第一話 勇者の兄
僕は大好きだった。この世界が、この国が、この町が、家族が、弟が大好きだった。僕はシーザー。アントラという大国の田舎町に住んでいる。僕には四歳下の弟ルイがいる。彼は無邪気で優しくて僕に良く懐いてくれている。弟は優しすぎるが故に小さい頃近所の悪ガキからはよくいじめられていた。その度に僕は彼を守っていた。弟はよく
「やっぱり、お兄ちゃんはヒーローみたいだね。」
そう私に言ってくれていた。
数年前、魔王と名乗る魔族が現れた。魔王は絶対的な力を持ち、いくつかの小国を支配していった。だけど僕が住んでる国には奴の支配は及ばなかった。でも僕は家族が安心して暮らせるように魔王を倒す勇者となる為にずっと体を鍛え続けて、魔族ともそれなりに戦えるようになった。
僕が17歳の時、魔王が支配を広げつつあった。国は勇者を探す為に国中の若い男子を王都に集め、勇者にしか抜けないと言う伝承のある剣を抜けるかどうか試した。
もちろん僕も弟も王都に向かった。僕の前の人もやはり抜く事はできず、僕の番がやってきた。身体中に力を入れる、剣を両手で掴み上に引き抜こうとする。ダメだ、どうやっても抜けない。僕はとうとう手を離した。僕は勇者に選ばれなかった悲しみもあったが、それよりも死地に赴かないでいいと言う事が嬉しかった。僕が弟の番を待っていると、弟はその件を抜いた。片手で軽々と。その瞬間周りは大騒ぎし始めた。「新たな勇者の誕生だ」と
僕は信じられなかった。喧嘩もまともにした事ないあの子が、優しく誰も傷つけられないようなあの子が。僕が選ばれず弟が選ばれた事に嫉妬も怒りもなかったが、ただただ心配だった。まだ13歳の心優しい少年がこれから魔族たちと命のやり取りをするという事が受け入れられなかった。
剣を引き抜いた弟の顔をよくみると申し訳なさそうに僕の方を見ていた。多分あの子は僕がずっと勇者になりたがっていた事を知っているから、自分が引き抜いたことを申し訳なく思っているんだろう。
僕はそんな彼の方に向かって歩き彼を抱きしめる。彼は震えている。僕はそんな彼に泣きながら言う
「ごめんな…兄ちゃんが不甲斐ないばっかりにお前に勇者なんてならせちまって。大丈夫、僕が命に変えてもお前を守るから。」
僕が泣いていたせいだろうか弟も泣き始めてしまった。
僕らが泣き止んだ頃、国の偉い人がやってきて弟は正式に勇者となった。
僕らは一旦家に帰って数日後魔王を倒すための旅に出る事にした。帰る前に弟は国から貰ったお金で冒険の為の装備や武器を買いに行った。弟は僕の分も買ってくれると言ったが僕はそれを断り自分のお金で買う事にした。しょうもないものかもしれないけど兄の意地だ。
家に帰ってそのことを報告すると母さんも父さんも泣いていた。それは嬉しくて泣いてるのか悲しくて泣いてるのか僕にはわからなかった。だけど、それから毎日母さんは豪華な食事を作ってくれたし父さんも仕事を休んで僕たちと一緒にいてくれた。
旅立ちの日家族はもちろん町の皆んな見送りに来てくれた
「皆んなー行ってきまーす」
弟は町に向かって大きく手を振る。
「行ってきます」
僕はそれだけ言って軽くお辞儀をする。
勇者である弟の旅が始まった。




