日常
魔法災害対策庁――通称【魔災庁】――の魔法少女詰め所。
午後の休憩室に、古いスピーカーのくぐもった音が流れている。
『今日の平均魔力量です。関東では0.5を観測、微害級か害獣級の出現が予想されています。市民の皆様は、見つけ次第魔災庁に通報を……』
いつもの、変わり映えしないアナウンス。
魔法少女が殉職したという報せは、今日も流れてこない。
強魔級との戦闘から1か月ほど、特に代わり映えのしない日常を送っていた。
いや、少し変わったことがある。
私の等級が銅級から鉄級へと昇格された。
あまりうれしくはない。
強くなったわけでも、新しい魔法を覚えたわけでもない。
ただ、魔法使いを目撃した。
それの口止めのためだけに昇格されたのだ。
納得できるはずもない。
けれど、上からの決定には誰も逆らえない。
知らなければ、何も変わらなかったのかもしれない。知らない方がよかったのかもしれない――そんな考えが、まだ胸の奥に残っている。
歴代でも、この昇格速度はかなり速いらしく、少し注目を浴びてしまった。
今日は新しく魔法少女に成った子とのパトロールが後に控えている。
あまり気が進まない。
周りから見れば私は期待の新人だろう。
だが、私自身は何もできなかった。ただ、そこにいただけだ。
もうすぐ新人の子と打ち合わせをしなければならない。
待機場所へと足を延ばす。
廊下を歩いているとき、職員の方と少し立ち話をした。
少し古い制服を着こなし、職員バッジの刻印はかすれている。
曰く、魔法を使う時にはあまり力を入れ過ぎない方が良い――と。
なぜ、ただの職員がそんなことを伝えたのかは分からない。
だが少し腑に落ちた。
あの時見た魔法使いは、力任せではなく、流れるような魔法式を使っていた。
もう少し話を聞こうと振り返ったときにはその職員はもういなかった。
微かに魔力の匂いを感じた。
パトロールを始め町の中を二人で進む。
インカムから流れる情報には魔物の出現はなく、せいぜい人助け程度の内容だった。
緊張している新人を連れて、畑を荒らす獣を追い払ったり、おばあさんの荷物を運ぶのを手伝ったりといつもの日常だった。
特に滞りなくパトロールを終え、一人で今日の報告に向かう。
詰め所の会議室――隊長格の魔法少女たちのたまり場――で澄玲先輩に報告を入れる。
「おつかれ~。今日は特に異常もなかったみたいだね。」
先輩はにこやかに言うが、普段なら数人いる会議室にはほとんど人がいない。
「何か……あったんですか?」
そう尋ねても先輩は苦笑いを浮かべたままだった。
「あまり気にしなくても大丈夫だよ。」
何かが起きていることは理解できる。
だが、それ以上は分からない。
たぶん、先輩に聞いたところで答えてはくれないだろう。
「これから忙しくなると思うから、ゆっくりと休むんだよ~」
どこか確信めいた言葉に促され、退室する。
扉が閉まる寸前、通信機の起動音がかすかに聞こえた。
澄玲先輩の声が低く、聞いたことのない調子で指示を飛ばしていた。
一体、何が起きているのだろうか。
魔法災害対策庁――通称【魔災庁】
魔法少女達が所属する政府機関
日常的に魔物や魔法災害の監視・対処を行い、市民の安全を守る役割を担う。




