封印
埼玉県地下……地下放水路 通称地下神殿
のさらに地下そこに封理派の魔法使いの現在の活動拠点が存在していた。
広大な地下空間、幾重にも折り畳まれた魔法陣が、空間ごと歪ませて重なっている。
触れずともわかる、封じるための理の重さ。
そこを目指し幻理と共に歩みを進める。
辺りに漂う残存魔力。だがそれに“色”はなく、まるで自らを否定するように溶けていく。
「相変わらずしみったれた場所だよ。」
「しかし必要な場所です。」
軽く会話をしながら、人の気配の集まる方へ進む。
封理派の魔法使い達が、まるで境界を護るようにこちらを見ていた。
だが――相変わらず、“存在”が曖昧だ。
皆、どこかが欠けていた。
肉体の一部がノイズのように崩れ、空間そのものに混じっている。
現実から少しはみ出した存在たち。
その中心、不定形の粘液のような存在が声を発した。
発声というより、魔力が空間を震わせて“音”を形づくっている。
『久しぶりだね、幻影の理。』
「あぁ、私としては会いたくはなかったんですがねぇ、封理殿?」
幻理の声は乾いている。
相手を“存在”としてではなく、“現象”として扱うような響きだった。
『そちらは初めましてかな?』
『ようこそ――”理の裏側”へ。』
手らしきものを広げると、スライム状の肉体が微かに波打った。
「初めまして、封理様。
この度は、謁見の機会を設けていただき有り難うございます。」
「こいつに堅苦しい挨拶はしなくていいのさ。
ただの実験で失敗した頭のおかしい奴なんだからね。」
幻理は心底つまらなさそうに言う。
『失敗したとは心外な。これでも理への理解は人一倍あると自負しているんだがね。』
その声音に揺らぎはなかった。
自らの形を失っても、理への執着だけは残っている。
『それで?今回はどのような要件だい?』
「封印の綻びについてだ。
それと最近の魔物の異常発生についてだな。」
真理を見透かすように幻理は見据える。
『封印は確かに綻んでいる。』
視界の端で封印結界の一部が”存在を忘れる”。
微かな揺らぎ――封印があくびをしたような揺らめき。
微かに周りの封理派がざわめき始める。
『しかしこの程度なら許容範囲。
解体には何の影響もない。』
「それは封理派にとっては、影響がないの間違いだろう?」
封理派の誰も、答えなかった。
結界の揺らぎだけが、わずかに強まる。
幻理は静かに、結界を見つめる
地下神殿のさらに下、封印結界。
約四十年前、厄災級を封じた跡地。
今では、理を還す者たち――封理派の拠点となっている。




