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原石の軌跡――新しき力と古の知恵  作者: 永火
第1章 始まりの終わり
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魔法使いの宴

季節が変わり、暑さがまだ肌に残る頃。

自身の所有する山の山頂を目指し、飛行術式で空を渡る。

風に混じって、微かに他者の残留魔力が視えた。


すでに集まっているのだろう。いつものことだ。


同志とはいえ、勝手に私有地に踏み込むのはいかがなものかと一瞬思案する。

だが、自分も似たような真似をしていることを思い出し、苦笑がこぼれた。


山頂にはすでに演奏式隠蔽術式が張られている。

音と光を包み、俗世から切り離す“静寂”の結界だ。


少し離れた岩場に降り立ち、術式の結界を抜ける。


火の爆ぜる音、弦楽器の調べ、そして鼻を刺す強い()()の香り――

すでに酒盛りは始まっていた。


木々の間を抜けると、炭火で肉を焼き、杯を交わす集団が見える。

ある者は腰の曲がった老人、ある者は十代前半の幼子、ある者は役人のようにきっちりとスーツを着こなしている。

年齢も姿もまるで統一感がない。だが、等しく酒を飲み、笑い合っている。


炭火の隣では、木製のジョッキが冷気を放ち、

傍らの酒瓶から自動的に酒が注がれていた。

弦楽器の音は魔力を帯び、淡い光の音符となって隠蔽魔法の幕へと吸い込まれていく。


語られる話題は、どれも酔いの席に似つかわしくない。

新たな理の解釈、魔法少女の手助けの顛末、厄災級封印の綻び。

深遠と愚談が交じり合う、奇妙に賑やかな夜会だ。


集まったのは二十名ほど。

今回は、なかなかの顔ぶれが揃っている。


慣れない演奏式魔法――拡声のための応用術式――を使い、声を響かせる。


「皆様、お集まりいただき感謝いたします。」


相も変わらず酒を煽り、笑い続ける面々。


「本日の議題は、魔物発生の異常および厄災級封印の綻びについてです。」


数名がちらりとこちらを見たが、酒盛りは止まらない。

静寂の代わりに、杯の音と笑い声が返ってきた。


いい加減、話を聞いてほしい。

そう思い、汎用攻撃術式を展開――即座に天へ放つ。


轟音。閃光。

山頂を包む静寂。


「皆様、お集まりいただき感謝いたします。」

やっと、本題を話せるようになった。


見慣れた幻影の魔法使い――二つ名【幻理】――が、いつの間にか隣に立っていた。

その微笑には、幻と理の境界を見透かすような静かな光があった。


「じゃぁ、酔っ払いども耳をかっぽじってよく聞きな!」

「うちの時雨が調べた感じだとここ最近の強魔級の出現頻度が異常らしいよ。」

酒を煽りながら世間話のように話す。


……貴女の所有物になった覚えはないが、一先ず話をさせておこう。


「他の連中も感じているだろう?」

「ここ最近の異常な魔物の発現頻度。」

何人かは心当たりがあるかのように頷く。


「厄災級の封印が綻んでいると聞きます。

後日、幻理殿と共に封理派を訪ねるつもりです。」


ざわめきが広がった。


人だかりの後ろで、ノイズを纏う半透明の腕がゆっくりと挙がる。


――封理派だ。


今まで誰も気づかなかった。だが、確かに“そこに在る”。


「失礼、封理派のものでございますが、少しよろしいですかな?」

腕から顔の一部にかけてノイズが走る。

彼――いや、彼女だろうか。

その輪郭はすでに存在としての確かさを失いつつあった。


「厄災級の封印が綻んでいるのは事実です。

 ですが、それと同時に“解体処理”も三割を超えております。」


声は揺らぎながらも、確固とした意志を帯びていた。


「――あくまで私個人の考察ではありますが、

 この異常事態と封印の綻び、両者の関係性は……薄いかと。」


淡いノイズが弾け、声だけが宙に残った。

演奏式魔法術式

音を媒介に魔法を成立させる術式。

楽器を通すことで魔力の流れを制御しやすく、特に弦楽器を好む使い手が多い。

ただし、正確な旋律さえ保てれば、口ずさむだけでも発動は可能。


厄災級

脅威度でいえば上から二番目、S級。

その存在は理そのものを歪ませる。

過去に数回のみ出現しており、すべて「討伐」ではなく「封印」という形で処理されている。


封理派

魔法使いの中でも異端とされる派閥。

世界各地に散在する“厄災級封印”の維持と監理を担う。

彼らの目的は、封印を守ることではなく――

“理へ還すこと”そのものにある。

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