花の魔法使い
春日部跡地、3週間後。
――魔災庁との戦いの場所と準備期間。
あの後、戦場の摺り合わせは拍子抜けするほどあっさり決まった。
問題は、その先だった。
私の”殺し”への忌避感。
それを削ぎ落す特訓が始まった。
相手は、凝子さん。
時雨さんや幻理さんほど、殺しに慣れておらず、
どこか、油断がある――それだけの理由。
場所は、時雨さんと模擬戦をしたことのある幻術の空間。
あの時の市街地とは違う。
遮蔽物も建物すらない、ただ広い空間。
距離、約百メートル。
「さぁ!詩織。」
両の手を広げる凝子さん。
空間が歪むように軋む。
「死ねない殺し合いを始めましょう!」
魔力が解き放たれる。
視界が歪む。
世界が重くなる。
圧力。
今まで視てきた魔法使いとも、魔法少女とも違う。
暗い星の様な魔力量。
肺が、鼓動が拒絶されるように鈍くなる。
――それでも。
「行きます!」
私を守るように魔力に包まれる。
花弁の障壁を散らし、攻撃術式を展開、即座に放つ。
当然霧散する。相手の魔力が、支配領域が広すぎる。
視界に視えるほぼすべてが魔力で埋まっている。
自分の支配領域が狭い、息苦しくなる。
「視るのは達者ですねぇ。
――では、こういうのはどうでしょう?」
凝子さんが、指揮者のように手を横へと払う。
衝撃は無く。しかし後ろへと視界が流れる。
地面は足もとにあるはずなのに、胃が前に引かれる。
障壁が反応していない。
攻撃ではない?
――いや、魔法的な攻撃じゃない。
前へと”落ちている”。
「重力制御⁉」
凝子さんが眼前へと迫る直前、手が振り下ろされる。
「ご名答!――ただし、残念賞。
もう、終いです。」
真横で声が聞こえる。
眼前に地面が迫る。落下方向が変わる。
刹那の判断。障壁を地面との間に挟み込む。
数メートルの滑走の末、停止する。
飛行術式を展開、“敵”へと肉薄する。
「あらら、初見殺しだったんですけどねぇ……
――センスも良い!」
攻撃術式を至近距離で展開――
「至近距離では!こっちの方が早いですよ。」
拳がお腹へと刺さる。
口から空気が零れる。だけど、まだ立てる。戦える。
「凝子さん。……手加減は駄目ですよ。
まだ、私は立っていますよ?」
ある意味での私の切り札。しかし、ただの道具でしかない。
≪杖を 我が手に≫
何処からともなく杖が飛来する。
古木の長杖。少し前に作り上げた”私の杖”。
「師に似ますねぇ。今時杖なんて。
街中じゃ目立ちますよ?」
「えぇ、でも守れない後悔よりはいいですから。」
杖を一振りし、花弁を、障壁を散らす。
無手の時とは違い、少し細工されたものを。
「ちょっと変わりましたかね?どうせここじゃ死ねないんですから、
たくさん試行していきましょう!」
五十を超える魔法陣が展開される。
どれも、当たれば致命傷に至るだろう。
≪集合 迎撃 花となれ≫
障壁に刻まれた細工――魔法陣の欠片。
詠唱に合わせ、花弁が集まり、花を創りだす。
詩織式改良型魔法障壁
元はただ花を模しただけの障壁だったが、分離させ周囲へ漂わせることができるようになっていた。
さらに改良を重ね、魔法陣の一部を刻み込み、魔法術式を組み替えれる魔法陣へとなった。




