした体つきになって、

ふとした瞬間に大人の影を見せるようになった。

女子は柔らかく、しなやかに、

表情も仕草もどこか大人びて、春の光のように美しくなった。


悩んだ日もあったね。

友だちとぶつかって泣いた日も、

部活でうまくいかずに私の根元に座り込んだあの日、

未来が見えなくて空ばかり見上げてため息をついた日も。


私はただ、風に揺れながら見守ることしかできなかったけれど、

全部おぼえているよ。

全部無駄じゃない。

その時間が、今日の君たちを形づくっているんだ。


そして今日。

卒業式の朝、私は夜明け前から空を見ていた。

今年は暖かく花が早く開いてしまったが、

どうしても、この日まで満開でいたかった。

式が終わり、在校生に見送られ卒た業生が校庭に出てくる。

三年前よりずっと大きく、ずっと頼もしい姿で。

泣きながら笑い、笑いながら泣いている子もいる。

その姿を見た瞬間、私はもう抑えきれなかった。


——ひらり。

私の感動の涙が花びらとなって空へ舞い上がり、

光の中をくるくると回りながら落ちていく。

「よく頑張ったね」、

「もう大丈夫だよ」と、

音にならない声を贈った。


「あっ、散り始めた」

「桜、とってもきれいだね」

「なんか、見送ってくれてるみたい」


そうだよ。

私はずっと、君たちを見ていた。

一緒に笑い、一緒に泣いていたんだ。


こらえきれず、私はもう散り始めた。

春風がスーッと吹き抜け、私が勢いよく枝を揺らすと

花吹雪が、降り注ぐ雨のように校庭を包む。

生徒たちが一斉に「わあ!」と歓声を上げて見上げる。


——卒業おめでとう!さあ、行っておいで。

希望に満ちた、君たちの未来へ。

そして、ちょっとつまずいたときは、私の下で悩んだ日のことを思い出してね。

いつまでも、いつまでも、ここから応援しているから。

「本当に、卒業おめでとう!」

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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