決着は静かに
血の流れていない片腕をだらりと下げたまま、4本に減った剣が
凝子さんの周りをゆっくりと周回する。
「うぅむ、殺意が足りないですねぇ。なんというか、殺せる攻撃を無意識に
逸らしてませんか?あぁ、別に良い悪いって言いたいんじゃないんですけど。」
悩むように手を顎につけて凝子さんが唸る。
「私としては……詩織ちゃんが殺しを覚える必要性は無いと思うんですがね?
ただ――殺さない選択は茨の道であるとも覚えておいてほしいですが。」
「まぁ、師匠と時雨がこの訓練が必要と判断したのなら。
殺しに慣れてもらうしかないですねぇ。
あぁ、少し長話をしてしまいすいませんね。
――では、再開しましょうか。」
剣がぴたりと静止し、こちらに切っ先が向く。
「一つ良いですか。
……凝子さんは、人殺しを悪だと言いますか?」
少し悩むような素振りを見せ、凝子さんが口を開く。
「殺し自体に善悪は無いでしょう。ただ、それを今の世間は悪と言うでしょうね。
私にとっては、どうでも良いことです。」
凝子さんの手が振るわれ、二振りの剣が重力に引かれるように射出される。
迫る剣を躱すことなく、障壁を斜めに配置し逸らす。
「私は、意味のない殺しは、悪だと考えます。この考えは多分、
”死んでも”変わらないでしょう。
――でも、救うために。大多数を守るために、殺します。
全てを救うことが私にできるとも思いませんから。」
「良いでしょう。ならばそれを通せるだけの意志を見せなさい。」
剣を追従させ、こちらへと吶喊してくる。
迎え撃つように”花”を形成、魔法弾をばら撒く。
当てることは意識しない、ただ”道”が分かればいい。
直撃する道筋へと魔法弾を導く。弾幕に紛れさせ少しでも気が付かれないように。
予想通りの道筋を概ね予定通りに突き進んでくる。
初撃は予想よりも後方へと流れる。続く追撃は掠る程度にしかならなかった。
接触まで残り数メートル、ここでようやく当たる。
目の前で凝子さんの片腕と腹が抉れる。
腸がこぼれるように出てくる。
死なないことは理解している。それでも、自らの意志で致命傷を負わせた。
その事実が、手を震わせる。
向けた杖が地面へと向かう。
「良いです。凄く良い。ちゃんと”致命傷”ですねぇ。
ですが、私はまだ立っていますよ?
――さぁ、とどめを。」
口から流れる言葉には、血が混じり。
しかし、淀みなくこちらを見つめる。
「……では、またあとで会いましょう。」
震えを押し殺し、魔法陣を丁寧に組む。
せめて、最後だけは苦しまないように。
「それでいい。その迷いこそ、人を人だと証明できるのだから。」
そう言い残し抵抗せず、ただこちらを見据える。
呼吸音も鼓動すら聞こえぬ静寂の中、魔法弾が凝子さんの頭部を包み込む。




